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試し読み
「──それで、足りるのか?」
上にいるイライアスが、こつんと額を触れ合わせて問いかけてくる。彼の前髪が肌を撫でて、ぞくりとする。
「た……足りま……す……?」
額を触れ合わせ、すぐ側から見つめられるだけではなく、片方の手で頬に触れながら問われたら、返す口調もなんだかあやふやになってしまった。
「足りるか? 本当に?」
「足ります……たぶん」
「──嘘をつくな」
くっついていた額が離れるのを寂しいと思う間もなかった。今度は鼻先が擦り合わされて、頬を撫でていた手がすっと首筋をなぞる。
「ぁんっ」
思ってもみなかった声を上げてしまって、メイヴィスはたちまち真っ赤になった。イライアスの方はと言えば、喉の奥で笑いながらなおも鼻先をこすりつけてくる。
子供同士のじゃれ合いみたいだ。もちろん、二人の間にある障害を忘れ去るわけにはいかないけれど、今この場にいるのは二人だけ。
こうしているのを誰にもとめられる筋合いはないのだから、今だけは、自分の気持ちに素直になってもいいのかもしれない。
「イライアス様……キス、しましょう!」
メイヴィスの方から、そうねだったのは初めてだった。イライアスとの口づけは、いつも彼から与えられるもの。
最初のあれは「事故」だったし、それからあとはイライアスがメイヴィスへの想いを伝えるために唇を触れ合わせるものだった。
だから、今度はメイヴィスからも伝えたいと思ったのだ。ひょっとしたら、イライアスの側にいられなくなる時が来るかもしれない。
そうは思っても、キスをねだるなんて恥ずかしくて、自分から口にしたくせに真っ赤になってしまう。
「メイヴィスの方から望んでくれるのは嬉しいが、あまりにも……色気がない」
「……もういいです」
色気がないのは知っている。そもそも、王宮に入ってからは淑女の振る舞いよりも、王妃に恩を返すことばかり考えていた。
イライアスにそう思われてしまったのは少しばかり癪だけれど、色気がないのは事実だからしかたない。
「──色気がないのはお嫌いですか?」
真顔でそう問うと、イライアスは目を丸くして、一瞬言葉に詰まったようだった。そして、メイヴィスはその隙を逃さなかった。
イライアスの頬を両手で包み込んだメイヴィスはえいと頭を持ち上げた。
自分から口づけるのは二度目だったけれど、唇を触れ合わせることには成功した。懸命に舌を差し出して、イライアスの唇の合わせ目をなぞる。
小さくイライアスが呻くのが聞こえて、お腹の奥の方がじんと熱くなった。思いきって舌を差し出してみたら、するりと彼の口内に吸い込まれる。
「ふぅっ……ん、んんんんっ」
先にキスをしかけたのはメイヴィスのはずだった。いつもは口内をかき回される側なのに、今日はかき回す側に立っている。
いつもと違って、優位な位置にいると思っていたのにそれは勘違いだったみたいだ。イライアスの両頬を押さえていた手からは、すぐに力が抜けてしまう。
差し出した舌で、歯列をなぞり、さらに奥の方へと探りを入れる。イライアスの舌と触れ合ったとたん、ぴりっとした刺激が走り抜けた。
「んんぅ、ん、ぁんっ」
イライアスは、招き入れたメイヴィスの舌を逃したりなんてしなかった。おずおずと口内を探るメイヴィスをからかうみたいに、舌をひっこめてみたり、押しつけてみたり。
ぬるぬると舌が触れ合う度に、腰のあたりに甘い愉悦が揺蕩い始める。
「んんーっ、だ、め……」
イライアスのシャツを掴んだ時には、掴むのがやっとのことだった。とろりとした目で見上げれば、イライアスの方は余裕を取り戻しているのがなんだか悔しい。
「──メイヴィスの方から、そうやって触れてくれたのなら、俺もお返しをしないといけないな」
にやりと笑った彼はとても色っぽくて。その笑みを見た瞬間、彼に火をつけてしまったということを悟った。
「け、けっこうですぅ……」
キス、したかっただけ。それ以上のことなんて、頭になかった。
けれど、一度火がついたイライアスを止めることはできなかったらしい。
「あっ……だめ、そこ、触っちゃ……!」
身体を撫でる手が、愛おし気なのはわかる。だが、片方の手で胸の膨らみを包み込んで揺さぶられ、もう片方の手で脇腹を撫でられたら、頭上へずり上がって逃げようとしてしまう。
触れられている場所から、どんどん快感がなだれ込んでくる。まだ、彼とそういう仲になってから、さほど長い時が過ぎたというわけでもないのに。
服の上から胸の頂を探り当てられ、布越しにその場を刺激される。びくびくと反応するのは、イライアスの手があまりにも的確に動くから。
「ぁ……ん、あぁっ……駄目って、言った……」
ゆるゆると首を振れば、首筋を撫でる自分の髪の感触にさえ吐息をこぼしてしまう。拒む声は甘ったるくて、本気で嫌がっているわけではないのを如実に表しているから嫌になる。
「駄目ってことはないだろう。すごく気持ちよさそうな顔をしているのに」
「んんーっ!」
そんなことを言わないでほしい。気持ちよさそうにしているなんて正面から突き付けられたら、どう返したらいいのかわからなくなる。
首を振っている間に、背中のボタンが勢いよく外され、着ていたドレスが下着ごと腰のあたりまで引き下ろされる。
「ここも、こんなに硬くしているくせに」
「そういうことを言ってはだめです……!」
自分だって、はしたない反応を示していることくらいわかっている。だが、言葉にされると羞恥心が何倍にも大きくなるのだ。
「んぅ……ん、ぁっ」
むき出しになった乳房に手で触れられたら、喉をそらして喘いでしまう。声を響かせたくて、手の甲を口にあてがうも無駄な抵抗。
敏感な場所を指の間に挟み込まれ、全体を揉み立てながら刺激されたら、すぐに甘い声が部屋に響く。
「……は、あぁ……触っちゃ、だめ……」
懸命に訴えかけるが、指の動きに合わせるようにして身体をくねらせているのだから説得力皆無だ。
乳房が揺らされ、先端が捻られる度に、とろりとした快感が身体を支配していく。つま先をきゅっと丸めてやり過ごそうとするけれど、やり過ごすことはできなかった。
「ほら、腰を上げろ」
ひとしきり胸の柔らかさを堪能したイライアスは、スカートの中に手を差し入れてくる。命じられるままに腰を上げたら、足先から下着が抜かれていく。
シルクのストッキング越しに腿を撫でられ、あらぬ場所がひくりとする。膝を擦り合わせようとするけれど、イライアスの方が速かった。
「あぁっ、あっ……んぁぁ、や、あっ!」
脚の間に顔が沈み込んだかと思ったら、一番敏感な芽に舌先で触れられる。小さな円を描くように舌が動いたかと思ったら、今度は上から押し込まれた。
ぴんと足先を伸ばしたメイヴィスの背中が折れそうなほど弓なりにしなる。
衣服の大半を身に着けているのに、こんなことをしているなんて、素肌を合わせた時より何倍も卑猥に感じられた。
「いっ……ん、あっ」
指を差し入れられれば、なんなく二本のみ込んでしまう。中のいいところを指先で擦り上げられ、同時に敏感な芽を舌先で弾かれれば、簡単にイライアスに翻弄された。
わずかに腰が浮き上がり、より深いところまで指を受け入れようとする。
「イ、イライアス様……も、う……」
切れ切れに訴えかけたら、イライアスは顔を上げてメイヴィスを見つめた。
「どうしてほしい?」
にやりと口角を上げて問いかける顔が、余裕たっぷりで悔しい。メイヴィスがすっかり感じ入ってしまっているのを知っていて、そんな表情をするからなおさらだ。
「──イライアス様が、欲しいの」
わかっていても、今は、ためらいなんてなかった。素直に自分の欲求を口にする。
彼に大切に想われていると改めて知ったからこそ、メイヴィスの方も嘘をついてはいけないと思う。
「そう言われると、俺も自制心が飛びそうだ」
と、片手で前髪をかきあげたイライアスは、困ったように笑った。
「自制心なんて、飛ばしてくださってもいいんですよ?」
「──そんな風に言われるとますます困る」
彼が身体を移動させると、ぎしりとベッドがきしむ。メイヴィスは息をつめてイライアスを見ていた。
片手で衣服を寛げたイライアスは、メイヴィスの脚の間に手を忍ばせてくる。するりとその場所を撫でられて、小さな声が上がった。
指でかすめられただけで、蜜壁はとろりと新たな蜜をこぼす。撫でられた蜜口は、その先の刺激を求めてわなないた。
「──俺がついているから」
そう口にしたイライアスの表情は真摯そのもので。メイヴィスは黙ってうなずいて、イライアスの首に両手を巻き付ける。
「信じています、あなたを」
それは、今、伝えることのできる精一杯の想い。瞳をそらすことなく、イライアスに向き合う。
「メイヴィスは、何度言っても学習しないんだな」
「何がですか?」
首をかしげて問いかけるも、すぐにその言葉の意味を思い知らされた。
「あ──あ、あぁぁあっ!」
一息に打ち込まれた熱杭の充溢感に、頭の先まで痺れが走る。自制心なんて、あっさりと捨て去ったイライアスは、最初から容赦なく揺さぶってきた。
奥に打ち込まれれば手足がぴんと伸び、引き抜かれば、物足りなくて縋りつく。二人とも衣服の大半を身に着けたままだから、肌に触れる衣服の感覚がなおさら快感を煽る。
「あぁ、はぁぁんっ」
両手と両脚をイライアスに絡みつけて、望みのままに声を上げる。揺さぶられる度に、耐え切れないと思うほどの愉悦が身体を支配しようとする。
「もっと、側に──」
「これ以上は難しいぞ」
「いやっ、もっと……もっと、あぁっ」
より強い快感をねだるなんてはしたない。けれど、慎みも恥じらいもイライアスの前では簡単に消え失せる。
自分のものだと言わんばかりに強く乳房に口づけられ、赤い跡が残される。そのぴりりとした感覚もまた快感を強めることにしかならなくて──。
「そろそろ、俺も──」
そうイライアスが宣言した時には、半分意識が飛びかけている。
それでも、彼が注ぎ込む熱い飛沫を受け入れたことだけは意識の底で理解した。 -
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