書籍紹介
この結婚、終わらせましょう!~ベタ甘な旦那様の密かな蜜月願望?~
この結婚、終わらせましょう!~ベタ甘な旦那様の密かな蜜月願望?~
ISBN:978-4-596-59130-2
ページ:290
発売日:2020年5月1日
定価:本体640円+税
  • あらすじ

    結婚7年目、いよいよ処女卒業!?

    「やっと奥さんを抱ける。全部見せてくれ」大好きな大晟さんと16歳で結婚して、一度も夫婦の営みがないまま7年……。もしかしてわたし、妻として見られてない!? 離婚をお願いした途端、ベッドでトロトロになるまで責められて、オトナの愛され方を教えられちゃうなんて。だけど彼が今までシなかったのは、好きな人がいるからだったはずで!?(ヴァニラ文庫ミエル)

  • キャラクター紹介
    • heroine_VBL230

      花菱架純(はなびし かすみ)
      16歳で大晟と結婚。社会人1年目の結婚記念日に離婚を切り出すつもりで……。

    • hero_VBL230

      花菱大晟(はなびし たいせい)
      花菱商事の御曹司。架純を大切にするあまり、一度も手を出さなかったが!?

  • 試し読み

    「無理です……一緒になんていられない。……だから、もう……、り、……離婚してくださいっ」
    (言えたぁぁー!!)
    言えて安堵したはずなのに、言葉にした瞬間胸に石を詰めこまれたような胸苦しさが生まれる。
    血の気が引いて頭がスッと冷え、思考がクリアになった。
    乱暴にカップを置く音、続いて大晟が勢いよく立ち上がったのを見て、頭どころか全身から血の気が引く。
    (怒ってる!?)
    眉間を絞った険しい表情の彼が、テーブルを回り一気に近づいてくる。もしかしたら叩かれるのではないかとの予感に全身が固まった。
    「架純!」
    「ははははいぃっ!」
    反射的にまぶたを閉じて肩をすくめる。……と。
    ぴと……っと、大きな手が架純のひたいを押さえた。
    「……熱は……ないな」
    真剣なトーンを耳にして一気に力が抜ける。すくめた肩がカクンと落ち、また上がる。考えこむ大晟と視線がぶつかり、大げさなほど身体が震えた。
    「具合が悪いのか?」
    「わ、悪くないです……」
    「悲しいドラマとか映画とか観て、メンタルやられたのか?」
    「そこまで豆腐メンタルじゃありませんっ」
    「……月のモノの前で情緒不安定時期なのか?」
    「終わったばかりですっ」
    「そうか、架純が大事にとってあった、元気タマゴの激ウマぷりん、いらないのかと思って俺が食べたから、まだ怒ってるのか」
    「もう怒ってませんっ。そこまで子どもじゃないですっ」
    「それなら、レベル爆上げの冗談だな」
    「本気です! わたし、就職もしましたし! お願いですから、離婚してくださいっ!」
    ノリというか弾みというか、会話の流れにつられて、さらに勢いよく本日の最大重要ミッションを叫んでしまう。
    さすがに冗談ではないと気づいたのか、大晟は口をつぐみ、今までとは違う冷静さで厳しい表情を作った。
    「なにが、架純にそんな決意をさせている」
    「だって、あの……大晟さんは……わたしのこと、好きじゃありませんよね?」
    「は?」
    眉がつり上がり、絞られる眉間。怖いほど不快を表した彼に萎縮しかかるものの、ここは話を進めるためにもひるんではいけないところだ。
    架純はごくりと乾いた空気を呑みこみ、言葉を出そうと口を開ける。
    ……しかし。
    (大晟さんには好きな人が他にいますよね、なんて言ったら、……大晟さんが浮気したから悪いって責めてるみたい……)
    彼に好きな人がいるのは悲しいけど、責める気などないのだ。架純はただ、大晟に本当の幸せを摑んでほしいだけ。
    「なぜそんなことを言う? 俺は架純を、そんなにないがしろにしているのか?」
    「そんなことありません!」
    あるはずがない。
    ないがしろどころか、大切に、大切にしてくれた。
    申し訳ないくらい守り続けてくれた。心も、身体も……。
    (館川さんのこと持ち出さずにどう言えば納得してくれるんだろう……。そうだ……)
    ハッと思いたち、架純は大晟を見据える。
    最適な理由があるではないか。夫婦として、これ以上はない理由だ。
    「結婚して……七年です……! でも、大晟さんは、わたしを……、だ、抱いてくれたことがないですよね!」
    大晟が不思議そうに目を見開いた気がする。言いかたが悪かっただろうかと焦り、架純はじっくり言葉を選ぶ間もなく口にしてしまった。
    「夫婦生活……夜の……、それ、したことがないですよね。七年たっても処女妻って、放っておかれすぎでしょうっ。大晟さんは、わたしが子どもでそういう対象ではないから、したくないんですよね。それなのに夫婦でいるって、おかしいと思います!」
    すごく恥ずかしいことを言ってしまった。
    自分のセリフを思い返すのも恥ずかしい。頰がカアッと熱くなるのを感じるが、架純は必死に大晟を見据えた。
    ここで顔をそらしてはいけない。
    真剣であることを伝えるためにも、しっかりと彼を見つめて意志を伝えなくては。
    ジッと大晟を見ていると、それ以上に熱い眼差しが返ってくる。ひるみそうになりながらも耐え忍ぶ。すると、結ばれていた彼の唇がやっと重く開いた。
    「わかった。……のぞむところだ」
    「……は?」
    わかった、のトーンに決意のようなものを感じる。薄れかけていた緊迫感が、彼が口を開いたことで戻ってきた。
    「架純がそこまで言うなら、今すぐシよう。気が済むまで抱いてやる」
    「……は……いぃっ!?」
    とんでもないことを言われた気がする。驚いてワンテンポ遅れているうちに、架純は大晟にひょいっと抱き上げられてしまった。
    「あああっ、あのっ、大晟さん、どこへ……!」
    彼はスタスタと歩きだす。どこへ行くのかと聞くのは不毛だ。話の流れと彼の一言を考えれば、行く先はひとつ。
    ベッドルームしかないだろう。
    お姫様抱っこは初めてではない。されるたびにドキドキするのはいつものことだが、今心臓を跳ね上げさせているこのドキドキは、今までで一番大きいのではないだろうか。
    予想どおりベッドルームへ入り、ふわりとベッドの中央へ下ろされる。確認する間もなかったが、ずいぶんと大きなベッドのようだ。
    スイートルームでダブルベッドは珍しくない。今まで旅行で泊まったホテルだって、ベッドが二台あるときもあればキングサイズの大きなものが一台のときもあった。一台のときは同じベッドで就寝した。
    普段の生活では、寝室に大きなベッドがあるものの、架純は自室にシングルベッドを置いてもらっているので、たいていはそこで寝ている。
    ときどきは大きなベッドにもぐりこみ一緒に就寝するが、抱き寄せられる、軽くキスをする、程度の触れ合いしかなかった。それだけでもとても胸が高鳴ったものだが……。
    ベッドに横たえられた架純の横に手をつき、大晟が見おろしている。彼がなにをしようとしているのかはわかるし、それに対してドキドキもしているのだが、これが、なにに対しての乱脈なのかが複雑だ。
    簡単に考えるなら貞操の危機だ。けれど、その相手は自分の夫。いくら今までなにもなかった関係とはいえ、夫に押し倒されて「いや」と逃げるのもどうだろう。
    離婚を申し出たのだから、拒否してもおかしくはないのかもしれない。
    けれど心の中には、期待、嬉しい、そんな感情が間違いなく生まれている。
    「架純」
    「は、はいっ」
    呼びかけられただけで緊張した身体が飛び跳ねる。それを見て、大晟の表情がいくばくかゆるんだ。
    「おまえが……、そんなにも思いつめているとは……。早く気づいてやれなくて、すまなかった……」
    「ぇ……いえ、そうじゃなくて、離婚を……」
    「離婚を口にするほど、我慢限界だったと思っていいな? 俺が欲しくて仕方がなかったんだ、と……」
    「欲しっ……」
    とてもいやらしい勘違いをされてしまった気がして、ポッと顔が上気した。
    「してほしいことはなんでも言え。どんなすごいことでも、複数プレイ以外なら気が済むまでしてやる」
    (なんですか、それ!)
    誤解は続く。出す言葉も見つからないままアワアワしていると、半開きになった唇をふさがれる。
    優しくついばみ、吸いついて。しゅるっと舌を吸い出し、しゃぶられる。
    その一連の動作は、初めてされることではない。夫婦として身体の繋がりはなくとも、その代わりのようにキスはよくしてくれる人だ。
    大晟がしてくれるキスが好きだ。優しくて、温かくて、ほんわりとした幸せな気持ちになれる。
    ……はずなのに……。
    「ふっ……ンッ、ん……んっ」
    喉から漏れるうめきが、いつもにない激しさを物語る。
    しゃぶられる舌が痺れて口腔内が熱くなってくると、頭にまで熱が回ってきたかのように陶然とした。
    (なに……きもちい……い)
    重なる唇のあわいから漏れる吐息が熱い。舌ごと唇を吸われ、じゅるじゅると音をたてて口腔が絞られる。
    すべての水分は持っていかれたように思うのに、大晟の力がゆるむとまた熱く潤う。口腔内がじくじくとおかしな熱でいっぱいになった。
    ゆっくりと大晟の唇が離れる。二人のあいだを銀糸が伝い、ぽたりと架純の唇の横に落ちると、それを舐め取った大晟が小さく笑った。
    「気持ちよかったか? 架純」
    「……ぁ……」
    「キスでそんな顔をするのは初めてだな。……とんでもなくそそられる」
    「そそらっ……」
    それはどんな顔なのだろう。ちょっと考える限りでは、いやらしい顔なのだろうと思うのだが……。
    さすがにわからないから教えてくれとは言えない。そのままに彼を見つめ続けると、負けないくらい熱い眼差しが浴びせられる。
    架純を見つめたまま、大晟はスーツの上着を脱ぎ捨てる。ウエストコートを脱いだあとに視線をくれたまま首を動かしてネクタイをゆるめ、そのままほどいていった。
    ネクタイをゆるめるときの彼の仕草が好きだ。うっとりと眺めている間に、上半身裸になった彼が架純の背に手を回した。
    着用しているワンピースはうしろファスナーになっている。脱がされると察した身体が反射的に彼の両腕を掴んだ。
    「たっ、たいせいさんっ」
    「ん? 自分で脱ぎたいのか?」
    「いっ、いいえっ、そうでは……」
    「せっかくだから脱がせてやる。さっさと脱がれるより楽しくていい」
    (楽しいって、なんですかぁ!)
    押さえられた腕をものともせず、架純が声なき声をあげているうちにワンピースはすんなりと脱がされてしまっていた。
    照明が点いているわけではないが、カーテンが開けっ放しなので室内は真っ暗ではない。薄闇に浮かび上がる程度に周囲を見ることはできる。
    なんといってもこの至近距離だ。架純に大晟の半裸姿が見えているということは、彼にも架純の下着姿がハッキリと……。
    「やっ……ダメェ……」
    架純は反射的に両腕をクロスさせて胸を隠し、大晟の視線から逃げるように身をよじる。しかしすぐに両手首を掴まれ顔の横で押さえつけられた。
    「隠しちゃ駄目だろう」
    「でも……ぁっ」
    「まったく見たことがないわけじゃなくても、こういう状況で見ると興奮するな」
    「やっ……」

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