書籍紹介
人嫌い殿下の最愛の花嫁~そのお告げは溺愛の予兆でした~
人嫌い殿下の最愛の花嫁~そのお告げは溺愛の予兆でした~
ISBN:978-4-596-58933-0
ページ:290
発売日:2019年10月17日
定価:本体640円+税
  • あらすじ

    人間不信な王太子と没落令嬢のリリカルロマンス♥

    「王太子グウェインが大切な人を亡くすのを阻止しろ」というお告げを受け彼に近付いたエマ。最初は人間不信に陥っていた彼に警戒されていたが、エマの真摯な優しさに徐々に心を開いてくれ、エマもグウェインの誠実さに惹かれていく。「この昂ぶりを鎮められるのはお前以外にいない」何者かに媚薬を盛られたグウェインは抑えていた欲望が暴走して!?

  • キャラクター紹介
    • heroine_VBL212

      エマ
      没落貴族の出身。王都の診療所で働いて家の借金を返している。

       

    • hero_VBL212

      グウェイン
      人嫌いで有名な王太子。真面目で有能。

       

  • 試し読み

    「————何をしている」
    ゾクリとした。久しぶりにこんなに剣を持った彼の声を聞いたからだ。
    エマもカイルも驚いて声のする方を見ると、少し離れたところにグウェインが立っていて、こちらを見ていた。鋭い視線を二人に向けて、険しい顔で。
    今にも憤慨して怒鳴りだしそうな雰囲気に、エマだけではなくカイルも緊張していた。
    ————怒っている。
    それは誰が見ても明らかだった。
    「カイル…………エマがどうかしたのか? 随分とただならぬ様子だが」
    「え? あ! あの…………これは…………」
    グウェインにそう指摘されて、改めて自分たちの今の状況を思い出した。壁際に追いやられたエマの上にカイルが覆いかぶさっている。それは誰がどう見ても誤解を生む体勢だった。
    「仲良くなるのは…………っ! …………いいことだが、場所を、弁えろ」
    冷ややかな視線を送る彼は、途中から苦しそうに服の胸の部分を掴み始めた。息苦しそうに話す様子、徐々に染まっていく肌。明らかに発作が起こっている。
    「に、兄さん…………?」
    カイルがグウェインの異変に驚いている。彼の目の前で取り繕うこともできないほどに、今回の発作は酷いのか。
    呼びかけにも応じずただ苦しそうに喘ぐグウェインの額から汗が流れ落ちる。カイルがそっと側に寄ろうとしていたので、エマがそれを押し退けてグウェインに近寄った。
    「グウェイン様、大丈夫ですか?」
    脇の下から腕を回して崩れ落ちそうな身体を支え、首筋に手を当てる。
    いつもより熱いかもしれない。明らかに普段とは違う症状の重さに緊張を高めながら、エマは一刻も早く部屋に帰ろうとした。
    「カイル様、どうやらグウェイン様の体調が優れないようなので、これで失礼します」
    「ま、待って! 兄さん、大丈夫なのか? 侍医を呼んだ方が…………」
    「いえ、大丈夫です。じきに治まりますから、ご心配なく」
    カイルの目の前で抱き着かれてしまう前に、どうにかここから立ち去らねば。急く気持ちを押さえつけながら礼を取ってその場を辞した。
    「…………カイルに変に思われたな」
    「弁明は後でいくらでもできますよ」
    悔しくも情けないと呟くグウェインに、エマは気休めしか言えなかった。廊下の曲がり角を曲がる際にちらりと見たカイルは、明らかに兄の異常に戸惑い訝しんでいた。
    グウェインの部屋に入った途端に、エマは力強く抱き締められる。ようやく欲しいものが手に入ったと言わんばかりの性急さに翻弄されながらも、エマは必死にそれを受け止めた。
    「エマ…………エマ…………」
    グウェインの声が切なく耳に響く。
    ————そんな声で呼ばないで。
    この心が揺さぶられそうで怖い。こみ上げてきそうな熱い奔流にグッと抗いながら、彼を宥めるために背中を撫でつける。しばらくしたら落ち着いてくるだろう。グウェインも、————そして自分自身も。
    そう踏んでいたのに期待は見事裏切られる。グウェインは、さらにエマを求めた。顔を上げ覗き込んでくるその瞳は、熱に浮かされて理性を失った獣そのものだ。
    「お願いだ……エマ……」
    「…………ぁっ……グ、グウェイン様……」
    「お前に……お前に、キスをしたいんだ……キスを……お願いだ……エマ……っ」
    手でエマの顎を持ち、ゆっくりと近づいてくるグウェインの精悍な顔。言葉では懇願を繰り返しているが、もう少しで唇がくっついてしまいそうだ。
    エマが身じろぎでもすれば触れてしまうその距離。そこで留まっているのは、グウェインの最後の理性なのかもしれない。
    「だ、ダメです! キスは、治療ではないですっ」
    エマはその理性を後押しするように突っぱねた。もうそこまでいってしまったら、最早治療の範疇を超えている。エマはグウェインのためにも、そして自分のためにもそこの境界は必死に守ろうとした。
    「…………何故? 俺は今、エマとキスがしたい…………キスがしたくて堪らない…………抱き締めるだけじゃ…………足りないんだ」
    だが、グウェインは止まらなかった。もう苦しくて仕方がない、この衝動をどうにかしてくれと訴えかけ、もう稚拙な触れ合いだけでは足りないのだと懇願する。
    必死な様子に心を動かされないわけではない。むしろエマの中にもある種の衝動が生まれ、これが治療でなかったのなら奪われてしまいたいとさえ思った。
    もしも、症状が一時的に悪化してしまっていたのなら。ここにクロードがいたら何というだろうかと考えた。『でき得る限りの治療はやってあげなさい』と言うだろうか。冷静になりきれない頭で懸命に考えた。
    だが、心のどこかで思ってしまっている。これは治療ならば仕方がないのだと。
    目の前の縦皺が美しいその唇に触れてみたいという浅ましい欲が、エマを突き動かす。
    「なら…………少し、だけなら…………」
    恥じらいと期待と。そして不安と。
    それらを抱えながら少しだけ、と許可をした瞬間に、エマの唇は奪われた。強く唇を押し当てられて、口を強引に割り開かれる。
    キスと言っても簡単な触れるキスだけかと思っていたエマは、あまりの深い繋がりに驚きグウェインの胸を叩いた。だが、彼はエマの両手を一括りにして?み、抵抗を封じてしまう。
    もうグウェインの溺れそうなくらいに激しいくちづけを、受け入れるしかなかった。
    「……はぁ……ぁンっ……あっ……ンんっ」
    声が漏れる。はしたなくも甘い声が。くちゅ、ぴちゃ、と舌で口の中を?き混ぜられて唾液が混じり合う音まで聞こえてくる。何て淫靡なのだろうと、エマは恥ずかしさで身体中を真っ赤に染め上げた。
    加えて、恥ずかしいのは音だけではない。グウェインの唇が、舌が、何度も何度もエマの口内を蹂躙し、感覚を鋭くする。最初はくすぐったいばかりだった上顎は、彼の舌が丁寧に撫でるたびにブワリと腰に痺れるような甘い疼きを引き起こす。
    歯列や舌の上なども同様で、彼はそれらを触れるたびにエマの感じるところを細やかな動きで探しているようだった。
    頭の中が蕩けてしまいそうなグウェインの責めに恐れ戦いて、エマは一瞬唇が離れた隙に唇を引き結び舌を引っ込めて、これ以上深く侵入できないようにした。
    そんなエマを熱い吐息を吐きながらグウェインが見下ろす。その顔は何故か愉悦に濡れていた。
    「口……開けて、舌を出せ、エマ……」
    グウェインはそうエマに命令してきた。それはあまりにも艶めかしくも有無を言わさぬ強い口調で、エマの背筋はゾクリと震えた。
    けれども、屈しそうになる心を叱咤し、首を横に振る。もう頷いてはいけないと、本能的に悟っていた。
    「嫌です……こんなのもう……治療じゃないですっ」
    こんなに激しくて気持ちいいものが治療であるはずがない。もうできないと突っぱねた。
    いつものグウェインならばここで留まってくれる。『すまない』と照れたように離れて、そして名残惜しそうにしながらも切り替えてくれていた。
    けれども今目の前にいる彼は、そんな素振りを一切見せてはくれない。それがどうしたと強引にまたキスをしてきた。
    「これは治療だ、エマ」
    なかなか口を開かないエマを宥めるように唇がふやけそうなほどに舌で舐めてきて、そして啄むようなキスをする。
    「お前だけしかできない……大切な治療だ」
    「……んンっ……グウェイン……さま……まって……」
    「俺のこの昂ぶりを鎮められるのは……お前以外にいない……」
    「んっ……ぅンっ」
    そう言われてしまうと反論することはできなかった。グウェインのこの状況を知るのはこの城にはエマ一人。事情を知ったうえで発作を抑える手伝いをできるのも、またエマだけだ。
    グウェインが治療だというのであればそうなのかもしれない。それで昂ぶりが治まるのであれば従うしかないかもしれないと、納得させた。
    「……舌を出せ……エマ」
    抵抗を止めたのを感じ取ったのか、グウェインは再度命令してくる。
    診察でもないのに男性に向かって舌を差し出すのには恥じらいはあったが、エマはそれでも唾液に濡れて真っ赤に染まった口を開け、おずおずと小さく舌を出した。
    すると、グウェインはゴクリと息を呑み、瞳の奥でゆらゆらとしていた欲の炎が大きく膨らんで業火となる。耳の後ろに差し入れてエマを捕らえ、またあの激しいくちづけが再開された。
    「エマ……あぁ……エマ……」
    キスの合間合間に甘い声で名前を何度も呼ばれる。その甘さはまるで媚薬のようで、冷静でいなくてはいけないはずのエマの頭をも蕩けさせた。
    「……はぁ……ンぁっ……あぁ……ふっ……ンんっ」
    「……お前は俺のためにこの城にいる……そうだろう……? カイルのためじゃない……俺のためだ。……だから、あんなに近づいてはダメだ……エマ……」
    「か、カイル様……? ンんっ……んー!」
    何故カイルの名前が出てくるのだろう。聞き返そうとしてもその前に口を塞がれてその答えは聞けなかった。
    それどころかグウェインに誘導されて、ソファーまでやってきてしまった。そしてそのまま押し倒されて、彼の欲情した顔を見上げることになる。
    「…………今は他の男の名前を呼ぶな、エマ。…………お前を滅茶苦茶にしたくなる」
    「…………グウェイン、さま?」
    酸欠で朦朧とする中、意味をよく咀嚼せずに繰り返した。すると首元まで襟があるドレスの釦が外され、そっと中に指を差し入れられる。風通しがよくなった首元に触れる熱い指は、つつつ、と鎖骨のラインをなぞった。
    露わになったそこを見つめてぺろりと舌なめずりしたグウェインは、そのまま顔を下ろしてエマの首筋に食らい付く。
    最初に甘?み程度にカプリと食まれ、肉に歯が食い込む感触を確かめていた。
    「……ふぅっ……う、ンっ」
    このまま?み付かれて痛い思いをするかもしれないという恐怖と、歯と歯の間で柔肌を舐る舌がもたらすぞわぞわとした感覚が、エマの身体を震わせた。
    特に耳の付近などは一等その感覚が深い。肌が薄いのかそれとも敏感なのか、ともすれば甘い声が出てきそうで懸命に口を手で覆っていた。
    ある程度堪能したのか、次にグウェインは舌と唇で愛撫し始める。
    また新たな感覚に戸惑っていると、ちゅ、ちゅ、というくちづけの音が聞こえてきた。唇では飽き足らず首や胸にまでキスを降らせてくる。エマは恥ずかしさで泣きそうになった。
    「……っ! ……あっ……まって……吸っちゃ……ダメっ! あ、痕が……」
    そんなことをすれば、そこが後でどんな状態になるかは容易に想像できた。舌足らずになりながら必死に制止するものの、グウェインは衝動に突き動かされるようにひたすらに愛で続けた。
    「印をつけておかないと……お前は俺のものだと、知らしめないといけないだろう?」
    「グウェイ、ンさま……だめぇ……だめで……す……あぁっ……ひぁっ!」
    驚き彼の顔を改めてみると、もうそこには理性はなかった。グウェインの熱は引くどころか過熱しているようで、獲物を狙うような目で見つめられる。油断すれば襲いかかってきそうな雰囲気に気圧され、エマはたじろいだ。
    こめかみから流れる汗。赤い髪は汗でしっとりと濡れていて、?も上気している。肩で息をするほどに荒くなっている呼吸。小さく開かれた口の奥にエマを翻弄した舌がちらりと見えた。
    「…………もっと、もっとだ、エマ。こんなんじゃ足りない……全然足りない……っ」
    溢れる欲は止まることを知らずにエマを求め続ける。抱き締めるだけでは、キスだけでは、痕をつけるだけではもう満足できないほどに狂おしいほどの欲望がグウェインを操っているのだと嫌でも分かってしまう。暴走しているのだと。
    (…………苦しんでいる)
    薬に支配されて治まらない熱に浮かされて理性が利かずにどうしようもない。どうにかしてほしいとグウェインは全身で訴えかけていた。
    もう抱き締めるだけでは治療にはならないのだろう。キスだけではなく、もっとその先まで。およそ治療とは言えないところまでいかなければ、グウェインは止まらない。
    エマは息を浅くさせながら考え続けた。果たしてどこまでが治療なのかと。クロードに教えを請いたいのに、彼は今ここにいない。自身でその判断を下すしかないのだ。
    だが、迷っている間もグウェインはエマを貪り続け、シュミーズを剥ぎ取ってまろび出た胸に直接触れていた。少し強めに揉み込まれ指先が食い込む。
    隠すべきところを目の前に晒すどころか触れられて、いよいよエマは焦った。どうしたらいいのかと神にでもクロードにでも、誰でもいいから答えが欲しいと心の中で手を伸ばした。
    ————ところが。
    「…………エマ…………エマ、好きだ」
    グウェインの呻くような声で、エマに驚きの言葉を落としたのだ。エマはその愛の告白ともとれる言葉に動揺し、頬を赤く染め上げる。
    まさかグウェインが『好き』と言うなんて。
    だが、次の瞬間気付く。これはきっとグウェインの本心ではないのだと。薬の影響で性欲が極限に高まり、目の前にいるエマを好いていると錯覚を起こしているのだ。エマを好きだと思うことで、今強引にことを進めている罪悪感を薄めているのかもしれない。
    ————けれども、どうしようもないほどの喜びが溢れてしまう。戸惑いや使命感を凌駕するほどの幸福感が、この胸を苦しいほどに締め付けた。
    「…………グウェイン様」
    エマは彼の頭に手を伸ばして?を撫でた。すると我に返ったかのような顔をして動きを止め、こちらを見つめてくる。この気持ちをどうしたらいいのかと目で問いかけても、彼はただ切ない目を向けるだけだ。逆にグウェインに手を?まれて熱い吐息をかけられ、大切そうに手のひらにキスを落とされた。
    「…………すまない、エマ」
    そんな顔で言われてしまったら、エマはもう何も言えなかった。ただ、受け入れてあげたいと思う気持ちがブワっと膨れ上がり、首を横に振る。
    これは医療行為だ。グウェインを鎮めるための必要なこと。
    エマはそのために来たのだから、正当な理由でこうしているのだと自分に言い聞かせた。
    「謝らないでください。……だってこれは医療行為……でしょう? 私しか貴方を救えないのでしょう? だから、謝らないで……」
    グウェインを救うにはこれしかない。そう思いながらも、頭の中では本当にそうだろうか? と医療に携わる者の良識がひょいと顔を見せる。
    ————あぁ、いっそのことこのまま強引に奪われたらいいのに。
    その愚かな願いが届いたのか、グウェインはエマの胸に顔を埋めて口で柔肌を啄み始める。チュッ、チュッ、と聞こえてくるその音は、エマを愛おしいと言っているようにも聞こえてきた。
    そんな錯覚だと思いながらも徐々にその雰囲気や感覚に溺れていったエマは、あられもない声を上げ始める。
    「…………あぁ……ふぅっンん……っ……はぁ……あぁ……」
    どこかたどたどしく、探るような手の動き。けれどもグウェインはそんな中でもエマの顔をつぶさに見て、どこをどう触れば快楽を得やすいのかを見つけながら動いているようだった。
    「……ぁ……グウェイン……さま、できれば……はやく……おわらせて……っ」
    別にエマが快楽を得る必要はないのだ。グウェインがしたいようにして、発作が治まるように動いてくれさえすればいい。そうは思うのに彼はフッと笑って言い放つ。
    今まさに己の欲望に従っているのだと。
    「嫌だ。お前が俺の腕の中でよがる姿が見たい。俺だけのエマを見たい。全部俺のものにして…………お前のすべてを奪ってやる。誰にも渡せないように……お前の何もかも」

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