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あらすじ
何度でも好きになる。そういう運命だ。
元彼エリート海上自衛官に、また一目惚れされました!?「きみだったんだな」プロポーズ目前にして航からの連絡が絶えて4年、美桜はひとりで彼との子を育てていた。まさか航が記憶をなくしていて、再会した美桜にまた一目惚れするなんて。彼にどう思われるか怖くて過去の関係も子供のことも言えないまま恋心は再燃していく。恋人だった時よりも甘く情熱的に求められ身体は熱く反応してしまうけどーー!?
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キャラクター紹介
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池端美桜(いけはた みお)
パティシエ。元彼の航に再会。彼は美桜を覚えておらず猛アプローチしてきて!? -
陣野 航(じんの わたる)
海上自衛隊所属。美桜に激しく惹かれる。美桜といると失った記憶が疼いて!?
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試し読み
「……ま、待って……」
離れた唇が顎を伝って首筋へ続き、航の手がブラウスのボタンにかかったのを感じて、美桜はそれを制した。
視線が合うと、航はせつなげな顔をしていて、美桜はどきりとすると、ちょっとだけ申しわけなく思う。しかし記憶をなくしている航にとっては、これが美桜との初めての行為になるわけで、できるだけきれいな状態で臨みたいのが女心というものだ。航にがっかりされたくない。できれば、もっと好きになってほしい。
「……お風呂、使ってからでいい?」
航は少し返答に迷う様子の後で、苦笑して頷いた。
「もちろん。俺のほうこそ、がっついてごめん。うーん、でもな、離したくないな。……一緒に入るっていうのはどう――」
「だめ。あ、航が先にどうぞ」
「だよな。うん、ちょっと水浴びて落ち着いてくるよ」
名残を振り切るようにベッドから飛び下りて、しかしはたと立ち止まって真剣な目をした。
「いなくなったりしないよな?」
美桜が笑ってかぶりを振ると、航はジャケットを脱ぎ捨てながらバスルームに足を向けた。
美桜は乱れた髪を撫でつけながらベッドを下り、ソファの背に引っかかっていたジャケットをハンガーにかけてから、バッグの中を確かめた。
ふだんなら持ち歩かないメイク用品があるのは幸いだった。ふたりきりのデートなら、化粧直しも欠かせないと思っていたのだ。さすがに泊まることになるとは考えていなくて、下着の替えはない。風呂の後はどうしよう。
答えが出ないうちに、「お待たせ」と航が部屋に戻ってきた。バスローブに身を包んでいる。
「……早いね」
「自衛隊仕込みだよ。ちゃんと洗ったから心配なく」
湯上がりの匂いが漂ってきて、バスローブの合わせから覗く胸板の厚さが眩しく、美桜は逃げ出すようにバスルームに向かった。
洗面台にはひととおりのアメニティグッズが揃っていて、身だしなみを整えるのに不都合はなさそうだと安心する。
バルーンスリーブのブラウスとフレアパンツを脱ぎ、下着を取ったところで、角度を変えながら鏡に裸体を映した。航は憶えていないとはいえ、四年を経て、しかも出産を経験した身体は、あのころとはラインが違う。忙しい毎日を送っているので弛んではいないと思うけれど、ピチピチという言葉にはほど遠い。
気後れしてしまうのは、航がさらに魅力的になっているからだろう。おとなの男を匂わせつつ、鍛え上げた身体を維持している。
(……今さらどうしようもないよね。即効果が出るダイエットなんてないし)
開き直りで己を納得させ、せめて隅々まで磨き上げておこうと、美桜はバスルームに飛び込んだ。
念入りに全身を洗った後は、迷った末にノーメイクのまま、バスローブだけを羽織って部屋に戻った。
明かりは窓際のスタンドライトだけになっていて、航の気づかいに感謝する。
ソファに座ってビールを飲んでいた航は、眩しそうに美桜を見つめた後、立ち上がって冷蔵庫に向かった。
「先に飲んでた。なにがいい? あ、座って」
「ええと、水で」
ミネラルウォーターのボトルを二本取り出し、ひとつを美桜に手渡すと、自分もソファの隣に座ってキャップを開けた。
「……仕切り直したぶん、なんか緊張するな……」
呟くような言葉に、美桜は小さく肩を揺らした。
「ぐいぐいだったのに? 緊張してるのは私のほうだよ」
「嫌じゃない?」
身体ごとこちらを向いた航は、ソファの背も利用して美桜を腕の中に閉じ込める。まだ湿っている前髪が額にかかって、いつもより若く――以前と同じように見えた。それに比べて自分はどう見えるだろうかと、美桜は目を逸らす。
「……嫌だったら帰ってるよ……そんなにじっと見ないで。お手入れ不足のアラサーなんだから」
しかし航は美桜の頰に手を添えて、視線を合わせてきた。
「きれいだよ、美桜は。だから一目惚れしたんじゃないか。いや、もちろん見た目だけじゃなくて、全部が好きだ。だから、どうしても今夜は一緒にいたくて――」
顔が近づき、唇が重なった。航の勢いに押されて、身体が倒れていく。静かな室内に、唇が触れ合う湿った音と衣擦れの音が、やけに大きく響いた。
「あ……」
バスローブの合わせを開かれ、航の手が直に乳房に触れた。やわやわと揉みながら指の腹で乳頭を捏ね回す愛撫は、美桜が憶えているままだ。
頭が思い出すよりも早く、身体が反応していた。四年の歳月が一気に巻き戻されて、熱烈な恋愛のただなかにいた自分に戻る。航が愛しくてたまらない。
乳頭を吸われ、美桜は航の頭を搔き抱いた。
「……あ、あっ……わた、るっ……」
上ずった声に応えるように、航の手が下肢に伸びる。バスローブ一枚で下着を身につけていないそこに指が触れたとたん、美桜は自分がぐずぐずに溶けていくような錯覚に見舞われた。
実際に溢れるほどの蜜が指を濡らし、その動きを容易にする。すぐに花蕾を探り当てられて、身震いするような官能に襲われた。胸を吸われながら撫で擦られただけで、美桜は呆気なく達してしまった。
荒い息をこぼす唇に航は掠めるようなキスをして、勢いよく身を起こす。そこから美桜を抱き上げてベッドに移動するまでは、ひとつの動作のようだった。
横たわる美桜からバスローブをはぎ取り、航も同じように脱ぎ捨てて全裸になる。厚みが増した身体は彫刻のようで見惚れるけれど、細かな傷痕が増えたように思えた。
(事故に遭ったときのものもあるのかな――)
そう考えていた美桜の目に、一瞬下肢の滾りが映って思考が吹き飛んだ。鼓動が跳ねるだけでなく、体温も上昇したような気がする。美桜を求めているのだと示されて喜びが湧き上がり、それを感じたいと切望した。
「美桜、愛してる……」
囁く航を、両腕を伸ばして迎えた。しかし航はそのまま美桜の上で身体をずらし、脚を開かせて間に顔を埋めようとする。
「……っも、いい……から――」
「俺がしたい」
反射的に押し返そうとした手は、そのひと言でたちまち力を失った。
「ああっ……」
敏感な場所に熱い吐息を浴びて、美桜はぞくりと背を震わせた。余韻を残して尖っていた花蕾を舌先で弄ばれ、あられもなく腰を揺らす。
(……やだ、どうしよう……気持ちいい……)
溢れる蜜を掬い上げるようにあわいを下からなぞった指が、そっと潜り込んできた。
航の指は長く、節が目立つ。それが美桜の中を行き来する感覚は、たしかに憶えがあるもので、泣きたくなるような嬉しさと直截な刺激に、咽ぶような声が洩れた。
唇で覆われた花蕾が強弱をつけて吸われ、さらに舌で捏ねるように擦られて、美桜は追い立てられるように官能に吞まれていく。
「いい?」
ふいに口を離した航に問われて、美桜はもどかしさに呻きながらこくこくと頷いた。
「気持ちいいって、言って」
「……い、いい……気持ちいいっ……」
満足げな吐息が蕩けたそこに吹きかかり、美桜を懊悩に落とし込む愛撫が再開する。
増えた指で内壁を擦りながら抜き差しされ、美桜は身を捩った。濡れそぼった粘膜が発する音が耳を打つ。
ふと強く押された場所が、そこから震えを生じるような悦びをもたらし、美桜の声が高くなる。指は容赦なくそこを攻め立てた。
「んっ、あっ……だ、だめ……っ……」
「だめ、じゃないだろ。本当は……?」
航は指を止めることなく、美桜の内腿を強く吸った。
(痕がついちゃう……)
そんな思いが頭をよぎったことを責めるように、指は美桜を翻弄した。感じるところをしつこく擦られて、美桜の腰はがくがくと揺れる。忍び寄る絶頂が、もうそこまで来ているのを感じた。
「ああっ……」
「本当は?」
「……いい、そこがいいっ……あっ、あっ……、航……また……っ……」
無意識に逃げようとする腰を引き戻され、むしゃぶりつくように花蕾を舐め回される。先ほどよりも大きな波に攫われて、美桜は全身を揺らした。媚肉が指を食いしめる感触に、絶頂を味わいながらも希求感が止まらない。指の硬さが、もっと確かなものを美桜に思い出させる。
航が欲しい――。
肉欲だけでなく、たしかに彼がいるのだと感じたい。思いきり抱きしめたい。
身を起こした航は手早く避妊具を装着して、美桜に重なってきた。
「……あーっ……」
過去が蘇る。いや、過去に連れ去られる。そう思うくらい、美桜の身体は航を憶えていた。忘れてなどいなかった。
もう会うこともないのだから諦めよう、過去は振り切ろう――そんなことができると、どうして自分は思えたのだろう。こんなにも航を愛している。
航は苦しげに唸ってしばらくじっとしていたが、すぐに貪るように美桜を揺さぶり始めた。
(ああ、航だ……)
髪を撫でるしぐさも、胸を揉みしだく感触も、律動の強さ速さも、すべて美桜の身体に刻まれたままのものだった。
動きが激しくなり、航は美桜の腰を抱いて思いの丈を示すように突き上げた。美桜の弱いところを狙い澄ます抽挿に、美桜は絶頂へのきざはしを駆け上がった。心の喜びに身体の悦びが重なった。
おそらくほぼ同時に達したのだろうけれど、航はすぐに「もう一度」と美桜を愉悦の中に誘い込んだ。「だいじょうぶ? ごめん、年甲斐もなくがっついて」
まだ胸を大きく上下させている美桜に、航はミネラルウォーターのボトルを差し出した。美桜はありがたくそれを受け取り、身体を起こして水を飲む。航の視線が注がれていることに気づいて、気まずく目を逸らす。
初めてベッドを共にしたにしては、美桜の反応はずいぶんと明け透けなものに思えただろう。セックス好きな女だと思われたかもしれないと考えると居たたまれない。けれど、止めようもなかったのだ。
ベッドに腰を下ろした航は、美桜の肩を抱き寄せて頰にキスをした。キスが終わっても、頰を押しつけている。
「驚いたな……」
(……やっぱり。失敗しちゃったかな)
その言葉に、美桜はびくりとする。しかし続いたのは、思いがけない台詞だった。
「初めて抱いた気がしない。肌が合うっていうのかな」
不穏な鼓動を刻んでいた胸が、真逆の感情で高鳴り始めた。
「きみを手に入れたっていう嬉しさはもちろんあるし、相性がいいって思えるほど感じてくれたのも嬉しいんだけど、それだけじゃなくて、なんていうか触れてると……安心? ほっとするような……うまく言えない」
記憶がなくなっても、航の身体もまた美桜を憶えているのだろうかと、思わず顔を上げた。
「どうしよう。ますます美桜が手放せなくなった」
そう言って微笑む航に、美桜は身体を預ける。もう一度、と言ってくれないだろうかと期待してしまうくらい、航への想いが溢れ出す。
現実では四年の空白が存在するけれど、過去と現在は間違いなく繫がったように思えた。やはり自分は航が好きなのだと、変わらずずっと愛していたのだと、再認識する。
(彼と一緒に生きていきたい――) -
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