書籍紹介
愛を知らない不動産王が恋をしたら猛攻が止まらない
愛を知らない不動産王が恋をしたら猛攻が止まらない
ISBN:978-4-596-57390-2
ページ数:322
発売日:2025年7月18日
定価:760円+税

イラストちら見せ!

  • あらすじ

    俺に甘えて、堕とされて、蕩けてしまえばいい
    仮面夫婦を約束していたのに、本気で迫られて!?

    婚約破棄された由乃は、その場に偶然居合わせた理人と利害の一致で婚約することに。彼は〝不動産王〟と言われるセレブで「結婚に愛は不要」という価値観の持ち主。だけど、冷めた関係どころか甘く迫ってきて!?「反応がよすぎて止められない」と熱く求められ、心身ともに乱されて。しかし彼に恋心を抱いた矢先に祖父から別の縁談をゴリ押しされ!?

  • キャラクター紹介
    • 和久井由乃(わくい ゆの)
      老舗百貨店の外商部に所属。支配的な祖父から逃れようと結婚を画策していて……。

    • 柳楽理人(やぎら りひと)
      桁外れの大富豪。合理的。結婚に愛は必要ないと思っていたが、由乃に出会い!?

  • 試し読み

    「ありがとうございます。理人さんが婚約者でよかったです」
     由乃は、心の底からの感謝を告げた。
     祖父母の笑顔を引き出せたのは、間違いなく理人のお陰だ。
     結婚して独り立ちすることを望まれていると思っていたが、そうではなかった。結婚という事実よりも、由乃が誰と人生を歩もうとしているのかが重要だったのだ。
    「そう言ってもらえてなによりだ」
     どこか安堵したように微笑んだ彼は、ふと由乃の顔を覗き込む。
    「それで、なにを弁えるんだ?」
    「あ……その、大したことじゃ……」
    「言いたくないことは無理に聞かないが、できる限りきみの力になりたいと思っている。俺たちは協力関係だろ」
     彼は、ささいなひと言を拾い上げ、本心から案じてくれていた。
     理人の気持ちは、由乃の心を優しく撫でていく。それは、春の日差しのぬくもりに包まれる心地よさによく似ていた。
    「……婚約者とはいえ、弁えようと思っただけです。婚約が破談になった場合に備えて、頼りすぎないようにしないといけないって」
     皆の前では普通の婚約者のように振る舞うが、あくまでこれは互いの事情のために手を組んだだけの契約だ。依存しすぎないように、しっかり線引きをする必要がある。
    「理人さんの婚約者として、しっかり務め上げます。ご家族にいつお会いしてもいいように、心の準備をしておきますね」
    「……柳楽の親戚と違って、きみは真摯だな。だから、力になりたいと思うんだ」
     苦々しい表情を浮かべた理人が、風呂上がりの湿った前髪を搔き上げた。
    「そこまで構えることはない。俺の祖父はグループの後継者として結果を残していれば、誰と結婚しようが文句は言わない。ただ、前にも言ったように周りが五月蠅い。少しでも自分の利益になるように、必死になってすり寄ってくる。油断ならない親戚がいるという点では、きみと似ている状況だな。あまり喜ばしいことじゃないが」
    「多少は慣れているので、嫌みなら聞き流せます。理人さんに近づく女性はしっかり牽制しますね」
    「頼もしいな。期待してる」
     ふ、と理人の表情が緩み、ひそかに胸を撫で下ろす。
     由乃が想像しているよりも、彼にとって柳楽家の縁者は厄介なのだろう。濱田家とは比べものにならない大企業の後継者とあれば、様々な人間が近づいてくるはずだ。それだけでも苦労が多いはずなのに、容姿も端麗とくれば周囲が放っておくわけがない。
    (そう見せないだけで、苦労が多かったんだろうな)
     柳楽グループの後継者など雲の上の存在で、普通は知り合うことすら難しい。それが、ひょんなことから関わりを持ち、人となりを知ったことで親近感まで抱き始めているのだから不思議なものだ。
    「俺も、濱田家からきみを守ると誓う。婚約者が必要だったのは、濱田家が関わっているんだろ。違うか?」
     突然放たれた言葉に、由乃は思わず目を見開く。
    「っ、どうして……」
    「話を聞いていれば、大方の予想はつく。お祖父さんたちはきみが婚約を焦っていたことを知らないようだし、濱田家とのいざこざに巻き込みたくなかったんじゃないか? きみは彼らをとても大事にしているからな」
     理人の予測は、まさしくその通りだった。恋人がいたことすらなく、結婚に対して積極的ではなかった由乃が、婚約者を欲したのは濱田家が原因だ。だが、それを祖父母には伝えられなかった。ふたりには、穏やかに過ごしてほしかったからだ。
    「すみません。最初に話していなくて。わたし……」
    「べつにすべてを明らかにする必要はない。ただ、覚えておいてくれ。きみは『婚約が破談になった場合』について考えていたが、心配は無用だ。俺の婚約者はきみしかいないし、今後も破棄するつもりはない」
     なんの装飾もない彼の台詞は、それだけに心の奥に深く響く。
    (理人さんの言葉で、こんなに安心するなんて)
     利害の一致で結ばれた婚約は、そう長く続かない。まして相手は大企業の御曹司で、目的を果たせばこの関係は終わるはずだと、心のどこかで考えていた。
     それなのに、彼は違った。この婚約は一時しのぎではなく、人生を共にするパートナーになるのだと真摯に伝えてくれる。
    「そういえば忘れるところだった。今日の挨拶には間に合わなかったが、早めに指輪を作りに行かないとな」
    「えっ」
    「次の休みに一緒に買いに行くか。希望のブランドがあれば言ってくれ」
     薬指を軽く撫でられて鼓動が跳ねる。たった少し触れられただけで全神経が理人に向いているのが恥ずかしい。
     彼と知り合ってからというもの、感情が忙しない。戸惑うこともあるが、それよりも遥かに理人の言動に喜び、励まされ、救われている。
    「由乃?」
     考え込んでいると、顔が至近距離に迫っていた。ぎょっとした由乃は、どぎまぎしながら視線を下げる。
    「あっ……希望は特にありません。仕事中はアクセサリーをつけられないですし、あまり高価なものだと紛失が怖いので……」
    「それもそうか。デザインを含めて、希望を取り入れたものを購入しよう」
     言いながら、彼がおかしそうに笑みを漏らす。
    「手に触れたくらいでそんなに意識するとは思わなかった」
    「っ、しますよ、それは……突然されると驚くというか」
    「スキンシップはすると最初から言っていただろ。きみは普通にしていたら、俺をまったく意識しなそうだし。ある程度は、恋人らしい雰囲気も必要だと思うが」
     意味ありげに告げると、彼は由乃の手の甲に唇を寄せた。上目づかいで見つめられ、心臓の音がどんどん大きくなっていく。
    「し、仕事で関わりもあるのに、恋人っぽさが出ても困るじゃないですか」
    「切り替えられるだろ。ちなみに今はプライベートだ。思う存分動揺してくれていい」
    (そんなに簡単に態度を変えられないってば……!)
     心の中で抗議したが、彼に届くはずもない。理人はあたふたとする由乃を眺めながら、握った手はそのままに身体を寄せてきた。
    「今のままだと、単なる知人の域を出ていないな。柳楽の祖父たちに会う前に、もう少し恋人っぽい空気感を出さないと駄目だ」
    「……なにをどうすれば。婚約しているように見えるんですか?」
    「そうだな……キスくらいは、当たり前にならないと」
     口角を上げた理人は、繫いでいた手を軽く引くと、由乃に唇を重ねた。
    「ん……っ」
     柔らかい唇に自分のそれを啄まれ、小さく肩が震える。触れ合わせて軽く吸われているだけなのに、なぜだかひどく身体が熱くなってしまう。
     リップ音が何度も響き、そのたびに身体から力が抜け落ちる。
     理人とのキスで明らかに自分が高揚しているのが恥ずかしい。だが、人生で初めての経験でどう応えればいいのかわからない。
    「口、少し開けてみろ」
     キスを解いて囁かれ、導かれるままに口を開く。すると理人自身もかすかに唇を開き、由乃の口内に舌を差し入れてきた。
    「ンン……ぅっ」
     ぬるりとした感触に肌が粟立つ。初めて他者の舌を受け入れたのに、不思議と心地よさを覚えた。おそらくそれは理人が相手だからだ。彼は強引でありながら、由乃の反応を探っている。本気で拒絶すればすぐに止めてくれる。そんな余裕を感じさせる。
    (息、できない……)
     深い角度で重ねられ、口内をねっとりと舐られる。口の中の粘膜を擦られると、剝き出しの神経を刺激されたような感覚にさせられた。
     初心者になんてキスをしてくれるのか。そんな抗議が脳裏を過るも、唇を塞がれているため言葉にならない。代わりに空いている手で彼の胸を叩くと、気づいた理人が一瞬だけ由乃を解放した。
    「鼻で息しろ。窒息したいわけじゃないだろ」
    「も、これ以上、は……」
    「まだだな。嫌がられていない限り、このまま続けるぞ」
    「ん……っ」
     息継ぎの間に告げられ、休む間も与えられずふたたびキスをされる。
     彼に言われるままなんとか鼻で息をすると、舌先で口蓋を擽られて腰が震えた。なぜ自分がそんな反応をするのか理解できない。ただ、彼との口づけにどんどん夢中になり、思考すらままならなくなった。
     唾液を攪拌する舌の動きがいやらしくてぞくぞくする。徐々に足から力が抜け落ちて彼の袖を摑めば、抱え込むように腰に腕を回された。
     身体が密着したことで、理人の体温をより強く感じてしまう。着痩せするタイプなのか、見た目よりも筋肉質だった。涼やかな外見とは異なり、硬い胸も抱きしめる腕の強さにも、強く異性を感じさせられる。
    (ドキドキするし恥ずかしいのに、理人さんとこうしているのは嫌じゃない)
     互いに利害が一致した、理想的な婚約者。恋愛感情で結ばれたわけではないからこそ、ビジネスライクな関係でいられる。
     ――そう考えていたはずが、思いがけず彼の傍は居心地がいい。由乃が大切にしている祖父母を同じように大事にし、尊重する姿勢を見せてくれている。突然誘ったにもかかわらず泊まってくれるなんて、元婚約者ならありえなかった。
    「は……可愛いな、由乃」
     長すぎるキスを終えた理人が、由乃の頰を優しく撫でる。ひどく過敏になってびくりと身を揺らすと、彼の腕に包まれた。
     風呂上がりだからか、ボディーソープの匂いが香っている。理人と自分が同じ香りをさせているのかと思うと不思議な気分になる。
    「で、キスの感想は?」
     硬い胸に抱かれて息を整えていると、呼気が耳朶を撫でた。
    「っ……」
     瞬間的にぞくりとしたのは、声がひどく色っぽかったから。普段聞いているシチュエーションCDの声優さながらの美声に、腰の辺りがかすかに疼く。
     濃厚なキスで熱を帯びていた身体にとどめを刺された気分だ。縋りつくような体勢で何も言えずにいると、理人が笑った気配がした。
    「耳が弱いのか。いいことを知った」
    「あ……っん」
     ふっと息を吹きかけられたかと思うと、耳朶を唇に含まれる。彼の予想外の行動に驚くも、それより強い快感が背筋を駆けていく。
    (なに、これ……っ)
     耳穴に彼の息が吹き込まれると、胎内が甘く痺れる。擽ったいような、それでいて下肢が溶けてしまいそうな感覚だ。初めて覚えたそれは紛れもなく性的な快感で、由乃は彼の腕の中で浅く呼吸を繰り返すことしかできなくなる。
    「り、理人さ……それ、もうやめ……あぁっ」
     耳朶を甘噛みされて、甘えた声が漏れた。そのまま耳殻を唇でなぞられれば、これまで感じたことのない快楽に襲われる。
     彼の腕の中に捕らわれて身悶えていると、不埒な舌先が耳穴に侵入してきた。
    「ひ、ぁ……っ」
     湿った音が直接脳に響き、聴覚から犯されるような気分だった。逃れようとする意思すら持てずに、彼の腕の中で身震いする。誰かと抱き合って性的に触れられた経験はなく、ひたすらに翻弄されてしまう。
    「こんなに反応がいいと、やめたくなくなる」
    「あっ……」
     片方の耳は唇で、もう一方は指先で撫でられる。双方に違う刺激を与えられ、身体中が蕩けそうだった。
     好きな声優の声にフェチシズムを覚えていたが、耳への直接的な刺激に弱いなんて初めて知った。そもそも自分で触れてもまったく何も感じないのだから、自覚しようもない。
    (どうしよう……どうすればいいの?)
     恥ずかしいほど過敏になっている。ショーツの中が湿っているのを感じ、なおさら羞恥が増した。
     自分がこんな状態になっていることを理人に知られたくない。快楽に支配されそうになりつつ考えたとき、彼の手が臀部へと伸びてきた。
    「……んっ」
     尻を揉みながら指を食い込ませられ、無意識に内股が強張る。由乃は思わず声を上げ、彼の胸を押し返した。
    「り、理人さん……っ、これ以上、は……」
     祖父母のいる実家で、不埒な真似をするわけにいかない。焦って告げると、彼の身体がすっと離れた。
     その途端、支えを失ったことで、由乃が膝からくずおれる。
     なぜこんな状態に陥っているのか。理解できずに混乱していると、しゃがんだ理人が顔を覗き込んできた。
    「大丈夫か?」
    「は、はい……力が、入らなくて……」
    「腰を抜かすほどよかったってことか。光栄だな」
     不敵に言い放った理人は、由乃の頰に指を滑らせた。
     ただ触れられただけなのに、びくんと肩が上下に動く。キスや耳への愛撫で敏感になり、過剰に反応してしまう。
    「この続きは、一緒に住んでからだ」
     余裕のある表情で告げた理人は、由乃をそっと抱きしめる。
    「今日はここまでで止めるが、次はどこまで許されるか楽しみだな」
    「っ、耳もとで、話さないでください……!」
    「ああ、そうだったな」
     笑みを含んだ声は、明らかに面白がっている。

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