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試し読み
「……情欲……? とはなんですか?」
言葉の意味がわからずさらに尋ねれば、エミディオはどうしてか不敵な笑みを浮かべて「見せてやろう」と言った。
リタの目の前で、エミディオは着ていたものをどんどん脱いでいく。ナイトガウンとシャツを脱ぎ捨て、最後に脚衣に手を掛ける。
「えっ!?」
思わず大きな声を出してしまい、リタは口もとを手で押さえ目を瞠った。脚衣を下ろしたエミディオの股間に、不思議な肉塊がある。
「これが男の体だ」
リタは男の裸体というものを初めて見た。女より大柄で逞しいということは漠然とわかっていたけれど、詳しいことは何ひとつ知らなかった。エミディオに抱きしめられるたび、胸の膨らみがなく筋肉がついていて全体的に硬いとは思っていたが、まさか股間に大きな肉塊があるとは夢にも思わなかった。
「なんでしょう、これは……?」
「男の性器だ。陰茎ともいう。普段はもっと小さいが、お前を可愛がりたい気持ちが昂るとこのように膨張して屹立する」
「膨張……」
にわかには信じがたい。人体が状況によって膨張するなんて。しかもその条件が『可愛がりたい気持ちが昂る』というのも曖昧だ。リタは納得できなくて眉間に皴を刻み、小首を傾げた。
「よくわからないです。男性の性器というのなら、世の男性は皆このような肉塊がついているのですか? 誰かを可愛がりたいと思うとこの肉塊が膨張して、それを情欲が滾るというのですか?」
謎が多すぎてつい矢継ぎ早に質問してしまえば、エミディオは「まあ大体合ってる」と答えた。
「このようなものが股間にあっては、歩きにくそうですね」
「普段はもっと小さいと言っただろう。それに普段は硬くもないし上向きでもない。お前が想像するほど邪魔ではない」
「では情欲が滾ったときだけ、このように筋肉の棒みたいになるのですね。……なぜでしょう? それはそれで不便なような」
誰かを可愛がりたいと思うたびに肉塊が大きくなっていては、やはり生活を営む上でやっかいではないかとリタは首を傾げる。世界中の結婚している男性は皆この不便さを抱えて生きているのだろうか。エミディオも今までリタを可愛がっていたとき、密かに不便なことになっていたのだろうか。疑問は尽きない。
すると、エミディオはリタの手を取って自分の陰茎に触れさせた。
「わっ」
臍に届きそうなほど反り返って隆起しているそれは、触ってみるととても熱かった。血管の浮き出ている竿は筋肉のように硬くて、茸の笠のような先端はやや柔らかい。
「どうして陰茎がこのように硬くなるか教えてやろう。おとなしく俺に身を任せろ」
そう言ってエミディオはリタを再びベッドに仰向けに寝かせると、彼女の脚を開いて膝を立たせた。そしてその間に、膝立ちした自分の体を割り込ませる。
「エミディオ様、何を……ひぁっ!」
エミディオはリタの予想外の行動に出た。なんと自分の性器の先端を、リタの秘裂に擦りつけてきたのだ。クチュクチュと卑猥な音をたて、珊瑚色の花弁の間をエミディオの陰茎の傘が往復する。
「ぅんっ……、んっ……」
まだ絶頂の余韻が残っているせいで、掻き乱されるたびに愉悦を感じた。下腹の奥で燻っていた疼きが、強くなっていく。
「あ、あっ……」
また〝大人の快楽〟をされるのかと思うと、下腹の奥が熱く溶けて何かが零れていくような感覚を覚えた。それと同時に性器を擦り合わせる音がさらに水気を増した気がする。
「そろそろいいか……。リタ、力を抜け。最初は少し苦しいが、最上の快楽を教えてやる」
「え?」
どういうことだろうとリタが瞬きをした次の瞬間、疼いていた場所に陰茎が押しあてられ、媚肉を大きく引き伸ばされる感覚に襲われた。
「ひっ!?」
何をしているのか想像もつかない感覚と恐怖に、思わず全身に力が籠もる。
「力を抜け。余計につらくなるぞ」
「や……、な、何をなさるんですか? 痛いことは嫌です……!」
「恐れるな。多少痛みはあるが、すぐに気持ちよくなる。俺を信じろ」
恐怖に引きつったリタの顔を見て、エミディオは安心を与えるように頰にキスを落とすと、片方の手でリタの陰核を弄った。
「あっ!」
さっきと同じ痺れるような刺激が走り、リタの顔から一瞬恐怖が消える。
そのとき、秘裂の奥に圧迫を感じ、続いて何かを突き破るような痛みが走った。
「あぁ——っ!?」
得体の知れない痛みに、リタは仰け反って叫んだ。秘所が熱くてたまらない。ジンジンとした痺れと疼きと痛みが混じり合っている。
「何、を……」
息も絶え絶えに尋ねたリタに、エミディオは頬へのキスをやめないまま言った。
「お前の性器……膣孔に、俺の性器を挿れた。男の性器が硬くなるのは孔に挿入するためだ。こうして挿入して抽挿しているうちに、互いに気持ちよくなる。まるで天国に昇るようにな」
「膣孔……? 挿れ……?」
「なんだ、気づいていないのか。ここには小水を出す穴以外に、もうひとつ穴がある。俺と繋がるための大切な穴だ」
今日何度目の驚きだろう、リタは耳を疑った。そんな穴が自分の体にあることも知らなければ、彼の肉塊と繋がることも嘘みたいな話だ。
けれど実際に今、リタは股間の奥に硬いものを穿たれたような圧迫感と痛みがある。エミディオの言うことは本当なのだろう。
「怖い……」
震える声で、思わず呟いた。それも当然だ、リタにとってはいきなり手術をされているような気分だ。体の奥に、夫とはいえ他人の体を挿れるなど、未知すぎる。
「怖くない。愛し合う者なら誰でもしていることだ」
真剣に瞳を見つめて言ったエミディオの言葉に、リタは一瞬痛みも忘れてハッとした。
「……愛し合う、者……?」
驚いた様子を見せるリタに、エミディオは少し不思議そうにしながらも「ああ」と答える。
「エミディオ様は、私を可愛いだけじゃなく……愛してると思ってくださってるのですか?」
そう問われてハッとした表情を浮かべたのは、今度はエミディオの方だった。
「……馬鹿だな、俺の小鳥は。……いや、そう育てたのは俺だな。男の心を測る小賢しい真似などお前には不要と思っていたが——」
独り言ちるように呟いたエミディオは少し悩ましげに眉間に皴を寄せてから、チュッと唇に軽いキスを落とした。それからリタの頬を包むように撫でて、視線を絡ませた。
「愛してる。この世界でお前だけを愛してる。俺の小鳥として、女として、妻として。今までもこれからもずっと」
初めてはっきりとした愛の言葉を紡がれて、リタの胸が痛いほど切なく締めつけられた。多幸感がまるで魔法のように全身を包んで、エミディオと繋がっている場所や触れている場所が、熱く痺れるみたいだ。
「嬉しいです、エミディオ様……。私も……私も愛しています。人生の伴侶として、あなたを誰よりも愛しています」
瞳を潤ませていったリタを、エミディオは愛おしげな眼差しで見つめ何度も唇にキスを落とした。
「ああ、俺も愛している。だからお前とこうして体を繋ぐんだ。世界に星の数ほど人間はいるが、この行為は愛している者としかしない。少なくとも俺はそうだ」
この行為は不思議だらけだが、それをする意味がリタはようやく少しわかった気がする。
(愛し合う者同士は、こうして体を繋げるものなのね……)
そう思うと愛されているという安心感からか、リタの中から恐怖が少し消えた。
「ほら、お前の気持ちよくなる芽を撫でながら抽挿してやる。体から力を抜いて楽にしていろ、すぐに気持ちよくなる」
リタは命じられた通りに、体から力を抜こうとした。エミディオの言うことを聞いていれば、きっと大丈夫に違いない。まだ恐怖は完全には消えていないが、深呼吸して落ち着こうと努める。
初めて存在を知った膣孔という場所は、まだ痛みと圧迫しか感じられない。けれどエミディオの親指が陰芽を包皮ごと優しく捏ねると、湧きあがる疼きと膣孔の圧迫感が混ざり合って新たな愉悦を呼び覚ました。
「あ……」
リタの瞳に恍惚の色が浮かび始めたのを見て、エミディオは腰を揺すりだす。浅い抽挿を繰り返し、少しずつ奥へと雄芯を進めていった。
「どうだ、俺の陰茎がお前の中にあるのがわかるか」
「はい、すごくよくわかります。お腹が内側から押されて変な感じだけど……」
「けど?」
「……嬉しいみたい……」
自分で言いながら、リタは変だと思う。どうしてこんな行為を嬉しく感じるのだろうか。
けれど激しい疼きを満たす圧迫感は、抱きしめられたときの充足感に似ている。エミディオのことが大好きで、抱き合いながら溶け合いたいと思ったことがあったけれど、この行為はそれに似ている。お互いの体が溶け合ってひとつになっている感じだ。
「エミディオ様がすごく近くにいるみたいで、幸せな気持ちです」
「ああ、正解だ。これはお互いが心も体も幸福になるためにするんだからな。ほら、もっと気持ちよくなって幸せになれ」
そう言ってエミディオは腰の動きを深くする。狭隘な蜜洞を熱い肉塊がこじ開けるように進んでくる感覚にはまだ慣れないけれど、充足感はますます強くなった。同時に陰芽を弄られ、耳に口づけされると、痛みを忘れるほど激しい疼きと痺れと圧迫感が体の奥で絡み合って、リタは「はぁあんっ……!」と熱い吐息を漏らした。
「中がほぐれて潤ってきた。いい子だな、リタ」
「あっ、あぁ……っ、い、気持ち、いぃ……っ」
「これが好きか? 俺の陰茎で突かれると気持ちいいのか? 言ってみろ」
「あっ、あ……、好き……っ、エミディオ様の陰茎に突かれると、とても気持ちよくて……んあぁっ! だ、大好きです……っ!」
淫らな欲望を素直に口にしたリタに、エミディオは満足そうに口角を上げると「やはりお前は世界一可愛いな」と呟いて、リタの喘ぐ唇にキスをした。
「ぅんっ……、う、く……んっ」
さっきは口腔を舐められても違和感しか覚えなかったが、今は体の悦楽と口腔のくすぐったさが混じり合って、頭の中が真っ白になるほど気持ちよかった。はしたないと思いながらも、口の端から唾液が零れていくのを抑えられない。エミディオのぬめった舌が愛おしくて、必死で舌を絡め、彼の唾液を飲もうとした。
「ふぁ、あぁ……っ、エミディオ様、ぁあ……」
シーツを握りしめていた手は、いつの間にかエミディオの背に縋りついている。力の加減ができず、彼の背に爪を立てていることにも気づかずに。
「いやらしい小鳥め。少女のような顔をして、こんなに淫らな表情をする。初めて男を受け入れた孔で俺の雄をぎゅうぎゅうに締めつけて、そんなにこれが好きか」 -
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