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試し読み
「君は、キスしても、僕をカーク、とは呼んでくれないな」
「え?」
そういえば彼は人前では恋人である事を強調するように、リズリーを名で呼んでいた。
けれどリズリーは、公爵閣下としか呼んだことがない。
「恋人だろう。僕を名前で呼んで、甘えていいのに」
頬を指でなぞられ、そのまま耳の裏から首筋をくすぐられ、身じろぎする。
できるなら、呼んでみたい。だけど、呼ぶことで、カークラントへの抑えが効かなくなり、彼へ再現なく甘えてしまいそうなの、自分の弱さが怖い。
決心が付かずに口ごもっていると、額からこめかみに、そして鼻の頭へと、触れるだけのキスが繰り返される。
「でも、公爵閣下は……恋人では、なっ……や……くすぐった、い」
(偽の恋人なのだから、こんな親密な事は駄目)
拒否しなければならない。メグや従僕が戻ってきたら大変な事になる。
わかっているのに頭がぼうっとし、目を閉じてしまう。
カークラントの唇が肌に触れるごとにじんとした痺れが、肌から内部へと染み入る。
唇で輪郭を辿るだけのキスに焦らされ続ける。
肌に感じる異性の熱は、甘い毒となって染み込み、理性の花びらを一枚ずつ剥いで行く。
頬に歯を立てる事なく、唇だけで表面をなぞられる。合間に、リズリーと愛おしげに名を綴りながら。
頭の横に突かれていた手がゆるりと動き、喉元をかすめて胸の上に置かれた。
誰にも触らせた事がない膨らみを手で包まれた事にうろたえ、まぶたを開くとカークラントが優しく目を細めてリズリーを見つめていた。
「ためらわないで、僕を頼ればいい。……それとも、頼れるようにして欲しい?」
愛おしいと言いたげな表情に息を詰めていると、そのままそっと手を揺さぶられ、乳房だけでなく心までもが震えだす。
形を確かめていた指に力が込もりだし、服の下の尖りが疼き始めた。
「やっ……駄目」
「駄目とは? なにが?」
「それは……っ」
胸の尖端がしこっていた。
ふとした弾みでコルセットと擦れ合うと、ますます硬く敏感になる。
こんな風になるなんて知らなくて、どこかおかしいのかと不安を覚えた。
遠慮がちに視線を向け、戸惑いの理由を伝えようとするが、女性らしい部位を口にするのは恥ずかしい。
潤む目でまばたきすれば、キスの雨を顔中に降らせていたカークラントが、そっと耳元で囁いた。
「ああ……ここが、辛い?」
ずっと乳房に触れさせていた手を放し、指で胸の花蕾を弾かれた。走り抜ける刺激に押され、あられもない声が飛び出す。
「ふぅっ」
痛いほど硬くなった先に刺激が加わると、へその裏に力がこもり、とろりとしたなにかが脚の間を濡らして行く。
「ひあっ……く、ぅ……やっ!」
人の居ない室内は、それだけに声が響き、自分のものとは思えないほど蕩けた女の喘ぎに身の置き所をなくしてしまう。
「や、やだ……、駄目、も、変なんです。……公爵閣下。その、わたし」
「こんなになってまで、まだ、公爵閣下よばわりか。そんなに僕に甘えたくないのかい? ……いいよ。もっと素直になれるよう、感じさせてあげるから」
腰に響く声で宣言され、ずくんと身体が疼く。
溢れだすした淫蜜で下着が滑るのが恥ずかしくて脚を合わせていると、敏感な場所に布が当たり、一際強い快感が身体を貫いた。
「んんっ、あっ……やっ! 今、の……あぁ……ぅ」
なにが起こったのかわからなくてカークラントに聞こうとすると、耳を口に含まれ、そのまま歯でこりゅこりゅとねぶられだす。
胸の媚芯を捕らえたカークラントの人差し指は、くるくると周囲をなぞったり、指の腹で小刻みに叩いたりする。
心だけでなく息まで乱され、身体をのたうたす。
「敏感だね……。直接触れてもいないのに、こんなに感じて」
ちゅぷりと水音を立てて口から耳朶を解放し、首筋から鎖骨まで舌の先でなぞられ、背が浮くほど反り返る。
「んんっ、んっ……や、もう、本当に、スタフォード、公爵、かっ……どうして」
施される淫らな指戯に悶え、身体を揺らし訴えるが、聞き入れて貰えない。「どうしてかな。……僕にもわからない。だから、わからせて」
言葉遊びのようにしては問いをはぐらかしつつ、カークラントは襟元を引き下ろし、コルセットの際に吸い付く。
カークラントは、リズリーに自分の名前を呼ばせ、甘えさせたいのだ。
しかし、どうしてそんなことをしたいのかがわからない。
第一、 契約だけで結ばれている恋人に心をさらけ出したりはできない。
――素直に気持ちを伝えても、秋には別れる関係なのだ。甘えることで依存したくない。
持ち上げた手の甲を口に当て、声を押さえる。
別館の王族用閲覧室と言っても、図書室とは通路を一つ挟んでいるだけだ。誰が入ってくるかわからない。その事も興奮を煽り、リズリーから思考を奪う。
目を閉じると、布がたくし上げられる音がして、冷たい空気が足を撫でた。
両肘をついて身を起こせば、ドレスやペチコートの間を巧みにすり抜けながら、カークラント手が秘処へ伸びだす。
「あっ、そこ、は……ッ」
夫以外に触れさせてはいけない場所。知られるのはキスより淫らで罪深い。
思わず両手で彼の腕を押さえ、体を引こうとしたが、遅かった。
張り付いた布の上から裂け目をなぞられ、背中どころか首まで仰け反る。
「ああっ……あ、は……やぁ……」
少しずつ指の力を強くし道筋をつけながら、下着越しに卑猥な形を浮き立たせられる。
「蜜が、こんなに溢れている」
どこか余裕のない声でカークラントから求められ、女としての喜悦が増す。
蜜口を愛でていた二本の指は、上部に隠れた秘核を軽く挟み揺さぶりだした。
「ぃあ……、なに、これ……や、やあ。カーク、ラント様! カーク……あ、ぁ」
公爵だとか、偽りの関係だとかが頭から消えた。
一秒ごとに大きく膨らみ、行き場もなく疼くものをなんとかして欲しくて、男としてカークラントに助けを求め始める。
「も、腰が……勝手にっ! いやっ、もぉ」
ぬるぬると布の上から揉みしだかれる。胸の先や、耳元と、触られた部分がすべて脈動し、衝動が喉元までせり上がりだす。
「あああっ――!」
ぐっと抱き寄せられ、彼の首元に顔を埋めて泣き喘ぐと、頭の中で光が弾けて心臓が壊れるほど激しく蠢いた。
がくがくと全身が震え、熱が引いて行くごとに緊張は脱力へ変化し、切ない気怠さが指先から下半身までを支配する。
親密どころではない。これは結婚した夫婦の間でしか許されない類いの行為だ。絶頂の余韻が薄れるにつれ、罪悪感がぶり返す。
「酷い……もう、こんな……淫らで、恥知らずな姿を、暴くなん、て」
両手で顔を覆いうなだれていると、肩を抱き、リズリーをあやすように揺らしながらカークラントがこめかみにキスしてきた。
「……気が済むまでなじっていいよ。だけど、どうしても、君を僕に甘えさせたくてね」
ドレスの裾や襟元、ほつれた髪などをかいがいしく整えながら言われ、戸惑う。
「そんな……」
「恋人でない、って言われたくなかった。そう言ったら君は困るかな」 -
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