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あらすじ
嫌だといっても絶対に別れてやらないからな
仮初めの夫婦だったはずなのに溺愛始まりました。幼馴染みの医師、誠司と政略結婚した瑠里。長年、彼から触れられなかったのに、ある日を境に急に熱っぽく迫られて!? 実は誠司は、瑠里が妹から預かっていた書きかけの離婚届を見つけて誤解していたのだった。そうとは知らず戸惑いながらも彼に愛される日々。「抱いて、いいか」蕩けるように快感を覚えさせられる中、とある美女が彼に急接近して―!?
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キャラクター紹介
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六条瑠里(ろくじょう りり)
医療情報課広報係。真面目でお人好し。 -
六条誠司(ろくじょう せいじ)
瑠里の初恋の人で今の夫。心臓血管外科医。
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試し読み
一体どうしたことだろう。
キスをするのも初めてだというのに、いきなりこんな――深く淫らなやり方をするなんてまったく誠司らしくない。
そう思いおののく一方で、今まで見せなかった男の部分を躊躇なく見せつつ、璃里を奪おうとする夫の姿に心がときめく。
舌を掬われ、大胆に絡め、啜られる。
(気持ち、いい)
自分が舌から順番に溶かされていくようだ。その一方で先ほど感じた疼きが、舌から下顎、喉奥まで波及し、やがて後頭部をじんと痺れさせる。
息苦しくはあったが、この口づけをやめてほしいとも、やめたいとも思えなかった。
そうこうするうちに、誠司は繋がる部分の粘膜をすべて蹂躙するように大胆に舌を使いだした。
ざらりとした舌を口蓋にあて、あるいは舌先で執拗に頬の裏側を舐め上げ、まるで己のすべてだと言う風に熱と淫靡な感触を璃里に染みこませていく。
舌の付け根から先まで丹念に舐められるにつれ、硬く縮こまっていた璃里の身体から力が抜けていく。
酸欠の頭はくらくらして、どんどんとものが考えられなくなっていき、ただ誠司だけが、自分を抱く彼の逞しい腕や舌の動きだけに心揺らされる。
ぬるい湯の中に沈んでいるみたいだ。ここちいいのに少し苦しくて、それでも一秒でも長く浸っていたいと思わされる。
吐息もなにもかも奪われて、ただただ求められる幸せに浸っていたのもそう長い時間ではなかった。
日頃から運動不足のきらいがある身体では、そう長く呼吸を止めてはいられず、このままでは気を失ってしまうときつくまぶたをとざした瞬間、今までの激しさが嘘のように唇が解かれた。
はあはあと、どちらのものとも知れない荒い呼吸が二人の間にわだかまる。
吸われねぶられた唇はどこかはれぼったくて、じんじんと疼いて、それが血肉を伝って身体までも震わせる。
「やっと、取れたな」
茫洋とした視線を彷徨わせる璃里に対し、誠司が欲に濡れ艶めいている瞳のままつぶやく。
「あ……」
そうだ。口紅だ。彼はそれが気に入らないと言って口づけしてきたのだと、今更のように思い出し、震える指先をそっと唇にあてれば肌に濡れた感触が伝わる。
衝動的に始まったキスを思い出し細かに身をわななかせつつ誠司を見上げれば、彼の口端にバーガンディーのくすんだ紅が塗り移っていた。
「口紅」
どこか甘ったるく子どもじみた声で璃里が伝えると、誠司はニヤリと笑い、普段は見せないような乱雑さで自分に着いた口紅の残滓を拭う。
その野性的な動きにどきりと胸を跳ねさせた時だ。
「抱いて、いいか」
しんとした廊下に、誠司の低い囁きが響く。
まるで体中が心臓になったように鼓動が身を震わせる。
未知の体験に対する怖れと不安が肩を跳ねさせるが、璃里はこの要求に逆らうだけのものを自分が持ってないことにも気付いていた。
自分と誠司は書類上だとしても夫婦であり、璃里にとっての誠司は初恋の人で、誰よりも大切なたった一人の異性だ。
たとえ理由が衝動的な欲望であっても、初めてを捧げられるというのならば否はない。
二度、三度とあえぐように口を開いては閉ざし、なにか言おうとしたが、結局なにも言えないまま、ただ小さくうなずくと、誠司は待ちかねた仕草で璃里を抱き上げた。
「きゃっ……!」
突然高くなった視点に驚き誠司の首に腕を回す。
途端、面白がるように彼が喉を震わせ笑い、自分の首に顔を埋める璃里のこめかみに甘いキスをする。
不意打ちで見せられた優しさに、璃里の頭からなにもかもが吹き飛んでしまう。
台所にあるシチューを温め直してよそわないととか、今晩、電話の呼び出し当番でないなら、一杯だけワインをつけて、買ってきたキャンドルをつけて雰囲気を出して――などと、大人っぽさをたっぷりと演出した遅い夕食の計画も、それで自分を意識してもらおうと計画していたいたことも、もう念頭にない。
ただただ、自分を抱き上げ揺るぎない足取りで寝室へ向かう誠司の身体の熱さと、力強さだけに心奪われる。
胸板に横顔をくっつけると誠司の鼓動がすぐそこで轟いている。
自分のものより早く脈打つ心臓の音に、璃里は彼もまた興奮しているのかと思うとドキドキして目が眩みそうだった。
あまり馴染んでいないリビングを早足でよぎり、それより馴染みがない――というか、引っ越してきた時に案内で一度だけしか見たことのない寝室へと連れ込まれる。
蹴るようにして扉を開いた乱暴さとは裏腹に、クィーンサイズはあろうかというベッドへ璃里を降ろす手つきはうっとりするほど優しく丁寧だった。
枕に頭を置いた途端、バレッタが頭皮に刺さって顔をしかめれば、すぐ気付いたのか誠司は流れるような仕草で項に手を添え、そっと留め金を外す。
細い銀のバレッタをサイドボードに置きながら、だがまだ彼は手を璃里の項に添えたままじっくりと見つめ、頬がこれ以上ないまで赤くなった時、あてられていた手がゆっくりと髪に沈む。
乾いて硬い男の指が頭皮をかすめながら髪を解していく。まるで人形の髪を梳るように丁寧に、飽きることなく。
そうして時間をかけて璃里の髪を解き放つと、まるで扇のように髪が寝台にひろげられていた。
これからなにが起こるのか、知らない不安から手を胸元で組み合わせていた璃里は、男が注ぐ熱い眼差しに灼かれはあっと息を吐く。
するとそれが合図であったかのように、誠司がスーツのジャケットを脱ぎ捨て、床へほうりながらつぶやいた。
「綺麗だ」
多分初めてではないだろうか。
かわいい、ではなく綺麗だと言われたことに胸がときめく。
けれどそれも長い時間ではなかった。
誠司は首裏にあった手を喉元、鎖骨へと辿らせながら璃里の買ったばかりのシャツワンピースのボタンを外しながら、残る片手で勢いよくネクタイに指を絡めて解く。
しゅるっと布が擦れる音がして、心地よさに閉じていた目を開いてみれば、長く骨張った手がワイシャツのボタンを引きちぎるようにして外すところだった。
大きくて綺麗な手だと思った。
直線的な輪郭が節のところで鋭角に突き出し、そのまま血管がくっきりと浮いた手の甲へと至る。
女性の滑らかさとは違う、無骨ともいっていいほど骨張った造形なのに、指の動きはどこまでも器用で、そのことに璃里は胸を弾ます。
食い入るように手を見つめていると、同じように璃里の胸元を見つめていた誠司がぽつりとつぶやいた。
「下着」
また端的に指摘され、あっと思う。
「下着も、買ったのか」
問いかけるというより確認するような口ぶりにおのずと肩が跳ね、考えるより先に口が動く。
「あの、美智香ちゃんと……その、無駄づ……んぅっ」
無駄遣いしすぎたでしょうかと訪ねかけた口は、だが、最後まで言うことなく引き締まった男の唇で塞がれた。
触れるだけの口づけで璃里を黙らせた誠司は、甘く、だけど少しだけ意地悪な笑みを浮かべる。
「こういう時に、俺以外の名前を口にするんじゃない」
それがたとえ実の妹であっても、と知らせるように唇をあわせ、ついばんで、ごめんなさいと言いかけた璃里の言葉ごと吐息を奪い、先ほど拭い取った口紅の代わりといわんばかりに舌先で唇の端から端をなぞり、辿る。
自分で同じ事をしてもまるでなんともないのに、誠司からされるとそれだけでわななくほどの悦が生まれ、璃里はなにを言いかけたのかも忘れてしまう。
いつしかワンピースの前はくつろげられ、左右に開かれ璃里の素肌の大半が夜気にさらされる。
燃え立つような熱い眼差しで全身を凝視されていることに気付き、璃里は少しだけ困惑した。
――どうしよう。口紅と同じように下着も気に入らないと思われているのだろうか。
今日、美智香が選んでくれた下着は口紅ほど華やかなものではない。逆に清楚といってもいいぐらいで、薄く透ける白のシルクに控えめなレースが縁を飾っているものだ。
男はギャップに弱いのよと知った口ぶりで押しつけられて、そんなものかなあと半信半疑で購入したが、口紅に合わせた紅や黒のほうがよかったのだろうか。それともいつも通りの綿のスポーティなもののほうがよかっただろうか。
そんなどうでもいいことが気になりもじもじと手足を動かす。
いっそ自分から脱いだ方がいいのかもと思う反面、そんなことをすれば生まれたままの姿を誠司に晒してしまうと羞恥が募る。
じわりとした熱が徐々に肌を白からほんのりとした桜色に染めていく。
その様子までつぶさに視姦されていることをわかりながら、璃里にはどうすることもできない。
いっそ誠司に尋ねてみようかと口を開けば、出たのは言葉ではなく熟れた吐息だった。
あの、と続けようとした先を制して、誠司がまたつぶやく。
「綺麗だ、璃里」
重ねて言われた途端、まるで自分が世界でたった一人の女になったような気がして、璃里の気分はさらに高揚する。
おかしい。どうかしている。
考えていることや感じていることは沢山あるのに、どれ一つとして形にならず思考がふわふわと甘く蕩けていくのがわかる。
あえぐような声で触れてみたかったと誠司が言ったのは幻聴だろうか。わからないままただうなずくと、彼は形のよい喉仏を力強く上下させてから手を鎖骨から胸の際へと滑らせる。
絹だけでなくそれに包まれた乳房の形を楽しむようにそっと撫で、脇から寄せられるとなんともいえない心地よさが胸から身体全体へ広がっていく。
指の動きはソフトでまるで試すように、あるいは璃里の反応を探るように上から下へ、横から中心へと絶えず動きを変えていたが、やがて螺旋を描きながら胸のふもとから頂きへと走り、頂点を軽く弾く。
「あっ」
電流が走るような刺激を感じ、たまらず璃里は声を上げた。
するとその反応に気をよくしたのか、誠司は胸の中心――花蕾が埋もれる場所を指の腹でリズミカルにはじきだす。
むずむずとしたものが迫り上がり、おのずと腰が震え揺れた。
喉をついて出そうな声をとどめようと両手で口を防ぐが、替わりに鼻から甘ったるい息が抜ける。
「んっ、んんっ、ふ……ぅ、うぁ…………あッ」
不意打ちに両方の頂点を摘ままれ、抑えきれない声が漏れる。
布越しに乳首を摘ままれ、刺激の強さに身が跳ねる。
けれどシルクの滑らかさ故か、捕らえられた尖端は、すぐにするりと男の指から逃げてしまう。
それが面白かったのだろう。誠司はからかうように強弱をつけそこばかりを摘まみ、逃し、また摘み遊ぶ。
「んっ、あっ、あっ、あ、……ああっ」
形を表しだした快感が胸を包み、揺らす。
同時に声も留められなくなってきて、璃里は身をのたうたす。
「あぁあ、あ、やっ、やだっ」
乳嘴を愛撫される快感と布でこすれる痛痒を交互に味わわされ、もどかしさのあまり璃里はつい否を口にする。
途端、誠司が指を止めて口端だけを皮肉につり上げ問いかけた。
「嫌? 気持ちよくないのか」
まじまじと顔を見られながらそんな意地悪な質問をされ、璃里は口ごもる。
「そう、じゃなく……て、なんだか、身体が勝手に動いてしまいそう、で」
知らず上がった呼吸に邪魔され切れ切れにつたえると、誠司はふと表情を緩め、満足した猫みたいに目を細めからかってきた。
「そうか。じゃあこうしようか」
言うなり胸の谷間にあるフロントホックの下に指をくぐらせ、二度ほど揉むような仕草を取る。
途端、胸を締め付けるような感覚がなくなり、開放感に大きく息を吸う。
その動きで胸を守っていた布がはらりと横へ開き落ち、璃里がうろたえる間もなく誠司が素早く乳房へと顔を伏せた。
「ああっ!」
思わず大きな声を上げ、同時に腰から全身が跳ねた。
まるで好物を目にした子どものように誠司がぱくりと乳房を口に含み、そのまま舌を絡めて吸い上げる。
震えるほどの悦が巻き起こり、璃里は無意識に身震いする。
「ん、ん、……あ、あうっ、う、ううっ、んんぅッ」
どうにもじっとしていられない衝動が身体を貫き、声を恥ずかしがっていた事など忘れ、脇で皺寄りだしていたシーツを掴む。
「あっ、だ、だめ……くすぐったいっ……ぁ」
根元から掘り起こすように舌先を使われる途中、硬い歯が側面に当たるたびに甘い痺れが肌をさざめかせ璃里は溜まらず声を上げる。
けれど誠司は璃里の訴えを気にも留めず、どころか、そうすれば尚更に甘い声で啼く事に気付いてか、わざと歯で花蕾を挟み頂点にある小さな窪みに舌先を埋めくりくりと転がし遊ぶ。
「ひぅっ……ッ、う、ああ、あああ、あん」 -
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