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試し読み
「ライラ」
「はい?」
「俺を助けてくれるだろう?」
シアードの面を覆っていた翳りが薄れ、彼らしい微笑みが戻りつつあるように見えた。
「……っ」
ライラはまた、目を閉じなければならなかった。
シアードの手が胸のふくらみを探っている。
今日、集められた娘たちの多くは豊かな乳房と括れた胴を強調する、男の目に最も魅惑的に映るだろうドレスを着て来ていた。もちろん、王をその気にさせるためだ。
そのなかにあって、おそらくライラは一番おとなしく控えめだった。青いドレスはもう着られないし、相変わらず新しいものを用意するだけのお金もなく、手持ちの衣装から選ぶしかなかったからだ。
だが、シアードはかえってそれを楽しんでいるようだった。胸を見せつけるどころか首までしっかり覆い隠されたドレスの下、ライラの乳房の形を確かめる手つきで、わざと大胆に動かしている。
「……ん」
ライラの眉がひそめられた。そうやってきつく唇を結び、こみ上げてくる恥ずかしさに耐えようとするのだが、ちっともうまくいかない。限りなく昂っていく一方の身体を止められない。
「いい子だ」
ドレスの光沢ある生地の滑らかな手触りを楽しむように、シアードの愛撫はまだライラの胸にあった。時に鎖骨のあたりを指でくすぐっていたかと思うと、次には手のひら全部で大きく乳房をすくい上げる。耳に届く衣擦れの音がびっくりするほど生々しくて、ライラは身体を余計に熱くした。
「ライラ」
「あ……」
自分を呼ぶシアードの声もまた、ライラには抗いがたい愛撫だった。こうして胸の隠しボタンをゆっくりと外されている今も、彼から逃れようとする衝動は芽生えたそばからすぐに萎えてしまう。
「や……」
ライラは身をすくめた。それと気づかせず下着の前を開いた器用な指が、肌に直に触れている。なかなか温まらないシアードの手は陶器の冷たさを含んで、ライラの上を優しく滑っていく。
まだ青く固さの残る乳房の、その丸みを辿る指先。
大きく開いた手のひらに包まれ、双つのふくらみはひしゃげて形を変える。強く弱くと力を変えて揉まれると、ライラは胸に大きな火の玉を抱えた心地になった
「……っ」
右の乳房をいきなり強く握られ、ライラの身体が跳ねた。岸辺に打ち上げられた魚になって、もがいた。シアードの愛撫を受けるたび、ツンと身体の芯まで響くのは、とてもじっとしていられないような甘い痛み。
シアードに捕らわれた乳房の先の、ほのかに色づいた小さな芽。それをいきなり摘まれ、ライラはまた震えて跳ねた。
「あ、あ」
指の冷たさが、彼の動きを恥ずかしいほどはっきりと教える。淡く染まった両方の芽は撫でられ転がされ、怯えたように固く縮こまった。
「や……いや」
とうとうライラはシアードから逃れようとした。このまま自分がどうなってしまうかわからない不安が、一気に膨らんでいた。
シアードは、一度はライラを放してくれたかに思えた。が、すぐに愛撫の手は胸から別の場所へと移った。彼はライラを再びあやすような優しさで抱きしめると、髪を撫で始めた。
「ん……」
息をつめ身を固くしたのも束の間、ライラの唇はすぐに解けてしまう。
たったこれだけのことが、なぜこんなに気持ちいいのだろう?
「あ……シアードさ……ま……」
栗色の豊かな流れを愛でるキスが繰り返されると、ライラは喘ぎを堪えきれなくなった。女として最初に認められたその場所は、それゆえ彼女を快楽へと誘う入り口となっているのだ。
「ライラ……」
「……は……あ……」
ライラの心が十分甘く蕩けた頃、シアードの愛撫は再び胸に戻ってきた。
シアードの手は、もはやライラに救いを求めて縋った少年のそれとは違っていた。ライラを情熱的に欲しがる男の、彼女を支配しようとする王の手に変わっている。
そして……。ライラもまた、すっかり無防備な女に変えられていた。
シアードがライラの胸に顔を埋めた。
「あ……、駄目……」
言葉では拒んでも、甘えた響きが耳を打つ。ひそめられていた眉はいつの間にかうっとりと開き、切なげな悦びを湛えている。
瑞々しく張った乳房に、シアードは飽きずにキスをした。?を押しつけその柔らかさを楽しみ、時に唇で撫で、強く吸っては自分の跡を残したり。
「可愛いライラ」
シアードは、ライラの滑らかな肌もまた、白くて美しいと誉めた。俺のつけた印がよく映えると喜んでいる。
シアードのキスは、健気にも首をもたげつつあるピンクの若芽の周りに点々と、まるで花びらを蒔いたような跡を散らしている。シアードはそれをまた、ひとつひとつなぞるように舌を動かした。
「駄目……駄目です……」
ライラは身体の芯まで熱くしていた。
恥ずかしかった。今自分を蕩けさせている悦びが、シアードの愛撫を受けている胸からまったく別の場所へと伝わるのがはっきりとわかるからだった。
こんな感覚は、初めてだった。彼の手が乳房を弄ぶと、下腹のずっと奥の方が締めつけられるように疼くのだ。
「や……やめて……」
狂おしくこみ上げてくる快感にもがいて、ライラの爪先がシーツを掻いた。ドレスのスカートが腿を滑り落ち、白く伸びやかな足があらわになった。
「お願い……助けて。私……私……っ」
切羽つまったその声に、左右の乳房に交互に口づけていたシアードが顔を上げた。
「私……おかしくなってしまう」
何かに縋っていないとあっという間にどこかにさらわれてしまいそうで、ライラはシアードに縋りついた。
「知りたいと思うのは、自然な欲求だ。恥ずかしがることはないと教えただろう?」
シアードの胸に埋まり、ライラは嫌々と首を振った。
「ライラ。俺のものになれ」
シアードはまたあの、とても本気で言っているとは思えない台詞を口にした。
だが、以前と違うのは、タチの悪い嘘だと頭から突き放したくない気持ちがライラにあること。もしかしたら、本気で言ってくれているのだろうか? と、そう思いたがっている自分に気づいて、彼女の心は揺れる。
「俺のものになれば、お前を最後に残すと約束する」
シアードは囁きながら、すでに膝の上までまくれ上がってしまっているドレスのなかに手を差し入れた。
「ん……」
左の膝頭に置かれた指がそのまま上へ上へと滑るに従い、シアードを虜にした足が少しずつあらわになる。
「……っ」
ライラは息をつめ、されるがまま……。
逃げたい。逃げたくない。
二つの気持ちの間で揺れるライラは、さながら罠にかかったうさぎだった。シアードは時間をかけ、もうこれ以上はどこへも行けない檻の際までライラを追いつめる。
「俺にここまで言わせた褒美に、お前が知りたかったことを教えてやろう」
ライラの喉がひゅっと鳴った。シアードの手がするりと、腿の内側へ吸い込まれるように動いたからだ。
彼の指が、どんな男もまだ触れたことのない秘密の場所に当てられる。薄い布地にくるまれ隠された、その場所に。
感じているのか? と、砂糖菓子の声が優しく尋ねる。
ライラは答えられない。
ライラは、ただ熱かった。彼の指が当たっている場所が熱をもって脈打っている。動かされてもいないのに、なぜか得も言われぬ疼きがじわじわと広がっていくのだ。
「とっくにここで感じていただろう?」
乱れた栗色の髪から覗くうなじに、シアードのキスが落ちる。彼はあやす優しさで繰り返し口づけ、ライラの言葉を引き出そうとする。
「こんなにしているのがその証だ」
ライラは必死に首を横に振っていた。
指が抗うライラを笑って、意地悪く動きだす。
「やめ……て……」
シアードは短い線を何度も引く仕種で、指を前後に滑らせた。ライラは、その場所から下着を濡らすほどに溢れてくるものを感じていた。
「快いのか?」
シアードの囁きは誘惑。
すべてを認めて解放されればもっと快くなる、先へ進めるとライラを誘う。
初めての快感が、今にもライラを呑み込もうとしていた。
「あ……ん……。あ……」
シアードが大きく覆い被さるようにして愛撫にいっそう力を込める頃には、ライラの声は止まらなくなっていた。
ライラは感じていたのだ。彼に胸のふくらみに触れられた、あの時から……。シアードの与えてくれる愛撫に、身体は素直に応えていた。それを彼が教えてくれた。
男女の秘め事について自分が書物から得ていた知識は、ただ上っ面をなぞっただけのものだったのだと、ライラは思い知らされている。男との濃密な時間は粛々と手順を追って進んでいくものと信じていたのに、現実は……。
ライラはシアードに抱きしめられているだけで、切なく追いつめられる。どこへ向かっているかもわからない悦びの波にさらわれ、息もつけない。 -
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