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あらすじ
匂いフェチの王弟公爵×伯爵令嬢の攻防戦!?
王弟公爵のシルヴィオにいきなりプロポーズされたジゼル。まだ婚約したばかりなのに、シルヴィオはすぐに同衾を求めてきた!「あなたの匂いは私を常に発情させてやまない」ってどういうこと!? 耳をくすぐるシルヴィオの美声にゾクゾクしているうちに、ジゼルは深い愛撫まで許してしまう。初心な身体は甘やかな快楽をすっかり覚えてしまい……!?
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試し読み
肩を抱き寄せられ、耳元で深く息を吐かれた。シルヴィオの言葉に偽りは感じられない。
――体臭に吐き気を感じることもあるって、それは想像以上に大変だわ……。お立場もあるし、弱みは見せられないからずっと平静を保たないといけないもの。
男女問わず、嫌悪を感じる臭いがあるのだろう。どのような臭いなのか言語化させるのは難しいし、気持ち悪さを制御することも辛い。
自分の匂いに安心感を覚えてもらえるのは、きっと光栄なことなのだろう。
縋るように触れられた肩に、自然とジゼルの神経が集中した。
――大きな手だわ。私の肩がすっぽり収まってしまう。
力強くて逞しさを感じる。でも力加減はしているので、痛みがあるわけではない。
心臓がドクドクと主張を激しくした。意識しないようにと思いながらも意識してしまうのを止められない。
シルヴィオが顔を寄せて来る。肩からするりと腕の方にまで手を滑らせた。その手つきがいやらしく感じてしまうのは、自分が無意識に望んでいるからなのだろうか。
――でも、やっぱり私は安心感なんて抱けないわ!
空いた手で髪を一房とられ、シルヴィオの手の上を滑っている。この髪は嫌いではないが、夜空の色よりさらに濃くて、黒檀との表現がぴったり合う。
シルヴィオの手が髪に触れているのを眺める。彼はどうやらその手触りを気に入ったらしい。
「ジゼル」
「……ッ」
至近距離で触れられながら、低く掠れた低音で名前を呼ばれる。ドクンッと大きく心臓が跳ねた。
「顔が赤くなった。少しは私を意識しているようだな」
そんなの、見ればわかることだ。わざわざ確認をとるなんて、意地が悪い。
「では本当にドキドキしているか、確認しようか」
そう言った直後、シルヴィオはあろうことかジゼルの左胸に手を置いた。
「……っ!」
薄いネグリジェの上とはいえ、乙女の胸を触っている。
あまりにも堂々とした行動に、ジゼルは茫然とした。流れるような動作でなんの躊躇もなく、婚約者の胸に触れてくるなど紳士ではない。
成長途中の胸は豊満とは言い難い。シルヴィオの男性的な手ですっぽり収まる大きさなのだと、頭の片隅で冷静に分析していた。
「ああ、ジゼルの鼓動が私の手にも伝わって来る」
胸に手を当てているだけ。そこに淫靡な空気はないが、もしシルヴィオの指が不埒にも動き始めたら話は別だ。
「……これはなんの確認を……」
「私を性的に意識しているかの確認だな」
――性的って言った!
先ほどまで異性としてと言っていたのに、もはや取り繕う気もないらしい。
ジゼルの身体はぶわりと緊張感に包まれる。蕩けるように見つめてくるシルヴィオの瞳の奥に、獰猛な獣を見つけてしまった。
美しいアメジストの瞳は神秘的なのに、優美な肉食獣が獲物を捕らえている目に見えてきた。
――怖い。でも……。
心臓もうるさい。だがそれが恐怖心からではないことにも気づいている。
一歩踏み出してしまったら、きっと自分が自分でいられなくなってしまう。その勇気を得るには互いを深く知らない。
まだ信頼関係を構築中の段階だ。心と身体を完全に預ける覚悟は決まっていない。
「私はあなたが嫌がることは決してしない。でももう少しだけ、あなたの心を私に預けてほしい」
まっすぐに視線を合わせて懇願される。その真摯な台詞と熱量に、ジゼルの頭はクラクラしてきた。
――声が、近い。
こんな風に見つめられて、拒絶できる女性がいるだろうか。
美しい宝石のような瞳がまっすぐに自分だけを映しているのを見つけると、そこはかとなく独占欲に似た感情が生まれた。
――他の美しい女性ではなく、私だけがこの人を癒せるのなら……私ももっと歩み寄らなければいけないかも。
見つめられるだけで思考がまとまらなくなってくる。瞳の奥の熱に溶かされてしまいそうだ。
「は、い……」
ジゼルの返事はとても小さい。
だが確実にその声を拾い、シルヴィオはふわりと微笑んだ。
「ありがとう。それでは移動しようか」
「え、……っ!」
急に目線が上がった。ジゼルの身体はシルヴィオに抱き上げられている。
子供のように縦に抱かれ、お尻の下の逞しい腕が体重を支えていた。背中にも手が回っているとはいえ、不安定な体勢に思わずシルヴィオの頭を抱きかかえる。
「いいね、ジゼルから抱き着かれるのは。とても心地いい」
「もう、いきなり、なにを……!」
寝台までの距離はそう遠くない。抱き上げられていた時間は僅かだ。
だがその所為でジゼルの心臓は先ほどよりももっと激しく反応した。こんな風にされるのは、子供の頃父にされた以来だ。
寝台の真ん中にそっと寝かせられる。起き上がる間もなく、シルヴィオが覆いかぶさってくる。
艶然とした微笑は美しく、その表情を眺めているだけでクラクラ酔いそうになる。
――いえ、もう酔っているかも……。
シルヴィオから漂う色香に溺れそうだ。
すっと頬の輪郭を、指先で撫でられる感覚がくすぐったい。愛撫のようにも感じられて、ジゼルはどうしたらいいのか視線を彷徨わせる。
「私だけを見て。目を逸らさずに」
――それは、難易度が高いような……。
ずっと見つめてくる相手を見つめ返すのは気恥ずかしい。熱っぽい眼差しを見続ける自分の表情がどんな顔をしているのかもわからない。
早々に無理だと判断し、ジゼルは拒絶する。
「……お断り申し上げます」
顔を横に向けて視線を外すが、逆にシルヴィオにとっては好都合になった。
「そう、乙女なジゼルは恥ずかしがり屋さんだったか。では目を瞑っててもいい」
ほっと安堵の息を吐いた瞬間、ジゼルは首元に生暖かいものが触れているのを感じた。
「ひゃあ……!」
間近で感じる吐息に柔らかな皮膚と湿った感触。
ざらりとした肉厚ななにかが首筋を這っている。それがシルヴィオの舌であるというのはすぐに気づいた。
「や、なにされて……っ」
「ジゼルの首筋にキス」
「でも今舐めましたよね!?」
「美しい肌を見ていたら、本能的に食べてしまいたくなるだろう?」
カリッ、と首筋に甘噛みされた。もちろん血が出るほど強くではないが、その瞬間ジゼルの肌が粟だった。
「――ッ!」
首筋は性感帯であり生き物の急所だ。そこを狙われるというのは、本能的な危機感も強くなる。と同時に、一瞬で快楽に火が灯された。
「ン……ダメ、耳はもっと、ダメです……!」
ぴちゃぴちゃと唾液音が鼓膜をくすぐる。シルヴィオがジゼルの耳殻を舌先でなぞり、耳の中を舐めたのだ。
唇で耳たぶを柔らかく攻められて、ジゼルの小さな口からは熱を帯びた息が吐き出された。
「はぁ……んっ」
「ジゼルは耳が弱いからね」
そう言いながら容赦なく耳ばかりを攻めてくる。
シルヴィオの息遣いも唾液音も、もちろん劣情が滲んだ美声もジゼルの理性を徐々に薄れさせた。代わりに快楽の度合いが強まっていく。
「そこで、喋らな……で」
「どうして?」
「だって、声が……んっ」
「ジゼルは私の声に敏感になってしまうから?」
意地悪く質問され、ジゼルは小さく頷いた。もう知っているのに、わざわざ確認してくるのがずるい。
「あなたの全身の匂いを嗅いで舐めまわしたい」などととんでもない台詞を言われていても、反論も抗議もできない。
「あ、なに……ひゃ……!」
シルヴィオの手がするすると動き、ジゼルのネグリジェを剥いてしまう。
気づけば昨晩同様、シルヴィオに肌を晒していた。むき出しになった胸に、シルヴィオの熱っぽい視線が向けられる。
ジゼルは弱々しくシルヴィオの胸を押そうとするが、すぐにその手を掴まれた。
指を絡め、シーツに押し付けられる。シルヴィオの麗しい顔が近づき、ジゼルの胸に食らいついた。
「アア……んっ」
チュ、チュッとリップ音が響く。シルヴィオの魅惑的な声に反応するかのように、ジゼルの官能が引きずり出される。胸の頂はすぐにぷっくりと尖り、シルヴィオに弄られるのを悦んでいるかのようだ。
――あ、ダメ……。
思考がぼやける。体内の熱がくすぶり、呼吸が荒くなる。
舌先で胸の先端を転がされるのが気持ちいい。甘噛みをされると、背筋に電流が走る。
「ンン……ッ!」
「ジゼル、私をもっと意識して。怖いことはなにもしない、ただ気持ちよくなればいい」
乾いた指先が反対側の胸を弄りだす。くにくにと赤い実を摘ままれると、下腹が切な気に収縮を繰り返した。じゅわりとした蜜が薄い下着を湿らせる。
――お腹の奥、ムズムズする……。
拒むべきだと頭の片隅で思うのに、身体はシルヴィオの熱を受け入れてしまう。高まった熱はどんどんくすぶり続け、次第に出口を求めて体内を駆けまわる。
ジゼルの口からは熱い吐息が漏れていた。小さく喘ぎ、シルヴィオを拒めずにいる。
「甘い匂いがする……ジゼルの香りが一番強く漂うところを、もっと感じたい」
シルヴィオが好む香りを自分が発している自覚は未だにないが、彼に匂いが好きだと言われることも受け入れつつある。
これは同情なのだろうか。シルヴィオの難儀な体質を憐れんでいるのだろうか。
――わからない……でも、イヤじゃない……。
求められることも、少しずつジゼルの自尊心を満たしていく。まっすぐ見下ろされながら、情欲を秘めた目で焼き焦がすように触れられれば、抵抗する気力は湧かなかった。
「はぁ……ジゼルの香りに酔いそうだ……」
「あ、あぁ……っ、や、ンアア……」
シルヴィオがジゼルの膝を立たせた。彼女の秘められた場所に、シルヴィオの顔が埋まっている。
ジゼルが零した蜜がたっぷりしみ込んだ薄い布に、シルヴィオは鼻を押し付けていた。彼の鼻先がジゼルの蜜口を刺激する。じゅぷ……と、水音が小さく響くが、その音すら官能を高める要素となった。
「ジゼル……黙ってこんなに濡らしてたとは、いけない子だ」
シルヴィオが強く吸い付いた。淫らな音が鼓膜を犯す。
「やぁ……ッ」
鼻先がぐりぐりと花芽を押しつぶし、シルヴィオはジゼルの淫靡な匂いを堪能する。
直接は触れられていないのに、薄い布はまるで存在していないかのように、シルヴィオに与えられる刺激を享受する。溢れる蜜が太もも付近を濡らし、シルヴィオの口周りも湿らせていることだろう。
尖らせた舌が、蜜口を刺激する。入り口をくりくりと突かれ、指で花芽をグリッと弄られた。ジゼルの腰がぴくんと跳ねた。
「アア――……ッ」
熱が霧散し、ジゼルの身体から力が抜けていく。呼吸は荒く、目の焦点も宙を彷徨っていた。
「……本当は私の欲をすべて受け入れてほしいけど、それはまだ酷だから……今はあなたの匂いを堪能するだけで我慢している」
「そ、……しゃべらな、……で」
そんなところで話されるだけで刺激になるのだ。脚に力が入らなくなる。
上体を起こし、シルヴィオがジゼルの顔を覗き込んだ。妖しく光るシルヴィオの瞳はしっとりと濡れており、ジゼルを焼き焦がそうとする。 -
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