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試し読み
「誰かとこんなふうに抱きあったことがある?」
そんな経験などあるはずがないと、ルージェナは懸命に首を振る。
「俺が初めて?」
肌に直接問うかのような質問に、ルージェナがこくこくと必死に頷くと、エリアスはまた深い息を吐いた。
「まいったな……」
彼は先ほどからそう呟いているが、何かよほど困ったことがあるのだろうかと、ルージェナは不安になる。
「あの、エリアス……」
問いかけようとした声に、ため息のような言葉が重なった。
「嬉しくて泣きそう……」
「────!」
驚いて顔を跳ね上げたルージェナは、その時確かに、あの美しい瞳を潤ませたエリアスとしっかり目があった。
「あのっ……!」
どくどくと心臓の音ばかりが、胸を突き破って飛び出してきそうに大きくて、声を発したものの、何を言ったらいいのかわからない。
顔を真っ赤にしてエリアスを見上げるルージェナから、目尻をうっすらと赤くしたエリアスは、顔を逸らす。
「見るな。誰かのものになる前に、奪ってしまおうなんて考えている卑怯者の顔……」
「エリアス……?」
「そのくせ目の前にしたら、自分でも驚くほどに欲しくて、本音はいったいどっちなんだか、もうちっともわからない……」
エリアスの大きな手が、ルージェナの胸の膨らみに触れてきた。身長のわりに大きなその膨らみを、そっとてのひらで包まれて、ルージェナは肌を震わせる。
「あ……」
「俺でいいの?」
また首筋に問いかけられて、ルージェナは熱い吐息を漏らした。
「私の特別は……エリアスだから……」
瞬間、嚙みつくように唇を重ねられた。
「俺の特別もルーだよ。世界でたった一人、誰よりも大切な女の子……」
歯と歯がぶつかるほど激しく何度も口づけながら、エリアスの右手が荒々しくルージェナの胸の膨らみを揉む。
「んっ……んぅ……っふ」
真っ白なシーツの上に寝かし直されたルージェナは、シーツに広がった長い黒髪がうねるほどに、激しく乱された。
何度口づけても飽きることを知らない唇は、ルージェナの顔じゅうにキスの雨を降らせながら、次第にその位置を下げていく。頰も顎も首も、余すところなく口づけられて、しどけない息を漏らす喉にも、そっと触れる。
「んっ……はあっ……」
大きく上下する胸は、その膨らみを大きな手の中に収められている。指の感触を覚えこまされるかのように、何度も揉まれて揺すられて、頂点で硬くなって震えている突起を、指先でいたぶられる。
「んんっ……あぁ……っ」
切ない声を上げる喉を離れて、更に下方へと移動する唇が、その部分を口に含もうとしているのだと本能でわかる。ルージェナはささやかな抵抗に身体をくねらせたが、上から乗りかかっているエリアスに身体を押さえこまれて、どこにも逃げ場はない。
恥ずかしさに腕を目もとに押し当てるルージェナの胸に、白金色の柔らかな髪がかかった。
「あっ、ん……や……」
大きな手に包まれたままの膨らみに、唇が寄せられた感覚がする。目を閉じているのに、それをありありと感じてしまい、身を捩るルージェナの未熟な蕾を、柔らかな粘膜がそっと包みこむ。
「あっ、あ……っ」
エリアスの美しい唇が、自分の胸を食んでいると思うだけで、たいへんな緊張だった。目を開けて確かめてみることなど、とてもできない。
それなのに手や唇は艶めかしく、慣れない行為に過剰に反応してしまうルージェナの身体を苛む。胸を揉まれながら、同時に先端を吸われているとわかった。つきんとした痛みにも似た不思議な感覚が、身体を突き抜けていく。
「や、ぁ……ああっ」
顔を伏せられていないほうの胸も、くるくると指先で先端を刺激される。
「あっ、やめ……あぁん」
ルージェナの声に甘さが増せば、それだけエリアスの行為も激しくなり、くねくねと捩らせる身体から、ドレスをどんどん脱がされていく。
「ルー」
ふいに呼ばれるので、目に押し当てている腕を除けたら、目の前にエリアスの顔があった。かすかに息を弾ませて、瞳の色を濃くした、今まで見たことのない艶っぽい顔。
ルージェナをとてもどきどきさせる瞳にじっと見つめられ、そっと瞼を閉じると、ゆっくりと口づけられた。
「ん……ふ……っ」
舌を絡ませる濃厚な口づけをしながら、エリアスの手がルージェナの身体から身に着けているものを全て取り去っていく。
ドロワーズを下げられる時にかすかに自分から腰を浮かしてしまい、それを恥ずかしく思いながらも、ルージェナは口づけに没頭することにした。
互いを深く求めるような口づけは、ルージェナの心境にとてもあっている。
ほんの少しでいいから自分のほうを見てほしくて。わずかでいいから、微笑みを見せてほしくて。傍にいたくて。もっと近づきたくて──。
もっともっとと、長い間エリアスだけを追い続けたルージェナの気持ちと、とても合致していた。
『嬉しくて泣きそう……』などとエリアスは言ってくれたが、本当に泣きそうなのはルージェナのほうだ。
こうして肌をあわせていても、唇を重ねていても、エリアスと本当にそんなことをしているという実感がなく、夢ではないかと疑う気持ちが大きい。
本当のことだという証拠がほしくて、もっとと求めてしまう心がとまらない。
「ルー」
長い口づけの末にやっと唇を離したエリアスが、もう一度ルージェナを呼んだ。
涙で濡れる睫毛を瞬かせて、重い瞼を開いてみたら、まだ目の前にその瞳があった。
ルージェナの顔をじっと見つめながら、エリアスの大きな手が、太ももにかかる。
(あ……)
彼の下で大きく脚を開かされ、自然と腰が引けた。その距離を詰めるかのように、エリアスが腰を進めてくる。
誰にも触れさせたことのない場所に、熱いものの感触があり、ルージェナの心臓は、もう今にも壊れてしまいそうに鳴る。溶けるほどに身体が熱くて、はあはあと大きな息しか吐けず、頭の中がぼーっとしている。
おそらく表情も、熱に浮かされたようなみっともない顔をしているに違いないのに、エリアスがまるで宝物でも見るかのように、愛しさと優しさを滲ませた表情で見つめてくるので、喉の奥が熱くなる。涙が溢れてくる。
ルージェナの涙に唇を寄せて、エリアスが腰に手をかけた。
「俺のものにしていい?」
もうあとほんのわずか、エリアスが腰を進めてしまえば、ルージェナの許可などなくともそうなるのに、わざわざ問いかけられるので、ますます涙が溢れる。
ずっとそのあとを追っていた人に、遠くからでも一目見たくて焦がれていた人に、そういうふうに訊ねられて、ルージェナが首を横に振るはずがない。
ただでさえはっきりとしない頭に、ますます血液が集まるのを感じながら、ルージェナはこくりと小さく頷いた。
「ありがとう」
頰にそっと口づけてから、エリアスはルージェナの華奢な身体を改めてシーツの上に組み敷いた。
大きく開かされた身体の中心に、熱いものが挿入ってくる感覚がある。
「んっ……あ……っ」
とても苦しく、身体をひき裂かれるような痛みがあるのに、それがエリアスだと思うと、嬉しい涙しか浮かばないのはなぜだろう。
「ごめん、ルー」
何度も謝りながら、エリアスは腰を進めたり逆に引いたりして、少しずつルージェナの胎内に押し入ってくる。
それを幸せだと思うルージェナは、彼の謝罪に首を振り続けた。
「んっ……あっ……エリアス……っ」
身体を押し開かれていく未知の感覚が怖く、必死に宙をかく手を、そっと摑まれて、彼の背中にまわされる。
「大丈夫だよ、身体の力を抜いて……」
言われるままに自然体でいることはルージェナにはとてもできなかったが、抱きしめてくれる腕に縋って、懸命にエリアスを受け入れようとした。
「っ……あっ……ん……」
何度もくり返される口づけが、緊張に硬くなる身体を、ゆっくりとほぐしていく。強引に押し入るのではなく、少しずつ結合を深くされていき、エリアスと繫がっている感覚を、まざまざと思い知らされた。
(あ……あ……こんなの……)
本当にこれでよかったのだろうかと迷う気持ちはあるが、圧倒的な幸福感がそれを凌駕する。他の誰よりも深く、他には決してないような繫がり方をして、『エリアスは特別』というルージェナの認識に、確固たるあと押しを与えられる。
「ん……エリアス……っ」
「ルー」
呼べばすぐに唇を重ねてくれる彼もまた、ルージェナを『特別』だと言ってくれた。その彼と、深く濃密に一つになっていくことが嬉しい。
「終わったよ」
意識を半分飛ばしたような状態で、はらはらと涙を溢れさせていたルージェナの頰に、またエリアスが唇を寄せた。
「もう俺のものだよ、ルー」
熱をたっぷりと孕んだ声に唆されて、わずかに身じろぎしてみて、身体の奥深くまで彼に押し入られていることを実感する。
「あ……」
またぽろりと、熱い涙が零れた。
それに唇を寄せながら、汗で額に貼りついた前髪を、エリアスがそっとかき上げてくれる。
「ごめん……苦しい?」
自分の胎内が大好きな人でいっぱいに充たされている感覚を、どう表現したらいいのか言葉が思い浮かばず、ルージェナは両手で顔を覆って、ただ首を振り続けた。
「ちがっ……嬉しい……」
涙混じりに答えたら、強く胸に抱きしめられる。
「俺も……」
エリアスの温もりに包まれて、確かな熱を身体の奥に感じ、幸せに溺れるように、ルージェナはそっと目を閉じた。
初めての行為に身体は悲鳴を上げていたし、あり得ない大きさのものを埋めた場所はいつまでも疼痛を残していたが、それすら幸せだった。
大好きな人の胸に抱かれて、次第にまどろみ、幸せな眠りについた。 -
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