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あらすじ
そんな顔で見つめられたら、我慢できなくなる
歌姫を目指す少女は過保護な侯爵に囲い込まれて!?平民だが運よく国立音楽院で歌を学べることになったフローラは芸術祭の独唱を気に入られ、富豪侯爵イヴァーノの支援を受けることに。好みの歌姫を育てたいという彼はフローラに惜しみなく援助をし、最高級の教育を受けさせてくれる。「わたしは君をとても好ましいと思っている」惹かれ合う二人だがフローラは自分と彼が釣り合わないことに悩み―!?
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キャラクター紹介
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フローラ
歌うことが好きな少女。王都の名誉ある音楽院の生徒で、通称『歌姫』を養成するクラスに通う。 -
イヴァーノ
トゥーリオ侯爵。富豪侯爵や海運王と言われていてフローラに歌姫としての支援を申し出る。
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試し読み
クリステルの言葉に、フローラははっとする。
『歌姫』になる。それは、ラポール国立音楽院に所属する学生であれば、全ての学生が目指すべきものだ。歌を歌うために、そして歌を聞かせるために、フローラたち学生は日々研鑽を積んでいる。
「支援は施しじゃないわ。わたしたちは、歌という形でその対価を支払っているもの。だから、わたしたちは、『愛人』じゃない」
あまりにも心無いことを言われるがために、フローラ自身も気弱になっていたのだろうか。支援制度は、この国の未来のための先行投資。より優秀で実力のある『歌姫』を世に送り出すための『支援』であるというのが、この制度の根底にある。
だからこそ、支援者と認められる者は、ラポール国立音楽院側から厳しい精査を受けることになる。それを知らない者たちが何を言おうと、無知を曝しているだけに過ぎない。
「だから、周りに何を言われてもいいのよ。あまりにもひどいものなら、きっと侯爵様が助けてくれるわ」
現に王女殿下の時も、イヴァーノが庇ってくれたのだ。
「まぁ、切ない片思いも、恋のひとつだと思うけれどね。あー……でも、フローラたちの場合は、両片思いになるのかしら」
クリステルがそう言って、含み笑いをする。
「でもね、フローラ。片思いも楽しくて素敵なことだけれど、両想いになるともっと楽しいのよ」
「……楽しい?」
「えぇ、もちろん! だって、好きな人が思いを返してくれて、お互いに相手の特別でいられるのよ? これって、とても素敵なことでしょう?」
「……」
「だからね、フローラが侯爵様のことが好きならば、恋人になってみるべきよ。きっと、もっと世界が広がるわ!」
そう言って、クリステルは満面の笑みを浮かべて見せた。◇◇◇
イヴァーノの薄い唇に視線がいってしまえば、自ずと先日の記憶が蘇る。それは、どこかフローラを落ち着かない気持ちにさせて、彼女はそっと視線を外した。
侯爵家の応接室。隣にイヴァーノの執務室があるというその場所は、普段は親しい人を迎え入れる時に使用する部屋らしい。
本当ならば、今日はオベール夫人のレッスンを予定したのであったが、夫人の体調不良を理由に断りの連絡が来たのは、まだつい先ほどのこと。すでに侯爵邸に到着していたフローラは、今日は自宅にいたイヴァーノと共に、こうして二人だけの茶会を開くことになった。
そんな二人の距離は非常に近い。手を伸ばせば届く距離に彼がいるという事実が、さらにフローラを落ち着かない気持ちにさせた。
先日のことがあってから、こうして顔を合わせるのは初めてだ。
しかも、クリステルに指摘されてから、己の気持ちを自覚したためか、どうにも気恥ずかしい。
しゅっとした細い顎のラインに、僅かに弧を描く薄い唇。
あの夜は、突然のことで正直あまり覚えていない。そこに再び触れたら、どんな感触がするのだろうかと想像して、フローラはぶんぶんとその思考を追い出すように頭を振った。
「……フローラ? 今日は、調子が悪いのかい」
手を止めたイヴァーノに、少しだけ案じるような視線を向けられて、フローラは自分の思考に顔を真っ赤に染めた。
「な……なんでもない……ですッ」
「本当に? ここに心あらずな感じだし……何か心配ごとでも?」
「いえ……あの……」
貴方の唇に触れたらどんな感じがするのかと考えていたなどと、当然口にすることができるはずもなく、フローラはしどろもどろに動揺するしかない。
「何かあるのなら、言ってくれないとわからないよ、フローラ」
「いえ……だから……その……」
「フローラ」
窘めるように、イヴァーノがフローラの名を呼ぶ。
「あの……その……えっと……」
真摯な瞳に見つめられて、逃げを打つこともできず、かと言って、うまい誤魔化しの言葉も出ずに、フローラはえいままよとばかりに素直に吐き出した。
「……侯爵様を……見ていました」
「……わたしを?」
イヴァーノが、その瞳を細めてフローラを見る。コトリと音を立てて、彼が手にしたペンをテーブルの上へと置いた。
「その……クリステルが、く……くちづけをしてドキドキしたら……それは恋の始まりだと言うので……」
真っ赤に顔を染めて突拍子もないことを言い出したフローラに、イヴァーノは一瞬動きを止めた。そして、その意味を考えて、僅かに目元を染める。それを押し隠すように、イヴァーノはニヤつきそうになるくちに手を当てた。
「……そうか。それで、わたしの唇を見ていたと……」
「……ッ」
息を呑んで顔を真っ赤に染めたフローラは、正に食べてくれと言わんばかりのご馳走のようだ。そんな彼女の姿に、イヴァーノは人知れず舌なめずりをする。
細めた瞳が、貪欲なまでにギラギラと光を放つ。
「わたしとの口づけは、ドキドキした?」
僅かに声がかすれていることに気が付きながらも、イヴァーノはフローラの唇に触れるギリギリの位置まで顔を寄せた。
「……こうしゃく、さま……」
吐息のような声でフローラがイヴァーノを呼ぶ。
「答えられないのであれば……もう一度、試してみようか」
拒否されないことをいいことに、イヴァーノはそのままフローラにその唇を重ねた。
一瞬触れるだけの口づけ。瞳を僅かに見開いた彼女に、イヴァーノが小さく笑う。
「フローラ、口づけをする時は、瞼は閉じるものだよ」
そう言って、そっと目元に大きな手を添えた。それと同時に、再び唇が優しく触れる。
彼が手を離した時には、閉じられた瞼がうっすらと開く。
「拒否されないのなら……このまま続けてしまうよ」
低く甘く囁いた声が、小さく笑い声を含む。
覆いかぶさるような大勢になったイヴァーノが、今度はそのまま深く口づけた。混乱するフローラの歯列を割った彼の舌が、彼女の舌を捉えて絡められる。その未知の感触に、フローラはビクリと体を震わせた。
何度も角度を変えては口づけられ、口内のあらゆる場所を舐められる。
唇が離れた頃には、どこかぼーっとイヴァーノを見上げるしかなかった。そんな彼女に、イヴァーノはとろりと甘い笑みを浮かべた。
そして、そっと心臓の上へと手を置いた。
「ドキドキ……しているね」
「こうしゃくさま……」
「イヴァーノと、呼んでくれないか」
「……イヴァーノさま?」
「あぁ、それでいい。わたしとの口づけは、不快だった?」
そんな問いに、フローラはふるふると頭を振った。むしろ不快どこから、胸はドキドキと大きな音をさせている。
「じゃあ、君の友人の言葉を信じるなら、フローラは僕に恋をしてくれたのかな?」
「こい……」
どこかぼんやりする頭で彼の言葉を反復すれば、イヴァーノが小さく笑った。
「ねぇ、フローラ。このまま君をわたしの恋人にしてしまってもいいかな? フローラが、可愛すぎるんだ……」
ちゅっと音を立てて再度唇にそれが触れて、じわじわとゆっくりその意味を理解したフローラは、難しいことを考えることもできず、その瞳に魅入られるようにこくりと頷いた。
彼の腕の中は暖かくて、力強いその腕はフローラに安心感を与えてくれる。その瞬間だけは、抱いていた不安など一切忘れてしまうほど……。
「ありがとう、嬉しいよ」
再度触れるだけの口づけを落として、イヴァーノはそのままフローラを膝に抱え上げた。
「きゃっ」
小さく悲鳴を上げたフローラを宥めるように、今度は頬に唇を落とす。イヴァーノの美貌が間近に迫り、フローラは恥ずかしさゆえに視線を逸らした。
そんなフローラをお構いなしに、イヴァーノは、そのままフローラのうなじに唇で触れた。
「……ッ」
小さく息を呑んだフローラを宥めるように、今度はその場所をべろりと舐め上げる。
「フローラ、可愛い」
耳元で囁いたイヴァーノが、そのままちろちろとうなじを舐める。
「やぁッ、そんなところ……ッ」
初めての感覚に体を捩ったフローラを強い力で抱きしめて、イヴァーノが喉の奥で小さく笑う。
大きな掌が、頬に触れ、そのまま唇を弄び、首筋を擽って、そっと体のラインを確かめるように体をなぞる。何度か往復したその掌は、二つの膨らみへと到達する。
フローラの今日の格好は、綺麗めなワンピースだ。当然ながらコルセットなどしておらず、イヴァーノの手の体温が、ダイレクトに伝わった。
「こ……こうしゃく……さまッ?」
「違うよ、フローラ。イヴァーノと呼びなさい」
お仕置きだとばかりに、舌を這わせていたうなじにちりっとした痛みが走る。
イヴァーノの掌が、フローラの膨らみの形を確認するように、柔らかく服の上から撫でる。それだけで、妙な気分にさせられる。体温が勝手に上がって、フローラは、ふぅっと悩まし気な吐息を漏らした。
フローラが拒否しないことをいいことに、イヴァーノの手は大胆にもフローラの膨らみを揉みこんだ。柔らかな肉が、彼の手によって形を変えた。
「ダメ……です……」
「ん? 何がダメなのかな? わたしにこうして触れられるのは、気持ち悪い?」
耳元でそう問いかけられて、フローラはふるふると頭を振った。
「……はずかしい」
素直にそう答えれば、イヴァーノが小さく笑った。
「でも、これは恋人同士なら当然する行為だよ」
「……そうですが」
フローラとて真っ新な無知ではない。寮生活をしていれば、男女のあれこれは自然と耳にするものだ。だからこそ、今何がなされているのか、ということは、頭では理解している。
ただ、聞くのと実際にされるのでは、こうも違うものかといたたまれない気持ちにさせられる。
「嫌だったら、言って。すぐにでも止める。フローラに嫌われるのは、本望ではないからね」
「そんな……嫌うだなんて……」
「だったら、もう少しだけ触れ合わせて……こうしてフローラが恋人になったことを、実感したいんだ」
そこまで言われて「否」と言えるはずもなく、フローラは羞恥心を堪えて、ぎゅっと目を瞑った。そんな彼女の姿に、イヴァーノが小さく笑って、頬に唇を落とす。
「ありがとう、フローラ。可愛いね」
その間にも、彼の手はフローラの膨らみを弄り、時折その先端を刺激する。その度に体がびくりと震えて、フローラは恥ずかしさに何度も頭を振った。
不埒な手は、いつの間にかフローラのワンピースのボタンを外し、下着の肩ひもを落とす。柔らかな乳房が顔を出し、先端の赤い乳首がつんっと自己主張する。
ぐにぐにと乳房の形を変えながらも、もう片方の手がフローラの下肢へと伸ばされる。秘められた場所を優しく撫でられれば、ぴりりとした何とも言えない刺激がそこから生まれた。
「ん……ッ、やぁ……」
小さく声を漏らせば、宥めるようにイヴァーノが首や頬に口づけを落とす。下着の上から秘められた場所を撫でられるだけで、じりじりと熱がこもり始めた。
「気持ちいいかい?」
「……きもちいい?」
これが気持ちいいということなのだろうかと僅かに首を傾げたフローラに、イヴァーノが小さく笑う。
「じゃあ、どんな感じ?」
「……なんだがじんじんするんです……もどかしいの」
「そうか、それがきっと気持ちいということだね。フローラの体が、快感を拾い始めているんだね」
「快感……」
「ほら、気持ちいいと言って御覧? もっと気持ちよくなれるよ」
「もっと……?」
「あぁ、もっとだ……。恥ずかしがることじゃない。言って御覧?」
「……」
「ほら、気持ちいいかい?」
グリっと強めにその場所を押さえられて、フローラはピクリと体を震わせた。
「あ……んッ……」
「ほら、フローラ? 気持ちいいだろう?」
「あん……ッ、きもち、いい……ですッ」 -
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