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あらすじ
決して、離さない
妹に婚約者を奪われたら天才宰相の花嫁に!?伯爵令嬢フィリスは、ある襲撃事件が元で身体に傷が残り、美しく華やかな妹に婚約者を奪われてしまう。すると事件の当事者である麗しの宰相サイラスから突然求婚されて!? 「決して離さない。あなたは私のものだ」事件の責任を取っているだけだと思っていたのに、独占欲をむき出しにしてくる彼。情熱的に愛撫され、身も心もとろとろに蕩かされて…!?
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キャラクター紹介
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フィリス
伯爵令嬢。「金の令嬢」と呼ばれる妹と比べられ「銅の令嬢」と呼ばれている。 -
サイラス
名門公爵家の当主にして現国王の宰相。女嫌いで二十八歳にして独身。
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試し読み
フィリスはそこまで気を遣わせているのだと申し訳なくなった。
(閣下は私程度の女に心を砕きすぎだわ。責任感から結婚してくださるのに。なら一層心を込めてお仕えしなければ)
責任感からの結婚というフレーズに胸がズキリと痛むのを感じる。
「何をおっしゃいますか。できる限りのことはさせていただきとうございます。だって、閣下には感謝しかございません。私のような傷物を引き取っていただいて……」
「……」
サイラスが黙り込んだので慌ててしまう。
(いけない。こんな言い方は卑屈すぎるわ。でも、他になんて感謝していいのかわからない)
結婚も肉体も未来も失い、行き場を失くした自分などと結婚してくれるのだ。フィリスとしては最大級の感謝のつもりだったのだが──。
「フィリス」
名を呼ばれ応える前にベッドに押し倒されたので驚いた。
「か、閣下?」
両手にサイラスのそれが絡められる。
「今夜から閣下ではない。サイラスと呼んでほしい。私はあなたの夫なのだから」
アイスブルーの瞳に炎が点っている。
「で、ですが……」
不敬過ぎると説明しようとしたのだが唇を塞がれ吐息ごと言葉を奪われる。
「んっ……」
セドリックと躱したそよ風のような口付けとは全然違う。嵐を思わせる激しく熱い口付けだった。
「んんっ……」
動揺し、わずかに開けた唇の狭間からぬるりと熱い何かが滑り込む。それがサイラスの舌なのだと気付いて、思わず肩をビクリとさせいやいやと首を振った。
(こ、んな……)
こんな口付けなど知らない。
舌先で自分のそれの表面をざらりと撫ぜられ思わず瞼をかたく閉じる。
「……っ」
心臓が早鐘を打ち全身が熱を持つのを感じた。
舌の輪郭を丁寧になぞられ、絡め取られ、唾液が混じり合うごとに背筋がぞくぞくと震えてしまう。音を立てて吸われると、吐息ごと奪われ、息苦しいはずなのに、止めてほしいとは思えなかった。
(わ、たし、どうしてしまったの)
サイラスの唇が不意に外される。
サイラスはその眼差しを注ぎ込むようにフィリスを見つめていたが、やがてそっとその頬を撫で「あの坊やのことは考えないでほしい」と囁いた。
「えっ……」
確かに、一度セドリックの口付けを比べてしまったのだが、まさか心を読まれているとは思わなかったのでぎょっとする。
「フィリス、あなたは私の妻だ」
頬に添えられたサイラスの指先にわずかに力が込められた。
「どうしても考えてしまうというのなら、考えさせないようにするまでだ」
「さ、サイラスさっ……」
言葉はまたもやサイラスの熱い唇に塞がれ、行き場をなくした。
上顎の輪郭を舌先でなぞられたかと思うと、再び舌を軽く、強くと緩急をつけて吸われ、唾液がくちゅくちゅと淫らな音を立てる。
もうサイラスのものなのか、自分のものなのかもわからない。
やめてほしいとは思わないのにひどく恥ずかしい。矛盾した感覚にフィリスが混乱していると、サイラスが体をゆっくりと起こし、ガウンの腰帯を解いた。
「……っ」
生まれて初めて見る生身の男性の肉体に息を呑む。
女性の自分とはまったく違う。肩と胸は筋肉で盛り上がっているのに、腹部は引き締まっている。柔らかな部分などどこにもない、裸身であるはずなのに鎧を思わせる肉体だった。
「……っ」
思わず目を逸らす。
古代の彫像さながらの美身を目の当たりにしてしまい、ますます自分の肉体に負い目を覚える。口付けの衝撃などもう吹き飛んでしまっていた。
サイラスの長い指がネグリジェのボタンにかけられた時には、つい「嫌っ」と拒絶の声を上げてしまった。
「フィリス?」
「も、申し訳ございません。無礼な一言を……」
情けなさに目の端に涙が滲む。堪らず顔を覆って切々と訴えた。
「閣下、もし私の体が醜いと思った時点で、止めていただいて構いません」
傷跡を確認したあの日の衝撃が脳裏に蘇る。本人ですら何匹ものミミズがのた打つようで気味が悪いと感じたのだ。男性のサイラスならなおさらだろう。
「愛妾を迎えていただいても構いません。もちろん、お二人の仲を邪魔するような真似もいたしません。お子様が産まれても心を込めてお世話します」
サイラスはフィリスを見下ろしていたが、やがてそのアイスブルーの瞳に青い炎が灯った。
「フィリス、あなたは私が妾を囲うような、そんな真似ができる男だと思っていたのか?」
フィリスは先ほどの謝罪がサイラスの怒りを買ったのだと震え上がった。
「そ、そういうわけではございません。……申し訳ございません。ただ、私は……」
「フィリス、私はあなた以外必要ない」
サイラスはきっぱりとそう言い切り、フィリスのネグリジェのボタンを外していった。
「あなた以外の女など……反吐が出る」
穏やかではない一言に、自分ではない何者かへの憤りを感じ取り、フィリスは目を瞬かせた。
(サイラス様は、昔女性と何かあったのかしら?)
だが、バークレイ男爵がサイラスは変人並の堅物だと苦笑していた。子どもの頃からサイラスを知っているのだから実際そうなのだろう。
「サイラス様……」
フィリスはなぜ愛妾を迎えられないのかを尋ねようとしたのだが、その前にネグリジェの合わせ目をはだけられて目を見開いた。
「さ、サイラス様っ……」
ネグリジェの下にはレースのシュミーズしか身に着けていない。肌が透けて見えるのでサイラスの目にも晒されていることになる。
「やっ……」
「あなたは美しいな」
思わず胸を覆い隠そうとしたのだが、その前にシュミーズをずり下ろされてしまった。
「……っ」
露わになった二つの豊かな乳房がふるりと揺れる。
「……っ」
フィリスはサイラスの視線が自分の傷跡をなぞっているのを感じた。首筋から胸の谷間に掛けて走る、赤く引き攣り、のた打つミミズにも似た醜い傷跡──
恥ずかしくて、情けなくて、堪えていた涙が一滴頬に流れ落ちる。
(やっぱり、こんな体じゃ……)
フィリスが二度人生を諦めかけたその時、不意に熱い何かが首筋に押し当てられた。
「さ、サイラス様……?」
サイラスの唇だった。
「あなたには辛い思いをさせた。……すまなかった」
引き攣った部分を舐められ思わず「んっ」と鼻に掛かった甘い声を出してしまう。
(私、傷跡を見られているのにどうしてこんな声……)
自分の気持ちがわからず混乱する。
サイラスはその間にもフィリスの傷跡に口付けを落としていった。
「あなたが命を懸けて私を守ってくれた証だ。何を醜いことがあるだろう」
「……っ」
思い掛けない一言に視界が揺れる。サイラスは言葉を続けた。
「フィリス、あなたは美しい。こんな傷跡程度であなたの価値は損なわれることはない。私が誰よりも知っている」
──私が誰よりも知っている。
耳を擽る優しい囁きにまた目に涙が盛り上がる。
(あなたはどうしてそんなに優しくしてくれるの)
決まっている。同情と責任感だ。
だが、それでもサイラスの言葉はフィリスのまだ血を流し続けていた心の傷に、そっと染み込んで癒やしてくれた。
「フィリス」
「あっ……」
サイラスの舌が淫らな生き物となってフィリスの傷跡を道しるべに、首筋から鎖骨、鎖骨から胸元へと降りていく。胸の谷間に顔を埋められ、くせのない銀髪に肌を擽られると、また背筋がゾクゾクとした。なのに、同時に体が火照るのも感じる。
(な、に。この感じ……)
次の瞬間、右の乳房の頂を唇で食まれ、「ひゃっ」と我ながら奇妙な声が漏れ出る。
「さ、サイラスさ……あっ」
今度はちゅっと音を立てて吸われ身を捩らせる。
「だ……め……いけません、そんなのっ……」
赤子でもないのに女性の乳を吸うなど有り得ない。そう抗議しようとしたのだがサイラスが止める気配はない。それどころか、今度は軽く囓ってフィリスを責めた。
「やぁんっ」
思わずシーツを掴みいやいやと首を横に振る。
「フィリス、あなたは随分感じやすい体をしているようだ」
「そ……んなことっ……」
淫らな女だと嗤われたようでぎゅっと瞼を閉じる。
体の中でも敏感な箇所のひとつをかたいもので刺激されているのだ。感じない方がおかしいではないかと抗議しようとすると、舌先で軽くしゃぶられていたそれを弾かれた。
「あんっ……あっ……あっ……」
この信じられないほどはしたない喘ぎ声が、自分の口から漏れ出ているのが信じられない。続いて手で強く、弱く、更に緩急を付けて揉み込まれると、ピンと立った胸の頂を中心に乳房全体がじわりと熱を持った。
フィリスは初夜の心得を学んでいたので、この淫らな行為が胸だけで終わるわけがない事を知っていた。
(私、これからどうなってしまうの……)
そんなフィリスの心の声に応えるかのように、骨張った長い指がフィリスの足の狭間に潜り込む。
「……っ!」
サイラスの指の動きとともにくちゅりと聞くに堪えない音が聞こえる。
胸を弄られながらうすうす感じていたのだが、フィリスの花園は生まれて初めての官能に反応し、すでにわずかだったが蜜を放出していた。男を惑わせ、誘い込む甘い香しく甘い蜜だ。
サイラスは指を引き抜くと、ぬらぬらと怪しく光る爪を舐めた。
薄い唇が濡れ端整な美貌を汚しているような罪悪感に駆られてしまう。
「あなたは随分と感じやすい体をしている」
「そ、んな……。そんなこと、言わないでくださいませ……」
煙となってこの場から掻き消えたい心境になる。
「たまらないな」
「あっ……」
サイラスは再びフィリスの花園に人差し指、中指を侵入させた。二本の指で花弁や花心の輪郭をなぞり、時折摘まんでフィリスの最も感じる部分を探っていく。
「……っ……っ……あっ」
フィリスは目をかたく閉じ、手の甲で口を覆って耐えていたが、人差し指が花弁を割って隘路に潜り込んだ時には、その異物感に思わず声を上げてしまった。
「やっ……」
誰も立ち入ることのなかった清らかな処女地を蹂躙されているのを感じる。だが、その行為は前段階ですらなかったのだとまもなく思い知ることになる。
中でくいと指を曲げられ体がベッドの上で撥ねる。
「……っ!」
足の爪先が反射的にピンと立った。
「あ……あっ」
隘路を掻かれ弱い箇所を抉られるたびに、視界に火花が飛び散りいやいやと首を横に振ってしまう。腹の奥から背筋、背筋から首筋に掛けて痺れが走った。
「ああっ」
子壺にたまった熱がトロトロと溶け出し、蜜となって足の狭間のブロンズの和毛とサイラスの手を更に濡らす。
何かに縋り付きたくて手を伸ばし、サイラスの肩を掴んだ。
「サイラス様……っ」
次の瞬間、隘路から指がするりと抜け出たかと思うと、熱くかたくはるかに質量の大きなすりこぎにも似た何かが宛がわれる。
それが男性にしかない肉塊なのだと気付いた直後、ぐぐっと押し入られる感覚に背筋を仰け反らせた。
「……っ」 -
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