書籍紹介
オネエな伯爵と臆病令嬢の婚約者ごっこ
オネエな伯爵と臆病令嬢の婚約者ごっこ
ISBN:978-4-596-58590-5
ページ:290
発売日:2019年3月15日
定価:本体590円+税
  • あらすじ

    男性恐怖症な令嬢のエスコート役は女装の麗しい伯爵様!?

    男性恐怖症のフィオナに紹介されたのは高名なデザイナーでもある伯爵セオドア。ドレスの着心地を追及するため、普段は女装をしているセオドアにフィオナも親しみを覚えていく。しかし、ある日、男性の姿で現れたセオドアにフィオナは甘く迫られる。「こんな風に男の形をしていても触れても平気?」彼からの濃厚な口づけにフィオナはときめいて!?

  • キャラクター紹介
    • heroine_VBL190

      フィオナ
      女学院にて育った、純真無垢な箱入り令嬢。軽い男性恐怖症。

    • hero_VBL190

      セオドア
      女性的な美しさを持つ麗人。針子という職業の関係から、頻繁に女装をする。

  • 試し読み

    「へー……フィオナの弟は中々優秀だね」
    先日の晩餐の会話をセオドアに話せば、彼はクスクスと楽しげに笑い声を上げた。
    「王都の学院に通う人たちがそれほどに皆情報に詳しいのであれば……わたしではきっと太刀打ちできないわ」
    そうぽつりと漏らして溜息を吐けば、セオドアが苦笑を漏らした。
    「皆が皆そうだとは思わないけれど、彼らはそういう教育を受けているからね。フィオナの学院とは種類が違うのだから当然でしょう」
    「そう?」
    本当にそうだろうかと首を傾げれば、セオドアがくしゃりとフィオナの髪を撫でた。
    「そうだよ」
    「でも……それではテディの役には立てないわ」
    女性には女性の社交がある。
    そこには、当然男性では知りえない情報も、たくさん含まれるのだ。そこから如何に必要な情報を取捨選択し、上手く立ち回るかが、妻としての役目だと言ってもいい。それを考えれば、フィオナは及第点すらもらえないだろう。
    そんな自分に小さく嘆息すれば、そのままセオドアに引き寄せられた。
    頬に当たる柔らかな素材のシャツの質感。シャツ越しに感じるセオドアの体温に、フィオナの心臓がドキリと音を立てる。
    「テ……テディ!?」
    焦った声を上げるフィオナに、セオドアは彼女の後頭部にすりすりと頬ずりを繰り返す。
    「あー……かわいい。ほんと、かわいい。食べちゃいたい」
    不穏な言葉が聞こえて、ぎくりと硬直すれば、それに気付いたセオドアが宥めるようにフィオナの背を軽く叩く。
    「大丈夫、流石にまだ手は出さないよ。好きなものは、最後まで取っておくタイプだからね」
    ひとまず身の安全は保障されたらしいと、おずおずと力を抜いたフィオナに、セオドアは高らかな笑い声を上げた。
    「別にフィオナに、社交上手を求めるつもりはないよ。もちろん最低限はしてもらわないと困るけど、できることだけで構わないから。そうじゃなくても、君はうちのドレスを着て社交の場に出てくれることがいちばんの社交だからね」
    「……そんなことでいいの?」
    不安げにセオドアの顔を見上げたフィオナに、セオドアが優しく微笑みかける。
    「もちろん。フィオナがわたしのドレスを着てくれるだけで、うちの店は満員御礼だからね。それに……」
    「それに?」
    他にも何かあるのだろうかと、首を傾げたフィオナの髪を、セオドアの大きな手がすっとかき上げた。
    「フィオナが、わたしの役に立とうと、そう思ってくれたことが嬉しい」
    そう言って視線を合わせると、セオドアはちゅっと触れるだけの口付けを落とした。そうして目を合わせてセオドアがふっと笑う。
    何だか恥ずかしくなって、やけくそに彼の胸に顔を埋めれば、頭上でセオドアが小さく笑った。
    「あー、フィオナってばホント可愛いッ」
    ぎゅうぎゅうと腕に力を込めて、セオドアがフィオナを力いっぱい抱きしめる。
    フィオナの頭に何度も頬ずりし、ちゅっちゅ、ちゅっちゅと、頬やこめかみに唇を落とす。
    「や、ちょ……テディ……」
    彼の唇から逃れるように、腕を突っ張って距離を取る。亜麻色の美しい瞳が、蕩けそうなほど甘くなった。
    「なぁに?」
    右手の指の腹で左頬を擽られて、フィオナはその擽ったさに身を捩る。
    「やぁ、ん……」
    自然と漏れ出るのは、砂糖菓子のような甘い声である。鼻から抜けるような声音が、自分でも信じられなかった。
    「フィオナ……」
    柔らかいテノールが、フィオナの耳を打つ。
    いつの間にか引き寄せられたのか、間近に迫った美しい顔。そのままちゅっと音を立てて、左耳に唇が落とされる。
    「かわいぃ」
    甘い声。とろりと溶けた蜂蜜みたいな声に、きゅんと下腹部が不思議と疼く。そのままかぷりとセオドアが、フィオナの耳朶にかぶりついた。
    「やぁっ……テディ……くすぐったい」
    ふっと耳に息を吹きかけられて、フィオナはぞくりと身体を震わせた。
    「あぁ、いい香り。フィオナの香りがする」
    そう言って、セオドアがすんっと鼻を鳴らした。
    「ちょっと……、テディ……やめてっ」
    ぎゅっと腕に力を込めて距離を取ろうとしても、どれほど美しくとも相手は男性、フィオナの力が敵うはずもない。
    これまで生きてきた中で、他人に耳朶を噛まれたことも、匂いを嗅がれたこともない。そんな初めての経験にフィオナは身体中を真っ赤に染めた。
    「照れているのね……かわいぃ。大丈夫、怖いことなんて何もしないよ。ただ、貴女がどこまで許してくれるのか……それを教えて……」
    甘い声音でそう耳元で囁いて、セオドアはちゅっと音を立てて耳朶に唇を落とした。
    「やだぁ……、手はまだ出さないって、言ったじゃない……」
    いくら辺境育ちのフィオナとて、その手の事情を知らないわけではない。女学院の友人達の中には、長期休暇の際に既に恋人や婚約者と男女の仲になってしまったという人もいる。
    あまり大っぴらに吹聴して回ることは、眉をひそめられることではあるが、祖父母世代なら兎も角、この国ではそれほど口うるさくは言われないのだ。
    そしてそれは、下級貴族や豪商といった中産階級の人たちの中では更に顕著に現れる。フィオナの女学院は、そんな家の令嬢達が大半を占めている。それを考えれば、自然と耳年間になるのも必然であった。
    「大丈夫、ちょっと味見するだけ」
    亜麻色の瞳がとろりとした色を纏う。セオドアの赤い舌が、その味を確かめるように、ぺろりとフィオナの唇を舐めた。
    そのままぐっと身体を引き寄せられて、セオドアの膝に乗せられる。
    「ねぇ、フィオナ。わたしのこと好き?」
    「テ……テディ?」
    ぽんっと音がしそうなほど顔を真っ赤にしたフィオナに、セオドアがにこりと魅力的な笑みを浮かべた。
    大きな手が、フィオナの頬を優しく擽った。
    「わたしが、フィオナのこと大好きなのは知っている?」
    「え……あ……」
    目に見えて慌てるフィオナに、セオドアがくすりと笑みを零した。
    「じゃあ、わたしが貴女を可愛いと思っていることは知っている?」
    そう問いかけながら、セオドアはフィオナの額に優しく唇を落とした。
    「ねぇ、ちょっとだけ味見してもいいよね?」
    今度は、こめかみに柔らかく唇を落とした。
    「え……あ……」
    「ねぇ、いいって言って」
    動揺するフィオナを気にすることなく、ちゅっちゅと音を立てて、瞼、鼻先、頬と唇を落とした後に、こつんと額をあわせられた。
    「ねぇ、いいて言ってよ」
    とろりと甘いテノールが、ゆっくりとフィオナの耳を侵していく。甘い猛毒を思わせるその声と、そして同じくらい甘い瞳の色に、フィオナは囚われたように無意識のうちにこくりと頷いた。
    「ん……」
    それは小さな声だった。もはや、音とも言えない吐息のようなその声は、それでもセオドアの耳にしっかりと届いた。それは、歓喜の渦となってセオドアの鼓膜を振るわせた。
    「フィオナ、好きだよ」
    そのまま込み上げるものをぎゅっと抑えて、セオドアは彼女を怖がらせないように、ちゅっとフィオナの唇を落とす。
    「テディ……」
    へちょりと柳眉を下げたフィオナを宥めるように、セオドアは何度も柔らかくその唇を食んだ。
    「可愛いね、フィオナ。本当に、可愛い……食べてしまいたい」
    「ん……、テディ」
    唇を食んで、舐めて、啄ばんで、硬くなっていた身体から少しずつ力が抜けてきたところで、セオドアはそっとフィオナの口内に舌を差し入れた。
    ぴちゃりと濡れた音が室内に響く。
    びくりと身体を震わせて、驚きのためか触れ合った舌を引っ込めたフィオナに、セオドアは喉の奥で小さく笑った。
    「大丈夫だよ……怖いことは何もない」
    さわさわと耳朶を擽りながら、セオドアが逃げたフィオナの舌を追いかける。おずおずと差し出されたそれと触れ合って、セオドアは、フィオナを怖がらせないように慎重に、彼女の舌を絡め取った。
    舌同士が触れ合って、絡まりあう。
    フィオナの耳朶を擽っていたセオドアの右の手が、そのまま彼女の首筋を辿って肩に触れる。そこから、脇のラインを辿り、ドレスの布地を確認するように、フィオナの脚に沿って滑り降りた。
    そのまま裾から潜り込んだ彼の右手は、すっとフィオナの足首から大腿までを辿った。
    「や……、ダメ……」
    ぴくりと身体を震わせて、脚に触れられているという羞恥心から逃げようとするように、フィオナが身を捩った。
    「大丈夫、何も怖くないよ」
    左の手でフィオナの後頭部を押さえたセオドアは、そのまま押さえ込むように深く口付ける。その間も、彼の右手はフィオナの脚のすべらかさを堪能するように、何度も撫で上げた。
    「……テディ」
    「ん? なぁに」
    いやいやと頭を捩ってセオドアから逃げようともがく様子に、逃がさないように力を込めながらも、フィオナの顔中に唇を優しく落としていく。
    「お、ねがい……や、めて……」
    「ん? 口付けするのは嫌?」
    「ち、がう……の、手……入れ、ないで……」
    薄緑色の瞳に薄く涙を浮かべながら、恥ずかしいからやめてくれと訴える婚約者に、セオドアは苦笑を漏らした。
    そのままちゅっと目元に唇を寄せて、浮かんだ涙をそっと吸い取った。
    「ん、ごめん。フィオナ。泣かないで」
    「泣いてないもの……」
    「本当に?」
    こくりと頷けば、セオドアが再びちゅっとフィオナの目尻に唇を寄せた。
    「そう、じゃあ証拠隠滅に協力しないとね」
    いつのまにかフィオナの大腿から離れたセオドアの右手は、フィオナを宥めるように淡金色の髪を優しく撫でた。
    「……テディのばか」
    顔を隠すようにセオドアの胸に顔を埋めれば、そのままぎゅっと抱きこまれて背中を撫でられる。
    「フィオナ、可愛い」
    そのまま頭頂部に頬ずりされて、最後にはちゅっと唇を落とされた。
    「大好き」
    「う~~~~~~」
    真っ赤な顔でぐりぐりと顔を押し付けたフィオナに、セオドアがくすくすと声を上げて笑った。

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