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試し読み
「この足も、特別だ。もう二度と怪我をさせたりしない」
足の指の間に舌を這わされ、テアの鼻先から熱い息が漏れた。刺激に反射的に足を引っ込めそうになったが、ヴォルフは掴んだ足首を離さない。
「そんなところ……汚いから舐めないで」
吐息が漏れないようテアは震える声で言うけれど、ヴォルフは舌を這わせるのをやめないまま答える。
「汚くない。お前の体は全部、口づけたくなる。口づけて全部……俺のものにする」
小指を口に含まれて、くすぐったさと疼くような愉悦がテアの体を駆け巡った。耐えていた吐息が「あ……っ!」と矯正になって零れる。
ヴォルフは足の指から甲まで口づけを綴り、だんだんと脚の付け根へと愛撫を進ませる。時々吸いついて痕を残すたび、テアの体の奥に熱が灯った。
「ヴォルフ……」
テアは息を乱す。ヴォルフの口づけは腿から腰へと辿り、柔らかな下腹部を超えて臍にまでねっとりと舌をこすりつけた。
「ひゃぁんっ」
お腹の奥をくすぐられたような不思議な快感に襲われた。その瞬間、下肢の間が熱くなりジワリと何かが滲んだ気がする。
「柔らかい。俺が獣だったら、このまま食べたくなってしまったかもしれないな」
冗談めかして、ヴォルフが腹部に軽く歯を立てる。彼のそんな行為ですら、今のテアの心と体には甘美な刺激となって響いた。
「食べちゃ……だめ……」
上ずった声で抗えば、ヴォルフは「冗談だよ」とフッと目を細める。
そして臍からまっすぐ下に顔を降ろしていくと、テアの閉じられた腿の間に顔をうずめた。
「あっ」
秘密の和毛に、ヴォルフの唇が触れる。
足だけでなくそんなところにまで愛撫を這わされるとは思ってなかったテアは、閉じていた腿にギュッと力を入れた。
「ここも……口づけたい。嫌か?」
ヴォルフは腿の裏側を撫でながら、秘毛に唇をつけたまま問う。
彼の声の振動と吐息の熱が下腹に伝わって、テアは小さく身を捩った。
「だって、あの……だって……」
嫌かと問われても、テアはどう答えるべきか分からない。なぜなら男性に体のどこまで愛撫されるのが正しいのか、教育係は教えてくれなかったのだから。
(閨では夫に身を委ねなければいけないと教わったけれど……でも……)
「き、汚いし……恥ずかしいから……」
いくら夫が望んだとはいえ、そこは用を足す場所だ。性交をなす場所と接近しているとはいえ、見られることも触れられることも恥ずかしい。ましてや舌で舐められるだなんて。
けれどヴォルフは「汚くない」と先ほどの台詞を繰り返すと、閉じたままの腿の付け根を啄むように口づけてきた。まるでここを開けてほしいとねだるように。
「どうしてもお前が嫌だと言うならやめるが……汚いとか考えるな。俺はお前の全部に口づけたいだけだ」
テアは両手で顔を覆って、脚の力を抜いた。
ためらう気持ちが消えたわけではないけれど、ヴォルフが口づけたいと望んでくれることが嬉しかった。それを拒みたくない。
テアの脚から力が抜けていったのを感じ、ヴォルフは優しい声色で「いい子だ」と呟く。
彼の手が太ももを割り開いていくのを、テアは心臓が爆発しそうになりながら感じた。
(ああ……見られているわ……)
はしたないほど脚を広げられ、テアが羞恥で酩酊しそうになったとき。股間の秘裂に、ぬるりとした感触を覚えた。
「あっ!」
全身が驚くほど一気に熱くなった。下腹の奥で燻っていた疼きが快感になって花開き、体中にさざ波のように伝わっていく。
テアの陰部に口づけたヴォルフは、まだ初々しく閉じている秘裂に舌を差し込んで割り開いた。たっぷりと唾液を纏わせた舌で割れ目を往復し、ふっくらとした媚肉を両側から指でそっと開く。
「や、ぁ……、ふぁ、っ……! あぁっ」
秘すべき場所を中まで見られているという羞恥と、頭が混乱するほどの悦楽が、体の中で混ざり合って熱となる。そしてその熱は熱い滴りとなって、テアのうぶな蜜孔から零れた。
「気持ちいいのか?」
愛撫の合間に尋ねられたけれど、答える余裕などない。初めて与えられたこのとろけてしまうような感覚を、テアはまだどう言葉にしていいのかも分からなかった。
けれどヴォルフは答えが返ってこないことを気にする様子もなく、「ヌルヌルしてきたな」と独り言ちる。そしてテアの溢れさせた蜜を舌に纏うと、秘裂の上部までねっとりと舐め上げた。
「ひぁあっ!」
ビリッと体に電流が走ったような錯覚に襲われ、テアは腰を跳ねさせる。何が起きたのか分からないでいると、ヴォルフがそこを舐めるたびに足の先まで痺れるような刺激に繰り返し襲われた。
「やっ、ま……っ、あぁっ! まっ、て……!」
あまりに強烈な刺激にテアが懇願すると、ヴォルフはいったん愛撫を止め、指で開いたテアの秘所をじっと見つめた。
「……ああ、これが……。小さくて分からなかったが、本当に敏感なんだな」
何か彼なりに納得しているようだ。
ヴォルフはもう一度陰部に唇を寄せ舌を伸ばすと、今度は舌先でテアの小さな芽をつついた。
「あっ、あ、あっ……!」
敏感な陰芽はさっきより弱い刺激を与えられ、電気のような痺れが愉悦へと変わっていく。先ほど胸に与えられた愛撫よりも、さらにずっと気持ちがいい。
まるでキャンディーを弄ぶように、ヴォルフは舌先でテアの小さな粒を転がす。
テアの体はどんどん熱を帯び、全身に汗が滲んだ。それと共に、疼く陰部からも熱い液体が零れ落ちていく。
「んっ、ぃ……い、ぁっ、あぁっ」
みっともないと分かっているのに、嬌声が止められなかった。じっとしていられなくて、腰がモジモジと動いてしまう。
「や、ぁ……、もう……やめ……っ」
テアは快感というものが体に蓄積していくことを初めて知った。砂のように積もった快感が、もうすぐ決壊してしまいそうで怖い。
シーツを強く掴んで決壊に備えようとしたとき、ぴたりと愛撫の悦楽が止まった。
「……嫌か? もうやめておくか」
「あ……」
やめてほしいと言いかけたのは確かだけれど、テアは複雑な気分に陥った。
溢れる直前まで高まった快感は体を激しく疼かせ、テアに妙な飢餓感を植えつけた。ここで止められるのは苦しい、もっと快感を与えてもらいたくて、切なさがこみあげてくる。
ヴォルフが意地悪で止めたわけではないことは分かっている。彼はテアが本当に嫌がっていると思って気遣ってくれたのだ。
テアが何も言えずにいると、ヴォルフは上体を起こし再び膝立ちになった。そして脚衣の前を寛がせて、すっかり膨張している雄茎をあらわにする。
「えっ?」
ヴォルフの男性の証を見て、テアは思わず驚きの声をあげた。
男性器の知識は学んでいたが、こんなに大きく、しかも硬そうに起ち上るとは聞いていない。
(骨や筋肉はないって教わったけれど……それでこんなに逞しいの? 嘘でしょう? それとも体が逞しい人は性器も逞しいの?)
あまりの驚きに、疑問が頭の中を駆け巡った。
目を丸くして陰茎を注視しているテアに、ヴォルフは少し面食らったように頬を染める。
「そんなに珍しいのか?」
尋ねられてしまい、テアはハッとして「ご、ごめんなさい!」と顔を背けた。
「別に……見たって構わないけどな。俺もお前のを見たんだし」
そう言いながらヴォルフは少し顔を俯かせ、脚衣を脱ぎ去った。ギシリとベッドを軋ませ体勢を直し、テアの足の間に入り込む。
テアはおずおずと顔を前に向け直すと、口もとに手をあててためらいがちに聞いた。
「……こんなに大きいと思わなかったの。本当に入るの……?」
ヴォルフは自分の下半身に目をやると、考え込むように少しだけ口を引き結んでから答えた。
「お前がつらくないように努力する。だから不安になるな。大丈夫だ、まかせろ」
彼らしい言葉だった。テアの心は少しだけ安らぐ。ヴォルフならひどいことはしないと信じられるのは、今日まで彼の真摯な態度を見てきたからだ。
「……信じる」
テアがそう答えると、ヴォルフの顔が柔らかに綻んだ。優しくて可愛らしい、テアの大好きな笑顔だ。
「……好きよ、ヴォルフ」
腕を伸ばすとヴォルフも腕を伸ばし、抱きしめてくれた。唇を重ね合わせ、甘く食まれる。
「テア」
囁くように、深くて温かな声がテアを呼ぶ。
「……愛している」
不器用で女性の扱いが苦手なヴォルフの口から、愛の言葉が聞けるとは思わなかった。
テアは感激で胸が痛いほどに締めつけられる。
「ヴォルフ、好き。私も愛してる」
ヴォルフの頭をギュッと抱き寄せれば、彼も愛おしそうにテアに頬を擦り寄せた。
互いの熱を確かめるような抱擁をしばらくした後、ヴォルフは片手だけほどいて下腹部へと持っていった。そして自分の隆起している雄を掴むと、露の滲んでいる先端をテアの花弁の間にこすりつけた。
「あ、ん……っ」
触れ合う音がヌチヌチと粘着質で淫靡だ。それだけでテアの体の奥が再び熱くなっていく。
「んっ、くぅ……っ、んっ」
膨らんだ雄茎の先端が、まだ硬くなっているテアの陰芽をこすった。先ほど快感が極限まで高まる直前で愛撫を止められたせいだろうか。待ち侘びていた愉悦を与えられたようで、ゾクゾクするほど全身が歓喜に湧いているのが分かる。
ぬめりを帯びた肉塊が、包皮ごと敏感な粒を捏ねる。そのたびにテアの蜜口からは熱い露が滲みだした。
「は、ぁあっ……、ぃ、あぁ……っ」
今度こそテアは『やめて』と言わない。蓄積された快感が決壊するのは怖い気もするけれど、また途中で止められたら自分の体は疼きすぎて壊れてしまいそうだと思ったのだ。
「あぁ……っ、あ、――っ! ひ、ぃああっ!」
無意識にテアがヴォルフの背中を強く掴んだとき、下肢の奥で火花が爆ぜた。
蓄積された快感が弾け飛び、全身に飛び回ったような気がした。
息が止まり、脚がビクビクと震える。短い呼吸を繰り返しようやく全身の痺れが収まってきたテアは、深呼吸しようとして開いた口をキスで塞がれた。
「ん……っ」
酸素が足りないのか、頭がぼんやりとしてくる。快感の余韻とヴォルフの舌の感触だけがやけに鮮明に感じられて、テアは何も考えられなくなっていった。すると。
「――っ!!」
絶頂を迎え収斂していた蜜孔に、ヴォルフの肉茎の先端が入り込んできた。
ぬめりを帯びていたせいで摩擦の抵抗はなかったものの、異物を受け入れたことのない孔をいきなり広げられた感触に、テアは目を大きく瞠る。
「あ……っ……」
全身から汗が噴き出した。とっさに腰を引きそうになったが、ヴォルフの手が腿を掴んでそれを止める。
「大丈夫だ、怖がるな。ゆっくり呼吸しろ」
『でも』と訴えたいが、テアは声がうまく出せない。口をパクパクさせて息をするだけで精いっぱいだ。
「大丈夫。大丈夫だ」
ヴォルフは繰り返しそう告げて、シーツを握りしめていたテアの手に自分の手を重ねて指を絡めた。
「怖くない」
安心させるように頬にキスをしてくれるけれど、彼も余裕があるわけではないのだろう。手のひらにも額にも汗が滲んでいる。
「もう……大丈夫」
掠れて弱々しい声で、テアは答えた。正直なところ体内の圧迫感にはこれっぽっちも慣れないけれど、このままでいても仕方ない。むしろ時間が経って体の熱が引いてしまったら、却って苦しくなるような気がした。
ヴォルフは微かに目もとを緩めると、「いい子だ」と言ってテアの額にキスをひとつ落とした。そしてゆっくりと腰を浅く抽挿し始める。
「ん、ん……」 -
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