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あらすじ
夫役の上司は、新妻役の部下が可愛すぎてたまりません♥
「俺と君は、今日から新婚夫婦だ!」プロジェクト成功のために上司と新婚になりました!? 副社長である綾介さんはマジメに新婚さんのイチャイチャを全部試したいみたい。ベッド体験ではキモチよく蕩かされて、これって業務の範疇を超えちゃった!? 綾介さんとの甘い新婚ごっこが居心地よくなっていたけど、彼には本当の縁談が進んでいて――!?(ヴァニラ文庫ミエル)
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試し読み
「それって……ひゃぁっ!」
悲鳴とは少し違う、驚きの声があがる。綾介がいきなり紗也佳を持ち上げたのだ。
それも、自分の身に起こるとは想像もしたことのない、お姫様抱っこで。
「りょっ……綾介、さんっ?」
「試してみるぞ。新婚夫婦というものの気持ちが理解できるかもしれない」
「試……す?」
試してみる、とはなんだ。……わかる気もするのだが、まさかそこまで、という気持ちもある。
周章狼狽する紗也佳に対し、綾介には一片の迷いも見えない。スタスタと当然のように寝室へ入り、大きいベッドの中央に紗也佳を下ろした。
「夫婦のスキンシップが、どのレベルで止めるべきものなのかわからないから、とりあえずくっつくことにしよう」
「くっつく……?」
……とは。
どの程度のことをいうのだろう。
判断しかねている間にも、綾介は首からネクタイを引き抜き、ウエストコートを脱ぎ捨ててしまった。
先程も思ったが、いつもビシッとスリーピースを着こなしている彼のこういった姿は貴重だ。シャツにブレイシーズのみ。いたってラフな姿なのに目を引かれる。
おまけにそんな彼が四つん這いの体勢で自分を見おろしているとなると、目を引かれるどころか目を離せない。
「俺は、俺の判断でなにかを感じるまでさわるから、紗也佳も同じように俺にさわれ」
「さわる……んですか……?」
「これ以上はNGってところで止めろよ? 紗也佳のNG領域はまったく知らないから。ちなみに俺は結構制御がきくほうだから、遠慮するな」
「はぃ?」
言われていることの意味がよくわからない。……わかる、のだが、……理解しかねる。
要は夫婦としてのスキンシップを試してみようと言われているのだ。それが理解できるまでお互いに触れる、ということは、身体にさわるということで……。
(さわる……って、服の上から……だよね?)
判断をつけあぐねているうちに、綾介が軽く覆いかぶさってくる。顔の横に彼の顔が落ちると、ふわっとした男性的な香りとともに彼の髪の毛が頬をくすぐり、紗也佳はビクッと身体を震わせてしまった。
クスリと笑う声が耳朶をくすぐる。その笑いかたがなにか恥ずかしいものを聞かされてしまったようなくすぐったさで、紗也佳は耳から頬が熱くなるのを感じた。
「そんなに驚くな。俺を副社長だと思うから戸惑いが生まれる。一人の男として扱え。今まで寝た男と同じだと思えば大丈夫だ」
(そんな男、いませんっ!)
紗也佳は盛大に心の中で叫ぶ。
男性経験があれば少しは冷静でいられるのかもしれないが、そんなものは一切ないのだ。なんならこんなふうにベッドで男性の下になっているということさえ初めてなのに。
頬同士が触れ、身体が固まる。スーツの前を開かれ不思議なほどすんなりと上着を脱がされてしまったあと、両腕でキュッと抱きしめられた。
(あぁぁぁぁぁっ、もう駄目ぇっ!!)
密着度が高すぎる。綾介の胸はとても広くて、長い腕で抱きこまれるとそのまま隠されてしまう。
心臓がバクバクと跳ねまわって痛い。おまけに、この息苦しさはなんだろう。
さらに紗也佳を喫驚させたのは、頬に触れているのが綾介の唇に変わったことだ。すべるように頬を上がり、こめかみからまぶたへ。
反射的に目を閉じ、両手で綾介の腕を掴んでしまった。
「なんだ……。妙に熱いと思ったら、真っ赤だな」
囁く声は、吐息と一緒に紗也佳の鼓膜を刺激する。まるで犬か猫が水を払っているかのように大きな身震いを起こしてしまい、綾介に軽く声を出して笑われた。
「どうした。そんなに固まるな。なんとなくわかりそうなところでストップすればいいんだ」
「りょ……綾介さんは、そうかもしれませんが……!」
紗也佳は綾介の言葉を遮るように口を出す。わずかだが密着度が減った気配がしたので、少し彼が離れてくれたのだろう。
それでも目が開けられない。開けたら、すごく情けない顔をしてしまうような気がする。
「でも……わたしは……、恥ずかしい……です」
言ったとたん、またもや頬の温度が上がった。それどころか顔全体、耳まで熱くなる。
「恥ずかしい?」
「はい……、こんなにくっついたら……綾介さんが……近すぎて……」
なんと言えばいいだろう。近すぎることは近すぎるのだが、このままでいると、綾介が肌から沁みこんできそうだ……。
「上手く……言えないんですけど、……心臓が、壊れそう……。ドキドキして……」
こんなことを言ってしまっていいのだろうか。これは仕事だ。探求のために綾介と新婚体験をしているのに。
綾介は仕事と割りきって、理解を進めようとどんどん前進しているのに。
紗也佳一人が、恥ずかしいなんて弱音を吐いていてはいけないのではないか。
(……そうだ……、しっかりしろぉ……)
弱々しくも自分を叱咤し、紗也佳は綾介の腕を掴んだ手に力を込める。彼はなにも言ってくれない。ということは、呆れられてしまったのかもしれない。
こんなことではいけない。やるときめたとき、そして食事前、綾介の仕事に懸ける熱い情熱を知ったとき、あんなに感動したではないか。
紗也佳だって、彼と情熱を共有したいと思ったのだ。
今回のことは、紗也佳に与えられた、彼女にしかできない仕事だ。
おそるおそるまぶたを開く。不審げな顔が飛びこんでくるのではと覚悟したが、目に映ったのは、片腕を立てて上半身を離し、もう片手で口を覆って顔をそらしている綾介の姿だった。
「りょ……綾介さん……あの……」
これは間違いなく呆れられたに違いない。もしくは、紗也佳の言動がおかしくて笑いたいかのどちらかだ。
「すみません……、仕事なのにこんな弱音を……。わたし、頑張りますから、そんなに呆れないでください……!」
「……いや……、そうじゃない……。久々に……ゾクッとした……」
「は?」
ゾクッ……とはなんだろう。一般的に考えれば不気味さや恐怖など、寒気を感じたときに使う言葉ではないだろうか。
(わたし、なんか気持ち悪いこと言った……? は、恥ずかしいとか言ったから!?)
考えてみれば、ずいぶんと女性的な発言だった。
不可抗力だったとはいえ、赤くなって「恥ずかしい」とか言ってしまったから気持ち悪がられてしまったのだろうか。
「仕事と割りきっていただけなのに……、まさかそんな顔をされるとは。それに、……恥ずかしいとか、反則だろう……」
「す、すみませんっ、ご不快にさせてしまって……、わたし、頑張りますから……!」
「不快どころか……、いい昂揚感だ。このまま続けるぞ、紗也佳」
「えっ……は? あのっ、ひゃっ!」
またもや悲鳴ともつかないおかしな声が出てしまった。口を覆っていた手を離して笑顔を見せたかと思うと、綾介の唇が耳の下に触れてきたのだ。
咄嗟に顔を横に向けてしまったが、それは彼に好都合だったようで、そのまま紗也佳の耳に未知の感覚が生じはじめる。
「ひゃ……ぁ、あっ、綾介さっ……それはっ、ぁ……」
なんと言ったらいいのかわからない。けれど黙っていられない。耳全体をぬらりとした生温かいものが這い回り、耳孔をくり抜かれる感触が走る。
なんともいえないくすぐったさで、ゾワゾワゾワッと全身が粟立つのだ。
「すみませ……、ごめんなさぁっ……」
なぜか謝ってしまう。おそらく全身を襲うこのくすぐったさから逃げたいのだと思う。
もぞもぞと全身を動かし、上掛けの上で両足を擦る。寝具の感触が気持ちよくて、くすぐったくなくてもこの上で転がり回りたいと思ってしまった。
「なにを謝っている。感じるのは悪いことじゃないだろう」
「感じ……」
感じる、とは、気持ちいいという感覚と直結していると思っていいだろうか。そんなふうに思われる行動をとってしまったということか。
どのあたりにそんな要素があったのだろう。見当がつかないまま、彼の唇は紗也佳の首筋をじっくりと往復する。
「ハァッ……ぁ、ハゥ……」
鼓動が大きくなっているせいで、呼吸が苦しく息があがる。普通に落ち着いて息ができない。
胸のふくらみに大きな手がかぶさったのを感じて、その切れ切れの呼吸さえ呑みこんでしまった。
ブラウスの上から柔らかい丘をまさぐり、ときおり親指側から表面を撫でていく。ある一点で特別な刺激が走る。紗也佳はただ上半身を震わせ続けた。
「なんだ、耳だけかと思ったら、反応しすぎだ。そんなにサービスしなくていいのに」
「サ、サービスなんて、してませ……、あっ、だめ……」
くすぐったさに耐えようとしているうちに、綾介がブラウスのボタンを外しはじめたことに気づく。反射的に弱々しく呟き、彼の手を掴んでしまった。
顔を上げた綾介と目が合う。いつもの凛々しさに艶を差した双眸に見つめられ、痛いくらいに鼓動が跳ねた。
「駄目……か?」
「ぁ、あの……」
「多分新婚は、妻に触れて『駄目』とは言われないと思う」
ちょっとズルイ言い分だが、おそらく間違いではない。
紗也佳も、このまま彼にさわられていたいという気持ちに口実をつけてもらったような気になり、押さえていた手をそっと離す。
綾介がふっと笑んで、鎖骨に唇を落とした。
「紗也佳もさわれ。納得するまで俺にさわっていいと言っただろう」
「そう言われましても……あっ……!」
鎖骨の上をついばまれるのも気になるが、ブラウスを全開にされたのはもっと気になる。こんな至近距離で異性に胸を見られてしまう日がくるとは、思ってもいなかった。
(恥ずかしいけど……そんなこと思っちゃ、駄目なんだ……)
仕事のため。お互いをわかり合うため。
新婚における男女の気持ちを理解するための触れ合いなのだから、紗也佳だってシッカリ彼を感じてなにかを得ることに集中しなければ。
……とはいえ……。
(やっぱり、くすぐったい!)
紗也佳は小刻みに身体を悶え動かす。胸をまさぐっている手が、様子を窺うように手のひらを使ってふくらみの形を変えようとしてくる。派手な動きではないにしろ、繰り返されているうちに胸全体に熱がこもってきた。
「……ぁっ、……うゥン」
その熱を逃がそうと大きく息をすると、けだるいトーンになってしまう。
自分の反応に戸惑いつつも、紗也佳は綾介の両肩口に手を置き、肩の丸みから腕までをゆっくりと撫でていった。
「……大きい」
「ん?」
紗也佳の呟きに綾介が顔を上げる。ワイシャツの下にある彼の身体の形を感じながら、紗也佳は思うままを口にした。
「男の人の肩……、大きいんですね……。とても広くて、肩の筋肉なんて堅いし。なんだろう……すごく、……頼もしいっていうか……」
手のひらから伝わってくる感触は、紗也佳が普段触れることのないもの。仕事仲間の肩を叩いても、母や姉の肩を撫でても、こんな気持ちにはならない。
体温がじわじわ上がっていく。温和な気持ちでいっぱいになるのに、腰の奥だけが重くなっていく気がした。
「頼り甲斐を感じる……」
無意識のうちに指先が彼のブレイシーズの下に入ろうとする。これを肩から下げてしまえば、シャツを脱がせて直にこの頼もしさに触れることができる。そんなことを考えてしまった。
「紗也佳は、意外と煽るのが上手い。男の身体にさわったことがないわけじゃないだろう」
「……あっ、ひっ……ンッ」
ないですよと言ってしまおうと口を開き、いきなり予期しなさすぎる声が出る。今までで一番強く胸を掴まれ、鼓動と一緒に腰が跳ねた。
自分のワイシャツのボタンを片手で外しながら、綾介の唇がブラジャーの上から胸のふくらみを押してくる。カップの一番高い部分に息を吹きこまれ、じくっとした熱さを感じて背がしなった。
「あぁっ……ンッ!」
咄嗟に出た声に恥じらう間もない。背が弧を描き、刺激の中心である胸をさらに綾介に押しつけ、行為を要求してしまった空気を作る。
それに応えたつもりなのか、彼が頂を咥えこんだ。
「あっ……!」 -
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