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あらすじ
ああ、可愛いな……堪らない
愛妻家の彼との幸せな結婚生活♥稀代の悪女と噂される王女カルディナは、隣国の王太子に婚約破棄されるが、代わりに彼の護衛騎士隊長である公爵のヒューゴと結婚することに。評判に惑わされず、「私は仮面の下のあなたの本当の顔に大変興味があります」と甘く迫ってくるヒューゴ。ある理由から条件付きでそれを受けるも、情熱的に溺愛してくる彼にドキドキが止まらなくて……!?
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キャラクター紹介
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カルディナ
ルジアーナ王国第一王女。悪女と噂されている。 -
ヒューゴ
ロックウォード公爵家の当主。王太子の従兄。
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試し読み
舌を絡め、啜り合って互いの口を離せば、その間を淫らで透明な糸が繋ぐ。
彼の肉厚な舌が糸を断ち切るように唇を舐め取るさまが、妙に婀娜っぽい。
彼は呼吸を許すように何度か唇を離しては、またちゅっと小さな音を立てて重ねてくる。
「んっ……」
小さく喉を鳴らして、くったりと力が抜けた頭を彼の肩に預けた。
荒く呼吸を繰り返しながら、ぼうっと逆上せたように伏せていた睫を上げると、こちらを覗き込むヒューゴの視線とぶつかった。
今のヒューゴは、まるで野生の獣のようだ。
飢えた欲望を満たし乾いた喉を潤すために、目の前に捕らえた獲物にどこから牙を立てようか、皮膚の柔らかな場所を探すように、獰猛な眼差しでカルディナを見つめている。
「口を開いて」
言われるがまま喘ぐように口を開けば、再び彼はそこへ隙間なく唇を押しつけ、舌をねじ込み、そしてカルディナのそれを強く吸い上げていく。
短時間の間に一体何度口付けられたのだろう。
一通り閨の教育は受けたけれど、こんな淫らなキスの仕方なんて教わっていない。
ひどくいやらしい。
そう思うのに、身体は触れ合う場所から元の形を失うのではと思うくらいに蕩けてしまいそうになる。
互いの口の中で小さく響き合う湿った淫靡な水音が、強い背徳感を刺激されて、よりいっそう身体の熱を昂ぶらせていくようだった。
「あっ……」
気がつくとカルディナの身は寝台に押し倒され、ヒューゴの逞しい身体で押さえつけられていた。
互いの身を隔てるのはそれぞれが纏う寝間着だけで、薄い生地を通して伝わってくる男の熱と匂い、肉体の生々しい感覚にくらりと眩暈を覚える。
これまで守り続けてきた自分という人間がどこかに行ってしまいそうな気がして怖い。
救いを求めるように両腕を上げてその首に絡みつかせるようにしがみつけば、ヒューゴの両腕も同じようにカルディナの華奢な身体を抱き締め返してくれる。
「……旦那様」
そのまま、どれほどの間抱き締められていただろう。
どうやらカルディナは自分でも無意識の内に、小刻みに震えていたらしい。
まさか自分がそんな可愛らしい少女のような反応をするなんて、と気恥ずかしさと情けなさとを半分ずつ感じるものの、女性は、男性より失うものが多いと聞く。
ならばこの身体の反応は本能による正常なものなのかもしれない。
それでもカルディナはやはり複雑な顔をしていたようだ。
「大丈夫か?」
「えっ?」
「困ったような顔をしている」
苦笑交じりに指摘を受け、頬を撫でられた。
優しい触れ方にびくっと肩が跳ね上がる。
「困っているかと言われれば、確かに困っているのですが……」
「だが?」
「……どんな反応をすれば良いのか、判らないだけです。心配させて申し訳ありません。もうちょっと上手く対応できると思っていたのですけど……」
「素直に反応してくれる方が嬉しい。カルディナ、あなたはもう私の妻だ。二人でいる時くらいは、王女であることを忘れても良いのではないか」
確かにこんな時であっても、自分は王女で、ただ狼狽えるだけの女性であってはならない、もっとしっかりしなくてはとそんな思いを感じていたのは事実だ。
でも言われてみれば確かにその通りで、彼と共にいる時くらいは肩肘を張らなくてもいいのかもしれない。
長年染みついてきたことなので、すぐに素直に振る舞うというのは難しいけれど。
「……なら、忘れさせてください。でも、もし私が泣いたり叫んだりしてみっともない姿を晒しても、二人だけの秘密にしてくださいね。外で暴露したら許しませんから」
コツリと額を合わせて訴える。
頬を再び擽るように撫でられて、彼は笑った、まるで少年のように。
「もちろん。良いな、是非交わしたい秘密だ」
是非、という言葉に相応しく彼の声はどこか嬉しそうだ。
触れ合い、身体の距離が近づいたことで心の遠慮が解けていくのなら、カルディナも、もう少し力を抜いても許されるだろう。
その思いのままに伸ばした両腕を彼の首に絡みつけ、今度は自ら唇を求める。
応じるように繰り返される口付けの合間、生地の上から彼の手がカルディナの太腿に触れた。
「あっ」
そのまま腰骨を辿って脇腹を這い上がるように乳房を持ち上げられる。
横になっても充分な質量を誇る若い乳房は、その手触りを楽しむように男の手によって様々に形を変え、扇情的に揺れた。
「良い手触りだ。いつまででも触っていたくなる」
「そんな……ひっ……!」
ヒューゴの指先がぷっくりと膨らんだ先端を探り出すのに長い時間は必要としない。
まるで果実を転がすように弾力のあるそれを捏ねられ、ピリッとした痛みにも似た鋭い刺激に息を詰めて肩を跳ね上げさせるも、繰り返し口付けを仕掛けられて甘い吐息は互いの口の中で消えてしまった。
「ん……あぁ……」
手の中で弾むように揺れる柔らかな乳房を捏ねながら、ヒューゴは幾度も口付けを繰り返した。
執拗に、どうすれば余すことなく味わえるかを探るように。
「旦那様……旦那様……」
「大丈夫だ、怖がらなくて良い」
どちらのものとも判らないほど混じり合う吐息と唾液を飲み込みながら、藻掻くようにカルディナの両手が彼の肩や背を擦った。
寝間着越しの生地の下で、彼が身動きする度に別に意思を持った生き物のようになまめかしく波打つ。
瑞々しく躍動する鍛えられたしなやかな男の筋肉がはっきりと伝わってきて、胸の奥がひりつくように疼いた。
その生々しさに喉が渇きを覚えた。
「あぁ……」
つい先程彼を飢えて乾いた獣のようだと感じたけれど、それはきっとカルディナも変わらない。
自分の中で眠っていた情欲を煽られて、多分今は随分と猥りがましい目をしているに違いない。
日頃は大切に守っている理性がぐずぐずに溶かされて、元の形を失っていくような気がする。
自分でもどうして良いのか判らない持て余す感覚に無意識に身を揺らした時、ヒューゴの大きく指を広げた手の平が、カルディナの身体の表面を辿りながら、柔らかな女性らしい場所の形や弾力を確かめるように指を沈めた。
いつしかじんわりと滲み出た汗が、寝間着を湿らせている。
それらはすぐに肌の上で玉を作り、身体の丸みを辿るように滑り落ちて二人の身体と、シーツを濡らした。
「熱い……」
吐息が漏れた。
遠慮を忘れたように身体の至るところに触れるヒューゴの手が気持ち良い。
触れられることに確かに快感を覚えて、煽られるように自分自身が興奮しているのが判る。
二人の間を隔てる布一枚が邪魔で仕方ない。
もっと直接、素肌に触れてほしいと幾度か胸元のリボンに手が伸びそうになる自分のはしたなさに気付いては、何度も奥歯を噛み締めた。
もっと触って。
繰り返し願いながらも、たった一言を口にできずに慣れない愉悦に身体の芯が震えた。
身体の奥が焦れったく、うずうずと落ち着かない。
自分はどこかおかしくなってしまったのだろうか。
こんなふしだらなことを願うようになるなんて、とても正常とは思えない。
なのに、ヒューゴの手によって寝間着の袷が開かれた時思ったのは、恥ずかしいという感情以上に、やっとかと待ち望んだ期待が叶えられた喜びだった。
「あ……」
この夜のために用意されたそれは、胸元のリボンをいくつか解くだけで簡単に前が開くようになっている。
その下には何も身に付けておらず、容易く肌を露わにすることが可能だ。
しかしヒューゴはすぐに袷を大きく広げてカルディナの肌を眼前に晒すような真似はしなかった。
不慣れな乙女の身体を気遣うように、あるいはカルディナの期待を知っていて焦らすように、肌の大半を薄い生地の下に隠したまま、僅かな隙間から内側へと自身の手を潜り込ませる。
「もどかしいか?」
「えっ……」
「腰が揺れている」
指摘されて、カアッと頬に血が上る。
思わず身を引こうとしたけれどヒューゴはカルディナを逃がしてくれない。
それどころか更に遠慮なく素肌を弄られる、その手にまた体温が上がった。
生地の上から探られるだけでもその体温を熱く感じたのに、直接触れられると余計に熱い。
その上彼の手は酷使されることのない青年貴族とは違い、長年武器を扱い続けたせいで皮膚が硬くなって、少し荒れている。
その硬くてざらついた手の平が汗ばんで湿った娘の柔肌と擦れ合って、ひりつくような摩擦に得もいえぬ刺激を生み出した。
「ひゃっ……!」
意思にかかわらずぶるっと背筋が震えた。
ヒューゴの手はしっとりと濡れたカルディナの身体の表面を辿って、柔らかな肉の感触を楽しみながら擦っていく。
「美しい肌だ。やみつきになる……」
呟きと共に彼は腹を撫で、脇腹を滑り、そして直に乳房を包み込み。
他とは違う質感を生み出す先端をぎゅっと摘まみ上げられた時、胸の先を針で刺すような鋭い痛みに似た刺激が全身を駆け抜けて、思わず彼の肩にしがみつく手に力がこもった。
びくびくと揺れるカルディナの身体の反応を知りながら、ヒューゴは薄い笑みを浮かべながら彼女の敏感な場所を指で扱き、擦り上げる。
こりこりと凝った先端と、柔らかな乳房の触感の違いを楽しむように。
「あ、あっ、ん……!」
刺激が強い。
月の障りが近い時、あるいは最中の時には胸が張り詰めて、その場所が衣服の生地に触れただけでも敏感に感じることはあった。
けれどそういうものなのだと思っただけで、こんな明確な快感を覚えたことはない。
なのに彼の手が触れるだけで、今までと全く受ける感覚が違う。
やんわりと肌をなぞられるのも、ぬるま湯に浸かるような心地よさがあるけれど、固く凝った場所を何度もしつこく指先でこすられると、そこから強烈な悦楽が全身を突き抜けるように広がって、カルディナの口から絶え間なくか細い、喘ぎを零れさせる。
「ん……ん、んっ……」
それどころか彼はカルディナに口付けを繰り返し、首筋や胸元に鬱血の花を咲かせながら頭を胸元へと下げていく。
辛うじて肌を隠していた薄布も、両手でカルディナの肩を撫で下ろすように滑り落とされて、とうとう肌が露わになった。
ふるりと二つの乳房が彼の眼前に晒される。
どこかいたいけな少女のように不安そうに揺れながらも、それぞれの頂点で主張するように色づいた小さな乳首が、甘い果実のように充血してぷっくりと膨らんでいた。
まるで舐めてくれと言わんばかりに尖り震えるその場所に、ヒューゴの頭が落ちる。
「……ん……」
最初は柔らかな胸の感触を楽しむように。
そして輪郭を辿るように胸の膨らみに口付けて、鬱血の花を咲かせながら、その範囲を広げていく。時折唇だけでなく、肌を舐める熱い舌の感覚に、悩ましい吐息が漏れた。
「あ、あぁ……」
藻掻いた両手がヒューゴの肩から滑り落ちて、シーツを掴む。
が、すぐにその両手は胸元に埋まった夫の髪を掻き乱すように指を立てた。
絞り上げるように掴まれた胸の尖った先端に、彼の舌がねっとりと絡みつき強く吸い立ててきたからだ。
「ひっ、あっんっ……!」
脳髄を、熱した焼きごてで灼かれるような強烈な快感に、硬く合わせていた両脚が崩れた。
「あっ、駄目……!」
小刻みに腰が揺れ、つま先がシーツを蹴る。
両足の間からじわっと熱い液体が滲み出るものの感覚に、一瞬予定よりも早い月の障りが始まったのかと疑いたくなったが、もちろんそうでないことは本能で理解できた。
ヒューゴは口の中に含んだそれを、幾度も舌でしごき、押しつぶし、ときに歯を立てて強く吸い上げた。
その度に、じゅっと啜るような耳を覆いたくなる淫らな音が響いて、よりいっそうカルディナの羞恥を塗りつぶし、官能を煽る。
「ヒューゴ……旦那様……」
掠れた声で呼べば、胸元で視線だけがこちらを向いた。
射貫かれるような鋭い情欲に塗れた視線に、腰の奥にツキリと鋭い刺激が走り、再びもじもじと腰が揺れ、熱い吐息が溢れ出た。
もどかしい。
一瞬そんな思いが過ぎった自分の思考にハッとする。
けれど何を考えているのだと自分を戒めても、一度自覚したもどかしさは膨らんでいくばかりだ。
もっと触って。もっと、たくさん。
そんな言葉を懸命に飲み込み、ヒューゴの身体にしがみつき続ける。
彼と自分とでは、当たり前だがあまりにもその作りが違いすぎる。
「どこもかしこも柔らかくて、乱暴に扱えば壊れてしまいそうだな」
比べてヒューゴの身体はどこに触れてもしっかりと通った骨格と、しなやかでありながら逞しい筋肉に覆われていて、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。
正しく男という性を感じさせる肉体を前に、既にまともなことは考えられそうになかった。
相手にのめり込み始めているという意味では、きっとヒューゴも同じだろう。
彼女の胸元からようやく頭を上げたヒューゴもまた、自分が組み敷いている女性の身体を検分するように見下ろした。
それは大変に淫らな姿だっただろう。
中途半端に肌を隠す、寝間着の生地を引き剥がす。
露わにした染み一つない白い肌には、今や鬱血の花が幾つも咲き誇って、肌の至る所を飾っている。
これまで男を知らず、慎ましく肌を彩るだけだった先端は、今や真っ赤に充血して天井を仰ぎ立ち上がり、カルディナの荒い呼吸に合わせてふるりと揺れた。
敏感に尖った胸の先がよっぽど目に付いたのだろう。
再びぎゅっと摘まみ上げられて背が浮き上がる。
「ひっ!」
その指の強さは先程よりもいささか強い。
痛みを覚えてもいいはずなのに、その強さがよりいっそう気持ち良く、ビリッと身を竦ませるほどの甘い愉悦が胸から腰の奥を駆け抜けた。
「……旦那様、待って、あっ……」 -
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