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あらすじ
眼鏡×敬語攻めの彼は美脚フェチ!?
マーケティング会社に勤める初歌は、調査のため訪れたショップで、副社長兼シューズデザイナーの桜井樹史と知り合う。穏やかな物腰ながらも意味深な言動を繰り返す彼に、恋愛に奥手な初歌はうろたえつつも惹かれていく。「ずいぶんと欲しがりな体ですね」──初歌の脚に口づけ、甘い愛撫を施す桜井だが、なぜかキスだけはしてくれなくて……。
(ヴァニラ文庫ミエル)
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試し読み
初歌とて、男性経験がないわけではない。過去に交際をした相手はいた。そして、その彼と初めての行為をいたした。
「や……っ……、あ、あっ、ああ……!」
問題は、そのときと比べて自分の体があまりに見事な反応をしてしまうことなのだ。
汗ばむ肌に、おろした黒髪が張り付く。はだけたブラウスと、みだらに押し上げられたブラジャーとキャミソール、そして下半身は惜しげもなくすべてを樹史の目の前にさらしてしまっている。
そう思ってから、初歌の脳裏で「違う」と声がした。
──違う、すべてじゃない。だって桜井さんは、ストッキングを無理やりに脱がせたあとで、また靴を履かせたんだ。
裸足で履いたパンプスは、こんなときでも初歌の足によく馴染んでいる。まるで彼女の快楽までも包み込むようだ。
「やだぁ……っ、あ、んんっ」
白いシーツの上で、シャンパンゴールドのパンプスがはしたなく揺れる。彼のデザインした靴、彼が勧めてくれた靴──それを履いて、嬌声をあげる自分は、樹史の目にどう映っているのだろう。
「何が嫌なんですか? ほら、あなたはこんなに感じているのに、まだ快楽を拒もうとしているんです。おかしなことですね」
ネクタイを緩めた樹史が、手にしたローターのスイッチをぐいとひねる。すると、振動がさらに激しくなった。
「〜〜〜〜っっ、ん、んぅ……っ!」
むき出しにされた花芽を、直に刺激してくる無機質な動きは、否応なしに初歌を天頂へ追いやろうとする。
──イヤ! こんなのイヤなのに、どうして感じてしまうの!?
いつもの彼女なら、女性の体は愛情と無関係に反応してしまうものだと自分を慰めることもできただろうが、今は酔いのせいもあって理性がはたらかない。
ただ、与えられる快感に素直になっていく体だけが、初歌をおかしくさせる。
「わかりますか? あなたのここは、ピクピク震えて悦んでいるんですよ。お好きなんでしょう? こういう道具を使われるのが──」
「違……っ、あっ、ああっ……」
数えきれないほどイカされた体が、またしても大きくしなった。シーツの波間にたゆたう初歌は、制御のすべてを樹史に奪われている。快楽というコントロールは、彼女を本能だけのケダモノに変えようとしているのか。あるいは──
「素直になってください。抗うあなたも魅力的ですが、いつもツンとすましたその美しい顔を歪ませて、ほしいとねだるところが見たいんです。おわかりですね?」
わからない。わかりたくもない。
そう思うのと同時に、彼もまた男なのだと実感してしまう。この場合は、雄と言うべきなのかもしれない。
薄暗い室内に、アンティーク調のスタンドランプの明かりが揺れている。否、実際に揺れているのはランプではなく初歌のほうだ。涙のにじんだ目に、光が揺らぐ。
「御城さん、さあ、どうしてほしいですか?」
吐息混じりの声に誘われて、初歌は最後の手綱から手を放した。もう逆らえない。それを、本能が察知していた。
「……っと、して……くださ……」
「聞こえませんよ。もっとはっきり言ってください」
焦らす言葉さえ、今は腹立たしい。狭まってせつなくうねる隘路は、この先にある慾望を満たす方法を知っている。
「もっと……! もっと、して……、桜井さん、もっと……」
熱に浮かされた声が、自分の声ではないように聞こえた。こんなことを言ったのは、生まれて初めてだった。過去の恋人との行為に、我を忘れたことなど一度もない。つまらない女だと、別れるときになじられたことさえあるほどだ。
「もっと? 強くしてほしいんですか?」
わざとらしく言いながら、樹史が笑い声を喉の奥で押し殺す。
「違う……、違うの……!」
「では、こちらですか?」
言い終わるより先に、スイッチを持っていた左手が初歌の脚の間を弄った。
「〜〜〜〜っっ、あ、ああっ……!」
「ずいぶんとほしがりな体ですね。こうして指を突き立てると、おいしそうに咥え込んでいきますよ……?」
淫路に、中指と薬指が侵入してくる。甘濡れの媚襞を伸ばすように、彼の指が蠢いた。
「そんなに締めたりして、ここを感じさせてほしかったんですか?」
もう、返事もできない。声は言葉を形成できず、母音だけをスタッカートをつけて撒き散らす。
初歌は目をきつく閉じて、二度首を縦に振った。
「うっ……、ぅ、あ、ああっ……、ん!」
「私の作った靴を履いて、ベッドの上で乱れるあなたを、何度も想像しました。そう、こんなふうに──」 -
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