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試し読み
「あ、あぁ……」
羞恥もまた刺激の手伝いをする。クラウスに触れられるところは、どこもかしこも熱を走らせた。ひざ裏に両手が入って持ち上げられると、足を開いたまま、ますます深く彼の身体を挟む。しかも、陰部が彼へと向いている格好だ。
「み、見ないで、見ないで……あ、あ、あ……っ」
下肢のすべてに手で触れられ、口づけられる。内股に唇を当てられると、彼の視界に入るであろう自分の肉裂を思う。
真闇ではない。夜は隠してくれない。白いリネンの上で肉体を広げている彼女の姿は、どれほどの淫靡さを放っていることか。羞恥で気が遠くなりそうだ。
こんなところを誰に見せられる。けれど伴侶なら――否。伴侶でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「見ないで、と? ……ここを、か?」
指が陰毛を擽りながら、肉割れを上から下へとなぞった。
ぞくりと肉体が戦慄き震え、下腹部の奥が蠢く感触がする。初めての感覚に翻弄されるばかりだ。恥ずかしさと、この先に待っているはずの行為の想像が追い付かなくて、とてつもなく不安だ。しかし、快感は何にも勝って彼女を覆ってくる。
「ひ、っく……あ、そこは、だめ……ぇ」
腹の辺りを彷徨っていた彼の唇は、もっと下がって下腹部を舐め始めていた。指は執拗に肉割れを撫でている。くすぐったい程度の刺激でしかないのに、胎内で、溢れそうなものが溜まってゆく気がする。
下肢に注がれる彼の視線にまで、物理的な圧力を感じ取れてしまいそうだ。躰が震える。
「……あぁ……」
自分の鼻息と声が入り混じったものにも羞恥を煽られる。エルシアは、顔を横に振り、意識を下肢から散らそうとするが、無理だった。髪が乱れて枕の上で大きく散らばっている。手は身体の両脇まで落ちて、リネンを強く握る。
だめと言っても、嫌だとは言わない。エルシアは、こういうふうに契りたいために、クラウスの元へ来た。自らの想いによって雨降る中、彼女はここへ来たのだ。
「……こんなに硬い蕾なのに、足を広げて自ら俺に晒しているんだな。……可愛い、エル。可愛くて、食べてしまいたい……」
なぞるだけだった指にくいっと力が入って、第一関節くらいまでが陰部へ潜る。エルシアは、びくんっと背を撓らせた。
「あ、あぁあ……っ、クラウスさま、あ、だめぇ……」
「……中が、濡れている。好いよ、エル。……ゆっくり、しなくちゃいけないのに……たまらないな」
かなり下方から声がする。指が深く潜って抉る動きをすれば、腰が浮いたり沈んだりした。意識してそういうふうにしているのではなく、自然に動いてしまう。
濡れている。そうなのだろう。指の動きが次第に速くなり深くまで隘路を開いてゆく。彼の右手だと思うが、その親指が、陰毛を分けて陰部の端を擦った。
「きゃ、あ、あぁっ……あっ、な、に……あぁあ――」
快感というには、初めての彼女には強い刺激だ。鳥肌がたつ。思わず太腿に力が入って両足を閉じようとしたが、間にクラウスがいてできない。ゆるゆると腰を振ったのは、無意識にも逃げる動きだった。未知の快楽はエルシアを怖がらせる。
けれど、容赦のない彼の両手はそこに集中して、陰核と蜜路の両方を激しく弄る。
「あ、ん、ん―……あっ、ヘン……変です……」
「なにが? 感じるだろう? 蜜がどんどん奥から漏れ出てくる。エル。乱れるあなたも美しいな。……愛液を溢れさせる淫らな花びらも、初めてなのがよく分かるほど閉じていたのに……今は自分から開いてくる。エル、もっと、乱れてもっと美しくなれ」
足の付け根まで彼の唇が落ちたのを、吸い上げられて自覚する。
リネンに置いていたエルシアの両手が思わず上がって、彼女の女陰に唇を寄せたクラウスの頭部に載せる。力はほとんど入っていないから、避けるつもりであったとしても用はなさなかった。
「だめっ……そんな、とこ、ろ、……汚、い……あ――っ」
背中が反った。肌の上を隈なく滑った唇が、陰核を捉える。溢れ出ていた蜜を、親指で広げられていたから、滑りはよかった。彼の指は、ぬるぬるとよく動いて淫芽を膨らませ、そこに唇と舌が襲う。
快感は、衝撃と共に襲い掛かってきた。気持ちが好いなどと思う余裕もなく、エルシアは大きく頭を振りながら喘ぐ。
「あっ、あっ、……ひぁっ、あ、……っ」
足を閉じてしまいたい。けれどできない。クラウスが間にいる。腰が上がってしまう。もっとしてくれと強請っているみたいだ。卑猥な姿など見せたくないのに。
動きがゆっくりになったと思うと、歯で強く扱かれた。
「アァ――……ッ……――」
顎を上向かせ、背を撓らせ、クラウスの頭に両手を置いて、激しく身悶えて達した。エルシアは、びくびくと震えながら初めての絶頂を手に入れる。やがて脱力した。
頭の中がお湯に浸かったようになっている。熱い。感極まった時に零れる涙が目尻に溜まっていて、激しく息を吐く彼女の動きに合わせて頬を掠めながら下へ流れていった。
服を脱ぐ気配と、それが投げ捨てられた音がする。次には、彼女を覗き込むクラウスの顔がすぐ上にあった。顔ばかりでなく、裸になった男の肉体がある。
眺めることなどできない。下腹のあたりに当たる棒のようなものが何であるのか確かめることも、もちろんできない。
そういう態勢で、彼女は真っ赤になりながら、自分が気になったことを口にした。
「クラウス、さま……あの、……大丈夫、ですか? ……お体、は」
驚いた顔をしたクラウスは、瞬きを何度もしてから、エルシアの左右の目尻に口づける。息がなかなか収まらず、エルシアはまだ胸を大きく上下させていた。
「この段階で、俺の身体の心配をしてくれるんだな。あなたには驚かされることが多い。いつも、逢う度に、驚くことばかりで、どの瞬間も俺を捉えて離さないんだ」
「……クラウス様?」
「何かを決めるとすぐに走って行ってしまうし。逢えない時間が長くて、その間にあなたがどこかへ行ってしまうのではないかと、いつも心配だった。だから、俺を忘れないよう、毎回、ブランケットでは手に入りにくいお土産を持ってあの離宮へ行ったんだ」
独白なのか懺悔なのか。
体は大丈夫ということなのだろうか。
ずっと昔の話題は、同じことがこの先も続いてゆくような気持ちにさせる。
これだけ普通に見えるのに、半年後の婚儀までもたないなどと、信じられない。
そういえば――と、伝えなくてはいけないことがあったのを思い出す。呼吸もだいぶ落ち着いた。ちゃんと言える。
「たくさんいただいたお土産は、離宮のわたしの部屋に置いてありましたが、離宮は……、三年前、火事で消失しました。ごめんなさい、クラウス様。すべてなくなってしまったのです……」
目線を伏せて謝る。何もかも灰になった。
お土産として渡された品々がどういうものであったのか、そしてそのときのやり取りなど、クラウスと彼女の思い出の中に残るだけだ。
頬にキスが落ちる。
「いいさ。また贈るだけだ。……気持ちが好かった? 歯で剥いてしまったな。赤い実をはっきり見られて俺は楽しかったが、痛くなかったか?」
「……?」
小首を傾げれば、クラウスは笑いながら彼女の両足を持ち上げる。
「く、クラウス様っ」
「さぁ、夫婦の交わりをしよう。愛しているよ。エルシア。俺はもうあなたを離さないからな。――何があっても」
「わたしも、あなたを愛しています。クラウス様」
最後のところでクラウスの眉がふっと寄せられたが、腰まで浮いたのを感じたエルシアは、再び躰に熱が籠ってきて目を閉じていた。足を広げたまま浮いた腰は、彼の下肢へ向いている。
そこには〈勃起〉という状態の〈男性根〉があるはずなのだ。見たことはないが、おそらくそれは、エルシアの女陰と結ばれて夫婦の契りは完了する……はず。
知識だけは持っていた。けれど、しょせん実体験には及ばないとすぐに分かる。
蜜口に熟れた陽根の先が当てられる。どきどきと鼓動が鳴る。それだけで息が上がってしまいそうだった。唇を震わせて、何か言おうと開く。
「あ、あの、クラウスさま――」
「待てないよ。もう」
胎内に音が響くようにして、太くて硬い〈彼〉が入ってくる。
「ぁ……っ……あっ、あ、あ、あぁ……っ」 -
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