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あらすじ
触れていいのは俺だけだ
破談になっても諦めない! 御曹司の執着愛「許嫁の約束は今も有効のままだ」彩子の実家の凋落とともに破談になった元許嫁の橙吾が勤務先の会社を買収!? 立場を弁えて距離を取ろうとするのに絶対に逃さないという。身体を甘く愛でられ与えられる快楽が、消したはずの想いを湧き上がらせて…。橙吾の見せる執着に搦めとられそうになるものの、立場的に彼との結婚が許されるはずはなく――!?
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キャラクター紹介
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三浦彩子(みうら あやこ)
順風満帆のセレブ人生から転落、過去との繋がりを断ち、地味に暮らしている。 -
加々良橙吾(かがら だいご)
大企業の跡継ぎ。彩子が姿を眩ませてからずっと手に入れようと画策していた。
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試し読み
「…………嫌か?」
ベッドに寝かされた彩子へと大きな身体が覆いかぶさってくる。頰を撫でながら低い声で問われ、しばし逡巡した。
「よく、わからない……」
イエスでもノーでもない答えに橙吾はすうっと目を細める。そんな顔をされても、今の彩子にはどちらの答えも選べなかった。
だって、本当にわからないのだ。幼い頃から橙吾は傍にいるのが当たり前で、将来は結婚すると信じて疑っていなかった。だけど十六歳の時にその未来は訪れないのだと悟り、気持ちを葬り去った。
それが突如として覆されたのだ。縁はとうの昔に切れたと思っていたのに、まだ繋がっていると言われても、関係が変わったのだから、簡単にそうですかと納得はできなかった。
素直には受け入れられない。それでいて拒むのも躊躇われる。
葬り去ったはずの想いが溢れてきそうになるのを必死で抑えて気づかないふりをしているのだ。
だから彩子には、そう答えるしかなかった。
見下ろした先にある瞳の中に戸惑いを見つけたのか、橙吾はそれ以上の追及はしてこない。だが不満は伝えたかったらしく、唇を柔く食まれた。
「ま、嫌じゃないだけよしとするか」
「んっ……ふ、ぅ……」
そう独り言ちると彩子の頰を両手で包み込み、深いキスを仕掛けてきた。
口内に侵入してきた舌先が唇の裏側をぬるりと舐める。初めての感触に身を震わせると橙吾が喉奥で笑ったのが伝わってきた。
こういう時はどうしたらいいのだろう。経験も知識もない彩子はただされるがままになる。それをいいことに、橙吾の舌は口の中を好き勝手に弄っていた。
「や、あっ……な、に?」
解放された口端に濡れた唇がキスを落とす。首筋に同じ感触が与えられると同時に胸の膨らみが優しく掴み上げられた。サーモンピンクのニット越しに揉みしだかれ、腰のあたりをぞわぞわとしたものが駆け抜けていく。
「仕事の時はこんな可愛い色の服、着てないよな」
会社ではできるだけ目立たないよう気をつけている。そうなると必然的に紺やグレーといった地味な色合いの服ばかりになってしまった。
それがお出かけ用の服を買いに行った時、昔は明るくはっきりした色が好きだったのを思い出したのだ。
橙吾と二人きりで会う時くらい昔と同じ姿になってもいいだろう。そんな考えを見透かされたようで恥ずかしい。思わずふいっと顔を背けると、頰に音を立ててキスされた。
「なんだ、照れてるのか?」
「そっ……そんなわけ、ないでしょっ」
「こういう顔も可愛いな」
いつものように揶揄われるのかと思いきや、橙吾はさらりと甘い言葉を口にするではないか。潜められた声はやけに艶めかしく聞こえてお腹の奥がざわめいた。
顎を掴んだ手によって顔を正面に戻され、素早く唇を塞がれる。絡み合う舌から濃いコーヒーのほろ苦い風味が伝わってきた。
「んっ…………ふ、あ……んん……っ」
頭の中心が痺れたようになってきたのは苦しいからだけではない。息を乱しながらベッドに身を沈めていると、背中に滑り込んできた手が上半身を浮かせた。
「彩子、腕を上げられるか?」
「う……で?」
「そう。ほら、バンザイ」
「ん……」
柔らかな声で下された命令は幼い頃の記憶を呼び覚ます。そういえば小さい頃、こうやって着替えさせてくれたっけ。彩子は抗うことなくのろのろと両腕を頭上へと持っていった。
裾から滑り込んだ手がニットを持ち上げ、あっという間に頭と腕を通過していく。下着姿にされ、肌寒さを覚えると肩を大きな手が包み込んだ。
「ついでに下も脱ぐか」
「えっ……? ひゃっ!」
肩を掴んだ手によって再びころんとベッドに寝かされる。今度は腰が浮き上がり、スカートのホックを外されてしまった。
「橙吾くっ……ん、まっ……や、あっ!」
彩子が起き上がろうとするより早くストッキングごと引き下ろされる。下肢を覆うものを失い、太腿をひやりとした空気が撫でていった。
「こら、なんで隠すんだよ」
「だ、だって……! 恥ずかしい、よ」
「見たくて脱がせたんだから、それじゃ意味ないだろ」
こんなことになるんだったら、もっと可愛い下着にしておくんだった……! 今になって後悔しても遅いのだが、そう思わずにはいられない。そんな彩子の気持ちに気づいた様子もなく、橙吾は胸元を隠す腕を掴んで開かせた。
じっくり下着姿を眺められている。直接は触れられていないというのに、視線に撫でられただけで身体が一気に火照ってきた。
「あっ……ん、ん……っ」
拘束された両手が頭上でひとまとめにされる。大きな手がお腹から鳩尾を撫で上げてきた。
鼻にかかった高い声はとても自分が発したものとは思えない。彩子が唇を噛みしめて出かかった声を堪えると、ブラ越しに先端をきゅっと摘ままれた。
「声、聞かせてくれよ」
――やだ、恥ずかしい!
そう言いたいけど、口を開けばまたあの甘い声が出てしまう。彩子が必死の思いで首を左右に振ると、くくっと喉を鳴らすような笑いが耳朶を打った。
「ほんと、そういうところは変わってないな……」
呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな囁きになぜかお腹の奥がざわめいてくる。思わず膝を擦り合わせたのを見ていたのか、またもや胸の頂を摘ままれた。
声を我慢しているせいで刺激がうまく逃がせない。それでもなんとかしようと身を捩る彩子を愉悦に染まった眼差しが見下ろしていた。
「もっ……や、めっ……!」
我慢できずに声を上げると同時に背中へと回った手がホックを外す。胸が締めつけから解放されるなり、あっさりと腕からも抜かれてしまった。
「……美味そうだな」
「なに、が…………っ、きゃあっ!」
剥き出しになった胸の膨らみを熱い吐息が撫でる。そのまま先端をぱくりと食まれ、腰が跳ね上がった。咄嗟に身体が逃げを打ったものの、あっさりと押さえ込まれてしまう。
もう一方の胸も大きな手で掴まれ、卑猥な形に変えられている。だが、相変わらず両手を拘束されたままの彩子はただそれを眺め、送られる刺激に耐えることしかできなかった。
「やっ……橙吾、く……っ、ゆる、し、て……っ…………んん……っ!」
彩子の懇願も虚しく硬く尖った頂に歯が立てられる。硬いものが敏感な場所に食い込んできた瞬間、電流にも似た感覚が全身を駆け巡り、悲鳴交じりの声が上がった。
舌先で色の違う場所をぐるりと舐めたかと思いきや、今度は内側へと押し込まれる。種類の違う刺激を次々と送り込まれたせいで息が上がり、視界が霞んできた。
「あぁ、顔も随分と美味そうになってきたな……」
橙吾の言っている意味がよくわからない。美味しそうということは、顔も食べられてしまうのだろうか。訊ねようにも息が乱れて言葉が出てこない。結局は薄く開いただけの唇はゆるりと弧を描いた同じものにぱくりと食べられてしまった。
「ん、んんっ……!」
呼吸すら奪うような口付けに翻弄された彩子はゆっくりと身体を滑り下りていく手に気づかない。ショーツの中に侵入した指が叢をかき分け、秘められた場所に触れられてからようやくくぐもった悲鳴を漏らした。
敏感な粒を弾かれるたびにびくびくと反応してしまう。自分で触った時はなんともないのに、どうしてこんなふうになるのだろう。その理由を考えようとしても、絶え間なく嬲る指先がそれを許してはくれなかった。
「ま……って、なっ、んか……へん、に…………な、る……っ!」
お腹の奥に溜まった熱が今にも弾けそうだ。早く楽になりたい。だけどその願いが叶えられた時、どうなってしまうのだろう。
「いいぞ……ほら、イッってみせろよ」
「あっ、やめっ……ああああ――――ッッ!!」
橙吾が艶を帯びた声で命じながら陰核を押し潰す。
一気に追い詰められた彩子の視界が真っ白に染まる。身体を強張らせたあと、くたりと弛緩してベッドに沈み込んだ。
一体、なにが起こったのだろう。
まるで真夏の校庭で走り回ったかのように暑くて、息が苦しい。指の一本を動かすのも億劫なほどの気怠さに支配され、彩子は虚空に視線を彷徨わせながらひたすら荒い呼吸を繰り返していた。
「彩子、大丈夫か?」
いつの間にか意識が遠のいていたらしく、ようやく落ち着きはじめた息の合間に柔らかな声が届く。頰を撫でる感触に重さを残す瞼を持ち上げると、そこには彩子をこんなふうにした張本人の笑顔があった。
「あの、私……は」
「上手にイケたな。いい子だ」
両手で頰を包まれ、額に口付けられる。解放されているはずの腕はやけに重く感じられ、四肢を投げ出したまま顔中に降り注ぐキスの雨を受け止めた。ぐっと迫ってきた身体が胸に触れる。そこから伝わってくる体温がやけに高いのは気のせいだろうか。
「はぁ……気持ちいい」
すっぽりと抱きしめられると、さっきはシャツ越しに感じていた筋肉の感触がダイレクトに伝わってくる。汗ばんだ素肌同士が吸いつき、その心地よさに思わずうっとりしてしまった。
だが太腿を掠めた熱くて硬いものの存在によって現実に引き戻される。
それがなにかわからないほど彩子も初心ではない。抱き込まれていた胸元からゆっくり顔を上げると、待ち構えていたかのように唇を塞がれた。
「んっ……だ、いご…………く、ん」
深く執拗なキスが一度は落ち着いたはずのざわめきを連れてくる。なんとか持ち上げられた腕で目の前にある肩を押したが案の定、びくともしなかった。
「ほら、掴まれ」
「なんっ、で……あっ…………! や、だ……っ!」
置き場所はこっちだと言わんばかりに、小さな抵抗を続けていた手が逞しい首の後ろへと導かれる。ぴたりと重なった胸で響く激しい鼓動はどちらのものなのだろう。ふっと目を細めた橙吾の手が腰に触れ、そのまま脚の付け根へと滑り込んでいった。
じゅぷり、と立った卑猥な水音に彩子は身を強張らせる。初めての場所に侵入された違和感はあるものの、なぜかそれ以上にもっと奥を触ってほしいと思ってしまう。堪らず腰を浮かせた途端、橙吾が不敵な笑みを浮かべた。
「痛くはなさそうだな。ほら、指を増やしてやる」
「えっ……まって…………んんんっ!」
圧迫感が大きくなったが、同時に湧き上がる快感までもが加速する。淫靡な水音が絶え間なく上がり、溢れたものが太腿の内側を濡らしていった。堪らず上げる途切れ途切れの喘ぎ声に煽られたのか、出し入れされる指の速度が徐々に上がっていく。
「や、あっ……ま、た…………ッッ!」
ぐぐっと腰になにかが迫ってくる。先ほど知ったばかりの感覚に似たものの到来を感じた瞬間――指を抜かれた。
「そろそろよさそうだ」
「な、に…………がっ……?」
中途半端な状態で放り出され、行き場を失った熱が全身を暴れ回っている。身を起こした橙吾は蜜を纏った指にゆっくりと舌を這わせていった。
身悶える彩子へ見せつけるかのように一本ずつ丹念に舐め取り、濡れた唇の両端を吊り上げる。ちゃんと微笑んでいるはずなのに、獰猛な獣を思わせる眼差しに背中をぞくりとした感覚が走り抜けた。
起き上がろうにも身体がうまく動かない。滑らかなシーツの上で足掻く彩子の耳にビニールを破るような音が届けられた。
「彩子、力むなよ」
「どういう、意味……ん、あっ!」
喪失感に震える蜜口へ指の代わりに熱いものが押しつけられる。そのまま押し入ってきたものに入口を限界まで拡げられ、彩子は驚き交じりの声を上げた。逃れようにも肩の上に置かれた手がそれを許してくれず、ずぶずぶと肉杭が打ち込まれていく感覚にすべての意識が向けられる。
「……っはぁ、狭い、な」
堪えきれず、といった様子で低い呟きが零される。熱い吐息が浅く細切れの呼吸を繰り返す素肌を炙り、彩子の内側を更に締めつけた。自分の身体だが今はもう制御不能に陥っている。
なにをされたらどうなるのか、彩子自身もわからない。未知の領域に足を踏み入れ、困惑している真っ最中だというのに、橙吾は眉を寄せてこちらを見下ろした。
「力むなって、言っただろ」
「そうっ、言われても……わかんない、よっ」
反論している間にも橙吾は腰を寄せては軽く引く動作を繰り返している。繋がっている部分に引きつれたような痛みが走り、彩子は小さな呻きを漏らした。
「んっ……は、あ……っ」 -
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