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あらすじ
もっと俺に夢中になればいい
本気で口説いてくる離婚予定の夫の色気がすごすぎる「必ず俺を好きにさせる。本当の妻になってほしい」期間限定の契約婚の終了間際、夫の湊斗に口説き落とすと宣言されてしまった。よき同居人の仮面を脱ぎ捨てた夫の、色気ダダ漏れの猛攻にタジタジ。キスだけで蕩かされ、あらぬ場所にまで口付けられて。否応なしに惹きつけられていく。だけど、恋愛経験値ゼロの佳純はホテル王の妻になる自信がなくて!?
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キャラクター紹介
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香坂佳純(こうさか かすみ)
推し活で人生充実している。契約夫の湊斗とはよき同居人同士と思っていたのに!? -
香坂湊斗(こうさか みなと)
敏腕ホテル王。佳純と三年間の結婚を契約していたが、本気で口説くと決意する。
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試し読み
「湊斗さんは、優しすぎるよ。離婚してもわたしが働きづらくならないように考えてくれてたでしょ? きっと、今まで夫婦同伴で出ないといけないパーティとかあったよね。でも、ひとりで参加したこともあったって古瀬さんに聞いた。わたしが、なるべく表に出ないようにだよね」
古瀬と話した内容を思い返しながら、湊斗を見つめる。彼は、「よけいなことを」と呟くと、苦笑を零した。
「パーティは、どうしても出席しなければいけないものは、きみにも声をかけた。俺はもともと、その手の集まりは好きじゃないんだ。古瀬も言ってなかったか?」
「それはそうだけど。だからって、湊斗さんの奥さんが『イマジナリー嫁』だなんて言われるのは嫌なの。スパダリで奥さんなんてよりどりみどりのはずなのに! そんなふうに噂されるくらいなら、わたしがパーティに出たほうがいいよ!」
「……それは、ちょっと嫌だな」
湊斗はそれまで浮かべていた笑みを消し、真顔になった。
「俺は、きみをあまり人前に出したくない」
「どうして? 心配しなくても粗相はしないよ。今まで一緒に出たパーティだって、上手く化けてたじゃない」
頻度は多くないながらも、湊斗の妻として取引先の重役らと挨拶を交わしている。立ち居振る舞いは、老舗ホテルの従業員として教育を受けているためまったく問題はない。
見た目に関しては、未知瑠の手を借りて普段よりも念入りにメイクを施し、ゴージャスに仕上げた。『もともと素材がいいし、佳純ちゃんってメイク映えするのよね』とは彼女の発言だが、普段の姿を知る人であれば驚くほどに『香坂湊斗の妻』を作り上げている。
大きな目をさらに強調するように睫毛エクステを使用し、ラメ入りのアイシャドウやパール入りの下地などを用いてかなり華やかに装ったのである。
仕事でもプライベートでもナチュラルメイクで、お洒落は必要に応じてのみというライフスタイルの佳純だが、フルメイクで臨んだパーティで周囲から浮くこともなかった。むしろ、参加者からは口々に褒められている。
「化けるのが問題なんだ」
湊斗はやや不機嫌そうに眉根を寄せた。
「きみは、普段でも充分魅力的だ。だが……パーティ用の装いをすると、目立ちすぎる。気づいてなかっただろうが、やたらと男の視線を集めていた」
「気にしすぎじゃない? それを言うなら、湊斗さんのほうがよっぽど女の人に注目されていたけど」
「嫌なんだ、俺が」
湊斗の手が、佳純の手に触れた。大きな手で包み込まれ、そのぬくもりにドキリとする。動揺して息を呑めば、彼が距離を詰めてきた。
「付き合いでイベントに参加することはあるが、それでもなるべくきみを人目に晒したくない。ほかの男が佳純に色目を使うのが嫌だという俺の我儘だ」
だから気にする必要はないと湊斗は言う。パーティ用に着飾った佳純を自分以外の男に見せたくないだけだから、と。
つまり彼は独占欲から、パーティに妻を連れて行かなかったことになる。まさかそのような理由だとは予想外だった。
(……湊斗さんは、過保護だよ)
彼は好きになった女性にはとことん甘く、ほかの男を近づけたくないほどに嫉妬をするらしい。
自分がその対象になっているのだと思うと、胸がきゅっと締め付けられる。なぜこうも、湊斗に感情を揺さぶられるのか。二次元の推しに夢中になっているときとは別の高揚感に包まれて、何も言えなくなってしまう。
佳純が口をつぐむと、不意に湊斗の呼気が耳朶に触れた。びくり、と肩が上下に跳ねると、彼が耳もとで囁きを落とす。
「今日はまだキスしてなかったよな」
「えっ、うん……そうだね」
今朝は彼の出社が早く、キスをする時間がなかった。突然の話題の転換に驚きつつ頷けば、湊斗に顔をのぞき込まれる。
口角を不敵に引き上げたその表情は、とてつもなく強烈な欲望を孕んでいた。普段は冷静でストイックなだけに、まるで知らない男性のようだ。
唇が触れるか触れないかの絶妙な距離で見つめられ、思わず息を呑む。端整な容貌の男に色気を纏われれば、どうすることもできずに身を固めるだけだ。
「そんなに緊張されると困るな」
湊斗は佳純の動揺を正しく理解しているのか、楽しそうに続けた。
「今日は、唇じゃない場所にキスをしたい。いいか?」
「……唇じゃないって、どこにするの?」
「たとえば、こことか」
握っていた手はそのままに、空いている手で耳たぶを撫でられた。くすぐったさに身をよじると、彼の指先が首筋へと下りてくる。
「唇以外でも、キスする場所はたくさんあるだろ」
言いながら、湊斗の唇が耳たぶを掠めた。身を竦めた佳純は、耳に熱が集まるのを感じて首を振る。
嫌がっているわけではない。ただひたすら恥ずかしく、湊斗の色気にあてられて何も考えられないだけだ。
「佳純」
優しく呼ばれて視線を上げると、切れ長の瞳が目の前で揺れる。とっさに顔を背ければ、無防備な耳朶に軽くキスを落とされた。
「っ……」
握っていた手を移動させ、肩を引き寄せられる。小さなリップ音がやけに生々しく響き、一気に体温が上昇した。
「可愛いな。できることなら、きみの全身にキスして触れたい」
耳の奥底まで響く低音で囁いた湊斗は、再度耳朶へ唇を寄せた。しかし先ほどとは違い、今度は唇で挟み込むように食まれてしまう。
「あ……っ」
ピリッとした感覚が耳から全身に伝わり、佳純は無意識に彼のシャツを握った。
肌を撫でる吐息にすら敏感になり、身体中が火照ってくる。
普段意識していない場所に他者の唇が触れるだけで、これほどドキドキさせられるとは考えすらしなかった。創作物でなら幾度となく見てきた行為なのに、いざ自分が体験するとなると想像よりもはるかに淫らに感じる。
(湊斗さんの色気が、ただ事じゃない……!)
言葉にしなくても、佳純がほしいのだとしぐさや声音で語っている。彼の気持ちを感じるからこそ恥ずかしく、ただなされるがまま行為を受け入れるのみだった。
耳朶を唇で挟んでいた湊斗は、次に舌を這わせてきた。生温かくざらついたそれが耳殻をたどり、ねっとりと舐めていく。
「んっ……」
彼の呼気が直接耳の奥に浸透し、小さく身震いをする。
唇へのキスも頭が朦朧とするほど卑猥だが、耳へのキスはまた違った淫靡さがあった。全神経が彼の舌の動きに集中し、意識のすべてを支配されるかのようだ。
「湊斗さん……そろそろ……あっ⁉」
やめてもらおうと口を開くも、それより先にソファに押し倒された。
「もう少しだけ、キスしたい」
欲情を感じさせる声で告げた彼は、素早く佳純のニットを引き上げた。露わになった胸の谷間に顔を埋め、空いている手でふくらみを揉みしだく。
「や、ぁ……っ」
湊斗は、ブラと胸の頂きを擦り合わせるように指を動かした。優しい手つきで性感をくすぐられ、ぞくぞくと熱が高まってくる。
「これ……キスじゃ、な……んんっ」
抗議しようとすると、ブラを押し上げられた。まろび出た乳房の先端を指先で扱かれ、もう片方に吸い付かれてしまう。
ぬるついた舌先で舐られて腰が跳ねる。耳たぶへのキスはまだ許容範囲だが、胸にまでするのは反則だ。そう思うのに、初めて与えられた愛撫はひどく身体を昂ぶらせ、彼を止めようとする気持ちが保てない。
(どうしよう……気持ちいい……)
ぴちゃぴちゃと音を立てて乳首を吸い上げられ、羞恥と快感とでたまらなくなる。それは、佳純にとって初めての感覚だ。下腹部がむず痒くなり、触れられていない脚の間がしっとりと濡れてくる。
「っ……み、湊斗……さ……ぁあっ、ンッ」
彼は下から掬い上げるように両手で胸を揉み込み、交互に尖った頂きを舐めまわした。
時折上目で様子を窺う表情は明らかに欲情し、普段の彼からは想像できない姿だ。強引ではないが、どこか余裕がない。それだけ強く求められていると思うと、心の奥が締め付けられる。
「ずっとこうして触れたいと思っていた」
顔を上げた湊斗に告げられて、ぞくりと肌が粟立った。嬉しい、と理性よりも感覚が訴えている。その証に、彼にしゃぶられている乳首は甘く疼き、硬く凝っている。身体と心が開かれ、湊斗に意識を支配されていく。
「佳純、きみが好きだ。別れたくないし、離したくない」
「ん……っ、う」
言葉とともに、唇を塞がれた。口腔に侵入してきた舌先にたっぷりと舐めまわされ、そちらに気を取られていると指で乳頭を捏ねまわしてくる。息が苦しくなって彼の肩を摑めば、キスを解いた唇がふたたび胸の尖りを咥えた。
「あ、あ……ゃあ……ッ」
体内に淫らな熱が溜まってくる。胸だけでこれだけの快感を得られるとは思わなかった。いや、そもそも佳純の性欲は薄く、性行為は二次元の世界の出来事で、自分の身に起きることではなかったのだ。
それが今、湊斗の愛撫に感じている。もちろん、誰にでも身体が反応するわけではない。彼だから、これほど乱れてしまうのだ。
「俺を受け入れてくれ。きみも、俺を嫌っているわけじゃないだろ」
胸をいじくりながら、確信したように湊斗が言う 。
「ほかの女に嫉妬するくらいには、好きでいてくれている。違うか?」
「んっ……それは……」
「俺は佳純だけのものだ。だから、きみのことも俺にくれないか」
真摯な眼差しを向けられて、心臓が高鳴った。
湊斗の気持ちが伝わってくる。結婚や恋愛に意味を見出していなかった彼から告げられる愛の言葉には、これ以上ないほどの誠実さが感じられた。
「わ……わたし……」
彼の想いに応えたい。自然とそう思い口を開きかけた佳純だが、言葉を継ぐことができなかった。湊斗の手がふくらはぎに触れ、スカートの中に入ってきたからだ。
(あっ……)
「だ、だめ……!」
思わず大きな声で制止すると、ハッとしたように湊斗の動きが止まった。
「……悪かった。調子に乗って」
「違うの! 嫌だとかそういうことじゃないの。だって気持ちよかったし、何も考えられなくなっちゃうし、恥ずかしいけど湊斗さんに触れられるのはむしろ好きだと思う。でも、今はだめで準備が必要というか……」
佳純は彼が誤解しないように、早口で言い募る。
湊斗との行為が嫌で拒否したわけではない。ただ、下着を見られるのが嫌だったのだ。
通勤時の防寒として、冬は毛糸のインナーを着用している。ちなみに、腹部まで隠れる仕様だ。腹巻きと一体となったいわゆる〝毛糸のパンツ〟なのだが、湊斗に見られるのは絶対に避けたい 。
あたふたと言い訳をしていると、一瞬驚いた顔を見せた湊斗はすぐに笑った。
「それは、準備が整ったらいいってことか?」
「……ノーコメント!」
叫んだ佳純は湊斗を押しのけて起き上がり、服の乱れを直す。
自分の言葉の意味を理解して、顔から火を噴きそうなほど恥ずかしくなった。要するに、なんだかんだと言い訳をしていたが、『湊斗に抱かれてもいい』と語ったことになる。
(いくら動揺してたからって、とんでもないこと言っちゃうし……)
触れられるのが好きだとか気持ちいいなどと、伝えなくていいことまで伝えてしまった。最近、湊斗のことになると失敗が多い。心を揺さぶられ、冷静でいられないのだ。見ているだけでもたいそう心臓の動きが活発になるのに、触れ合ったら最後、彼の色気を過剰に摂取して悶死寸前だ。
「佳純」
肩に手を置かれてドキリとすると、彼が艶やかに囁いた。
「俺の誕生日に、佳純を抱きたい。だから、それまでに準備してくれ」 -
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