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あらすじ
ああ、可愛いしずっと触れていたい……
結婚までの「恋人ごっこ」の相手が、実は公爵家の息子で!?親が決めた結婚までの間を、大好きな歌劇団の鑑賞に捧げることにした伯爵令嬢のキアラ。何度も謎の騎士、レアンドルに会い、チケットと引き換えに結婚まで「恋人ごっこ」をすることに。「可愛すぎて帰したくない」と甘くキスされ体に触れられると、胸が熱くなりふわふわと夢心地になってしまう。いずれ別れる運命なのに彼への想いが募っていき…!?
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キャラクター紹介
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キアラ
伯爵家の末娘。結婚までの自由時間を「推し活」にあてるつもりだったが……。 -
レアンドル
現国王弟である公爵家の次男で近衛騎士団副団長。キアラへの初恋をこじらせ中。
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試し読み
あっけなく下着をすべて脱がされた。じわじわと恥ずかしさが増している中、湯舟に浸かるよう指示される。
「え、ええ……じゃあ、お先に……」
――前だけじゃなくて、後ろ姿を見られるのも恥ずかしいなんてはじめて知ったわ。
レアンドルの視線から逃れたくてすぐに後ろを向いてしまったが、彼はなにを思っただろう。胸だけではなくお尻にももう少し肉がついていた方がいいとでも考えたかもしれない。
湯加減はちょうどいい。少し冷めてぬるま湯になっていたが、じんわりとキアラの緊張をほぐしてくれそうだ。
――冷静に考えるとすごいことをしてる……男性と一緒に入浴だなんて。
期間限定の恋人で別れることが決まっていた相手が、実は婚約者だったというだけで驚愕していたのに。別れずに済んだことは喜ばしいが、この展開はいささか急すぎではないだろうか。
――あれ? 私、今日は帰れるのかしら? それともここに泊まるのかしら……?
泊まるとなれば、恐らく同室……ついでに寝台も一緒のはずだ。
素肌を晒した後になにもしない成人男女はいないだろう。
「……っ!」
なんだかたまらなくなって衝動的に頭まで湯の中に潜ると、すぐさま身体が引き上げられた。
「大丈夫か!」
レアンドルが慌てている。
キアラの腹部に腕を回し、背後から抱きしめるように湯に浸かった。
「ちょっと……潜ろうかなって」
「びっくりした……急に姿が見えなくなって、溺れているのかと」
「ごめんなさい……驚かせて」
長い息を吐きだすレアンドルを見て、申し訳なさがこみ上げる。人がいる場所で突然の奇行は心臓に悪かっただろう。
「いや、溺れていないならいいんだ。だが、キアラは目が離せないな……なにをしでかすかわからない」
背後から抱きしめられると、ドキッとする。腹部に回った腕が逞しい。
そして今さらながら、レアンドルの素肌を感じ取って心拍数が上がりだした。
「そんなに心配しなくても子供じゃないし、大丈夫よ。今回はうっかり連れ去られちゃったけど」
「うっかり誘拐されるなんて、とんでもないことだろう。たまたま大きな事件には発展しなかったが……それでもキアラを誘拐したことは事実だ。あの男は許しがたい」
「そうね、巨乳ばかりを狙うなんて本当許しがたいわ」
しかもキアラは間違って攫われたわけだ。なんという屈辱なのだろう。
「……俺はキアラの身体は美しいと思っているよ。直視しがたいほどに」
「お世辞でもありがとう。好きな人にそう言ってもらえるなら十分うれしいわ」
だが多少、もう少し胸はほしい。きっとレアンドルも小さいより大きい方が楽しいだろう。
「なにを食べたらあんなにふわふわで、零れそうなほど成長するのかしら……」
もしかしたらキアラの兄たちの方が胸は大きいかもしれない。筋肉で胸筋が発達している。
「兄さまたちを見習って、筋肉をつけるしかないのかも……」
キアラの両手ですっぽり覆われてしまう胸を触りながら独り言を紡ぐ。
胸が邪魔で、肩が凝るという悩みを持つまで成長することは高望みしすぎだが、寄せて上げたらくっきり谷間ができるくらいには……。
「そんなに気にすることではないと思うんだが……」
「でもレアンドルも、大きくてふわふわな胸の方が触り心地がよくてうれしいでしょう?」
「大事なのは大きさじゃなくて、誰についているかだろう。俺はキアラ以外の女性の胸には興味がないから、キアラの胸を可愛がりたい」
レアンドルの手が移動する。
キアラの腹部に巻かれていた手がそっと小ぶりな双丘に触れた。
「ん……っ」
彼の大きな手ではやはり物足りないだろう。すっぽり覆われてしまっているのを見ると、やはり胸筋を鍛えることが手っ取り早いと思えてしまう。
「ああ、可愛いしずっと触れていたい……」
熱っぽい声が鼓膜をくすぐる。
彼の指先が控えめな胸の蕾に触れた。
クリクリと先端を弄られると、なんだか身体の奥が疼いてくる。
「そ、そう……?」
「うん。あとこれは俗説だが、恋人に揉まれると大きくなるらしい」
「そうなの? じゃあ私の胸が物足りないのは恋人がいなかったせいなのね。道理でおかしいと思ったのよ、お母様は小柄なのにふわふわだもの」
遺伝を考えれば、キアラだって素質はあるはずだ。ちなみにそんなところだけ父親似になったなんて思いたくない。
――それならいっぱい揉んでもらおう。
キアラは優しく胸に触れてくるレアンドルの手に、自分の手を重ねた。
「たくさん揉んでね?」
背後を振り返りながら上目遣いでお願いする。
レアンドルの目尻に赤みが増した。
「そんな可愛い顔で可愛いおねだりをされたら……ああ、ダメだ。今すぐ襲い掛かりたくなってしまう」
キアラの腰になにか硬いものが押し付けられた。
レアンドルの苦悩めいた吐息も感じられて、なにやらお腹の奥からこみ上げてくるものがある。
――これは……欲情ってやつなんじゃ……?
当然だがレアンドルは健全な成人男性だ。
今まで紳士的に接していたのは、キアラを怖がらせないため。
キスをして胸に触れて、甘い恋人のような時間を過ごしたこともあったが、彼の情欲を感じたことはない。
レアンドルはキアラの胸から手を離さないまま、色香の混じった吐息をこぼしていた。
「あ……レアンドル、なんだか私……」
「うん、どうした?」
彼の顔がキアラの首筋に埋まった。
肌にキスを落とされると、なんだかぞわぞわとした震えが背中から腰を駆ける。
「お腹の奥が熱いみたい……? なんだろう、キュウッてする」
ぬるま湯に浸かっているのに、身体の奥から体温が上昇しているようだ。
レアンドルに触れられている箇所に神経が集中する。もっと撫でられたくて、身体に触れてもらいたくなる。
「……この辺?」
彼の手が腹部に移動した。
円を描くように下腹部を撫でられると、キアラの胎内がふたたびキュンと疼いた。
「ンゥ……ッ、……そう。多分、そこ」
片手で胸を弄られながら、もう片手がキアラの下腹をまさぐる。
なんだか湯に上せたように、思考がふわふわしてきた。身体中の神経がレアンドルの手に注がれている。
「キアラの身体が、俺に触れられて気持ちいいって思っているんだ。俺に触れられるのは嫌じゃない?」
「……嫌じゃないわ」
むしろもっとほしいとねだりたくなりそうだ。
先ほどはたくさん胸を揉んでほしいと口にしたのに、全身に触れてほしいと言うのは憚られる。
レアンドルは優しいから、キアラが欲張りなことを口にしてもきっと受け入れてくれるだろう。だが、彼が嫌なことはしたくない。
「……あの、もっとって言ったら、嫌?」
「ん?」
「レアンドルに、もっとたくさん触れてほしいって……全身を撫でてほしいって言ったら、欲張りな女だと思って呆れる?」
熱に浮かされたような表情で見つめられたレアンドルは、思いがけない問いかけに一瞬言葉を失ったようだ。
眉間に皺を寄せてなにかに耐える顔をした。
――あ、困らせたかも。
キアラの眉がしゅん、と下がる。
誤解を生んだと正しく認識したレアンドルは、キアラを抱き上げて浴槽から出た。
「欲張りなんて思うはずがない。むしろそんな可愛い顔でうれしい発言をされたら、煽っているだけになるからな? キアラの全身を洗ってあげようと思っていたが、後にする」
バスローブを着せられると、またしても横抱きにされて寝室に運ばれた。
寝台に寝かせられ、起き上がる間もなくレアンドルが乗り上げてくる。
「レア……」
「俺の我慢はずっと限界だった」
キアラの太ももあたりを跨ぐと、レアンドルは身に着けているバスローブの袷をほどいた。
バスローブが床に落ちる。
キアラの視界には生まれたままの姿のレアンドルが飛び込んで来た。
膝立ちになったレアンドルには余裕がない。
目の毒になりそうな色香を放ちながら、しっとりとした視線を向けてくる姿が言葉にならないほど色っぽい。
だがなにより存在感を放つのがレアンドルの雄の象徴だ。
――視線が吸い寄せられるんですけど……!
芸術家が作り出す彫刻よりも雄々しく神々しく、そして生々しい。
天を向く欲望はキアラの想像をはるかに超えていた。
中性的な顔立ちの美男子がこのような凶悪なものを持っていたなんて……と内心狼狽えそうだ。
「キアラの望み通り、全身くまなく愛してあげるし、頭のてっぺんからつま先まで思う存分触れてあげよう」
「ひぇ……」
思いがけない愛情の重さを感じてしまい、腰が引けそうになった。
前言撤回がしたいとは言いだせない空気だ。
――触れてほしいとは思ったけど、こんな色気大魔神のような顔で迫られたら……気絶するかもしれない。
どうしてだろう。まともな恋愛経験がないのはレアンドルも同じはずなのに。彼の方が断然キアラより経験豊富に思えてくる。
追い詰められた小動物の心境を味わっていると、レアンドルがキアラのバスローブの袷を解いた。
「あ……っ」
スッと鎖骨のあたりに触れられた。
その瞬間、肌がぞくぞくと粟立った。レアンドルの手つきすら艶めかしい。
「細い首も華奢な鎖骨も、引き締まった腕もすらりとした脚も、全部美しい。あなたがこんなに美しく成長していく姿を、間近で見守れなかったことが悔しくてたまらない」
「そ、そんなことは……」
間近でということは、遠くからは見つめていたのだろうか。
気が動転しているせいで、余計なことまで考えてしまう。
レアンドルの手がキアラの脚に触れた。片手でふくらはぎを持ちあげて、つま先に唇を寄せる。
「ン……ッ」
「形のいい爪も可愛いね」
親指を口にふくまれた。
抱き上げられて運ばれたとはいえ、汚れていないとは限らない。そんな風に舐められるなんて思ってもいなかった。
「や……足なんて舐めちゃ」
「キアラの全身にキスをして、身体中に所有の証を刻みたい」
くちゅり、と唾液音が響いた。
つま先から唇を放したレアンドルは、踵からキアラのふくらはぎを舌先で滑らすように舐める。
「ひゃあ……っ」
くすぐったくて、でもなにかを期待しているようで、身体が小刻みに震えてしまいそうだ。
ねっとりとした視線と息遣いがキアラの官能を高めていく。 -
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