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「よかった……それでは、今日は送ってくださりありがとうございました。お見苦しい部屋で申し訳ありませんでした」
キャロラインは礼と別れを告げたつもりだが、アーサーは帰る気配はなく、ぐるりと室内を見渡して言った。
「全く窮屈な部屋だな。これでは先日買った服が入らないだろう。きみに買ったドレスが僕の衣装室にあって邪魔で仕方ないから早く引き上げてほしいんだが。もっと広い部屋に引っ越したらどうだ」
「でも、あれは探偵の調査道具ですから……」
「きみ以外に誰が着るというんだ、一度使ったものはもう使わないし……きみが処分しておけ」
「そんなもったいないです。……では、慈善団体にでも寄付をしますか?」
アーサーはうんざりした顔でため息をついた。
彼が仕事のためと言って購入したキャロラインの服など、この部屋に置けるスペースはない。天井が斜めになっていて、ベッドと小卓と椅子、行李と小さな棚がひとつ、あとはコート掛けと旅行鞄があるだけだ。
小卓には粗末な燭台に蝋燭が一本立っている。
オイルランプは高価なのでキャロラインには手が出ない。その心許ない光に照らされるアーサーの姿がなんともまばゆい。
彼は燕尾服を脱いで、室内に一脚しかない椅子に投げかけると、勝手にキャロラインのベッドに腰かけた。
「ああ、きみには遠回しな言い方は通じないんだった。処分しろということは、きみの好きにしていいということだ。僕がきみに贈った、と言えば理解できるかな」
「そんな……そういうわけには参りません」
「わからないやつだな、きみは。男が女にドレスを贈るにはちゃんと意味がある。僕はきみが美しいドレスを着てどんなふうになるのか興味があるし、そんなきみとダンスをするのもやぶさかではない。僕は今夜、きみを放したくなくてここにいるんだ。ここに座れよ」
「アーサー様……?」
キャロラインは言われるままに彼の隣に座った。
「気を失っているきみを見た時、血の気が引いた。きみに何かあったらと思ってのことだ。それほど動揺する自分にも驚いているが、つまり、僕はきみに惹かれている」
眠っていただけなのに、と言い返す間もなく、次の瞬間に唇を奪われていた。
前の夜会でされた時よりももっとやさしいキスだった。まるで恋人にするみたいな、愛の籠もった口づけに、キャロラインは夢見心地になる。
——僕はきみに惹かれている。
心の底に落ちて沈んでいたその言葉がゆっくりと浮かび上がる。それは蝶のように舞い上がってキャロラインの周りを飛び回った。
——アーサー様がわたしに……惹かれて……?
彼のわかりにくい冗談かと思ったが、ほかにどんな意味があるだろう。
どうしてこんなに美しく恵まれた人が抱きしめてくれるのかわからないが、キャロラインは嬉しかった。
彼女はそっとアーサーの背中に腕を添えて口づけに応える。
彼も返礼のようにその手をキャロラインの髪にあてがい、さらに強く唇を重ねてきた。
「ん……」
まだ眠り薬が効いていて、幻影を見ているのかもしれないと思うほど甘い抱擁に酔っているうちに、ゆっくりと押し倒され、ベッドに横たえられていた。
天蓋も垂れ幕もない粗末なベッドの上で、次第に激しくなる口づけ。
彼の優美な手で夜会服をそっと剥がされ、キャロラインは生まれたままの姿に近づいていった。恥ずかしさはあったが、彼もシャツを脱ぎ捨てていたから、その肌の熱さに触れた時、キャロラインのためらいはドレスと一緒にベッドの外に放り出された気がした。
繰り返される口づけ、キャロラインの中にまで潜り込んでくるアーサーの舌に息すら継げず、思わずよじる背中、そして唇から零れる切ない喘ぎ。
「……ぁ……あ、……んん」
束の間の呼吸を許されて胸を大きく喘がせていると、アーサーはキャロラインの頬や顎にキスをして、彼女が落ち着くのを待っているかのようだった。
「かわいい胸だ」
耳朶をかすめる色香のある低声に、キャロラインの心はさらに溶けて崩れてしまう。
「アーサー様……」
「アーサーと呼ぶんだ」
そう言いながら、彼は間違えた罰だと言わんばかりにキャロラインの丸い乳房にキスをした。
「ぁあっ」
小さな淡い色をした尖りを口に含まれ、キャロラインは身もだえした。
他人に触れられたことのない肌の全てが感じやすくなっているというのに、その悪戯は彼女には過酷な刺激を与えた。
「官能的な声だ。すごくそそられる」
アーサーはもう一度その小さな果実を嬲った。唇でしっかりと含み、舌を絡めてくすぐり、キャロラインをわななかせた。
「あ……あ、いや、恥ずかしい……です、ああっ」
翻弄されるたびに、キャロラインの背中はびくびくと緊張した。胸先を愛撫されているのに、足の指先まで力が籠もり、それはやがて体中に広がっていった。
蝋燭の炎の揺らぎのようなもやもやした快感が腹の奥で感じられ、たまらずに膝を擦り合わせる。
「だめ……ああん……見ないでください」
「怖いのか?」
それは、これから起こることがというより、全てを見られて彼に嫌われないかという畏れだったかもしれない。キャロラインが頷くと、彼は甘い声で言った。
「無理にはしない。きみの体がそれを望むまで待つから」
どういう状態が望むことなのかわからなかったが、確かに彼女の体には変化が起こっていたのだ。
腰が揺れ動いてしまい、足の間が疼きだした。
アーサーの手と唇と舌が、キャロラインの全ての官能の蝋燭に火を点けようかというように、やさしく粘り強く触れていく。
「ん……あ……っ」
「ほら、ここが変化してきた。きみの体が喜んでいる印だ」
彼の言っているのが乳房のことだとわかる。両方の乳房が張ってきて乳首が固く勃ち上がっているのだ。そして感度を増して彼に触れられる喜びにうち震えている。
彼の手が次のターゲットを定めて下腹部に降りてきた時は、キャロラインは軽く拒んだが、やや強引に開かれてしまう。
「じっとして……きみはもっと大きく変わるよ」
彼の声は狡い。
美しく官能的なのに、昼間の冷淡な探偵と同じ響きを持っているのだ。
キャロラインは従順に、息を詰めて彼のするがままに任せていた。
魔術師のような指先が秘めた場所に触れ、誰も開いたことのない花弁を剥いて花蕾を摘んだ時、キャロラインは狂おしい快感に包まれて小さな悲鳴を上げた。
「ああ——っ」
「いい声だ。きみの体の隅々まで調べさせてもらう」
そして、アーサーは彼女の足の間に顔を近づけてきた。
「ああっ、だめです……そこはだめ……っ」
キャロラインは恥ずかしさがき極まって涙声で訴えたが、アーサーはやめてくれなかった。
「大丈夫、きれいなピンク色で、しっかりと閉じてるし傷もない。きみの体は純潔そのものだ」
「本当ですか……?」
「ああ」
吐息のような返事をしてから、彼は付け足した。
「だが……僕がこれから奪うことになるけれど」
それから、彼は乳房にしたようにキャロラインの花芯に舌を差し入れ、ゆるやかにえぐった。
「ひ……ぁっ」
ドクンと全身を走る衝撃。
固く閉じているといわれた乙女の恥じらいを解きほぐすように丁寧に愛撫され、キャロラインの肉体は激しく震えた。やがて下腹から熱い滴りが溢れてくる。
「こちらも喜んでる、そうだね?」
「アーサー様……もう……許して……」
こんな淫らに肢体をのたうちまわらせていることが恥ずかしくて消えてしまいたいと思うキャロラインだが、彼はねっとりとした極楽のような快感を与え続けた。
そして、彼女の内腿がしとどに濡れてくると、アーサーはようやく羞恥的な調査を終えて体勢を変えた。そして汗で濡れた胸板を彼女の乳房に重ね、口づけをした。
右肘をベッドにつくと左手をキャロラインの秘部に向かわせ、指を忍ばせてくる。
「……んっ……!」
ぴくりとキャロラインが震えた。彼女自身が零した蜜で滑るようにアーサーの指が胎内に入ってきたのだ。
未知の感覚に、彼女が首を振るとアーサーは唇を離して言った。
「まだだ。きみを傷つけたくない」
そして丹念に肉襞を擦り、ほぐしていく。
異物感に怯えていたキャロラインだったが、やがてそれは新たな愉悦を生み、彼の指を求めて腰が自然とうねってしまうのだった。
「すごく柔らかくなった。でもまだ気持ちよくなる場所があるはずだ」
アーサーは何を探しているのか、キャロラインの蜜洞に指をは這わせてうごめかせていたが、その先がある一点をかすめた時、強烈な快感がせり上がってきた。
「あぁぁぁ……っ」
一瞬目が眩み、蝋人形のように体が硬直した。頭の中を閃光が走り、全身が空中に投げ出されたよう。
「素敵だよ、キャロライン」
やさしく甘い声であやしながら、彼はキャロラインの体を開いてきた。
——ああ、わたしこれから……アーサー様のものになるんだ。
この美しく聡明な人の一部に?
硬く熱いものが足の間にあてがわれ、すっかり濡れた花芯を割って押し込まれる。
——あ……。アーサー様……!
声にならない喜びと、少し怖い気持ちが混ざって胸を締めつける。
最初は痛みはなく、異物感と体を開かれた恥ずかしさばかりが先立った。
「力は入れないで、僕にゆだねてくれ」
激しい法悦の余韻に小刻みに震えながら、キャロラインは目を閉じて彼が挿入ってくるのを感じた。
彼の指でほぐされてはいたが、それよりはるかに強烈な異物感が肉襞を押し広げて迫ってくる。熱い剛直がまっすぐに体を突き破って、キャロラインの奥へと侵入してくるのだった。
「ぁ……っ」
彼が最奥に到達した時、痛みと圧迫感にキャロラインは小さく呻いた。
「キャロライン……ほら、繋がった。大丈夫か?」
「はい……」
肌と肌を合わせ、彼の吐息を耳朶に受ける。屋根裏部屋に閉じこもっていたみすぼらしい少女が女になっていく瞬間のまばゆさに、涙が溢れる。
下腹部の鈍い痛みと苦しさはアーサーと繋がっている証なのだ。
汗に濡れた彼の肌、乱れた髪、間近に聞く艶めいた声——。
うが穿たれてどこにも行けない自分の体さえ、彼に貫かれているのだと思うといと愛しく感じる。
キャロラインが涙に濡れた睫をしばたたかせると、彼は少し眉をひそめた。
「あさましいほどきみがほしかった。ひと目見た時から好きだったんだ」
「アーサー様……本当ですか?」
「そうだ。そんな理由で募集したわけじゃないが、あの日、きみしか目に入らなかった」
「嬉しいです」
そしてつながったまま口づけを繰り返した。
今までの人生に、こんなに濃厚に求められたことはなかった。
これほど強く抱きしめられたことなどなかった。
彼が『きみは大きく変わる』と言ったのは本当だった。
いつ解雇されるかと畏れていた冷酷な男だと思っていたアーサーが、こんなふうに自分を求めて、肌を曝し、肉体さえ重ねて愛の言葉を囁いてくれるなんて——。
「もっと強く交わりたいが……いいか?」
——もっと強く……?
「でもきみは泣いているからこらえるべきかな」
「いいえ、教えてください。わたしは大丈夫です」
「ええ?」
乞うように言ったのがおかしかったのか、アーサーは苦笑した。
「何を教えてだって?」 -
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