書籍紹介
人嫌い公爵は若き新妻に恋をする
人嫌い公爵は若き新妻に恋をする
ISBN:978-4-596-58244-7
ページ:290
発売日:2017年12月27日
定価:本体590円+税
  • あらすじ

    人嫌いという噂の公爵に嫁いだらいきなり溺愛されて!?

    王太子との婚約を破棄され、王弟である公爵マルスに嫁がされることになったミネルヴァ。貴族の義務と割り切って従う彼女は、人嫌いのはずのマルスに初夜から濃厚に愛されとまどう。「私の奥方はなんて淫靡で愛らしいのだろう」美貌の公爵に朝夕、溺愛され、甘やかされて変わっていく身体と心。だがミネルヴァを捨てた王太子が彼女に助けを求めにきて!?

  • キャラクター紹介
    • heroine_VBL134

      ミネルヴァ
      伯爵令嬢。未来の王太子妃として理想的な淑女に育ったが一方的に婚約破棄される。

    • hero_VBL134

      マルス
      丁寧で穏やかな物腰な紳士。現王の異腹の弟で、人嫌いな変わり者公爵として有名。

  • 試し読み

    「んっ! ふ、んむ、ううっ」
    肉厚の舌が逃げるミネルヴァの小さな舌を追い、絡められ、舐られる。息を吐く間もない攻撃に、眩暈がした。
    「んぁっ」
    切れない程度に歯を当てられ、唇に痛みが走って顔を歪めれば、ようやく唇を離してくれたマルスが、ミネルヴァの額に己のそれを押し当てた。至近距離で見る翡翠色の瞳が、酷く鋭く、熱く、こちらを射貫いている。
    どくり、とミネルヴァの心臓が鳴った。
    「忠告だ、ミネルヴァ。初夜に限らず夫との閨で、他の男の存在を匂わす言動はしないことだ。たとえそれが、前の婚約者だったとして、な」
    それを聞いて、ミネルヴァは仰天した。
    つまりマルスは、ミネルヴァの以前のキスの相手がメルクリウスだと思っているのだ。
    「な……ちが……! メルクリウス殿下では」
    否定しようとメルクリウスの名を出した瞬間、マルスの瞳にサッと怒りが走り、ガブリと首筋に噛み付かれる。
    「あぁっ」
    血が出るほどではないが、硬質な感触がハッキリと分かるほどに歯を当てられ、ミネルヴァは身を慄かせた。その震えは恐怖のためでもあったが、同時にゾクゾクとした官能的な快感をも伴っていた。
    マルスは歯を宛てた場所を丹念に舐め上げると、そのまま小さな耳まで舌を這わせる。
    耳介を食まれると、ビクビクと丘に上がった魚のように身が撓った。
    「あ、……っん、んぁ……」
    「今忠告したばかりなのに、愚かだな。他の男の名を口にするなど、言語道断だ」
    低く艶のある美声で囁かれ、ミネルヴァは更に身体をひくつかせる。
    マルスの言葉に反論したいのに、もたらされる快感に、身も思考も甘く蕩けて上手くいかない。
    「あなたはもう、私の妻だ」
    静かな口調でなされた宣言は、けれどなぜかとても重い響きをもっていた。
    何を今更、と不思議に思って閉じかけていた瞼を開けば、マルスの端整な顔が苦しげに歪んでいるのが見える。
    「……マルス様……?」
    辛そうな表情でもこの人は美しいと、人が聞いたら『薄情な』と眉を顰められそうなことを思いながら、ミネルヴァはその頬に手を伸ばす。
    彼の苦しみが何かは分からないが、できるならそれを取り除いてあげたいと思ったからだ。
    マルスは伸ばされた手を拒まず、しばらくじっとこちらを見つめたまま微動だにしなかったが、やがて目を閉じると、ミネルヴァの掌に頬擦りをするように顔を傾ける。
    甘えるようなその仕草に、ミネルヴァの胸がきゅんと高鳴った。
    (……可愛い……)
    自分よりも九つも年上で、ずっと大柄な男性を「可愛い」だなんて、失礼だろうか。
    でもときめいてしまったのだから仕方ない。
    そう思って、ミネルヴァは内心でハッとする。
    (わたくし、男性にときめいたの?)
    これまで女性に対してときめきを覚えたことはあっても、男性にそんな感情を抱いたことはなかった。
    だから、小さくて可愛らしい女性が、自分の好みなのだと思っていた。
    それなのに、小さくもなく、おおよそ可愛らしいという形容詞からは程遠いこの男性を、かわいいと感じて、ときめいてしまっているのだ。
    驚きだった。
    やや茫然とその美しい顔に見入っていると、マルスが目を開く。そしてミネルヴァが自分を見つめていることに気づくと、ふわりと破顔した。
    その艶のある微笑みに、ミネルヴァの胸がまたもドクリと大きな音を立てる。
    (な……なんて顔で笑うの、マルス様ったら……)
    整い過ぎた美貌は、普段は冷たくさえ見えるほどだというのに、今の笑顔はまるで大輪の薔薇が綻ぶような艶がある。
    見る者を虜にするその色香に、ミネルヴァは顔が赤くなるのを感じた。
    すると赤くなったミネルヴァを見て、マルスが少し目を瞠った後、クスリと笑う。
    「頬が赤い。可愛いな」
    愛しげに言われ、顔にまた血が昇る。
    社交界において、『白薔薇の君』などとの異名を持つミネルヴァの褒め言葉は、大抵「きれい」とか「凛々しい」とかであって、「可愛い」と言われることはほとんどなかった。無論、幼い頃は別として、だが。
    実際、かわいいという形容詞に相応しいのは、自分が行為を抱くふわふわした令嬢たちであって、自分は該当しないとミネルヴァは思っている。
    だから夫となった人からのその言葉に、激しく狼狽してしまったのだ。
    「か、可愛いだなんて……そんなこと、ありませんわ……」
    ミネルヴァの反論に、マルスは眉を上げた。
    「どうして。あなたはとても可愛いよ、誰よりも」
    「も、もう、おやめになって……」
    繰り返されて、居た堪れずに困り顔になったミネルヴァに、マルスはなおも可愛いと言い続けながら、ちゅ、ちゅ、と顔中にキスを落としていく。
    「私の妻は可愛い。この愛らしい菫色の瞳も、形の良い鼻も、小さな茱萸のような唇も……」
    マルスはキスを落とす度、ミネルヴァのパーツを謳うように褒め称えていく。
    ミネルヴァは恥ずかしくて黙りこくるしかない。
    マルスの唇は顔中を啄み終えると、どんどんと下りていった。
    「この細く白い首筋も、浮き出た鎖骨も、豊かな胸も……その上に咲く、熟れた木苺のような胸の尖りも」
    「ひ、あ!」
    マルスの称賛は一度そこで止んだ。
    バードキスを落とすだけだった唇が、パクリと乳首に喰いついたからだ。
    ちゅう、と音を立てて吸い付かれ、ミネルヴァは息を呑む。人の口内の熱さをそんな場所で感じるのは勿論初めてだ。
    マルスは口の中で乳首を転がしたり、赤ん坊のように吸い上げたりして、それをおもちゃにした。
    自分の中にどんどんと快楽の痺れが溜まっていくのを、ミネルヴァは喘ぐ息の中感じていた。
    与えられる刺激の甘美さに、目の前がチカチカする。
    大きな手が宥めるようにしてミネルヴァの下腹部を擦り、その下の柔らかな恥毛を梳いた。
    「あ……」
    またそこに触れられるのだと思い、知らず身がブルリと震える。
    怯えからではなく、期待からだと、もう自分でも分かっていた。
    マルスも分かっているのか、ふ、と吐息で笑い、そっと指を蠢かす。
    ミネルヴァのそこは、いまだ蜜を湛えてしとどに濡れそぼっていた。
    くちゅり、という水音に、ミネルヴァは手で顔を覆う。
    恥ずかしくて消えてしまいそうなのに、対するマルスは満足気にクツクツと笑っている。まるで満腹でグルグルと喉を鳴らす猫のようだ。
    「とろとろだな。それなのにキツくて……私の指を食い締めてくる」
    隘路に中指を潜らせ、親指でその上に咲く陰核を擽りながら、うっとりとマルスが言った。
    「やあ……あ、ああ、ぁっ」
    吸い上げられて痛いほどに張り詰めた乳首は、なおもマルスの舌に弄られている。
    陰核を甚振られ、蜜道を掻き回され、ミネルヴァは愉悦の嵐の中に放り込まれた。
    快楽の波に溺れてしまいそうだ。
    「あ……、ぁ、も、マルス、様……! お願、い……!」
    まただ、と思う。
    快楽に神経がキリキリと引き伸ばされる。それが弾ける瞬間が怖くて、ミネルヴァは助けを求めてマルスを呼んだ。
    よく考えればばかな話だ。自分をこんな状態にしているのは、他ならぬマルスだというのに、そのマルスに助けを求めているのだから。
    「大丈夫だ、ミネルヴァ。すぐ傍に行くよ」
    マルスはそう請け負うと、上体を起こし、ミネルヴァの脚の間に腰を据える。
    ミネルヴァはぼんやりとその様子を眺めた。
    マルスの肢体は美しかった。

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