Vanilla文庫 ドルチェな快感♥とろける乙女ノベル

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書籍詳細

  • VBL-241
  • 今だけ!イラストチラ見せ

なりすまし悪女と嘘つき御曹司~元彼と蜜恋同棲始めました!~

著者:華藤りえ
イラスト:敷城 こなつ

ISBN:978-4-596-41401-4
ページ:290
発売日:2020年9月17日
定価:本体640円+税

あらすじ

大学時代の失恋以来、イイ女になるため自分を磨いてきた暁姫が取引先に紹介されたお見合い相手は、失恋の元凶でもある元カレの貴哉! 大手商社の後継となった貴哉は、暁姫に気付かない様子だったがそれは巧妙なワナだった!?「駄目です。ちゃんと言葉で求めて」ずっと忘れられなかった彼に過去の行き違いを謝られ甘くとろとろにされちゃって!?

キャラクター紹介

heroine_VBL241

千種暁姫(ちぐさ あき)
会社では仕事のできるイイ女、モテそうな女と言われているが、実は恋愛アレルギー。読書オタクの食いしん坊。

hero_VBL241

柊木貴哉(ひいらぎ たかや)
柊木家の御曹司。CEO候補で冷徹クール、大学生時代の暁姫の元彼。あらゆる手段で暁姫を囲い込もうとする。

試し読み

見た目のみならず味も絶品で、新旧の文豪作品にちなんだコース料理は、どれも死ぬほど美味しかった。
とくに、貴哉が暁姫を一本釣りしたコック・オー・リースリングという、兎の白ワインと生クリーム煮込みは最高で、ちなむ作品の大ファンなこともあり、感激もひとしおだ。
この兎を食べながら、犯人は恋人を殺すかどうか葛藤していたのかとか、探偵はワインのトリックを見破ったのかとか、妄想しながら頬を緩ませるあまり、元彼とのお見合いという非常事態が、頭から飛んでいた。
(コーヒーのコクと苦みも、お菓子にぴったり。文豪・龍之介様が愛飲しただけあるわ)
満悦しつつ頬に手を当てていた暁姫は、同じように目を細め、幸せそうにしている貴哉を見て我に返る。
(いやいや。食事に浸ってる場合じゃなくて)
腕時計に目を走らせると、針は二十時を指していた。
料理に釣られて長居してしまったが、そろそろ逃げに入らなければ。
雰囲気に流され、バーで酔い潰れ、元彼と一夜の過ちなど目も当てられない。
気を引き締めつつ微笑み、お礼の口上を述べる。
「本当に今日はありがとうございました。失礼を重ねたのに、とてもよくしていただいて。……お見合いだということを、忘れかけておりました」
言外で、お見合いなんだぞ。わかってるな? と念押しする。
「私もとても楽しかったですよ。初めてお会いしたとは思えない」
初対面の男から言われるのであれば、嬉しさに照れてしまいそうな台詞も、相手が元彼と知っている暁姫には嫌味でしかない。
「ええ。そうですね。私もです」
あんなひどいことを考える男と知らなかったら、恋に堕ちてヤり捨てられてましたよ。と心の中で舌をだしつつ、オホホと上品に笑う。
「ですが、そろそろおいとましないと。不躾を重ねては、紹介された相地部長にご迷惑をおかけすることになりますし」
空になったコーヒーカップをソーサーに戻す。
どれだけ相手を魅了できたかわからないが、まあ、高い食事代を出させただけで満足としよう。
イイ女や悪女ぶってはいるが、元来、暁姫はお人好しのビビり。人を騙せる性格をしていない。
二日か、三日置いて気を揉ませるか。それとも、帰って速攻でお断りして「なにが原因だったか」と悩ませるか。
どちらにしても、貴哉が少しは自分と付き合いたいと、結婚を望みたいと考えてくれていればいい。そうすれば、自分が失恋した時の辛さの一分ぐらいはわかるだろう。
「お見合い、楽しかったです。ありがとうございました」
今までの人生で一番いい作り笑いを見せ、親しみに満ちた雰囲気を心掛ける。
絶対に、破談にされると思えない演技を貫くのだ。
上手く騙されてくれたのか、テーブルの上で緩く指を絡ませ、耳を傾けていた貴哉が立ち上がり、暁姫の側に来た。
「私も楽しかったです」
にこやかに言いつつ、手を差し伸べる。
完璧なエスコートに、彼の妻になる人は、さぞ浮気が心配だろうと苦笑した時だ。
「ええ、楽しかったですよ。〝お見合いごっこ〟は」
固まった暁姫の腕を掴むが早いか、貴哉は暁姫を強引に部屋の隅へ追い込んだ。
壁にぶつかった背中が弾んだと同時に、肩の横に男の手が叩きつけられる。
「暁姫」
低く、内心に滾る感情を抑え付けたような声に、身がすくむ。
「どっ、どど、どうして、どこからバレ……あっ、食事中に、油断しすぎてたッ!?」
急速回転で己の行動を振り返り、被っていた猫も演技もかなぐり捨てて問えば、呆れかえったそぶりで息が吐かれた。
「最初からに決まっています。……どうすれば、バレないと思えるのだか」
先ほどまでの、丁寧な態度もどこへやら、威圧するように見下しながら貴哉が言う。
急激な動きのせいか、後ろに撫でつけられていた貴哉の前髪がはらりと額に落ちかかりすごみが増していたが、それでも臆する気持ちより反発心のほうが強かった。
「私のことがわかっていたなら、なんで……!」
「久しぶりですね暁姫……とでも挨拶すればよかったのですか? できるわけがないでしょう。絶対に貴女が逃げるとわかっているのに?」
酸欠の金魚みたいにして口を開閉させながら、暁姫は愕然とする。
「人目のあるラウンジで痴話喧嘩する趣味はありません。それに、貴女がどう変わったか知る時間も欲しかった。だから、あえて知らないそぶりを貫いた。……すぐばらそうと思いましたが、貴女が、知らない人とか、お見合い相手としてないとか私に言うし」
すっかり騙された。最初の失恋と同じく、今日のお見合いでも。
悔しい。騙す男だと知ったから別れたのに、成長してイイ女になろうとしていたのに、今日もまた騙された。
(私の失態や、バレないよう必死になっているのを見て、内心で笑っていたの!?)
ひどい。悔しい。みじめだ。そんな思いが胸に渦巻く。
「最初からってことは、お見合い写真を見た時に、私と気づいていたわけ?」
怒りと屈辱がない交ぜになった感情が炎となり、身の内から暁姫を焦がす。
「写真を見る前から。……そもそも、このお見合いに、写真なんて存在しないんですよ。私が貴女と再会するために仕組んだ茶番ですからね」
「なんのつもりで、そんなことを……!」
「暁姫に、聞きたいことがあったからです。……どうして暁姫が、私を捨てたのかと」
「えっ……?」
耳を疑う。貴哉が暁姫を捨てた——と?
貴哉は暁姫に身を寄せ、恐ろしいほどに真剣な表情で尋ねてきた。
「貴女が二十歳となる誕生日前日、私の家に来ると約束したまま消え、連絡も取れなくして、海外に留学までして、私の前から完璧にいなくなったのはなぜなのですか」
許せないのか、暁姫を閉じ込めるようにして壁に突いた両手が、細かく震えていた。
(そうか。……なにも言わずに消えたから、貴哉さんは、私に捨てられたと思ってるんだ)
優秀な男だ。捨てるつもりの女に捨てられたことで、プライドが傷ついたのだろう。
だから、相地を使ってお見合いを仕組み、暁姫をおびき出したに違いない。
「どうして捨てたか……だなんて」
今更、暁姫が言えるわけがない。
簡単にセックスできて、捨てても後腐れのない女だというのを聞いたから。
だから、捨てられて傷つく前に逃げただけで——本当は、大好きで本気だっただなんて。
(言ったところで、なに一つ変わらない。貴哉さんにはわからない)
もう大学生じゃない。倫理的にはともかく、割り切った大人な関係とも許される。
とくに、エリートビジネスマンかつ、外見も極めて優れている貴哉なら尚更。
ヤり捨て女候補だと見られるのが嫌だったと主張しても、なんだ、そんなことかと笑われておしまいだろう。
(だったら、尚更、本当のことなんて言えるはずない!)
暁姫が逃げたことが気に食わないなら、一生、そのいらだちを抱えて生きていけばいい。それがせめてもの復讐だ。
——自分はもうあの頃とは違う。貴哉の恋人だったのも過去のこと。
暁姫を傷つけた貴哉が、なににいらだち苦しもうと、知ったことではないのだ。
(教えてやるもんか。散々、振り回された挙げ句、相手を満足させるなんてまっぴら!)
それは、暁姫なりのプライドだった。
貴哉に心を動かすことはないと伝えるため、唇を思いっきり噛みしめ睨む。
なのに彼は変に顔を歪め、急いた声で言う。
「暁姫、唇を噛まないでください。痛んで傷になってしまうでしょう」
過去の暁姫をもっと傷つけたのに、優しい口ぶりでそんなことを言われても困る。
反発した暁姫は、一層噛む歯に力を込め、髪型が乱れるのにも構わず首を振りたくる。
「くそっ……!」
乱雑に吐き捨て、貴哉は一瞬で二人の間にあった距離を詰めた。
ぎょっとして身を反らした弾みでヒールのかかとがぐらつき、不安定さに身をねじるが、それをものともせずに、貴哉は腰に回した腕一本で暁姫の体重を支え、抱き込んだ。
目を見開く暁姫の顔に影が差し、眼鏡越しに貴哉のまつげの長さを知った瞬間、二人の唇が重なった。
唇の薄い皮膜を通して、男の柔らかさと熱が瞬時に伝播し、キスされたのだと理解する。
同時に、肩の上に突かれていた貴哉の腕が浮き、鎖骨から顎下までを、さりげなく手の甲でなぞられる。
驚きから無意識に右へ顔を傾けようとすれば、右頬に手を添え戻し、反対へ顔を逃そうとすれば、指先が左の耳下をくすぐり阻む。
暁姫の首の動きに合わせ、貴哉の掌や指が、それぞれ違うやり方で顔や喉元の皮膚をかすめ、あるいは押す。そのたびに、知らない感覚が身体をざわめかす。
キスに驚くほど子どもじゃない。貴哉と恋人だった頃も、戯れに、あるいは帰り間際の寂しさを紛らわせるようにして、そっと唇を重ねていた。
けれど、こんな強引で執拗なやり方は始めてだ。
触れ、角度を変えながら圧を強めていく一方で、時折、細かに左右に振って擦り合わす。
他のどんな器官とも違う弾力に、鼓動が早まり身体も熱くなる。
抱き絞める腕の力は強く、前を阻む胸板は広い。
圧倒され、自分の意志が消えるのが怖くて身じろげば、貴哉が着ている三つ揃えのスーツから、男ものの香水が匂う。
胡椒に似た香辛料の香り。それに、ほどよく肌に馴染んだ竜涎香。重く、官能的な倦怠感を誘いつつも、スパイスの刺激臭が秘めた危険を感じさせる。
——間違いなく上等な男の香りだ。
付き合っていた頃のような甘さやためらいなど、この男にはない。ただただ、暁姫を貪り、自分の意を通そうとする傲慢さだけがある。
だが、不思議と嫌悪はなかった。逆にぞくぞくするほどの高揚感が血脈に乗って、全身を巡り震えさす。
圧倒的な存在に対する畏怖により力が抜けた。唇を噛みしめていた歯が緩む。
待ち構えていたといわんばかりの動きで、唇が唇に挟まれる。
そのままつるっと下唇が男の口腔へ吸い込まれ、噛んでいた部分に貴哉の舌先が触れる。
「んっ……」
触れ合うだけのキスより艶めかしい感触が、歯形の残る暁姫の唇を襲った。
じくじくとした痛みが残る唇の上を、熱く濡れた舌が滑りなぞる。
自分のものが触れる時はなにも感じないのに、なぜ、こうも敏感になってしまうのか。
丹念に、残る痛みごと溶かそうと、男の舌が唇の上を往復し続ける。
貴哉のキスは強引であったが乱暴ではなく、優しく、丹念で——そして執拗だった。
ねっとりとした感触と、皮膚より遙かに高い熱に煽られ、腰骨あたりが変に疼く。
(なんだろう。……すごく、心地いい)
沸かしたての湯船に浸かったようだ。強ばっていた肩や足から力が抜け、変わりに気持ちよさや安心感といったものが満ちていく。
くちゅりとした唾液の音も、口づけの合間に継ぐ吐息の荒さも、なにもかも淫靡で恥ずかしいのに、一方で、もっとしたいと矛盾を抱く。
腕に掛かる重心の変化で、暁姫が抵抗しないと悟ったのだろう。
傷を癒やすように表面をなぞっていた貴哉の舌が、顎先から唇まで伝い、弾く。
かと思えば、吸い込んだ唇を己の歯で挟み、暁姫のものより肉厚な舌を硬く尖らせ、口端から頬裏へ侵入しようとくねり舐める。
腰を抱く手は、課程が進むごとに力を強め、二人の腰はほとんど密着しかけていた。
のし掛かるようにして暁姫の唇を貪り、なんとか歯列を割ろうとする貴哉の愛撫により、唇が充血して膨らみ、甘い果実のように熟す。
溢れた唾液が喉から首筋を伝い、鎖骨を超えて開いた胸元へ垂れていく。
むず痒さに身を揺すると、大丈夫だと伝えたげに、大きな手が背から腰を労り撫でる。
だけどそれだけでは留まらない。
不埒な指がトップスの裾を揺らし、シュミーズに包まれた肌を爪で引っ掻きだした。
「ふ、んぅ……ッ、ン!」
深く濃密なキスに喘ぎ漏らし、その媚びた響きにぎくりとする。
淫靡なキスに流されそうになっている。噛みしめた唇の痛みを癒やされるうちに、過去の傷まで癒やされたような気になっている。
(駄目……)
白濁する頭の中で、必死になって自分を叱りつける。流されちゃ駄目だ。
自分より遙かに大人で、経験を積んだ男となった貴哉だ。未経験の自分を手玉に取り、快楽中枢を刺激し、いいなりにするのは簡単だろう。
最悪なことに、ここはホテル。
男の身勝手な魂胆に負け、部屋に連れ込まれればどうなるか。処女の暁姫にもそのぐらいはわかる。
貴哉の胸元に伸ばしかけていた手をわずかに引き、指を真っ直ぐに揃えて下ろす。
暁姫の行動が、また拒絶の硬さを帯びるのに気づいたか、夢中になって唇を味わい、暁姫を腕に収め、支配しようとしていた貴哉が、ふと腕の力を抜いた。
「暁姫……、ッ」
考えるより先に手が動いていた。振り上げた腕は一瞬で風を切り貴哉の横っ面を叩く。
破裂音がして、シルバーフレームの眼鏡が床に飛び落ちた。
見る見る貴哉の頬が赤く腫れ、暁姫の手も熱と痛みで疼く。
相手に暴力を振るったという事実にひるみ、逃げ出したかったが、それでも一言だけ伝えたくて、暁姫は痛む手を握り声を絞る。
「……じゃない」
「え?」
喉に引っかかっていた嗚咽を呑み込み、暁姫は一息に吐き捨てる。
「私は、簡単にセックスできる女なんかじゃない。あの頃とは違う」
仕事のできる女の仮面をかなぐり捨て、二十歳になる直前の、失恋した頃のままの自分の顔で相手を睨む。
おかしくて、笑いそうだ。
暁姫の平手打ちで眼鏡を飛ばした貴哉は、時間が巻き戻ったのかと思うほど、昔と同じ顔をしていた。
冷徹さもなにもなく、ただ、どうして暁姫が、そんなわがままを言うのかわからないといった様子で、呆然としている。
暁姫の断罪がよほどこらえたのか、あるいは、魂胆を見抜かれたことが意外だったのか、ともかく、どちらでもいい。
お互いが元恋人として反発しあう状態で、お見合いもなにも成立しない。
「ともかく、貴方の酔狂に付き合う気はないの。……お生憎様。食事だけは美味しかったわ。さようなら」

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