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あらすじ
ずっと一緒にいて
期間限定なのになぜか溺愛されてますリストラされ、寮も追い出されることになり途方に暮れていた芹香は、偶然再会した高校の同級生・千秋から女除けのためにと契約結婚を持ちかけられる。地味だった彼はイメチェンして今や超イケメン! 「俺と寝てみる?」離婚前提のはずなのに、実は芹香に想いを寄せていた千秋が与えてくる甘くて激しい快感は、芹香の心も身体も翻弄して――!?
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キャラクター紹介
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平木芹香(ひらき せりか)
リストラされ途方に暮れる27歳。高校時代からはっきりものを言う性格で目立つ存在だった。 -
新堂千秋(しんどう ちあき)
芹香に憧れていた高校時代の同級生。親の財産を受け継いだ資産家だが、フリーのITエンジニアもしている。
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試し読み
食事を終えたあと「少し飲まない?」と誘われた芹香は、彼と一緒にバーに足を向ける。
館内は囲炉裏のあるロビーラウンジやマッサージルーム、書斎、シガーバーなど設備が充実しており、ゆったりと優雅な雰囲気に満ちていた。
薄暗いバーの中ではバイオエタノールの暖炉の炎が揺らめき、カウンターに座った芹香は大きな窓越しに見えるライトアップされた原生林を見つめてため息を漏らす。
(本当に素敵なところだな。この近隣で一番高い旅館だし、前の職場のお給料では絶対に来られなかった宿だ)
ほんの少し憂鬱なのは、先ほど廊下でスマートフォンを確認したとき、前職で後輩だった会田からメールがきていたからかもしれない。
退職前に漏れなく引き継ぎをしたはずだが、彼女と辻は勤務態度が不真面目で真剣にこちらの話を聞いておらず、いざ芹香がいなくなるとわからないことが続出しているらしい。
だが必要な業務はすべて教えたため、退職後は何度メッセージがきても一度も返事をしていなかった。もしかすると会田は芹香の夫である新堂に近づくのを諦めておらず、だからこそ仕事にかこつけて何度も連絡を寄越してきているのかもしれない。
(もういい加減、ブロックしちゃってもいいかな。本当に困ったことがあったらと思ってそのままにしてたけど、それは辞めたわたしじゃなくて会社がどうにかするべきだし)
目の前に置かれた酒のグラスを前にため息をつくと、新堂が「どうかした?」と問いかけてくる。芹香は苦笑いして言った。
「さっき前の職場で後輩だった子から、連絡がきてて。わたしが会社を辞めて一ヵ月以上が経つのに、いまだに仕事のことを聞いてくるの、おかしいよね」
「ああ、新人のくせに君に聞こえよがしにずっと嫌みを言ってた子? それって仕事でわからないことがあるとかじゃなくて、俺に会わせろっていう意味で連絡してきてるんじゃないの」
彼があっさり言い当ててきて、芹香は慌てて答える。
「たぶんそれは、わたしが『退職後は資産管理会社の社長と結婚する』って言ったのを聞いて、後輩が興味を持っちゃったから。でも新堂くんの名前を教えるつもりはないし、絶対に迷惑はかけないから、安心して」
「俺が最後の出勤日に婚約指輪を着けていくように勧めたから、後輩はその言葉が嘘じゃないってわかったんだろ。平木さんが〝リストラされて辞める〟っていうネガティブなイメージを払拭したくて指輪を着けるように勧めたけど、それが裏目に出てしまったな」
新堂が婚約指輪として贈ってくれたものは目玉が飛び出るような価格の品で、女性が憧れるハイブランドのものだ。
自分では到底手が届かないもののため、最初は受け取るのも着けるのも躊躇った芹香だったが、せっかく彼が買ってくれたものだと考えるとしまい込んでおくのも忍びなく、こうして外出するときはなるべく指に嵌めるようにしている。
薬指で燦然ときらめくダイヤモンドの指輪を見つめながら、芹香は新堂に礼を言った。
「新堂くんにはたくさんお金を使わせてしまって、申し訳なく思ってる。この指輪だけじゃなく、服とか旅費とか、役員報酬まで支払ってもらってるんだもの。会社の税金対策のためにわたしを配偶者にしたいって言ってたけど、本当は出ていくお金のほうが大きいんじゃない?」
すると新堂はウイスキーが入ったロックグラスを揺らし、笑って答えた。
「今の生活を楽しんでるから、いいんだよ。平木さんはきれいで着飾らせ甲斐があるし、指輪は俺たちの関係を対外的にアピールするために必要なものだ。別に惜しくはない」
「でも……」
「それに君は秘書の仕事を頑張ってくれているから、報酬を受け取るのは当然の権利だ。引け目に感じなくていい」
本当の〝妻〟ではないのに自分を大切にしてくれる彼を前に、芹香は胸の奥がぎゅっとするのを感じる。
確かに新堂は財産目当てで言い寄ってくる女性たちに辟易しており、芹香をあちこちに
連れ歩いては親交のある人間に「妻です」と紹介していて、ギブアンドテイクの関係は成り立っていると言える。ただ彼が桁違いの資産家であるため、それに合わせてこちらも着飾らなければならず、金銭感覚のギャップを受け入れられていないだけだ。
(たぶん新堂くんが使ってくれているお金とわたしが差し出している労力が釣り合っていないから、こんなにモヤモヤするんだろうな。わたしはこの人に、何も返せていない)
そんなふうに考えながら芹香が目の前のグラスを見つめていると、ふいに新堂が思わぬことを言った。
「たぶん平木さんは金銭感覚の違いを埋められずにいて、それで俺に負担をかけてると思ってるんだろ。悪いけどこればかりは、慣れてもらうしかない」
「……うん」
「でも、引け目を解消する方法なら提案してあげられる。平木さん、俺と寝てみる?」
芹香は驚き、隣に座る彼を見る。
一瞬何を言われたのかわからなかったものの、言葉の意味がじわじわと飲み込めてくるにつれ、頬が熱くなっていくのがわかった。目の前のカウンターにはたまたまスタッフがおらず、話を聞かれなかったのが幸いだ。芹香はモヒートのグラスを手の中に握り込み、引き攣った笑いを浮かべて言った。
「新堂くん、酔ってるの? さっきまで日本酒を飲んでたのに今はウイスキーを飲んで、悪酔いしちゃったとか」
「至って素面だよ。君は俺が出している金と自分の労働が釣り合っていないと考えて、それを負い目に感じてるんだろ。だったら普通の夫婦みたいに身体の関係を作れば、家計を一緒にする大義名分が立つし、心理的負担が軽減できるんじゃないかな」
「それは……」
てっきり新堂にはそういう欲求がないのだと考えていた芹香は、内心パニックになる。
再会して結婚してから一ヵ月余り、彼の端整な容姿や醸し出す雰囲気に心惹
かれていたものの、それは新堂との〝契約〟にふさわしくないものだと考え、必死に表に出さないようにしていた。だが突然軽い調子で身体の関係に誘われ、芹香はグルグルと考える。
(新堂くんは女嫌いで、わたしが彼を恋愛対象として見ていないからこそ結婚したはずなのに、一体どういうことだろ。もしかしてからかわれてる?)
それともこちらの心情がダダ洩れで、据え膳をありがたくいただこうとでも思ったのだろうか。
ふいにそんな考えが頭をよぎり、芹香の心の一部がわずかに温度を下げる。彼が健康な成人男性である以上、言い寄ってくる女性に辟易していても性欲くらいはあるだろう。うっかりその中の誰かに手を出してしまえば、既成事実を盾に面倒な要求をされてしまうかもしれないものの、芹香は〝妻〟だ。
夫として妻を抱くのは世間的に何ら問題はなく、誰よりも後腐れのない相手だと言っていい。しかも芹香の中には、新堂に多額の金を使わせてしまっているという負い目がある。
(……そっか。だから新堂くんは、こんなふうに軽く誘ってくるんだ)
グラスを持つ指が、どんどん冷えていく。
彼がそういう気持ちで誘ってきているのなら、こちらに拒否権はない。そもそも芹香は自分の労力と対価が釣り合っていないと常々感じており、新堂がそれを踏まえた上で「引け目を解消したいなら、自分と寝てみるか」という提案しているのだから、つまりは〝そういうこと〟なのだ。
(わたしは新堂くんにとって、都合のいい相手でしかない。恋愛感情を抜きにして性欲の解消につきあえって言われてるんだから、わたしはそれに応じなきゃ)
胸がぎゅっと締めつけられ、痛みを訴える。
彼に対して仄かな恋心を抱いていた芹香にとって、それはあまりに残酷な誘いだった。
さまざまな思いが頭を駆け巡ったものの、一度深呼吸をした芹香は顔を上げる。そして彼を見つめ、微笑んで言った。
「――いいよ」
「――……」
「わたしたち、一応は夫婦なんだし、距離があるほうが不自然だよね。確かに新堂くんの言うとおり、そういう行為も込みの関係になるなら、わたしが感じてる引け目も少し和らぐかも」
すると新堂が何ともいえない顔になり、問いかけてくる。
「いいの? 平木さんはそれで。俺としては無理強いする気はないし、契約の内容にも含まれていないんだから、その気にならないなら今のままでも全然構わないんだけど」
「いいよ、別に。新堂くんは嫌いなタイプじゃないから」
笑顔で答えた瞬間、彼を取り巻く空気がわずかに変わる。
それにドキリとした芹香が口をつぐむと、新堂がおもむろに席を立ってさらりと言った。
「わかった。じゃあ、行こうか」
「えっ、どこに」
「俺たちの部屋。それともまだ飲み足りない?」
「ううん」
手を差し伸べられた芹香は、それをそっと握る。
バーを出て部屋に戻るまでのあいだ、廊下を歩きながら心臓がドキドキしていた。彼の手は自分よりもはるかに大きく、その乾いた感触と体温を強く意識する。
室内に入ると、リビングの続き間である和室には布団が一組敷かれていた。しかしその前を通り過ぎ、新堂は芹香の手を引いてベッドルームに足を向ける。
「あの、わたしシャワーに……」
逃げるつもりはないものの、もう少し心の準備をする時間が欲しくて芹香がそう言ったところ、彼がおもむろに自身が着ていたジャケットを脱ぐ。
中に着ていたカットソーも頭から脱ぐと、均整の取れた上半身があらわになった。思いがけず新堂の裸体を見ることになってしまった芹香は、ぎょっとして声を上げる。
「ちょっ、何でいきなり脱いでるの」
「何でって、セックスするんだろ? モタモタして『やっぱり気が変わった』って言われるのは嫌だし」
彼の身体は無駄なところがなく引き締まり、すっきりとした首筋や喉仏、適度に筋肉がついている腕が男らしく、色気がある。
服を脱いだせいで髪がわずかに乱れていて、端整な顔立ちにほんの少しの野性味を添えていた。新堂がこちらに向き直り、芹香を見下ろすとニッコリ笑って言う。
「平木さんも脱ごうか」
「あ……っ」
プルオーバーに手を掛けられ、あっという間に脱がされる。ブラ一枚になった芹香が狼狽した瞬間、グイッと身体を抱き寄せられ、彼が覆い被さるように口づけてきた。
「ん……っ」
肉厚な舌がぬるっと口腔に入り込み、じっくりと絡められる。
表面を擦り合わされると新堂が先ほどまで飲んでいたウイスキーの香りがし、芹香は頭がクラクラした。うっすら目を開けた途端、間近に彼の整った顔があり、じわりと体温が上がる。これから自分たちが何をしようとしているかを強烈に意識して、頭が煮えそうになっていた。
「あ……」
キングサイズのベッドに誘われ、新堂がこちらの身体を後ろから抱き込む形で腰を下ろ
す。背中に彼の裸の上半身を感じ、その硬さと体温にドキドキした。新堂の両手が芹香の胸を包み込み、耳元でささやく。
「黒い下着、色っぽいね。平木さんの白い肌に映えて」
やんわりと揉みしだかれ、大きな手の中でたわむふくらみが淫靡で、呼吸が乱れる。
誰かと抱き合うのは一年ぶりで、ひどく緊張していた。しかも旅先でこんな展開になるとは夢にも思わず、先ほどから心臓の音が鳴り止まない。
「んっ」
ふいにブラ越しに先端部分を摘ままれ、思わず息を詰める。
カップの下でそこが硬くなっていくのがわかり、恥ずかしさをおぼえた。やがて彼の手がカップを引き下ろし、ふくらみをあらわにされて、頂を直接指で嬲られる。
「ぁっ……んっ、……は……っ」
先端を縊り出すようにされると疼痛が走り、芹香はかすかに顔を歪める。
痛みの中にも快感めいたものがあり、乳暈の辺りをくすぐるようにされたり尖りをピンと弾かれると落ち着かず、新堂の手を押さえて言った。
「……っ、そこばっかり、嫌……」
「じゃあ、こっちも触る?」
彼の手がスカートをまくり、太ももをスルリと撫で上げる。
大きく脚を開かされた芹香は、かあっと顔を赤らめた。咄嗟に脚を閉じようとしたものの、新堂はそれを許さず、下着のクロッチ部分に触れてくる。
「……ん、っ」
割れ目の辺りを布越しに擦られ、思わずビクッと腰が跳ねてしまう。
そうしながらも彼の唇がこめかみに触れ、背後から深く抱き込まれて逃げ場がない状況に芹香は声を上げた。
「し、新堂くん……」
「ん?」
「この恰好……」
すると新堂がひそやかに笑い、クロッチを横にずらして直接花弁に触れながら言う。
「大丈夫だから、力抜いてて」
彼の指が会陰をなぞり、にじみ出た愛液を指で掬い取って、花芽を押し潰した。
そのままぬるぬると嬲られ、じんとした甘い愉悦が湧き起こるのを感じながら、芹香は
声を出すまいとぐっと唇を噛む。
「んっ……ふっ、……ぅ……っ」
大きく脚を広げられているため、自分がどんなことをされているのかがつぶさにわかっ
て、恥ずかしくてたまらない。だが新堂の手つきに粗暴なところはなく、こちらの身体を傷つけないように気遣っているのが伝わってきて、芹香は複雑な気持ちになる。
(わたしのことを好きなわけじゃないのに、こんなに優しいのってずるい。……勘違いしそうになる)
花芽を弄られているうちに蜜口がしとどに潤み、ヒクリと蠢く。それに気づいた彼が、片方の手で芹香の太ももを押さえて言った。
「指、挿れるよ」
「んん……っ」
新堂の二本の指が蜜口に埋められていき、そのゴツゴツとした感触に芹香は腰を跳ねさせる。
彼の指は長く、根元まで埋めると最奥まで到達して、内壁がきゅうっと締めつけた。大きく脚を広げたまま指を抽送され、芹香は背をしならせて喘ぐ。
「あっ、あっ、待って……っ」
「狭いね。これはだいぶ解さなきゃ駄目かな」
「やぁっ……!」
硬い指が内壁をなぞりつつ繰り返し奥まで埋められて、抽送のたびにぐちゅぐちゅと淫らな水音が立つ。どのくらいそうされていたのか、ようやく指を引き抜かれてホッとしたのも束の間、新堂がこちらの身体をベッドに押し倒してきた。 -
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