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試し読み
いよいよ夜をともに過ごすことになるのだろうか。優しくしろとまでは頼まないから、以前教会でされたように、手荒く扱われるのは遠慮したかった。
恐る恐るベッドの縁に腰を下ろし、緊張から小刻みに身を震わせるクリスに、レオンが目を合わせぬまま「俺が怖いか」と問い掛ける。
「えっ……」
「お前は前もそうして震えていたな。小動物を虐げている気分になる……」
「もっ、申し訳ございません……。つ、つい……」
レオンは足下に目を落とし、何やらブツブツ呟いている。
「……そうか。やはり怖いか。……いや、当然だな。なら、やはりこうするしかない」
「れ、レオン様?」
やはり酔いが覚めていないのだろうか。
クリスがレオンの顔を覗き込み、具合を確かめようとしたその時のことだった。レオンがどこからか紐状の何かを取り出したのだ。一体どこに隠していたのだろうか。ガウンにはポケットがないはずなのだが——
改めてレオンの手の中のそれをまじまじと見つめる。
——ロープだった。
何度目を擦っても紛れもなく細いロープである。ゲルリッツ公国の教会で目撃した代物と同じだ。まさか、もう一度見ることになるとは思わなかった。
聞いてはいけない気がしつつも聞かずにはいられない。
「レオン様、あのう、失礼します。それはなんでしょう?」
「ロープだ」
「……」
やはり紛れもなくロープだった。それはともかくとして、なぜ初夜にロープが必要なのだろう。
「クリス、これから俺はお前を抱く」
「は、はい……」
初夜なのだから当然だろう。だが、手にしたロープはなんなのか。クリスは燭台の蝋燭の炎に照らし出され、色気を増したレオンの美貌よりも、ロープが気になって仕方がなかった。
クリスの至極もっともな疑問は、間もなく解消されることになった。レオンが低く冷ややかな声でこう宣言してくれたからだ。
「その前にお前を縛る」
「えっ、はいっ?」
今縛るという言葉が聞こえた気がしたが、耳がおかしくなったのかと首を傾げる。初夜なので緊張しすぎたのだろうか。
「レオン様、申し訳ございません。もう一度おっしゃっていただけますか?」
「俺は、お前を縛って、お前を抱く」
「……」
「安心するといい。手首が傷付かないように、表面は滑らかにしてある」
「いやいやいや!?」
ようやく我に返り首を大きく横に振った。
「どっ……どうして初夜にロープが必要なんですか!?」
レオンはうんうんと頷きつつ、ロープをもう一度ピンと張って見せる。
「お前は縛られ、激しくされるのが好きなのだろう? 恥ずかしがることはない。私の縛りには定評がある」
「て、定評!?」
突っ込む間もなくベッドに押し倒され、両手首を素早く頭上で纏めて縛り上げられてしまった。
「あ、あれは違うんです!」
「恥ずかしがらなくてもいい。少々特殊な性癖だからな。言い辛いのはよくわかる」
「だ、だからですね! きゃっ!」
呆気なく寝間着を剥がれ。体を覆い隠したいのに、縛られているのでできない。
ヴォルムス帝国の女性用の下着は、ゲルリッツ公国のシュミーズとは異なり、胸のみを覆う頼りない布切れと、腰回りと女の部分を辛うじて隠した布切れだ。
この通りどちらも布切れにしか見えず、肌を覆う面積が極端に狭いので、下着として役に立つとは思えない。脱がすのには最適なのだろうが。
ささやかながらも柔らかそうな胸は、最も大切な頂こそ守られているが、それ以外は惜しげなく曝け出されており、全部見せるよりも嫌らしく思えた。下半身の布切れも似たようなものである。
羞恥心に目の端に涙が滲む。それでもなんとか我慢していたのだが、ついに「ふぇっ」と泣き声を漏らしてしまった。
レオンが嗚咽を聞きふと動きを止める。
「ああ、クリスティーナ。やはりお前の声は可愛らしい。小夜啼鳥もこうはいくまい」
「えっ?」
「俺の腕の中での声は、きっともっと高く甘くなるだろう……」
漆黒の双眸がアルコールではない何かに酔い、低く冷やややかな声に熱が籠もる。レオンの本気を感じ取り、クリスは怯えて身を震わせた。
胸を覆っていた布切れが、力任せに取り払われる。ぷつりと肩紐の切れる音がして、下着はひらひらとどこかへ飛んでいった。
「〜〜っ」
白い膨らみのすべてを曝け出され、顔を赤らめ身を捩らせる。手首に再びロープが食い込んで顔をしかめた。
レオンがクリスの胸の間を指で辿る。クリスはその感触にびくりと身を震わせた。
「お前は日差しの強い土地で生まれ育ったはずなのに、相変わらず雪のように白い肌だな。一体どういうわけなのか」
続いて手の平に肉を集めるかのように、片側の乳房をぎゅっと握り込む。肌にレオンの指先が食い込んだ。
「あっ……」
白い肌は生まれ付きだからとしか言いようがない。父の大公はそうでもないのだが、母は日に焼けずに赤くなるだけだった。
レオンはクリスの胸を強く、弱く掬い上げるように揉み込んでいたが、やがてわずかに開いた桃色の唇を奪った。
「ん……う」
手の自由を奪われ、薄闇で辺りがはっきり見えないからか、感覚がより敏感になっている。絡め取られた舌でレオンのそれの熱やざらつき、喉の奥から吐き出される吐息まで感じ取れた。
「んっ……ん……ふ……」
熱が唇から徐々に広がって行く。やがて全身へと行き渡った頃、不意にレオンが唇を離した。唾液が糸を引き二人を繋いでいる。
レオンはクリスをじっと見下ろしていたが、やがて「クソッ」と唸り顔を背けた。
一体何に苛立っているのだろうか。
「れ、おんさま……?」
「そんな顔をするな。そんな声を出すんじゃない」
「えっ……」
と言われても、ならどうすればいいのだろう。
目を瞬かせるクリスに劣情を煽られたのか、レオンは再びクリスにのし掛かると、吸血鬼のごとく首筋に吸い付きつつ、二つの膨らみを大きな手の平で包み込んだ。
「あっ……」
左胸をやわやわと擦りながら、唇で首筋から胸元、胸元から乳房を辿り、ほのかに色付いた右の頂を口に含む。
「やんっ……」
ぬるりとした感触に華奢な肩がびくりと震えた。レオンに食べられるのではないかと怯えた。
レオンはクリスをじっくりと味わっている。ざらりとした舌が敏感なそこを玩び、続いて歯先で軽く囓られ吸われると、淫らな喘ぎ声が繰り返し漏れ出た。
「あっ……だめ……そんなこと……」
教本にも男性は乳房を弄るのが好きだとあったが、これほど嫌らしい真似をされるとは書かれていなかった。
レオンは左胸を弄りながら、音を立てて柔らかな右胸を吸い続ける。まだ子を産んだこともないのに、いつの間にか体の中で凝った熱が、レオンに吸い取られるような気がした。
「レオン、様……。あっ……。いけません。もっと、優しく……」
「お前の体はそう言っていないようだが?」
くちゅくちゅと乳房をしゃぶる湿った音がクリスの耳に届く。塞いでしまいたいのに手を縛られているので塞げない。羞恥心を煽る卑猥な拷問に耐えきれず、クリスは涙を流しながら再び身を捩らせた。
「んっ……あっ……んんっ……」
乳房を弄っていたレオンの左手が、腹から腿へ、腿からその間へと滑り込む。
「あっ」
クリスは大きな目を更に大きく見開き、反射的に背を仰け反らせた。下着越しに女の部分に触れられ、いやいやと首を横に振ってしまう。
「お、お許しを……。お許しを……」
しかしアルコールと劣情に酔ったレオンが、哀願で手を止めるはずもない。指先で器用に下着を外し、無防備なクリスのそこを指で責め始めた。
「あんっ……」
ストロベリーブロンドの淡い茂みを掻き分け、二本の長い指が花芽に触れる。
「やんっ……」
ところが、動きは先ほどとは打って変わって優しかった。指先でトントンとリズムを付けて、軽く小突かれ撫でられる。
周囲をなぞられるごとに、下腹部に熱が溜まっていく。円を描くように愛撫されると、凝った熱が蜜となって、じわじわと体の奥から滲み出てきた。
「んっ……」
首を小さく横に振って快感を逃そうとする。優しい動きは怖くはなかったが、焦れったさを感じて、いっそ早く事を進めてほしくなった。
「もう濡れているな」
不意にレオンが指を引き抜き、ぬらぬら光る二本の指をクリスに見せ付ける。
「嫌だ、嫌だという割には随分感じているようだが?」
「……っ」
淫らな女である証を突き付けられ、クリスは目をかたく閉じたのだが、レオンには好都合でしかなかったらしい。
「そうだ、クリスティーナ……クリス、お前はそのままおとなしく俺に抱かれていればいい」
蜜口にかたい指先が押し当てられる。華奢な肩が処女地の扉を開けられる恐れに強ばった。
意外なことに、指を入れられても、すでに潤っていたからか、痛みはほとんどなかった。
レオンはクリスの柔らかさ、温かさを確かめているのか、ゆっくり指を進めていく。
「んんっ……」
途中、指を手前に曲げられ、中を掻かれる感触に、あられもない声を上げてしまった。
「ひゃっ……あっ……なっ……」
「……なんだ? 随分きついな」
感触が意外だったのか、レオンは肩をピクリと動かしたが、それでもクリスの中を弄り続ける。
クリスは違う箇所に触れられるたびに、細い体を大きく震わせていたのだが、やがて最も弱い部分を探り当てられ、小さく叫んで全身を大きく引きつらせた。
「そうか、ここか」
「あ、あ、あ、レオン様……」
「止めろと言われても止めないぞ」
「……」
クリスも自分が何を訴えたいのかがわからなかった。止めてほしいのか、続けてほしいのか、もっと責めてほしいのか——
レオンはクリスのそこを指先で突き、掻き、時にはぐっと押してクリスを翻弄した。
「あっ……やっ……んっ……あんっ」
熱を持った腰が切なげに揺れる。手首に食い込むロープも、焦れったくはあるが痛みはもう気にならない。
レオンはクリスの中を苛みつつ、その目尻に浮かんだ涙を舐め取った。
漆黒の双眸にもう怒りはない。代わって劣情と恋情が入り乱れ、端整な美貌から冷ややかさを消し去っていた。
だが、クリスは官能の波に呑み込まれ、レオンの表情を確認することはできなかった。
クリスが息が切らすのと同時に、長い指がずるりと中から引き抜かれる。レオンは絡み付いた蜜を舐め取ると、ガウンを脱ぎ捨てクリスに覆い被さった。
わずかに開いた足を更に広げ、自分の腰をぐいと割り込ませる。
「あっ……」
いよいよ純潔が失われるのだと察し、クリスは束の間正気を取り戻した。
初めて目にするレオンの体は、息を呑むほど均整が取れていた。すらりとしていると思い込んでいたのだが、濃い色の服で着痩せしていただけらしく、肩はしっかりとしており上腕の筋肉も頼もしい。鍛え抜かれた胸板は厚く腹は引き締まっていた。戦場で敵兵にやられた傷跡がいくつかあったが、それすら肉体美を引き立てるものでしかない。
黒い瞳は欲望でギラギラ光っており、クリスは狼に屠られる兎の心境になった。
「れ、レオン様……」
手が自由であれば逞しい背に縋り付くこともできただろう。だが、縛られていてはどうにもならない。ロープを解いてくれないだろうか——そう頼もうとした次の瞬間、レオンの灼熱の分身が蜜口に押し当てられた。
「あっ……」
目を見開いて背を仰け反らせる。
指とは比べものにならない質量と圧迫感に、肺の空気を押し出される気がした。
「あっ……あっ……」
かたい先端に隘路を押し広げられ、痛みに悲鳴を上げかけたのだが、レオンに唇を奪われ何もできなくなる。
「……っ」
前戯では気持ちよくすらあったのに、いよいよ純潔を失うとなると、思い人が相手でもこうも辛いのだろうか。呼吸も奪われて更に苦しくてならない。
すると、クリスの息苦しさを感じ取ったのか、不意にレオンが唇を離した。ほっとした次の瞬間、太くかたい肉の楔が、一気に最奥に突き入れられる。
「……っ。ああっ。あっ……」
内側から引き裂かれるような痛みを、クリスは首を大きく横に振って耐えるしかなかった。
「い、いたっ……。痛いっ……」
一方、レオンは「馬鹿な」と呟き呆然としている。
「お前は清い身のままだったのか……」
だが、すぐに漆黒の双眸に歓喜が宿り、「そうか、そうだったのか」と、低い声に堪えきれない劣情が入り交じった。
「クリス、感じるか。これで、お前は俺のものだ。……俺だけのものだ」
熱に浮かされた低い声が、処女を喪失した事実を改めて伝える。
衝撃に白い頬に涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「レ、オン様……無理……もう、無理ですぅ……もう入りません……」
「何を言っている。お前の体は俺を求めて、こんなにも貪欲に呑み込んでいるぞ」
レオンは肩で大きく息をしていたが、やがて動きを止めクリスの髪を撫でた。
「クリス、痛いか」
クリスは涙目でこくこくと頷く。
入れられただけで痛く苦しいのに、この上教本通りに動かれると、体が引き裂かれるのではないかと不安だった。
「うえっ……」
透明の滴が再び頬を伝う。手で涙を拭いたいのにそれもできない。
「泣くな」
レオンが頬を寄せて涙を吸い取った。頬だけではなく、目元に、鼻先に、顎に、最後に唇に再び口付ける。
「初めてだから痛いだろうが、先ほど十分に慣らしたから、徐々によくなってくる」 -
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