-
試し読み
「いけません、こんなこと……っ」
「いけない? 俺が、王族だからか」
「……っ、あ、あたりまえではないですか。アストルフさまは将来この王国を背負う唯一のお世継ぎです。父が命がけでお仕えした、尊い王家のお血すじでいらっしゃいます。男性とか女性とか、軽々しく恋愛感情と結びつけてよい存在ではないのです……!」
必死でその肩を押し返そうとすると、目の前の眉間にぎゅっと沈痛そうな皺が寄った。
「おまえは残酷だ。いっそ嫌いと言って手酷く振ってくれればいいのに、尊いだと? なぜ、期待させる余地を残す。なぜ俺を、崇めるように大切に扱うんだ」
揺れる瞳が近づいてくる。
アストルフの腕は堅牢な武器みたいだ。無理に押さえつけずとも、思うままに自由を奪える余裕と自信が、ミリアムの鼓動を余計に乱す。
「だ……めです……!」
辛くも顔を背けたが、顎を摑んで引き戻された。
「本気で嫌なら、俺の横っ面でも叩いてみろ」
「ヤ、そんなこと、できません……っ」
唇がいよいよ重なりそうになり、ミリアムはかろうじて自由のきく腕を振り上げる。と、すかさず手首を摑んで阻まれた。拘束する力は大したことなどなかったのだが、さらに足搔いたのがよくなかった。
「い……っ」
手首をひねる格好になり、ミリアムは苦痛に顔を歪める。それを見て、アストルフは力加減を誤ったと思ったのだろう。焦った様子で、すぐさま細い手首から手を引いた。反動で、ミリアムの手の甲はふかっとしたものにあたる。枕だ。
苦し紛れにそれを引き寄せ、アストルフの顔に押しつける。
「む」
一瞬の隙に、ミリアムはすかさず力強い腕から逃れた。
ベッドから転げ落ちるように飛び降り、部屋を突っ切る。
「ミリー!」
呼ぶ声が投網のように投げられたが、一目散に駆けた。
扉を勢いよく開いても前方を阻まれなかったのは、人払いされていたおかげだ。廊下に出ると方角なんて考えず、目についた曲がり角をめちゃくちゃに曲がりながら逃げた。
「……っは……ぁ、はあ……っ」
叶うことなら、この現実が現実でなくなるところへたどり着きたかった。
もしもアストルフが、いっときの気の迷いでミリアムを抱きたいと言っているのなら、かまわない。ミリアムの命はアストルフが救ったものだ。だから、慰み者になることでアストルフの役に立てるのなら、いい。
けれど、結婚とか妃とか――。
自分がアストルフの世界の一部になるなんて、考えられない。
アストルフが住む世界は、ミリアムから見て雲のうえにある。脈々と続く統率者の血を継ぎ、崇められるべき存在。だから父だって、喜んで命を捧げたのではなかったのか。もし、身分も後ろ盾も、確固たる己さえ持たないミリアムの手が届いてしまったら、ミリアムは父の死をどう納得すればいいのか。
「待て、ミリー!」
足音は急激に近づいてきて、右肩を強く摑まれる。
「逃がすかよ……っ」
ワルツのターンのように振り向かされると、強い瞳がそこにあった。額にはかすかな汗が滲み、金の前髪が幾すじか張りついていて、その色っぽさにぎくりとする。
だめだ。捕まるわけにはいかない。
とっさに彼の手を振り払い、ふたたび逃げようとする。しかし掬い上げるように腰に腕をまわされ、小脇に抱えられてしまった。
「は、離してください!」
全身で拒否しようとしても、鎧のような筋肉を身につけた肉体は揺るがない。
「離さない。俺の気持ちを理解するまで言って聞かせようと思っていたが、それすらさせないというのなら、もう知るものか。容赦するのはやめだ」
吐き捨てられた言葉には、苦いものをあえて飲もうという覚悟の響きがあった。
大股で連れて行かれたのは、やはりアストルフの部屋だ。またもやベッドに組み伏せられ、今度は避ける暇もなく素早く口づけを奪われる。
「んぅ……っ」
口腔内を舐め探る舌は、情熱的に積年の想いを訴えてくる。
ねっとりと歯先をなぞり、角度を変えて上顎をくすぐり、舌を吸い出す仕草が丹念すぎて気が遠くなる。
プロポーズのときの唇より、ずっと熱い。わけがわからぬまま翻弄されるミリアムの背中のリボンを、ためらいのない手が解いていった。
ふいに胸の圧迫が和らいだのもつかの間、湿った唇がつうっと喉へおりていって、ミリアムはぞくぞくと粟立つ感覚に震える。
「おまえは俺のものだ。誰かに渡すために、護ってきたわけじゃない」
「だ……だめ、です……っ」
こんなことは、許されない。
誰が許しても、自分で自分を許せそうにない。
「どう、して……っ、どうして、わたしなのですか……っ」
アストルフには、ほかにもっとふさわしい令嬢がいるはずだ。それなのに、なぜ。
「どうして? 尋ねたいのはこちらだ」
苛立ちをぶつけるように、アストルフはミリアムの鎖骨を激しく吸う。胸のふくらみの始まるところに強く押しつけられた唇は、明らかに荒っぽかった。
「どうしてだ。俺を崇めるように扱いながら――王族としての俺を誰より必要としながら、どうしておまえは俺をただのひとりの男にする?」
コルセットに押し上げられた胸の谷間をひと舐めしてから言う。
「最初は、ただ頼られているだけでよかった。幼いおまえは、王族でも唯一の王位継承者でもない、ただの俺を見てくれた。慕われているだけで、俺は俺らしさを取り戻せる気がした」
「っ……」
「それなのにおまえは日に日に道理を覚え、恐縮するようになった。可憐に成長するのと同時に、徐々にへりくだって俺を焦らせる。見た目も、心構えも、子供のままの庇護欲で完結できる世界にとどまっていてくれない。……たまらないんだよ」
アストルフの言葉はまくし立てるように早口で、まるで追い立てられているような気分になる。
困惑しきって抵抗もおぼつかないミリアムの胸もとに、アストルフはまた唇を押しつける。己のあとを残すようにひとしきり吸われ、やんわりと歯を立てられる。
直後、むしゃぶりつくように右の膨らみを食まれたら、表面からとけていくような心地よさにミリアムはおののかずにはいられなかった。
「やあ……っぁ、っア」
許されないと思うのに、どうして嬉しいと感じてしまうの。
やみくもにアストルフの胸を押し返す。しかし当然、びくともしない。それどころか、掌で感じた胸筋の盛り上がりにまでどきっとして、指先が震え出した。
(いけない……これ以上は、本当に、いけない)
本能が警鐘を鳴らしている。これより先は、進んだらきっと引き返せない。
しかし身構えようとすればするほど、体は思いどおりに動かなくなっていく。
素肌を吸われるたびにじわじわと熱を上げる下腹部は、とろ火にでもかけられているようだ。そのうちくつくつと沸騰して、いつかあふれてしまいそう――。
「お願い、待っ……まってください、アストルフさま……っ」
切実なミリアムの訴えに、アストルフは答えない。襟ぐりからはみ出た胸の膨らみに頰擦りをし、顎で前身ごろを邪魔そうに押しのけようとする。
(胸が……!)
焦って逃げようと、体をずり上げたのが裏目に出た。襟ぐりからぶるんとふたつの乳房がこぼれ出る。
「きゃ……っ」
とっさに隠そうとしたが間に合わず、すかさず右の先端を頰張られた。
「あ、っあ、いや……ぁっ」
あまりのくすぐったさに、びくっと腰が揺れる。なにより、触れているのがアストルフだと意識するといけなかった。高貴な唇が、乳の先を吸っている。いやらしく幾度もくちゅくちゅと音を立てている。
(逃げなくちゃ……拒否しなくちゃ……いけない、のに)
腰のあたりがそわそわして、あまりにも快くて、逃げられない。
「甘い匂いだ。これ以上、俺を惑わせてどうするつもりだ?」
「……っん、あ、そんなに、んんっ、しゃぶらないで、ぇえ」
丹念に先端をまさぐる舌の動きが恨めしい。苦しいほど心地いいなんて、どうかしている。でも。
乳頭と一緒に周囲の膨らみまで頰張られると、腰が勝手にくねっていた。
「……あ、んぅ……ふ」
キスよりもさらに、アストルフの体温をはっきりと感じる。なめらかな舌の感触も、先走るような動きも、敏感な先端は残らず感じとって全身でそれを受容してしまう。
「おまえだって、名も知らぬ誰かのためにこれほど見事に育ったわけではないだろう」
順応していくミリアムの肉体の変化に気付いたのか、アストルフはわざとらしく左胸の頂を苛めてみせた。幾度も舌で転がされ、先端が硬くすぼまれば、それをチュっと吸って離され、乳房がぷるんと淫らに震える。
「あ、ぁ……っい、や……ぁ」
「嫌? そんなふうには聞こえないな」
それは、ミリアム自身も自覚していた。嫌と言う声が、どうしても甘く誘う声になる。
困惑するミリアムの前で、アストルフはぞんざいにシャツを脱ぐ。気持ちがはやるあまり、力の加減がきかなかったのだろう。外しきれなかったボタンが飛んで、バチッと壁に当たった。
途端に、窓から差し込む光に浮かび上がった男の裸体にミリアムは息を吞んだ。
(……これがアストルフさまの、からだ)
普段、王族の衣装に包まれている胸はほどよく厚く、腹筋は綺麗に割れている。肩はたくましく隆起し、無駄のない腰つきはため息がでるほど色っぽい。
「どうした? ああ、そうか。男の体を見るのは初めてか」
「っ……」
「そのまま見ていろ。俺のすることを、その目で最後まで見届けろ」
ドレスを脱がされ、下着もすべて取り払われると、脚の付け根に顔を埋められた。驚いて飛びのこうとしたが、太ももを抱くたくましい腕からは逃れられなかった。
ぴちゃぴちゃと濡れた音を響かせ、秘所をくまなく舐められながら、ミリアムは切なく身悶えるしかない。
「ん、っあ……あ、ひぁっ……こんな、こと……っ」
「悪いが、もう引き返さないと決めている」
アストルフの舌は縦横無尽に、ミリアムの弱い部分を探り尽くした。割れ目に沿って幾度もなぞられ、閉じた入り口を欲しがるように弄られて……。
内側の粒をちゅうっと吸われたら快感に全身がのたうち、呼吸が止まりそうだった。
「ヤぁあっ! あ、ぁっ……は……」
息も絶え絶えのミリアムに、アストルフは「見ろ」と割れ目をぱくりと広げてみせる。
「おまえも欲情している」
秘裂の内からころっとした粒が顔を出したさまは、蜜にたっぷりと濡れたみずみずしさも含め、熟れたすももを割ったようだ。
「ッも……う、お許し、ください」
恥ずかしさのあまり涙目で訴えたが、無情にも見ている前で種の部分を吸われた。じゅうっとみずみずしそうに果汁を啜られ、ミリアムはいやいやとかぶりを振る。
「あっ、あ……っあぁ……やあ、ぁ、そんな、っ何度も、吸わない……でえ……っ」
下腹部が熱い。じりじりと炙られているようにしか思えない。燃え上がりそうで怖いのに、その怖ささえ望んでいたもののように感じてしまう自分がなにより怖い――。
「も、……いやあ……っ」
アストルフの頭をがむしゃらに押し退けたら、ようやく刺激は止んだ。
ほっとしたのも束の間、膝の間にアストルフが体を割り込ませてくる。いけないと、危機感を覚えたときには遅かった。びくっと体が硬くなる。つい先ほどまでアストルフが舐めていた場所に、重いものがあてがわれている。
「俺がどれほど興奮しているか、わかるだろう?」
視界には、否応なしにごつごつとした濃い色の雄茎が映り込んでいた。
「そ……それだけは……っ」
恐ろしくて、震えながらかぶりをふった。
アストルフとひとつになるなんて、あってはならないことだ。彼に抱かれるということは、彼に次ぐ王族の跡継ぎを孕むかもしれない可能性があるということ。それに、あれほど大きなものを胎内に突き込まれたらと想像するのも怖かった。体だけでなく、心まできっと壊れてしまう。
しかしいきり立ったものは、無垢な入り口に狙いを定めて入り込んでこようとする。
「ひ……っ」
容赦なくぐっと先端を押し込められ、強烈な痛みにミリアムは縮こまった。
「アストルフさま、いや、いやです……やめ、てぇ!」
「ここで引き返せば、おまえにとっての俺はこの先も忠誠を捧げる相手でしかない。恨まれたっていい。嫌いたければ嫌え。永遠に仰がれるより、全てを失っても俺は、ただの男としておまえの目に映りたい」
ただの男――ちがう。アストルフは『王族』だ。性別など関係なく、尊ばれるべき存在だ。
後退しようとしたが、アストルフの腰はついてきた。腰を摑まれ、さらにぐっと楔を打ち込まれる。あまりの痛みに歯を食いしばると、唇を斜めに塞がれる。
「ん、んん……ぅ」
とろりと入り込んできた舌は、強引に処女を奪おうとしている男の口づけとは思えないほど、優しい。そうして混乱している隙に、すかさず雄杭を押し込まれる。
「んんっ……ん……っ!」
苦しい。受け入れたのは頭の部分だけなのに、脚の付け根どころか、お腹をぱんぱんに満たされているような圧迫感にミリアムは喘いだ。
「……っんぅ、ふ……っイヤ、ぁあ……く、うっ」
わずかに引いては戻され、ぐ、ぐ、と奥へ入り込まれるたび、絶望せずにはいられない。アストルフに抱かれてしまっている。繫げられている。
「ひ……っう、ぅ……っ」
「ミリー、歯をくいしばるな。楽にしろ。怪我を、するぞ」
顎を浮かされた途端、胎内の圧迫感がぐんと増す。閉じた入り口をこじ開けきったのだろう。直後に最奥を押し上げられたら、ミリアムは全身をのけぞらせて悶えていた。
「っ……ぁ、ああ……あ……!」
「これで……ぜんぶ、だ」
そう言われて脚の付け根に視線を落とし、愕然とした。
そこに、アストルフのものは見当たらなかった。代わりに目に入ったのは、互いの太ももがぴったりと重なったさまだ。あのたくましい雄杭は、根もとまですっかりミリアムの中に収まったのだ。
(わたし……本当に、アストルフさまと……)
ひとつになってしまった。信じ難い光景ではあるが、蜜道に感じる疼きと圧倒的な圧迫感がふたりの結合を証明していた。
「ぬ、抜いて……っ」
「……ッ、だめだ。おまえが、俺をひとりの男と認めるまでは……許さない」
恐怖に収斂する蜜壺の中で、雄のものはより太くいきり立つ。そしてゆるゆると揺れ出して、内壁を強引な波でたっぷりと満たした。
「あ……あっ、アストルフさま、っ……やめ……て、ください……!」
「ならば、受け入れろ。俺だって聖人君子ではないと……おまえの前ではただの男だと、認めるんだ」 -
関連作品