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試し読み
「何を怯えているんだ? 前にも言っただろう、私たちはこの夏の間は夫婦として過ごすのだと」
ロビーナの喉の奥が緊張で乾いていくのを感じる。
ダニエルが不機嫌な理由も、パーティーの後に突然部屋に訪れた意味も分からない。
パーティーの後半、ロビーナを無視していたダニエルは、どうしてわざわざ夫婦の確認をしにやって来たのだろうか。
「――どうして」
自分の中で膨れあがる疑問を口にする。
「どうして、か。ああ、どうやら君には理解できていないらしい。それを君に教え込むためにも――この行為は必要だ」
そのままダニエルは逃げ場のないロビーナに口付けた。
「ん……んんっ」
今までの、熱く奪うようなキスとはまるで違う、乱暴で傲慢なキスだった。
まるで罰でも与えているかのように強烈に、それはロビーナの感情をかき乱していく。
「ん、ふぅん……んんんっ!」
ダニエルとのキスはもう何度も経験していたが、それでもいつまで経っても慣れることはなかった。
しかも、こんなに激しいキス……。
ダニエルはロビーナの呼吸すら奪うように強烈に唇を吸い上げ、こじ開けた舌でロビーナの奥深くを犯していく。
「ん……む、んん……っ」
たまらず声をあげることさえ許さぬように舌を絡め取られる。
「ん、むぅ……」
息苦しさとそれ以上に身体の中から込み上げてくる熱に、ロビーナは思わず身を捩る。
しかし追い詰められたロビーナに逃げ場はなく、がたりと頭が当たった窓ガラスが音を立てる。
――そう、窓。
その音でロビーナははっと我に返った。
自分のすぐ後ろは大きな窓で、外にはまだパーティーの参加者がいる。
もし誰かが見上げれば、灯りがついているこの部屋の中は――自分たちの姿は見えてしまう。
ダニエルとキスをするロビーナの姿が!
「ん……っ」
それに思い至ったロビーナは、必死で拒絶するように首を振ろうとした。
ロビーナの行為をどう受け取ったのか、ダニエルはロビーナの唇を解放するとじっと昏い瞳で見つめる。
「――君に拒絶する権利はない。前に、そう言ったのを忘れてしまったのか?」
「ご、ごめんなさい。でも……」
ダニエルの言葉に思わず謝罪しながら、それでもロビーナは背後の喧噪が気になっていた。
「パーティーのお客様に、こんな所を見られてしまったら……」
「見られて困る人物でもいるのか?」
「え……っ」
ダニエルの瞳に、いっそう深い炎が灯る。
今度は逃がさないとでもいう風にダニエルは窓を閉め、そのままロビーナの頭を掴むと再び乱暴に唇を奪った。
「ん……」
しかし今度はキスだけでは終わらなかった。
ダニエルの右手はそっとロビーナの両胸の膨らみに伸びていく。
服の上からそっと触れれば、ドレスの生地やコルセット越しにも関わらずロビーナの身体にびくりと鋭い刺激が走った。
何度もダニエルに触れられ、彼から与えられる刺激を身体が覚えてしまったのだろうか。
ほとんど手の感覚さえ分からない固いコルセットの上のダニエルの手の動きは、あやまたずロビーナの敏感な箇所に触れ愛撫していた。
その動きはロビーナを甘く痺れさせ――そして次第に更なる刺激を欲する衝動を呼び起こす。
「ん、ん……っ」
いつの間にか、服の上からのダニエルの愛撫がもどかしくなっていた。
もっと直接触れて、彼の手を感じることができれば……。
そんな思いが心に過ぎるが、ロビーナは慌ててそれを否定する。
(駄目、すぐ外は窓なのに)
(もしも、誰かに見られたりしたら……)
それなのに、ダニエルはロビーナを甘く誘惑する。
ほんの一瞬ロビーナの心によぎった願いを叶えようとするかのように、ロビーナの服に手をかけそっと脱がせていく。
「や、駄目、です……」
「君の身体はそうは言っていないようだが」
ダニエルは静かな声でロビーナに告げる。
事実、ロビーナの身体はドレスに手をかけるダニエルの指の動きその一つ一つに小さく震え反応し始めていた。
首筋に、背中に触れるダニエルの指はロビーナの気持ちいい部分をくまなく探し出し愛撫していく――いや、ダニエルの触れる箇所全てが、ロビーナにとって敏感な場所になっていた。
「……ぁ、はぁ……っ」
抗議しようと口を開けるが、零れ出るのは甘い吐息。
ダニエルから与えられる感覚にふわふわと溺れそうになっている間に、ロビーナの身体は次第に開放感を覚え始める。
「あ……」
いつの間にかロビーナのドレスは大きく開けられ、コルセットが緩められていた。
ロビーナの身体を隠すのは、最後の下着のみ。
ダニエルの手がロビーナの肌を僅かに隠す下着にかかる。
「い、や……」
最後の理性を振り絞り、なんとかロビーナは抵抗しようとする。
「――違うだろう?」
しかしダニエルは静かにロビーナを否定した。
「それに、美しい君の全てが――見たい」
「……っ」
ダニエルのその言葉は、ロビーナにとって魔法のように響いた。
ダニエルが、見たいと言ってくれた。
――望まれて、いる。
求められた歓喜に全身が燃え上がり、身体の力が抜けていく。
抵抗を失った身体からダニエルはするりと下着を引き抜き、ロビーナは生まれたままの姿にされてしまった。
「ああ――やはり君は美しい」
ダニエルの声に、当初感じた不機嫌さに加え別の感情が交じる。
それはロビーナの全てを絡め取り全て独占するような……歪んだ感情。
「君の全ては私のものだ。誰にも――渡さない」
「ん……あ、はぁっ!」
唐突にロビーナは抱き締められた。きつく、息もできないほど強い抱擁。
素肌に触れるダニエルの上質なスーツの生地が心地よかった。
その奥に感じるダニエルの逞しい身体も――。
「あ、あぁ……っ」
ダニエルは抱擁を解くと、ロビーナとの間に一瞬たりとも隙間を作らぬようにそのままロビーナの肌に唇を落とす。
露わになった胸に何度もキスをして、いつにない性急さでロビーナの胸の突起を口に含んだ。
「は――ひぁんっ!」
既にダニエルとの行為で固くなっていたその箇所は、唇が触れた瞬間弾けるように甘い快感を生み出す。舌で転がされ甘噛みされ、あっという間にロビーナの身体を昂ぶらせる。
「あ――あぁあ、んんっ」
それでもダニエルはロビーナを解放しない。
両手で大切なものを扱うようにロビーナの胸を挟むと、緩やかに動かしながら再び丁寧にその白い肌の上に唇を這わせる。
手と唇、それぞれの愛撫がロビーナに更なる快感を与えていく。
「は、ぁあ……っ」
身体の中からわき上がる快感に、ロビーナはビクンと小さくのけぞった。
がたり――ロビーナの頭が窓に当たり、夜の闇に歪な音が響く。
「あ……」
その音でロビーナははっと我に返った。
そう、窓。
もしも下にいる客が今の音に気付いたら、そしてこちらを見上げたら――。
「あ、や、ここじゃ、駄目……っ」
ロビーナの身体に再び力が入る。
必死で首を振って窓から離れようとする。
「――そんなに外が気になるのか?」
「あ、え、ええ……」
「なら、自分の目で確認するといい」
「きゃ……っ!」
ダニエルは静かにそう告げると、ロビーナの身体を掴んで反転させた。
ロビーナは窓の方を向いた状態で、ダニエルに後ろから抱き締められる形になる。
ロビーナから、窓の外の景色がはっきりと見えるようになった。
「わ、あ……」
――その刹那、ロビーナは裸のままダニエルに抱かれていることも窓の下に人がいることも全て忘れてしまう。
窓の外の世界は一変していた。
いつの間に庭師たちが仕事をしたのだろうか。
夜空の星よりも遙かに眩い無数の灯りがエクスマウス邸の美しい庭を照らしていた。
灯りは夏に咲く白い花々を幻想的に浮かび上がらせ、数多の人々がその光景に見惚れている。 -
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