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試し読み
「ん、ッ、も……ぁ、んん――」
不意に、その甘い刺激から解放された。
じくじくと疼く身体も煽られた熱もそのまま。それでも終わったのだろう安堵に息をつきかけた。それが早合点だと気づいたのは、レナートの手が足に絡むドレスをたくし上げていたから。
ジュリアーナは思いきり身を捩っていた。
半ば以上ずり落ちていた身体が床に落ちる。全身が、特に下肢が痺れたようで力が入らない。それでも座面に肘を立てて身を起こそうとした。
その動きを、背後から覆い被さるレナートに助けられる。
「や! もう、やめ……ああッ!」
さっきまで舌で嬲っていたそこを、今度は指先で摘ままれた。
思わず仰け反れば今度は手のひら全体で胸をすくわれ、揉みほぐしながら、指と指の狭間にある赤い実を擦る。
「ぁあ、ん、……やぁ! ッ、……もう、やだ。……ぁんッ」
「そんなに声を上げると、外に聞こえるけどいいのかな」
後ろから伸し掛るレナートが耳許でそうささやくのに、声を出せと迫るような指の動きで追い詰めてくる。
ジュリアーナは必死で声を抑えた。外の喧噪は波のように大きくなり小さくなり、けれど途切れることなく耳に届く。それに縋って理性を保つ。それでも喉が震えるのが抑えられない。
「ぁ、……ッ、ぁ、んん……」
ぼんやりした意識が快感の甘さに浸りかけていた。だから気づけなかった。
彼の手が大腿を這い上がる。そうやって、ゆっくりとドレスのスカートをたくし上げていく。
「いや。だめ……そこは」
「なぜ?」
内腿の柔らかい部分に指が潜り込む。足をどれだけ固く閉じても、阻めない。
「ぁ、……――ッ!」
快感に足が崩れそうになった。
下着の上からなぞられた。それだけなのに、他人の手から与えられる刺激の甘さに息を呑む。唇を噛んでいないとあられもない声が漏れてしまいそう。
繰り返し、繰り返し。そこを擦られて、その度に身体は震えた。
その甘すぎる感覚から逃れようと腰をくねらせる。それではでも、後ろから覆い被さるレナートに身体を擦りつけることにしかならない。
「ああ、濡れてるね」
耳に注ぎ込まれる声すら甘く感じた。
彼の言う通り、下着に滲むくらいそこが濡れているのがわかった。指がその染みを伸ばすように、押し開くみたいに執拗に撫でてくる。
「あ、ぁ、……ぁ、ああ……ッ!」
下着越し、指が突き立てられても抉る範囲は浅い。
それでも蜜を垂らすそこは、浅く抉るような動きに悦び、ほころんでいく。
「あ、……いや、ぁ」
何度脚を閉じようとしても、そのたびに強く走る快感に緊張が緩んだ。
だらしなく股を開いて、まるで彼の指が与える刺激を待つのはジュリアーナの意思ではないのに、身体が言うことを聞かない。
「何が嫌? 俺に触れられるのが?」
「ちがッ――……ッ」
責めが弱まった。
指先が優しく下着越しに割れ目を撫でる。濡れた下着が張り付いて、指の動きがより鮮明に感じられた。それでも、さっきまで身もだえていた刺激が今はもう物足りない。
「俺じゃないなら、なに?」
「あ……。もう、お願い。気持ち良くなっちゃう、から――」
――もう止めて欲しい。
そう最後までは言えなくても気持ちは伝わったはずだった。なのに、ふと耳に触れた吐息は笑いに揺れる。
「気持ちいいんだ?」
「は、あ! だめ、だ、め、ぁ……んんッ」
指が下着の上からそこを割り広げ、指先が繋がる場所をかりかりと掻く。布ごしの刺激は何かをはぐらかされてるみたいで、そのもどかしさにじわりと身の裡から蜜が滴り、下着をまた濡らした。
「おねが、や……ぁ、もぉ……」
指先は秘部に触れたまま。布ごしに与えられる甘い刺激は止む気配がない。
胸は優しく揉まれて、うなじに唇が這う。
(まだ、終わらないの?)
身体の一部がぐずぐずと溶け出しそうな熱。身体の芯を貫くような、全身が痺れる甘い刺激。下肢を弄られると奥が疼いて、その感覚だけ追いそうになる。
「や、や……ッあ、んんっ、だめ、ッ、あ……ッ」
気持ちいい。
(でも、だって。ちがう……ッ)
このまま流されては駄目だ。
そんな焦燥が意識を覆う快楽の合間に差し込まれて、余計に彼女の身体を乱した。
背中から大きな身体に押さえつけられて。革張りの座面に縋り付いている。爪を立てて前に逃れようとしても、馬車の揺れほども逃げられない。
彼は最後まではしないと言った。
それを一度は信じたけれど、でももし、レナートが気を変えていたら?
「……レナー、ト。ぁ、や、やめて。おねがい。――こわい」
「男に身を任せるのが恐ろしい?」
得体の知れない恐怖に色を乗せる彼の言葉。
その通りだった。
自由に動けない状態も、伸し掛られた体勢も、まるで言うことを聞かない自分の身体も、初めて知る快感も。なにもかもが怖い。
ジュリアーナは彼を振り返り、頷いた。
レナートがそこにいる。彼は男性で、その恐ろしい行為をしている人間なのに、彼がすぐ傍にいるという事実にどこか安堵する自分がいる。
けれど彼は笑って言った。
「大丈夫、慣れるさ」
「――え? あ、ああッ! や、だめ……ッ」
指の動きが、今までと違う。走る快感から逃れようと腰を揺すっても指は離れてくれなくて、それどころか動きに合わせて指先でくすぐられる。
「やあ!」
とうとう指が直にそこへと触れた。下着をずらされて、濡れる布が狭間に食い込む。でもそれよりも、ぬるつくそこをゆっくりと擦り上げられる、その刺激に唇を噛む。
「それに、君にだって必要だろう?」
すっかり濡れきったそこを直に触れる指は滑るようだった。誰にも触れさせたことのない、狭間の襞を撫でられて、その甘すぎる快感にジュリアーナは泣きそうになる。
「いつか君は、愛してもいないどうでもいい男と、こういうことをするんだから」
「……ぁッ」
耳に吹き込まれた低い声に、ぞくんと背筋に何かが走った。
「どうでもいい相手に身を委ねて、こうやって」
「んん、……あ、あ、だめッ」 -
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