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試し読み
ローレル、と囁きが鼓膜を震わせた、それが甘く脳裏に響く。
「ほら、君が僕を誘惑するんだろう?」
寝台の中央まで滑らせるようにローレルの身体を移動させ、彼の手が大腿を掴む。
「ちが……っ」
「違わない」
そのまま脚を開かれて、濡れそぼった秘部が晒された。
ひやりと感じる冷めた空気は、でもすぐに違う感覚にすり替わる。彼の視線が、そこを這うから。
「あ、や、……ぁ」
エリオットが笑う。
一瞬の躊躇もない。指でそこを押し開きながら。
「――……ッ」
「ここに僕が入るんだよ。ふふ、ぬるぬるだ。気持ち良かった?」
触れるか触れないか。
表面を羽が撫でるように指先で撫で退る。
「あ! あ、ぁぁ……」
それだけで。
溢れそうになっていた蜜が滴る。腰の辺りに凝る曖昧な衝動。まずそれに声が漏れて、その後で意識がその刺激を追う。その繰り返し。
滴る蜜を掬うように入り口をくすぐる彼はとうとう、その奥へと指先を伸ばした。
少しずつ深く、また浅く。つぷつぷと繰り返し、その甘い痺れは完全につま先まで伝わった。
脚から力が抜けてしまう。
そうやって抵抗を忘れた身体に、ゆっくりと指が潜り込んでいく。滑りを掻き分けるように隘路を割って、奥の奥、快感に焦れて震えるそこを、探り辿るみたいに。
ぴくん、と身体が跳ねるたびに彼の含み笑いが耳に触れて、その恥ずかしさだけで達してしまいそうだ。
「あ、ぁ、……ぁあ……ッ、ん――!」
息を潜めればただ、指先の動きに合わせるように濡れた音が室内に響く。
襞を撫でるように引き抜かれ、半ば抜けきらない所から押し込まれ。そんな緩慢な動きで濡れそぼる中を犯される。こんな風にするのだと、まるで予告のような抜き差しを繰り返しながら。
快感に負けた四肢は痺れて動かない。ただ気持ちよさに喘ぐ姿をエリオットに見られている。
――彼の指に、犯されている。
その事実に、身体の奥が淫らに震えた。
半分泣きながら、どうしようもなくエリオットを見上げたローレルの視線は彼のそれと交わらない。
エリオットはまじまじとそこを見ていた。指先をその縁にかけるように、二本の指で入り口を押し開いて。
「ッや、やだ、見な……――ッッ!」
ずるり、と音が鳴るくらい。一息に指が突き入れられた。
「痛い?」
「もう、やめ……ぁ、あぁ、ん、……ッんん!」
「ここがいいんだ」
そこに触れられると声が抑えられない。
だから止めて欲しい。そう目で訴えた。聞き届けられないと知っていたけど。
「ッぁ、あ、そこ、や……あぁっ!」
「ここに僕をねじ込んで、揺さぶって。は、……イイ声」
ローレル、とそう呼ばれるから目を上げる。
涙でけぶる視界は薄闇に染まって、綺麗な彼の色ももう青に溶けている。それでも吐息から、指先から、肌から。その視線から熱が伝わってきた。
――ローレル。
彼の声が肌に灼き付く。
「そうして僕は、君が与える快感が忘れられなくて、君を抱きたくて溜まらないから、仕方なく浮気者の婚約者との婚約を継続するんだ」
――もうそうと決まっているんだから。
(まるで、台本みたいに……?)
彼はこの家の主とどんな話をしたのだろう。
彼がそれを不快に思って、腹を立てたのは確かだ。だけどその鬱憤を晴らすにしては、彼の手は優しすぎる。
そのまなざしも。
「もっと気持ち良くしてあげる」
「――え? あ、ああッ! や、だめ……ッ」
ぬるり、とあらぬところに濡れた、舌の感触が這った。
閉じようとした脚も、伸ばした手も遅かった。手のひらに彼の頭が、髪が触れて、弾かれたように手を引く。それが悪かったのだろうか。
離れかけていた舌先が、指を銜え込んでいるそこをくすぐった。
「や、ぁ……ッあ、んんっ、だ、め、ッ」
ちゅぷ、じゅぶ、と。
音を立てて吸い付かれて、はっきりとした快感に脚が反った。
舐められている。恥ずかしい。気持ち良い。身体だけがそれに素直に、とぷりと、ただでさえ濡れていたそこから蜜を溢れさせた。
「あっ、ひ、ぁ――んんッ!」
指の動きも止まってくれない。
下半身が別の生き物みたいに跳ねる。ずり上がって逃げようにも、腰を抱えられて無理だ。なのにその逃げを咎めるみたいに入り口を掻き回されて、腫れぼったく熱を持った敏感なそこを指と舌で交互に責められる。
何度も何度も、小さな絶頂に繰り返し押し上げらられて、その気持ちよさに頭が働かない。それだけでもう、限界だったのに。
刺激と興奮で膨らむ尖りも彼は見逃してくれなかった。
「あ、ぁ、待っ……ッや、ぁっ!」
軽く吸われただけで、刺激に慣れたそこが弾けるみたいに目の前がちかちかした。直に神経に触れられるみたいに、甘すぎる痺れが身体の芯を駆け上がる。
もう駄目だった。
「――……ッあ、ああッ!」
いやらしい声を上げて、身体が一際大きく揺れた。
揺れる腰が止めたいのに止まらない。もう嫌なのに、彼の指の形がわかるくらい、彼に縋り付いて快感の残滓を啜ろうとしてしまう。
見られているのに。
悲しくないのに目から涙が溢れた。
「ローレル?」
「や、ゃ、今日はしない、って……」
「ああ。だって。君が泣くと可愛いから」
そんな、理由になっていない理屈でも。彼に、自分が、詰るような言葉をぶつけたのもショックだったけれど。
彼の口元が汚れている。
「……だめ」
やはり駄目だ。
彼が汚れてしまう。
彼のことを否定するつもりも、気持ちがないわけでもなくて、ただこの行為を続けられない。続けちゃ駄目だとそう思った。
「エリオ、――……ッ」
「なに?」
浮かせ肩を上から痛いくらいに押さえつけられた。
ローレルの中の拒絶は、それくらい彼の目にも露わだったのだろうか。ぎらぎらと光る瞳にランプの影が過ぎって、もう室内は完全に夕闇に沈んでいるのだと知った。
逃がさない、とその目が告げてくる。
「あ……。違、違います。ただ……だって、私なんか、駄目。汚れちゃ――」
「いいね。僕で汚れてくれる?」
そうじゃない。
汚れるのはエリオットの方だ。
だけど指とは違うなにかが下肢に触れた、その刺激に告げる言葉も途切れた。
「ぁ……」
膝裏を掴まれて、力任せに開かされたそこを滑る、熱いかたまり。
「エリオット、さ……ぁ、待っ」
「ね、こうやって」
――食べられてなよ。
蜜を吹くんだそこを割り開いて、指でいじり回した入り口に擦りつけられる。先端が滑って、上部の尖りを擦り上げた。何度も。
「ぁ、ゃ……」
「何が当たってるか、わかる?」
「や、だめ」
あ、あ、と、塞ぐことを忘れた口から溢れる嬌声と、縋り付く視線。
首を横に振ることすらできないローレルを見下ろして、エリオットは掠れた息を吐き捨てるように笑う。
「――駄目じゃない、だろう?」
「エ、リ――ッ!」
「まだ解したりないかな。でももう、我慢できない」 -
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