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あらすじ
私はお前が欲しい
皇帝陛下と甘い契約結婚生活始まりました♥前世の記憶を持つセレスティアは、義妹の陰謀で王太子に婚約破棄された。この事態を予想して逃げ道を用意していたものの、手違いで隣国の皇帝エルセードに求婚してしまい!? 逆に彼から偽装婚約を持ちかけられ、帝国に赴くことに。「お前は本当にいい女だな」偽婚約者のはずなのに、エルセードはセレスティアを気に入り甘く口説き、触れてきて……!?
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キャラクター紹介
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セレスティア
侯爵令嬢な転生者。王太子から婚約破棄される。 -
エルセード
精悍で男らしいハルドラ帝国の皇帝。
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試し読み
私を捕らえていた手が外れ、額にかかった髪を優しく撫で上げる。
「セレスティア、私はお前が欲しい」
許可を与えている額へのキスをされる。
「……エルセード」
「どこにも出したくない。離宮へ送ることも、白い結婚も御免だ。これからはずっと私の側に置きたい。他の男に渡したくない」
「あなた弱ってるから混乱してるのよ……」
まだ完全には信じられなくてそう言うと、彼は笑った。
「弱ってるから? そうだな、弱っているから弱っている時に側にいて欲しい人間はお前だけだと気づいた」
ああ、どうしよう。
私の中にも、あなたを好きかも知れない、求められたいという気持ちがあるのよ。
「愛してる」
だから簡単にその言葉を信じてしまうわ。
「契約ではなく、私の本当の妻になってくれ」
頬へのキスも許可はしていたわね。
だから唇が頬を掠めても抵抗はしない。
「マルクスにも、グリニードにも渡さない。他の男にも。私に相応しいのはお前だけ、お前に相応しい男は私だけだ」
耳元で囁くのも、契約違反とは言い難い。
だからここまでは黙認してあげる。
「セレスティア」
でも唇へのキスはダメ。
近付いた彼の顔に掌を当てる。
エルセードは一瞬驚き、残念そうに目を瞬かせた。
「言うだけ言って、私の気持ちを聞かずにキスするのは契約違反よ」
手を離しても、彼は襲ってきたりはしなかった。
吐息がかかるほど近くから顔を離すことはしなかったけれど。
「私では嫌か?」
この期に及んで適切な距離を保って私の気持ちを尊重してくれるエルセードなら、信じてもいいのかもしれない。
「……本当にちゃんと結婚してくれる? 契約じゃなくて」
私の言葉に彼の顔がパッと輝く。
「当然だ」
「私も……、白い結婚なんて言い出さなければよかったと後悔していたわ」
もう一度近付いてきた顔を、今度は制することはなかった。
確かめるようにそっと重なる柔らかな唇。
抵抗がないとわかると今度はしっかりと重なり、咬みつくように開いて私の唇を覆う。
舌がするりと口腔に滑り込み、中で蠢く。
キス、はしたことがあった。マルクスとではなく、前世で。恋人というよりボーイフレンドから一歩進んだ程度の相手と軽く唇を合わせただけのものを。
私の男性経験は前世も今世も合わせてそれぐらいしかない。
だからこんなに激しいディープキスは二度生まれても初めての経験だった。
心臓が煩いほど鳴り響く。
こめかみがズキズキする。
初めてではあるけれど、知識だけはあるから自分からも唇を開いて彼の舌を深く受け入れる。
自分も、舌を動かしてみた。
唾液の中で絡み合う肉塊は熱くて、官能的で、味わうようにキスを続けた。
「あ……」
ようやく彼が離れてくれた時には、まるで酔ったみたいに頭がクラクラしてしまった。
「愛していると言ってくれないのか?」
「え?」
「気持ちはわかったが、私も言われたい」
いや、それはハードル高いわ。元日本人としては簡単に愛してるとか恥ずかしくて言えないわよ。
「セレスティア」
せがむようにまたキスされる。
「好き……、よ」
「『好き』?」
顔が熱い。絶対、真っ赤になってるはずなんだから、それで察してよ。
「あなた毒が回ってるんじゃなかったの?」
「もう抜けた。献身的な婚約者のお陰で」
「都合のいい毒だわ」
「今は別の毒が回ってる」
「え? 大丈夫なの? こんなことしてないで休んで」
「……お前は本当に純粋だな。恋という毒が回ってるだけだ」
「……バカッ! 本気で心配したでしょう!」
怒って頭突きをしようとすると、キスで押さえ込まれた。
「ンン……ッ」
もっと文句が言いたくて彼の胸を拳で叩く。
唇を塞いで言葉を奪うなんて下世話よ。キスはそういうものじゃないでしょう。
「悪かった。だが愛していると言ってくれないお前が悪い」
「私が悪いの?」
「そうだ。こんなに私を惑わしているお前が悪い。女なんて飾りのようなもの、結婚は仕方なくするものだと思っていた私を籠絡した。すっかりセレスティアという毒が回って理性が消えそうだ」
「理性って……」
「早く言わないと、我慢ができなくなるぞ」
布団の中で彼の手が私の身体を撫でた。
「や……っ!」
薄いナイトドレスの布地ごしに手の感触。
ああ、しまった。ナイトドレスだから下着を着けていなかった。
彼の手もそれを知ったのだろう、やわやわと脇腹から胸へと移動を始める。
「ちょっ……、だめ……」
「早く言え」
胸の膨らみを包むようにすっぽりと手が覆う。
微妙に動く指にゾクリと鳥肌が立った。
「エルセード……」
首筋に唇が這う。
全身が粟立ち、しびれるような疼きを覚える。
快感だわ。触れられて、気持ちがいいと感じている。鳥肌が立つほど、彼に触れられることが気持ちいい。
でもこのまま流されちゃだめ。私達は結婚前なのよ。
「お願い、待って……」
「待てないな」
指先が堅くなり始めた胸の先をピンと弾いた。
「言ってくれないなら言わせるだけだ」
「わかった……、言うから。言うから待って」
懇願すると、手が止まる。
簡単よ、たった五文字を口にするだけじゃない。『アイシテル』って言えばいいのよ。
たったそれだけなのに、言葉が出ない。
仕方ないじゃない、男の人に愛してるなんて言ったことがないのだもの。
「あ……」
「『あ』?」
エルセードを愛してる?
いや、待って。この人がいないと寂しい。側にいたいと思ったのはつい今日なのよ?
好きなら言えるわ。だって好きだもの。顔だって好みだし、命の恩人だし、素敵な人だとは思ってたし、彼といるのは楽しいし……。
でもベッドの中で『愛してる』って言うのは『好き』とは全然違うわ。
「遅い」
まごまごしている間に手が再び動き出してしまった。
「エルセード!」
今度はさっきより強く胸を掴まれる。
「だめ、だめ、だめ! 結婚前にこんなこと」
「婚約はしてるだろう?」
「婚約中にはこんなことはしません」
「互いの気持ちがはっきりしていれば問題はないだろう?」
そうなの? この世界の倫理観、いえこの国の倫理観ってそういうものなの?
「もし子供ができたら結婚の時期を早めればいいだけだ」
「こど……!」
子供って、そういうコトしないとできないわよね。子供ができたらってってことはそういうコトをするって……。
「無理!」
「どうして? ああ、初めてだからか? マルクスとはキスもしていないんだから、身体に触れさせたこともないんだろう?」
「当たり前ですっ!」
「それはよかった」
何で満面の笑みなのよ。
……あれか、男性憧れの処女神話か。
処女……。
「もういい。言葉よりお前をもらう」
手が動く。
ナイトドレスの前を開けられる。
「エルセード!」
動く手を捕らえて制止しようとしたけれど、私の力で止まるわけがなかった。最初に私の腕を握った時の弱々しさはどうしたのよ。お芝居だったの? 本当に毒が抜けていつものエルセードに戻ったの?
いつものエルセードに戻ったら、私が適うわけないじゃない。
「私を嫌いじゃないんだろう?」
「嫌いじゃないわ」
「結婚するんだろう?」
「……う」
返事をためらってる間に襟元から中へ手が入り込んだ。
「や……」
剣を握る彼の堅い皮膚が直に触れる。
男の人に触れられてる。
エルセードが私の胸に触れている。
愛してるって言わなければこの先もされてしまうの? ……してもらえるの?
だめだめ、そんなこと考えちゃ。
でも『初めて』を好きな人に求められてするなんて、女として最高の『初めて』なのでは……?
余計なことを考えている間に指が私の胸の先を摘まんだ。
「ひぁ……」
摘ままれた場所から甘い疼きが全身に広がる。
初めての感覚。
ではないわね。前世、少しだけはあった女性としての欲が刺激される感覚だわ。でもあの時はただウズヴスするな、思っただけだった。
でも今は違う。
疼きを感じるところに彼の手が刺激を与えてくれる。
本当の貴族令嬢だったらこんなはしたないことは考えないはず。……妹のリンリーナだったら快楽に溺れるのかもしれないけど。
でもこのままじゃ私もあの子のことは言えないわ。
「エルセード……」
無駄と知りつつ彼の手を握る。
この快感に流されちゃダメ。今止めないと。これ以上触れられたら、絶対飲まれてしまうわ。
……だって、気持ちいいのだもの。
「……愛してるわ」
よかった、手が止まった。
「愛してるわ」
もう一度繰り返すと、エルセードはじっと私を見つめた。
「私もだ」
優しい口づけ。
……よかった、流されずに済んだ。
と、思ったのは一瞬だった。
「エルセード!」
手が再び動き出す。
しかも躊躇もなく。
「愛してるって言ったのに……」
「ああ、これで相思相愛。愛し合う者の睦みあいだ」
ハメられた。
「困惑した顔も可愛いな」
首筋に咬みつくようなキス。
今までのとは違う。
さっきの深いキスとも違う。
これ、痕がつくんじゃ……。
「痕はつけないで!」
結婚前に首にキスマークなんて、淫らだわ。
「……気にするのはそこか。わかった、痕をつけるのは見えないところにしよう」
キスしたところがペロリと舐められる。
その間も手は動いたまま、私の胸を触り続けている。手が動いている間は愛撫を受けているということで、身体はどんどん快感に呑み込まれてゆく。
彼の手が触れることを甘いと感じてしまう。
ダメだと思うのに、もっと触れてという感情が生まれてしまう。
ブレーキになるはずの倫理観や理性が消えてしまいそう。反対に結婚前なのにこんなことをしてしまうという背徳感が快楽にスパイスを与えてしまう。
いけない、と思うのに彼の指先が生み出す甘美な感覚が愛しい。
「あ……」 -
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