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試し読み
「リーゼ……」
もう一度口づけ直したヴィルフリートが、アンネリーゼの身体を抱き寄せ、額に額を当ててくる。
「自分が何を言っているのか、わかってる?」
「実を言えば……あまりよくわかってないかもしれません」
「なんだよそれ」
声を殺してくくくと笑いあう二人は、裸で抱きあっているという現状に反し、和やかで穏やかな雰囲気に包まれていた。
「でもいいんです。自分の気持ちを正直に話しているから、わけがわからなくても無茶苦茶でもいいの……ただ……」
「ただ……何?」
心に染み入るような声で先を促され、それに勇気をもらって、アンネリーゼは気持ちを吐露する。
「好きです」
「…………!」
詰めていた息を吐き、ヴィルフリートがアンネリーゼの肩口に額を乗せた。
「俺にはそれに応える資格はないよ」
それはこれまで彼が数々の浮名を流してきたからだろうか。それともヴィルフリートの方はやはりアンネリーゼをからかっていただけで、本当の気持ちはないからだろうか。理由はわからないながらも、その返答によって自分の気持ちが変わることはないのだと、アンネリーゼは微笑む。
「いいです。『資格』とか『義務』とか、そういうことをあなたに求めるつもりはないですから……ヴィル」
ようやく自分の気持ちを正直に曝け出せたからか、精神的に少し優位に立てたアンネリーゼに、ヴィルフリートが反撃の狼煙を上げる。
「心外だな。俺だってそんなものを気にしなくていいのなら、きみには負けない。……ずっと好きだった、リーゼ」
「え?」
もう一度ゆっくりとベッドに押し倒された身体は先ほどまでより密着度が高く、アンネリーゼを焦らせた。全身に彼の温もりを感じる。しかしそれ以上にアンネリーゼの気持ちを大きく動揺させたのは、ヴィルフリートの発する言葉だ。
「ブリギッタのところに出入りしている姿を遠くから見ていた時も、宮殿ですれ違う時も、背筋の伸びた清廉とした姿が好きだった。決して誰にも手折られることなく、いつまでもそのままでいて欲しいと願っていたのに、思いがけずきみの方から近付いてくるから、つい自分が手を出してしまいそうで戸惑っている。って言ったら……信じる?」
真剣な告白かと思い胸を衝かれたが、最後の最後にはぐらかされてしまい、アンネリーゼはため息を吐く。
「信じ……たいです」
本心を語ると、大きな両手で?を包まれた。いつになく真剣なヴィルフリートの顔が、今にもぶつかりそうに近付いてくる。
「だったら信じて。きみはそのまま、誰の言葉にも、俺の嘘にも耳を貸さないで……いい?」
「は……い……っん」
柔らかな唇を唇で受け止めながら頷くと、身体の密着がより高まった。
「まだ痛い?」
先ほどヴィルフリートに強引に押し入られそうになった場所を、再び熱い楔の先で擦られ、アンネリーゼは熱い吐息を漏らす。
「いえ。それはもう大丈夫です」
「俺だったらいいって言ったあれは……本当にきみの本心?」
「ええ。本当です」
確かに頷いたアンネリーゼの表情を見下ろし、ヴィルフリートが何かの迷いをふり払うかのように大きく頭を振った。癖の強い黒髪が、顔の半ばまでを隠すように乱れかかる。白くたおやかな太腿に手をかけたヴィルフリートが、秘めた入り口に改めて熱いものを宛がったことがアンネリーゼにもわかった。
「嫌ならそう言って。途中でやめられるか自分でもわからないけど、さすがに本気で嫌がられたら、きみに無理強いはしないと思う……たぶん」
「はい。でも嫌じゃないです……好きだから、ヴィル」
「俺も好きだよ、リーゼ」
改めて告げられた想いを、彼が願ったように真実と受け止めたアンネリーゼの中に、ヴィルフリートがゆっくりと押し入ってきた。
「あっ……あぁ」
やはり痛みはあったもの、先ほどのような衝撃はない。アンネリーゼに負担がかからないようにと、ヴィルフリートが少し挿入っては抜いてをくり返してくれているからかもしれない。
「痛くない?」
「は……い……あぁ……」
まったく痛みがないと言えば嘘になるが、ヴィルフリートに心配はかけたくなかった。それよりも彼に徐々に身体を拓かれていく感覚で、幸福感に包まれる。
傍からみればこれは愚かな行為かもしれない。一時の感情に流された過ちかもしれない。それでも生まれて初めて好きだと思えた相手に、同じ気持ちを返され、他の誰よりも深く繋がろうとする行為に溺れる。
もうすぐ本当に、奥の奥までヴィルフリートで充たされる。そう考えると身体の奥が鈍く痛んで、彼と繋がった部分から何かが溢れだした。
「リーゼ?」
溢れた蜜は潤滑油となり、どうやら挿入を楽にする手助けとなったようだ。先ほどまでより速度を速め、ヴィルフリートの大きなものがアンネリーゼの胎内に押し入ってくる。
「あ……ああっ」
それは指を挿入れられた時とは比べものにならない圧迫度で、容赦なく襞を擦られ、激しく粘膜を引き伸ばされた。
「や、あっ……あんっ、ああ」
悲鳴をあげながらも、声に喜色が混じっているとわかるからだろうか、ヴィルフリートは休むことなく侵入を続け、ついにアンネリーゼの胎内に己のものを全て埋めてしまう。
「挿入ったよ、リーゼ」
「あ……」
言葉よりも、深く繋がった身体の方がより生々しく、二人の間に距離がまったくないことをアンネリーゼに教えた。我知らず腹部に力が入ってしまい、それが期せずして、中に挿入ったヴィルフリートをきつく締めつける動きになる。
「っ……リーゼ?」
いきなりの刺激にびくりと身体を震わせたヴィルフリートの焦ったような顔は珍しく、アンネリーゼは自分も彼を翻弄できることを知った。少し嬉しかった。
「ヴィル……」
「負けないよ」
かすかに緩んだアンネリーゼの表情の意味を察したのか、胎内を充たしたものを、ヴィルフリートがゆっくりと動かし始める。
「あっ? や、あっ……!」
拓かれたばかりの場所を擦られることに多少の痛みはあったものの、その中に心地良さが混じり、アンネリーゼの喉からは甘い声が漏れた。
「や……こんな……あっ」
「気持ちいい? だったら正直にそう言ってごらん。もっと悦くしてやる……」
「あんっ……ああ……ぁ」
濡れた粘膜を擦られ、強引に押し入られる感覚は、腰から力が抜けてしまいそうにアンネリーゼを翻弄する。頼りなげな浮遊感に全身を包まれるこの不思議な感覚を『気持ちいい』と言うのだとは、彼に教えられてすでに経験で知っている。
「気持ち……いい……いいですっ……っん」 -
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