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試し読み
遼青のほうも、まともに話をする気は失せたようで、褥に組み敷いた翠明の内衣の腰帯をひき、懐をひらいた。
「あっ」
ふるりと白い乳房が露わになる。
遼青は翠明の両手首を掴んで引きあげると、ほどいた腰帯で縛りつけた。
「やめて……、なにを……」
翠明は上半身の自由を奪われて、ぎょっとした。
下肢のほうには遼青が迫っているから、ほぼ自由のきかない状態だ。
遼青は乳房に手を伸ばしながら、強引に唇を奪った。
「んぅっ」
唇がかさなったとたん、西市で愛しあった記憶が鮮明によみがえった。あの雨の夜の記憶が――。
翠明はそれを打ち消したくて身を捩ったが、遼青はやめようとしない。
隙をみつけて舌をぬるりと挿入させ、翠明の口内を蹂躙する。
「んんっ」
こぼれた吐息すらも奪う激しい口づけに、翠明は徐々に抵抗する力を奪われて、彼の行為に引きずり込まれてしまう。
「ん……ぅ……」
乳房を揉みしだかれ、舌を吸われるたびに、身体の芯が熱く痺れて五感が官能に染められてゆく。
「西市で君と逢っていたときから、ずっとこうするつもりだった。この後宮で、皇帝として君を抱いて、貴妃にして囲うと」
遼青は口づけのあいまに、吐息交じりの熱い声で告げてくる。
(貴妃ですって……?)
後宮には正妃たる皇后を頂点として、殿宇を賜ることのできる四夫人(貴妃・淑妃・徳妃・賢妃)、さらにその下にも肩書きをもつ数十名の妃妾たちが存在しているが、四夫人のなかでも、貴妃はもっとも位が高いとされている。
現皇帝はまだ正妃を迎えてはいない。
だからもし翠明が貴妃に冊立されれば、最上級の后妃ということになる。
(そんなことはありえないわ)
翠明はあきらかな嘘に、この男にとっては、すべてがお遊びなのだと実感した。
けれど口づけ、愛撫されると、感じたくないのに感じてしまって、混乱のうちに甘い溜め息がこぼれてしまう。
翠明の反応に気づいた遼青は、乳房の先端を、わざとぢゅうっといやらしい音をさせて吸った。
「あぁ……っ」
彼の熱い舌の感触が、官能に訴えてきた。下肢の奥までがじわりと熱くなって、思わず声までをこぼしてしまう。
遼青は執拗に乳房を愛撫し、先端の尖りを舌先で舐めまわして翠明を快楽に堕とそうとしてくる。
大嫌いな男のはずなのに、身体はまだわかっていないのか、彼に触れられるたびに気持ちよくなって、官能の愉悦が深まってしまう。
「や……」
遼青は下肢のほうに手を伸ばしてきた。
そして秘部のあわいを指の腹で撫でた。
知られたくなかったのに、そこはかすかに濡れはじめていた。
「必要なさそうか?」
遼青はその指で彼の懐をさぐりながら、なにか独り言を言ったが、なんのことか翠明にはわからない。
すると、羞恥に苛まれている翠明の秘所にふたたび彼の指が伸びてきた。
「あぁっ」
甘い感覚が走った。
そこはしとどに潤い、ぬるりと彼の指先が滑った。翠明の中から溢れたもののほかに、なにか塗りつけられたようだ。
遼青はそのまま指を上下させて、陰唇を愛撫し続ける。
「な……に……?」
それは翠明の秘所の熱に溶けて、ますます潤いを増してゆく。ぬるぬると擦られるたびに、ゆるい快感がせりあがってくる。
遼青はにやりと笑った。
「気づいたか。これは『飛魂油膏』という房事に効く薬らしい。塗布するたびに敏感になって、魂が飛ぶほどによくなれるんだそうだ」
遼青は懐から出した小さな入れ物を翠明のみぞおちのあたりに置いて、あらたに薬指でそれをすくってみせた。
一見、色の透けたただの軟膏に見えるが、ひとたび素肌に触れるとたちまち感度がよくなるという代物だった。
遼青はそれを、翠明の花芯にたっぷりと塗ってゆく。
「やっ」
軟膏のついた指先で、すでに疼きはじめていた花芯をぐりぐりと押さえこむ。
「んあぁっ」
翠明はびくびくと腰をはねさせた。
「はぁ、やぁっ、あ……、あぁ、やめ……っ」
滑りのよくなった指先で性感を刺激され、甘美な痺れが内腿からさざ波のように広がる。
花芯は愛撫を乞うかのように張りつめて尖り、遼青を愉しませる。
「拒んでいたくせに口ほどにもないな。ここも如実に反応している。ほら、この分じゃ、媚薬などなくともいい具合に濡れたんじゃないか?」
遼青は指先でまた媚薬をすくいなおし、花芯からその下の柔襞の部分にまで惜しみなく塗りつけた。
必要なさそうかとつぶやいたのは、この媚薬のことだったのだ。
「あ、あ、やあっ……やめ、て……」
媚薬のせいか、それとも触れられているからなのか、翠明は、みずからの身体の変化に焦り、戸惑う。
「はぁっ、はぁっ……あぁ……っ」
頭では拒んでいるつもりなのに、身体はさかんに応えてしまうのだ。
「感じてるんだろう? どんどん溢れてくるよ」
遼青は甘い声で囁いてくる。そうして、翠明を陥落させようとしてくる。
「そこ……だめ……、さわったら、や……、だめ……」
媚薬と愛液で濡れた指が、くりかえし花芯をくすぐる。
彼の手をうち払ってやりたいのに、縛られているせいでできない。そのもどかしさが、焦れとあいまってよけいに翠明を追いつめるのだ。
「わかるだろう? 気持ちいいな、翠明。ここを触られれば、君はすぐに濡れてしまうんだよな」
「あ、あぁ、はあ、はあ、はぁっ……」
花芯を弄られるのがあまりにも気持ちよくて、ふるふると内腿が震える。
腰をのたうたせて喘いでしまう。
「ほら、もう薬よりも、君の蜜のほうが多くなってるくらいだ」
クチュクチュと愛液が音をたてて、はやく女陰に男を迎えたいと訴えている。
「そ……んなこと、な……いっ、あ、あぁ……」
こんな男、憎き鴛国の皇帝だというのに。
自分を弄んでいるだけの、非道な男だというのに。
けれど、ついこの前まで恋慕っていた遼青でもあるのだ。
自分を嬲る彼の声は優しく艶やかで、西市で会っていたときと変わらなくて、翠明を惑わせる。
翠明は身も心も混乱して、快感に呑まれてしまいそうになる。
「は、はぁっ……、いや……、もう……しないで……、手の帯を……ほどいて……」 -
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