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あらすじ
そんな表情は……私にしか見せてはいけない
初恋の〝桜の君〟を想い続けて十七歳になった豊子は宮中に尚侍として出仕することに。尚侍は帝の妃候補の名誉職。帝の目には留まらないよう祈りつつ仕事に励む彼女の前に桜の君が現れる。「そうだ。そうやって私にすがって啼いてくれ」彼の意外な正体に驚きつつ初恋を叶えられ幸せに浸る豊子。だが帝の最初の妃の座を巡り宮中には陰謀が渦巻いて!?
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キャラクター紹介
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豊子
物語や女流日記を読むのが趣味な右大臣の娘。 -
敦行
今上帝。正体を隠して豊子に近付く。
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試し読み
帝の瞳から急に傲慢さが消え、目を伏せて口元をゆるめた。
「ですが、これからは陰でこそこそするのは、おやめくださいまし」
「ああ。こそこそ頑張ったら、入内は断られたし、帝のお召しも拒まれたし、碌なことがない。やっと思いが通じたのだから、今後はあなたに直に伝えるよ……」
帝が豊子を横向きに抱き上げ、くちづけてくる。布越しとはいえ臀部に帝のがっしりした大腿を感じ、ぞくっとしたところでぬるりと肉厚なものが入り込んできた。
口の中が帝の舌に埋めつくされているなんて信じられない。しかも、その大きな舌で口内をまさぐられる。唾液の水音が立つ。
それだけで豊子はいっぱいいっぱいだというのに、帝ときたら、くちづけしながら、その手で豊子の衣をはぎとって褥に落とした。片腕で背を支え、下着である白小袖の襟から中に手を滑りこませてくる。
胸のふくらみに、体温のある長い指が直に触れた瞬間、豊子はびくんと首を反らせた。
どちらともなく唇が外れる。
「あ……主上……」
帝が乳房の形を確かめるように外郭をなぞり、手の甲で片襟を押しやった。胸のふくらみが露わになる。
「豊子、なんて美しい……」
感嘆するようにつぶやかれ、慌てたのは豊子だ。手で覆ったが、すぐに手首を取られて外される。
「こんなに美しい桜花を隠してはいけないよ」
帝が背を屈めて乳暈に食らいついてきた。
「じ、直にお口を……!?」
「ここだけじゃない。体中を舐めまわしたいよ」
濡れた乳首に熱い息がかかり、それだけで、豊子は躰を引きつらせる。
帝が再び、乳房の頂を咥え、その先端を口内でなぶってきた。ちゅくちゅくという水音とともに、尖りが敏感になっていく。
豊子は気づいたら、涙ぐんで声を漏らし、帝の袖をつかんでいた。
「ああ、そうだ。豊子、そうやって私にすがって啼いてくれ、これからもずっと」
切なげに囁くと、帝がもう片方の襟を歯で噛んで引っ張り、胸元を開けさせた。
帝がこんな野性的な所作をしたものだから、豊子は目を見張ってしまう。眼前に自身の両乳房が張り出し、しかもその先端に口をつけているのは帝なのである。豊子が恥ずかしさでぎゅっと目を瞑ると、視界を失ったことで余計に触れているところが意識されてしまう。弾力ある舌で乳首をもてあそばれ、もう片方の濡れた乳首をくりくりと指先でいじられれば、胸の先から全身に快感が広がっていく。
「お、主上……わ、私……おかしく、おかしくなって……しまいま……す」
豊子が薄目を開けると、彼女を見上げる帝と目が合った。
「豊子、主上だなんて他人行儀な。名で呼びなさい」
「そん……ぁっ……そんな、畏れ……多……」
なぜか下腹がじんじんしてきて、途切れ途切れに話すので精一杯である。
「仮病を使ってここに来なかったくせに、何が畏れ多い」
咎めるように乳首をつまんで引っ張られたというのに、その行為は、豊子にとてつもない愉悦をもたらした。
「あぁ……だ、だって桜の君に会えなくて……」
「恋の病というわけか」
ひとりごちるように言うと、帝が豊子の長袴の腰帯を引っ張ってほどく。
「あっ、主上」
「ふたりきりのときは、私たちは帝でも女御でもない、ただの男と女だ。いいな?」
「ふぁい」
こんな気の抜けた返事になってしまったのは、帝の手が豊子の下腹に直に触れたからだ。
「敦行だ。名で呼べ、豊子」
こんなことを望まれるとは思ってもいなかった。先帝亡き今、帝を名で呼べる者など、この世に誰もいないというのに――。
「む、無理です。そんな大それたこと……」
「桜の君のときは、大それたことばかりしてくれたのにな……」
残念そうな声が気になったが、すぐにそれどころではなくなる。円を描くように下腹を撫でられれば、得も言われぬ喜悦がほとばしり、豊子は身をよじった。
「そ、それは公達だと……思って……あ……のときは……失礼いたしました」
「失礼……か」
つまらなさそうに言うと、帝は豊子を片腕で抱えたまま、自身の下襲と表袴を脱ぎやり、白小袖と、紅色の大口袴だけになった。下着姿だ。
「脱げば、豊子と同じだ」
眼前にあるのは、肩幅が広く、厚みのある躰――。恰好が同じになったことで、却って自身の躰との違いが感じられ、豊子は気恥ずかしくて顔を背けた。
「照れてなどいられないようにしてやろう」
帝が豊子の紅い袴をぬぐい去れば、躰で隠れているところといえば両腕ぐらいで、裸同然だ。
そんな豊子を大腿の上に横抱きにして下目遣いで眺めながら、帝がその手を内ももに伸ばしてくる。そこはなぜか湿っていた。
――こんなに汗を?
「普段はこんなこと、ないんです。きっと緊張しすぎているんです……。本当です」
豊子が言い訳めいたことを告げると、頬に息がかかり、帝が笑ったのがわかった。
「これは……豊子が悦んでいる証拠なんだよ」
「よ、悦び?」
帝が濡れた感触を楽しむかのように手を這い上がらせてくる。蜜源に大きな手が近づいてくると、腹の奥できゅっと何かが狭まった。またあの滴りが垂れてくる。
手が脚の付け根にたどり着くと、帝が、骨ばった中指をぴったりと陰唇に沿わせ、ゆっくりとこすってくる。そこは濡れそぼっていて、ぬちぬちという卑猥な音が立った。
「豊子、こんなに濡らして……私を待ちわびていたんだね?」
意味がよくわからないが、中指が徐々に秘裂に沈んでいく感触に豊子はぎゅっと目を閉じた。目とは逆に、口は開く。
「あっ、そこ……へ、変……、変……に、なっ……」
触れられているのは蜜の口だというのに、下腹が燃えるようだ。腹の奥が狂おしく何かを求めて熱に浮かされている。
「変じゃない、とても……艶めかしいよ、豊子……私の手でもっと感じるがいい」
そう言い放ち、帝が背を屈めて乳暈を強く吸ってきた。そうしながらも、指をぐっと奥まで押し込んでくる。
「あぁ!」
豊子は、びくんと大きく腰を跳ねさせた。
同時に帝が豊子を抱えたまま、横に倒れ込む。横臥で向き合った体勢になったが、指は中に差し入れられたままで、帝が、くちゅくちゅとかき回している。しかも乳暈を口に含んで強く吸ってきた。
「あっ……どうして……ぁ……」
いても立ってもいられないような気持ちで豊子が脚を帝にこすりつけると、大口袴の生絹がなめらかにまとわりつく。布越しに彼のがっしりした大腿を感じて余計に感じてしまう。口から嬌声が衝く。瞳に涙が滲む。
「あぁ、きれいだ……豊子」
そう言って、ちゅっと唇にくちづけを落とすと、帝は豊子の足元のほうに下がった。
「主上?」
どうして帝が離れていくのか不思議に思っていると、帝が膝裏を持ち上げ、豊子の両脚を左右に広げるではないか。かなり無様な恰好で、豊子は慌てて閉じようとするが、がっしり掴んだ彼の手にはばまれる。
「な……何を……主上?」
「主上などと呼べなくしてやる」
そう言って帝が、太ももを舐め上げてきた。
「あ……そんなとこ、穢いです。後生ですからおやめになって……」
「穢くなんかない。これは私を欲しがって流した蜜なのだから」
帝が再び、べろりと舐め上げてくる。
「ぁあ……だめです。主上ともあろうお方が、こんなことをしては……だめ……あっ」
「豊子、私は今、愛する妻にひれ伏す、ただの男なんだよ?」
その刹那、豊子は、今までに感じたことのないような愉悦にどっと襲われた。帝が豊子の蜜源を吸ってきたのだ。
「あ……どうし……て……だ……め……ぁあ」
豊子は肘に力をこめ、後ろに逃げようとしたが、動きを察した帝に両手首をとられる。そうされたことで、余計に彼の唇が秘所に強く押しあてられた。
「さっきから口ではだめと言っているが、ここが、すごくひくついて悦んでいるのはどういうことかな?」
「そ……そんな……こと……」
じゅっと強く吸われてわかった。これは決して汗でも小水でもない。感じれば感じるほどあふれ出る滴りに、豊子はとまどうばかりだ。
帝が蜜口を舌でもてあそびながら、両手を胸のほうに伸ばす。大きな手で乳房をすくい上げ、その芯を指先でいじってくる。
「あっ……あぁ」
豊子はびくびくと腰を浮かせ、喘ぐことしかできない。
しばらくの間、御帳台は水音と豊子のあえかな声、そしてふたりの体温で満たされていた。まるで快楽の繭に包まれているようだ。
蜜源に帝がぐっと舌を押し込んできたとき、愉悦は頂点に達し、豊子の全身から力が抜けていく。
――な、何……今、頭が……真っ白……。
しばらく呆然としていると、「豊子……」と、耳元で囁かれ、豊子はどうにか目だけ横に向けることができた。いつの間にか、帝の顔がすぐ隣に来ている。
「桜の……いえ、主上」
「そうか。まだ桜の君のほうが豊子にはなじみがあるのだな」
頬杖を突いて横寝で豊子を見下ろす帝が小さく笑った。
「主上、どうして御名で呼ばれることにこだわりを持たれていらっしゃるのです?」
「やっとお互い、本当の名で呼べるようになったんだよ。しかも、今や、この世で豊子を豊子と呼べるのは私だけだろう? だから、豊子にも私の名を呼んでほしいんだ」
豊子は驚いてしまう。
「それで豊子と、何度も名を呼んでくださったのですね? ですが、私の場合、先の帝しかお呼びにならなかったその御名を私ごときが呼ぶなんて畏れ多くて……」
「今、私を敦行と呼ぶ人は誰もいないのだから、畏れることなど何もない。豊子が敦行と呼べば、敦行と呼べるのは豊子だけ。絶好の機会だぞ?」
「絶好の……?」
帝がこんな売り文句を使うことに、豊子は可笑しみを感じて笑ってしまう。
「さあ、呼んでごらん?」
「敦行様」
「様はいらない」
「そ、そんな……無理ですわ、敦行様」
「わかった。今はここまでで満足しておくよ、豊子」
敦行が上体を起こし、豊子の左右に手を突いて見下ろしてきたものだから、豊子は自身が裸であることが急に恥ずかしくなる。胸の上で腕を交差させた。
「隠したらだめだと言っただろう?」
責めるような口調とは裏腹に、豊子の腕を取ると、敦行がその掌に優しくくちづける。
「きれいだ、豊子……」
しげしげと眺めながら、敦行は豊子がここにいることを確かめるように、両手で頬から首筋、そして胸のふくらみへと続く線をたどっていく。
「美しいだけではない……すべらかで、ずっと触っていたい」
手は胸元で止まり、乳房を盛り上げるように輪郭をつかむと、交互に、その頂きを舐めてくる。
豊子は背を弓なりにして褥の上に広がる衣をつかんだ。胸が張り出すような体勢になったそのとき、胸の先端を舌先でそっと突かれる。些細な接触だというのに、とてつもない快楽をもたらされ、豊子は恍惚に身をゆだねた。
「また……そんな表情をして……!」
敦行が自身の左脇の結びをほどいて大口袴をずらし、豊子の太ももを持ち上げた。
内ももを骨ばった指につかまれたと思ったらすぐに、豊子の秘所に今までにない感覚が訪れた。弾力ある太いものが陰唇にぬるっと食い込んでくる。
――敦行様が……私の中に……?
帝が、自分の躰の内部に入り込んでくるなんてことがあっていいのだろうか。だが、そんな想いとは裏腹に、自身の中にある路は、欲しかったものをやっと手に入れたかのように、蠢動して悦んでいるのがわかった。
「はぁ……どうして私……」
「豊子……ようやく、ようやくだ」
敦行が滾りきった情熱で隘路を、ぐっと押し開く。
「あっ」
思わぬ痛みに豊子が声を上げると、薄く開けた瞼の間から、心配げに豊子をのぞき込む敦行が見える。
「豊子、平気か?」
優しく声をかけられれば、痛みなど、どうでもよくなってしまう。
「は、はい……」
そう答えている間も、豊子はずっとここにいてほしいとばかりに、ふくれあがった雄芯をぎゅっと締めつけていた。
「私を離そうとしないなんて……可愛い女御」
敦行が切なげにつぶやき、前屈みになって豊子の頬にくちづけたあと、ゆっくりと半ばまで抜いた。寂しい気持ちがして豊子が彼の腕にすがると、再び奥まで押し込まれる。自身の中が彼自身でいっぱいになった。
豊子は腕を掴む手に力をこめ、荒い息で過ぎたる快感を逃す。
「豊子……そうやって、ずっと……私を捕まえていてくれ」 -
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