-
試し読み
「あなたなんか最低!」
「それで気がすむなら、いくらでも言えばいい」
そう言いながらも聞くに堪えなかったのか、ユーリは三度ヘレナの口を封じた。
足掻いたために彼女の夜着はほとんど脱げてしまい、金色の髪はベッドに広がり乱れていた。口を塞がれ、ヘレナはユーリの胸をげんこつで叩いたが、胸板はびくとも動かない。
そして、彼の衣だけは乱れていないし、飾り帯も肩から腰へと優美な曲線を描いている。彼には人間の心はもうないのだ。
「ん……く、む……!」
捉われた口の中で悪魔と叫ぶと、彼は噛みつくように、さらに深くヘレナを食んだ。
かたや、長い指は彼女の奥までは入らず、谷の入り口でもぞもぞと動いている。
気持悪い、やめてほしい。
ぴたりと胸を合わされ、動きを封じられている中で抗って腰をよじったが、逃げられない。
ユーリの指が秘所の花びらをつつっと撫でた。
「……んっ」
びくん、と体が痙攣した。
頭が痺れる感覚に見舞われ、体の奥が熱くなる。
「ん、……ゃ、うぅ」
次第に彼の指の滑りがよくなってきた。
花蕾を指先で捏ね回された時、ヘレナの瞼に火花が散り、体が弓なりに反りかえった。大きな波にさらわれるような感覚に我を失う。
王が見ていることも、憎い男に凌辱されようとしていることも一瞬頭から消えた。
別の生き物のように、ヘレナの意に反して体がびくびくと震える。
足の間に温かいものが溢れてきた。
『憎い男が相手でも達するのじゃな、女とは恐ろしいものよ』
「ですが、まだ――」
『わかっておる』
ユーリはどんな命を受けたのか、ぐったりと力尽きたヘレナの下腹部に顔を埋めた。
「……ぁ、いや」
おぞましさを感じたが、彼女の体は疲労困憊して微塵も動かせなかった。
彼はどんな施術を行ったのか、心ばかりが憎いと思っても、指一本、自分の思うようにならないのだ。
熱い息があわいにかかる。
次に、濡れた舌が入ってきた。
「ふ……ぁああ」
痛みはなく、ヘレナの隘路はたやすく彼の舌を受け入れた。
ぞわりと背筋が粟立つと同時に、味わったことのない感覚が下肢の中心に広がる。
ぬるぬると、それはヘレナの内部をしごき始めた。
肉襞を擦られ、子宮がギュッと収縮するのを感じた。
「あ、……、ううん、やめ――っ」
ユーリの舌は蜜壺を丹念に広げるようにうごめいたかと思うと、胎内から出ていき、敏感な粒をれろれろと弄ぶ。
そのたびにびくびくと体をのけ反らせ、鼻にかかった甘えた声をあげてしまう。
感じてなんかないのに、悦んではいけないのに――。
「ひっ、ああぁ――!」
ピチョピチョという淫靡な音は、垂れ幕の向こうの王の耳にまで届きそうだ。
ヘレナの内腿はもうびしょ濡れになっていた。
尻の下で皺くちゃになっている夜着も濡れて冷たい。
「ん、ぁ、ああ、や、もう、やああ」
『随分楽しんでおるようだな、そろそろか』
「はい。成し遂げてみせます」
体の中を何度も嵐が吹き抜け、屍のようになったヘレナを、さらなる屈辱が襲う。
「や……、それだけはいや! わたしを殺して……、汚さないで殺して!」
「陛下の命令しか聞けない」
ユーリは非情な声で答え、力ないヘレナの膝裏を掴んだ。
ゆっくりと開く。
――お母さま……! それでも生きなくてはだめなの?
ヘレナの目から涙が溢れた。
どんなに惨めでも――。
足の間が無防備に曝され、そこに何かがあてがわれた。
「少し我慢するんだ。そうすれば早く終わる」
ぴくりと体を硬直させたヘレナの体をそっと抱き、ユーリが耳元で言った。
「俺のいうとおりに――力を抜いて」
いつもの憎らしいほど冷徹なユーリとは違い、その声には温もりを感じて、ヘレナは素直にふと肩の力を抜いた。
「――そう、いい子だ」
その声音に、ヘレナはふと懐かしさを感じた。
人間らしい情のある、温かい少年だった時のユーリの声だ。
彼女は驚いて彼を見上げた。
思いがけないやさしい口づけがおりてくる。
――いったいこれは誰なの?
ついばむように軽いキスをし、ゆっくりと唇を触れ合わせ、それから愛おしむかのような丁寧な口づけ。
彼の大きな手がヘレナの頬に触れた。
指先で涙を拭い、乱れた髪を静かに撫でつける。
まるで子供をあやすように抱きしめ、頭を撫でて――十年前のあの日のよう。
溺れたヘレナを裸で温めてくれたユーリ。
やさしいユーリ。
あの時の彼は正しかった。
王の行いを咎める正義感を持っていた。
貧しい人々に仕事を与え、弱い者を保護すると、目を輝かせていたあの少年は……。
もしかしたら、今もユーリの中に生きていて、王の権力を借りて、秘かに夢をかなえているのではないだろうか。
――あなたはあの時のユーリなの……?
人情のある、弱い者にやさしい美しいユーリは、今も変わっていない?
もしそうなら、彼は非道はしない。
ヘレナを傷つけたりしない。
信じてもいいの――? -
関連作品