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試し読み
――今日も、レッスンが始まる――
部屋の中は、仄暗い熱気で満ちていた。
「あ……は、ぁ……んっ」
ソフィアの堪えきれず漏れた喘ぎ声が部屋の中に響く。
小さな衣擦れの音が、ソフィアの耳に入った。同時にふわりと香る、香水のような花の香り。
――そして、彼女に快楽をすり込む無骨な、なのに上品な手。
ソフィアが感じ取れるものは、それだけだった。
――何故なら、伯爵令嬢のソフィアは今、布で目隠しをされているから。
(ここは、一体どこなの――?)
布の下のきらきら輝く緑色の瞳を快楽に歪ませ、つややかなゴールデンブロンドの巻き毛を乱しながらも、残された理性でソフィアは必死に考える。
しかし大きな、日々馬を扱っているにしてはしなやかでどこか上品さすら感じさせる手は躊躇無く後ろから乗馬服に包まれたソフィアの胸元を開く。窮屈な白い服からまろび出た柔らかな双丘をそっと両の手で持ち上げると、そのままゆっくりと揉み上げた。
「ん、く……っ」
両手からこぼれ落ちそうなたわわな膨らみを確かめるように手を動かし、更にその先端へと指を這わせる。
「やぁ……っ、そ、こは……」
その感覚に、これから始まる更なる刺激に無意識のうちに身体を竦めると、ソフィアの耳に小さな笑い声が響いてきた。
それは、ソフィアの両胸を今にも蹂躙しようとしている手の主のものだった。
「――どうしました、ソフィアお嬢様?」
手の主は口の端に笑みすら浮かべながら、彼女の耳元で慇懃無礼な台詞を囁く。
「“レッスン”をお止めになりたいのでしたら、いつでも下がらせていただきますよ」
どうして、そんなに他人行儀なんだろう。
いつもなら、もっと――まるで友人にでも声をかけるような砕けた話し方をするくせに。
思わずそう反論しようとするけれども、ソフィアはぐっとその言葉を堪える。
何故なら彼女は今、その声の主ベンの“レッスン”の最中だったから。
ベン――ベンジャミン・ラッジリーは、ソフィアの父ヤードリー伯爵家に仕える馬丁だった。
ただの、馬丁。
本来ならば伯爵令嬢のソフィアに手を触れるどころか、気軽に話しかけることすら敵わない立場である。しかし今、ソフィアはその染み一つない陶磁のような美しい肌をベンに晒し、更にはそれ以上の所まで明け渡そうとしていた。
レッスンのためと告げられ、目隠しされ連れてこられたこの場所の不思議な雰囲気はソフィアの理性をも蝕んでいくようだった。
部屋全体に香る品のある香水、毛足の長い絨毯、明らかに高級な布ずれの音――
そこは、馬丁であるベンが自由にするにしては、あまりにも華美で豪華な場所のような気がする。その非現実感で意識がふわふわと高揚していった。
「んん……あ、ぁあっ!」
唐突に、ベンの指が興奮で尖ったソフィアの胸の先端を掠る。それだけで、視覚を封じられ敏感に鳴っている彼女の口から悲鳴にも似た小さな声が漏れた。
「――随分と、感じやすくなってきましたね」
どこか満足そうな口調でベンは告げる。
「もっとも、お嬢様のココは最初からかなり敏感でしたが……」
「……やっ、言わない……で……」
ソフィアは羞恥で顔を伏せるが、ベンは手を伸ばすと彼女の顎を支え上を向かせた。
後ろから……そして頭上から、彼女を支配するように見下ろすベンの青い瞳を感じる。肩に届くほど豊かな黒髪に隠された顔立ちはまるで貴族のように美しいのだろう。
だけど、その内面にはもしかすると嗜虐的な一面が隠されているのかもしれない――その綺麗な瞳を覗き込みながら、ソフィアはふと思う。
普段のベンは紳士的で親切な、そしてソフィアと気の合う従順な馬丁。なのに今の彼は――
「あっ……」
そんな彼女の思考を奪い取るように、ベンの指が彼女の胸の小さな果実にそっと触れる。
僅かな接触だけでビクリと身体を震わせるほど強烈な刺激が全身に走るのに、彼は更にそこを指で転がしていった。
「あ……あぁ……ん、ふぅ……っ」
甘い刺激は全身に広がり、いつしか彼女は立つのが困難なほど足をがくがくと震わせていく。
「支えが必要でしょうか?」
「あ……」
そう言うと同時に、ベンの右足がソフィアの足の間に差し込まれた。
普段であれば馬に触れるその部分に、ベンの逞しい足の筋肉の形が伝わってくる。
脱力して敏感になったソフィアの身体は、その感触だけできゅっと声のない啼き声をあげる。
――欲しい。もっと、ベンが欲しい。
ソフィアの理性が快楽に溺れると共に、内に秘めた想いが表面へと浮かび上がってきた。
その声なき声に堪えるように――それが否であるのか応なのかは分からないが――ベンはソフィアの胸を解放すると、下半身へと手を伸ばしてきた。
手慣れた様子でスカートの下のぴたりとした乗馬ズボンに手をかけ、やや強引に下にずらす。
ベンの眼前に、ソフィアの可愛らしい臀部が晒された。
「は、ぁあ……」
ベンは片手を壁につき、ソフィアを背後から抱きしめるようにして密着する。壁を目の前にして逃げ場の無いソフィアはベンの片膝の上に座るような格好になってしまう。下半身に外気の涼しさを感じ、どうしようもない心許なさが広がってくる。
しかしすぐに、より密着したベンの足に意識は集中していった。自由な片方の手で、ベンはソフィアの太股をそっと撫でる。撫でながら、ソフィアの耳元でベンは囁いた。
「お嬢様の肌はとても美しい……滑らかで、どんな男性も惹きつけてしまうでしょう……」
「ん、んんっ」
惹きつけるのは、たった一人だけで構わないのに――ぼんやりした頭の片隅で、ふと思う。しかしそんなソフィアの気持ちに気付くことなく、ベンの手は更に深い部分へと伸びていく。
「そんなお嬢様の更なる魅力を、私が引き出してさしあげます」 -
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