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試し読み
ここで引くわけにはいかないとカロリーナは力を込めてアンドレイの目を見つめた。
困惑した色を目に浮かべてアンドレイは肩を竦めた。
「何がお望みなんだ?」
この結婚を打算でしか考えられないお互いに軽い失望を覚えながらカロリーナは口を開いた。
「リンジー男爵家の後見になってください。領地が復興するまで」
アンドレイは虚を突かれたように目を見開いた。
「君の親友の――」
「そう。私を娶りたいならば私の友人を救ってください」
きっぱりと言ったカロリーナにアンドレイは深くため息をついた。
「友人のために僕に身を売ると――?」
「そんなんじゃ――!」
アンドレイの青い瞳に冷ややかな光が閃いたのを見てカロリーナは慌てて否定した。しかし、アンドレイはその否定を信じなかったようだ。
「いいだろう。それで君が手に入るなら安いものだ。リンジー家を援助しよう」
まさか了承されるとは思っていなかったカロリーナは驚いた。
彼の地位を考えれば自分のような小娘の要求など一蹴されてもおかしくはないのだ。
「自分の妻のたっての願いなら叶えるさ。その代わり、君には妻として僕に尽くしてもらう」
ソファに座ったカロリーナの足元にアンドレイは跪いた。
「では、もう一度、誓いの言葉を。神にではなく僕に誓ってくれ」
アンドレイはカロリーナの手を取ると甲に唇を寄せて囁いた。
「アンドレイ・ヴィチナヤ・ミェルズロータはカロリーナ・エストレーヤを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに誓う」
カロリーナの頬に血が上った。
「彼に憧れない女の子なんていないわ」とエミリアは笑ったが、それは真実だろう。宮廷でこのきらめく銀髪の美しい貴公子に憧れない少女はいない。
そんな彼が自分の足元に跪いて永遠の愛を誓っている。
その言葉が政略による虚しいものだと分かっていてもドキドキと走り出す鼓動を沈めることができない。
それがなんだか悔しい。
「さあ、君も」
ブルーの瞳に促されておずおずとカロリーナは口を開いた。
「カロリーナ・エストレーヤはアンドレイ・ヴィチナヤ・ミェルズロータを……夫とし……、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、…………死が二人を分かつまで、あ……、愛を……誓い、夫を想い、夫のみに添うことを神聖なる婚姻の契約のもとに………………誓います」
辿々しく紡がれた誓いの言葉を聞いてアンドレイは微笑んだ。
「誓いの口づけを」
跪いたアンドレイの節高い指がカロリーナの頬に触れる。カロリーナが目を閉じるとしっとりと唇が重なってきた。
「……んっ」
小鳥が啄むようだった教会での口づけとは違い深く貪るように唇を食まれて思わず声が漏れる。
「カロリーナ、君を僕のものにするよ」
カロリーナの濡れた唇を指でなぞりながらアンドレイが囁く。カロリーナは口づけに潤んだ瞳でただ頷いた。カロリーナは自分の価値を分かっていた。
エストレーヤ家の総領娘であること。自分を手に入れる男は自分に付随する様々な利権を手に入れることになる。
父はエストレーヤ家の富とラノーチェの地理的な優位性、それらを譲り渡してもお釣りがくるような相手を選んだわけだ。
王族との結婚は予想外だったが、父にとっては願ってもない事だろう。
これは理想的な結婚なのだ。たとえ騙し討ちのように急なことだったとしても。
心から好き合った人と結ばれる――――そんな幸運な娘がはたしてどのくらいいるものか。
初めて会った相手とろくに言葉も交わさないうちに結婚する場合もある。それに比べれば恵まれているといえるだろう。
だからといって本当に自分がアンドレイを受け入れられるのかカロリーナには分からなかった。
アンドレイは立ち上がるとカロリーナに身を寄せた。さらりと銀の髪が頬に触れてカロリーナは息を飲んだ。
――――その時はただ、殿方に身を任せてじっとしていらっしゃればよろしいのですよ。
結婚の心得として昔、婆やに聞かされたことが頭をよぎる。
(本当にそれでいいのかしら?)
「きゃっ!」
アンドレイの腕が腰と膝の下にまわり、カロリーナは軽々と抱き上げられた。
咄嗟にアンドレイの首に掴まると間近で微笑まれた。
間近に魅せられた綺麗な微笑みと逞しい腕にどぎまぎと心臓が跳ねる。まるで仔猫のようにやすやすと抱き上げられてしまった。
アンドレイはゆっくりと歩を進めてそっとカロリーナを寝台の上におろした。
手足を投げ出して所在無げにカロリーナはアンドレイを見上げた。そんなカロリーナをアンドレイは少し困ったような顔で見下ろした。
「美しいカロリーナ。君は何も分かっちゃいない」
頬に指を伸ばされてびくりとカロリーナは震えた。
「っ……!」
宥めるように柔らかく掌が頬を包んだ。壊れ物を扱うように優しく指が頬を撫でる。
ほう、とカロリーナが息を吐くとアンドレイが寝台に乗り上げてきた。
アンドレイの広い胸がカロリーナをすっぽりと抱き込んでしまうように覆いかぶさってくる。いつかと同じ優しい香りがする肩が、なんだか今は怖かった。
アンドレイの手が首の後ろのホックに掛かり、思わずカロリーナは声をあげた。
「アンドレイ!」
「なんだい?」
アンドレイの手の動きが止まったことにほっとしつつ、カロリーナは上目遣いに彼を見上げた。
「わ、私でいいの? あなたは本当に…………私でいいの?」
アンドレイはカロリーナを見下ろし怖いくらいに真剣な目をした。初めて見るそんな表情にカロリーナは目を奪われる。
「君がいい」
短くアンドレイは答えた。彼にしては低くぶっきらぼうな口調だった。けれど声には真意が込められているような気がした。
頬に口づけられて首を竦めた。口づけは頬から、こめかみ、額、鼻、頤へと辿り、首筋を強く吸われた。
ぎくりと身を強張らせると宥めるようにまた頬に口づけられた。
背中のホックが外されて背中を大きな掌が撫でた。レースのガウンとゆったりとしたシュミーズドレスはそれだけではらりと肩から落ちて胸元があらわになった。
熱いまなざしを注がれて耐え切れずにカロリーナは視線を彷徨わせる。
羞恥でカロリーナの白い肌がさぁっと薔薇色に染まった。
それを眩しそうに眺めてアンドレイはカロリーナの肌に触れた。
恭しく腕をとられ、指先に、掌に口づけられる。二の腕から肩、鎖骨、胸元まで。思わず胸元を隠したもう一方の手の甲にも口づけは落とされた。
シュミーズの中に手が差し込まれ布を払った。
白い乳房が彼の眼に晒されるのを、カロリーナは目をぎゅっと閉じて耐えた。大きな節立った手が柔らかい乳房を包み込むように触れてくる。
「綺麗だ」
耳元で囁かれてひくんっとカロリーナは震えた。
「やっ……!」
耳朶を甘噛みされてじわっと首から肩にかけて寒気にも似た感覚が広がる。
これ以上は触ってほしくないのにアンドレイは耳に口づけし、舌を差し込んで敏感な箇所を存分に刺激した。
そうしながら指先がカロリーナの胸の小さな薔薇色の突起に触れ、転がすように指の腹で擦ってきた。
初めて人に胸を触れられ、そんな風に乳首を弄られるなんて考えたこともなかったカロリーナは羞恥で頬を真っ赤に染めた。
胸の先がじんじんとしてきて固く凝ってくる。むず痒いような痛みが体の奥深くに響いて奇妙な感覚が湧いてくる。
「アンドレイ! それ、やめて……!」
これ以上、触れられたらおかしくなってしまいそうな気がしてカロリーナはアンドレイの肩に手を突っ張って頼んだ。
アンドレイは確かめるように指の側面でそっと赤くなった胸の突起を摩った。
「んっ!」
「ああ、かわいそうに。こんなに熟れてしまって」
そう呟くとアンドレイは唇でカロリーナの胸に触れた。
「あっ……!」
ちろりと舌で乳首を嘗められて思わずカロリーナは甲高い声を上げた。構わずにアンドレイは乳首を口に含み、執拗に嘗めあげた。
もう一方の乳首も指で転がされきつく摘まれる。
「ひっ……それ、やめて。だめ……だめ……」
痛みとは違う、けれど耐え難い感覚が胸の先端から全身に広がってゆく。
お腹の奥が熱くなるような気がしてカロリーナは身を縮こまらせ足を擦り合わせた。
「ぁ……っ!」
反対の胸の突起にも口づけられ舌が絡みつく。舌先で捏ねられると小さな突起はさらに敏感になるようだった。
ただ苦痛を我慢して時が過ぎるのを待っていればいいのだと思っていたのに、これは苦痛とは違う。けれど耐え難い何かだった。
アンドレイの手が肌の上を滑りシュミーズが脱がされてゆく。
脇から腰のラインを大きな手に撫でられて、それだけでびくびくと体が震える。
腰を両手で掴まれて身を浮かされると完全にシュミーズドレスが取り払われた。
両手を胸元で交差させて真っ赤に熟れた胸の先を隠したが、もはや身に纏うのはドロワーズ一枚だった。
「だめだよ、全部見せてくれ」
ドロワーズの紐が解かれて咄嗟にカロリーナはアンドレイの手を抑えた。
「僕が嫌かい?」
眉を寄せて悲しそうに問われると拒絶しきれない気持ちになる。
「だって、あなたは何も晒していないじゃない……」
熱い息を吐きながらカロリーナは答えた。
自分だけがこんな風に肌を晒しているのは不公平に思えた。羞恥のあまりに頬が燃えるようだ。
「そうか」
低く言ってアンドレイはガウンを脱ぎ去った。クラヴァットを解き、シャツのボタンを外してゆくのをカロリーナは固唾をのんで見上げた。
衣服の上からでもわかる均整のとれた体は隙のない引き締まった筋肉に覆われて美しかった。
北国特有の石膏のように白い肌はまるで血が通っていないように見えたが触れた手は熱を持って熱いほどだ。
「これでいいかい?」
両脇に腕をついてカロリーナの顔を覗き込むとアンドレイは艶やかに笑った。
そのどこか凶暴な笑みにカロリーナは怯えた。
いつもは人形のように整っている顔が熱っぽくカロリーナを見下ろしている。狼を前にした仔ウサギにでもなったような気持ちだった。
常に穏やかで真面目で優しい笑みを絶やさないアンドレイが別人になってしまったような気がした。
「あ……」
アンドレイがそっと胸を合わせてきた。逞しい胸に抱き込まれてカロリーナは震える息を吐いた。熱い。
「んっ……ふ……んん……」
しっかりと抱きしめられて唇が唇で塞がれる。怯えて縮こまる舌を誘い出すようにアンドレイの舌が絡みついてくる。
「はあ……っ」
息苦しさに耐えかねて口を開くと、尚、深く舌が差し込まれ歯列をたどり、カロリーナの吐く息を奪ってゆく。
いつの間にかカロリーナの舌はアンドレイの口腔内に引き込まれていた。柔らかく敏感な器官を甘噛みされると、下腹にきゅんと切ない衝撃が走る。
「ん……はぁ……はぁ……んん……」
敏感な粘膜と粘膜がくっつき合ってそこから融けてしまいそうだった。ちゅっと音をたてて唇が離れてゆくとなんだか口寂しい気持ちにすらなった。
アンドレイを見上げた自分の顔は物欲しそうな表情をしていたのだろう。
そんなカロリーナを宥めるようにアンドレイは両手でカロリーナの肩を撫で、首筋に顔を埋めて強く吸い舐め上げた。
隈無くカロリーナの肌のすべてに大きな熱い手と唇が触れてゆく。
白い乳房を鷲掴みにされると息が上がった。柔らかく揉みしだいて指先で胸の先端を転がされると堪えきれずに嬌声が溢れた。
「あっ……ぁ…………んっ!」
アンドレイの手が胸からお腹を通り過ぎ、脇腹を撫でるとぞくぞくと震えが走る。
お臍をくすぐるように唇がかすめてゆく。
そして両手が腰を掴むと、カロリーナが身にまとう最後の一枚、ドロワーズが引き下ろされた。
「あ、いやっ!」
羞恥に叫んだがおかまいなしに薄い布は太ももを滑り、カロリーナの乙女の秘所が露わにされた。
足の間を滑り降りる布に濡れた感触がある。
「あ……あ……」
「濡れているね」
アンドレイは嬉しそうに言った。
「そんな……」
「感じてくれて嬉しいよ」
うっとりと囁いてアンドレイは白い太腿の間に指を差し込んだ。淡い茂みを掻き分けて指が秘裂をなぞる。それだけでひくひくと敏感なそこは反応した。
「あっ……ああ……」 -
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