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試し読み
「ああ、ツンと尖ってきた……。可愛いよ。レティシア」
「んっ……!」
サイードがレティシアの耳に唇を押しつけるようにして囁き、その尖りを更に爪弾く。
耳に忍び込む吐息が、笑いを含んだ囁きが、そして胸への刺激が――そのすべてが甘い痺れとなって全身に広がってゆく。すると、どうしてだろう? 下腹部がなんだかとても切なくなってくる。
「……ん、ぅ……」
思わず、ブルブルと身を震わせる。
それは不思議な感覚だった。サイードが触れているのは耳や首や頬、そして胸なのに、触れられてもいない下腹部が熱くなり、疼くのだから。
「レティシア……」
そんな自分の身体に戸惑い震えるレティシアに、サイードが甘いキスをくれる。
「もしかして、怖い……? 大丈夫。これは、夢。男と女がともに見る、一夜の夢だよ。極上のワインのように、甘く君を酔わす夢――」
サイードの大きな手が、泣きたくなるほど優しく、レティシアの髪を梳る。
レティシアはそっと目蓋を持ち上げ、穏やかに微笑むサイードを見つめた。
「……ゆ、め……?」
「――そう。夢を見せてあげると言ったろう?」
サイードがレティシアを抱き締め、額に唇を押しつける。
「君は、憧れの世界に足を踏み入れた。美しく装い、社交界へ。最高の料理を堪能して、世界中で称賛されるオペラを記憶に焼きつけた」
まるでレティシアをあやすかのような、穏やかな声。
「次は全く未知の世界だ。異国の知らない景色、知らない言葉、知らない文化に触れた。それらは大いに君の好奇心を刺激したはず。そして君の想像力を更に豊かにするはずだ。もっと様々なことを学べば、君の見識はどんどん広がってゆくだろう。そうだね?」
「ええ……」
「では、今度は男女の世界を」
「男女の、世界……?」
「そう」
サイードが指で誘うようにレティシアの顎を持ち上げ、黒と金の目を細める。
「君は男というものを知らなくては。そして、君が女であることも」
その唇が、再び近づく。
「これは、君が作家になるために必要な『夢』だ」
「作家に、なるために……?」
「そう。読者に夢を見せる作家こそ、夢を見なくては……」
「……! 作家に……」
作家になるために、夢を見る――。
「……ん……」
唇が重なる。
そのままゆっくりと、ソファーに押し倒される。
「……ッ……」
折り重なった身体――。サイード重みに、ゾクリと背中が戦慄いた。
「あ……」
「美しいレティシア……」
吐息だけの囁きが、唇の隙間から忍び込んでくる。
「すべて、私に任せて……」
「……あ……サイー……」
名前を最後まで呼ぶことはできなかった。
再び唇を塞がれる。そのまま奥へと入り込んできた舌が、レティシアのそれを、そして心までもを絡め取ってしまう。
「……ん、う……」
熱い手が、長い指が、レティシアの肌を滑る。まるで、手でもレティシアを味わうかのように。
舌を吸い、深く絡め、蜜を私の喉の奥へと流しこみながら。
「……ふ……」
「……レティシア……」
色めいた囁きに、また下腹部が切なくなる。
サイードの手がレティシアの胸を包み込み、優しく円を描くように揉みしだく。更にはツンとした尖りを指で押し潰して、捏ね、摘み、つねり、引っ掻く。
こめかみに、頬に、耳にとキスの雨を降らしながら。
「ん、ぅ……あ、ん……」
「……レティシア……」
そして、何度もレティシアの名前を紡ぐ。甘く、熱っぽく。
「……っ……ん……!」
それだけで、下腹部の疼きはますます酷くなってゆく。レティシアは唇を噛んで、身を捩った。
「……ふ……ん……」
「ああ……美しいレティシア……」
「ん、ぁ……サイード……」
サイードの唇が、舌が、手が、指が、レティシアを味わう。
身体の中の茹だる熱がどんどん燃え広がっていって、足の間が潤み出す。どうしてなのだろう。どうしてそこなのだろう。一切触れられていないのにもかかわらず。
(な、何が……?)
自分は一体どうしてしまったのだろう? -
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