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試し読み
「……この私に、助けてくれと言ってみたらどうだ? 私は三公爵のひとりだ。もし私がその気になれば、おまえひとりぐらいどうにかできる――そうは、思わないか?」
「え? ……あ、く、ふ」
問いかけながらも、公爵の指先はときおりカレンの敏感なところを掠めながら、膣のなかへ入っていく。ゆっくりとなかを広げるように指先が動く。その間に、唇は首筋を下りて、鎖骨のくぼみに舌でつぃっと舐られた。
どこか執着を感じさせる動きに、カレンはどきりとさせられる。
「それとも……私と取引するのは、嫌なのか?」
「おっしゃっている意味が……よく、わからないのですが……? あ、いた……ッ! 公爵さま、痛い……!」
公爵の指が三本に増やされて、ふたたびカレンは身じろいだ。その震える躯を抱きしめて、公爵の唇は今度は髪に触れる。やさしく愛撫するような唇に慰められるのだけれど、自分の身なりを思い出して、はっと我に返った。
昨日、捕まったままでカレンは香水ひとつつけていない。もちろん髪を洗ってもいない。
「あ、あの、公爵さま……? わたし、あの……あまり髪を綺麗にしてなくて……その」
「だから、こうしてバスに入れているんじゃないか。髪もちゃんと洗ってやる」
なんだろう。突然、公爵が拗ねたような声を出すようになった気がする。
なのに、くしゃりとカレンの髪をかき混ぜる指先はやさしくて――。
恋人同士が一緒にバスに入り、仲睦ましく遊んでいるだけのような、そんな錯覚を覚えて混乱する。カレンの手首だけは少し違うもしれないけれど、これだって、ちょっとしたお遊びの一環だと言ってしまえば、そう見えないこともない。
瀟洒なドーム天井を持つ温室のなかで、薔薇の花びらが浮かぶバスに公爵と優雅に戯れる令嬢――絵画にでもしたら、そんな題がつけられそうな、他愛ないひととき。
本当はまるで違うのだけれど。ちゅっとまた口付けの音がして、なんだろうと顔を上げると、公爵はまたカレンの髪に口付けていた。
「綺麗な髪だ……。まるで薔薇のような……ピンク色が入り混じった鮮烈な緋色。この髪に言い寄ってくる男はいなかったのかね?」
「え? ええ? ……その、あまり、は?」
「なんだその、中途半端な答えは」
強く追求されたところで、カレンだって答えに困ってしまう。
社交界にデビューしたばかりの十五歳のころ、ダンスに誘ってくれた男性はみな、カレンのこの、緋色の髪を褒めそやしてくれた。けれどもそれは、もうずいぶん前のこと。母親の看病で長く社交界を遠ざかっていたカレンは、すでに結婚適齢期を過ぎている。
しかも、錬金術に傾倒し、占いが得意だという評判が知られるにつれ、この緋色の髪も違った目で見られるようになった。今回のことがなくても、黒い服を着ているときには、まるで魔女のような髪だと言われていたのを知っている。
人の価値観というものは、なんて当てにならないものなのだろう。
カレン自身、なにも変わっていないのに、この髪の色はいろんな見方をされる。
ただほんの少し、ほかの人と違ったことをしているというだけで。
「まぁいい……。そういえば、さっき聞いたことに答えがなかったな。おまえは無実だと言うが……私に命乞いをしないのか? 魔女だと判定されれば、あるいは極刑を受けるかもしれないぞ?」
極刑。その言葉にひやりと背筋が寒くなる。
「私なら、助けてくれる――そうは思わないのか?」
そんな言葉は傲慢な物言いなのに、まるで頼ってほしいと強請っているようで、カレンはわからなくなる。
胸をゆっくりと撫で擦られる動きも、まるでカレンを誘うようにも感じられる。
「そんなのは……おかしいです。無実なのにわたしが命乞いをしたら、罪を認めることになるじゃないですか。逆にもしわたしが罪があるのに、公爵さまが助けてくださるというなら、それはやっぱりおかしいです」
「どういう意味だ?」
「だって公爵さまはコールドベリィ公国を治めておられるのだから、なおさら、国の法には従わなければいけないじゃないですか。公爵さまたちが、好き勝手されるようだったら、誰も公国の法律なんて、守らないじゃないですか!」
あまり気持ちを揺らさないで欲しい。そう思ってカレンは唇を引き結んだ。
罪を誘うことを言われたからじゃない。
カレンには、なんで公爵がこんなことを言い出したのかわからない。誘いに乗ったところで罪状を認めたと言われるのではとも考える。
でも、公爵の声はどこか真摯で、まるでカレンのことを本当に心配しているかのようだ。
公爵はカレンのことなんて、なんとも思っていない。そう自分に言い聞かせるのに、どうしたらいいかわからなくなる。
公爵さまは、お誕生日の夜に会ったことだって覚えておられないはずなのに――。
「ふぁっ……あ、ああぁ……」
骨ばった指がまた淫唇を嬲り、カレンはびくんと大きく躯を跳ねさせた。ざわざわと躯の奥が熱くなり、官能の波が高まってしまう。
「……これではまるで私のほうが悪者みたいだな……くっ」
苦しそうな声に首を傾げたときには、下肢に硬いものが突きつけられていた。
「ふ、あ……な、に!?」
痛い。と思う前に驚いて、躯が固まった。
「魔女判定をしてるときに、警備兵が被疑者の娘に手をつけることがあるとは聞いていたが……その気持ちがよくわかった。惑わされたみたいに……頭がくらくらするものだな」
「あ……や……」
濡れていても狭隘な場処はきつい。躯を割り開かれるような感覚に、言葉が出ない。
カレンが上に乗っかる形で、公爵の肉槍を突き立てられていた。
「公爵さま……ひ、ぅ」
なにをされてるのか気づいて、非難しようと思ったのに、そのとたん、きゅうと胸の先を抓まれて、躯がびくんと跳ねる。
ずるいと思った。痛いと言いたいのに感じされられて、言葉を封じるなんて。
「薔薇の香りに混じって、少しだけ鉄錆めいた匂いがする……自分で確かめてわかっていたが、本当におまえは処女だったんだな」
「やぁ……公爵さま……痛い……! 抜いて、くださ……ひゃっ!」
抜いてとお願いするそばから、また少し固い公爵の肉槍を押しこめられて、カレンは鼻にかかった喘ぎ声をあげて、塞がれた両手を輪にして公爵の首に抱きついた。自分の胸を公爵の顔に押しつける形になっているのを意識する余裕もない。
ずずっと狭い膣が開かれるときに、胸の膨らみにちっと口付けられ、カレンは「んんっ」とむずかるような声を漏らした。
「ふ、く……カレン・ウェルツ・リード。君はやっぱり……魔女なのでは? 私を惑わしたのだろう?」
さわりと髪を掻き混ぜられて、水に濡れた緋色の髪がいっそう鮮やかさを増していく。
「ち、が……ダメ。もう、無理……公爵さま……わたし、あぁ…‥」
痛みのあまり、涙がじわりとにじんでくる。さっきまで指で広げられていたけれど、それとは比べものにならないくらい痛かった。
こんなことは信じられない。
未婚のまま、処女を失ってしまった。そう嘆きたいのに、憧れの公爵さまに抱かれている。その事実に酔いしれている自分がいる。ずっと、ただの群衆のひとりとしてバルコニーで手を振る公爵さまを見つめていただけなのに、まさかそんな雲の上の公爵さまに、処女を奪われてしまうなんて、ありえない。
「慣れてきたら少し、動くぞ? そのまま抱きついているがいい」
そう言われ、みっちりとつまったものを引かれ、またゆっくりと押しこめられる。
「いい子だ……カレン? 躯の力を抜き給え」
そんな言葉は子ども扱いされているようでイヤなのに、耳に口付けられて耳朶を唇に弄ばれると、ぞわりと背筋に悪寒めいた愉悦が這いあがる。やさしい仕種に心がときめくと、痛みがどこかやわらいで、熱い疼きに取って代わるかのよう。
「あ、公爵さま……熱い……わたし、もうこれで……」 -
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